助けた女の子は魔法少女の敵!?   作:雪山崇一

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第一章(8)紺衣の魔道士(メイガス)

「な、なにこれ……!?」

 

 目の前の光景にマジックワールドの姫、サヤは唖然(あぜん)とした。

 絵美たち魔法少女とショッピングモールまで来たのだが、サヤは途中でお手洗いと席を外し……そして戻ってきたサヤの目の前に広がる光景は、崩壊したショッピングモール。

 

「まさか、ミッドナイトが……!?

 み、みんなは――エミー、マユー、カオリー!」

 

 魔法少女たちの名前を叫ぶが返事はない。

 ……その代わりに返ってきたのは、

 

「きゃ……っ!?」

 

 サヤの目の前に崩壊した天井が落下し、辺りに瓦礫を飛ばしていく。

 あえて後ろに倒れることで、飛んでくる瓦礫を回避する。

 

「けほ、こほ……っ! ……お、お店の皆さんを避難させないと――」

 

 ミッドナイトと戦う力を持たない自分ができるのはそのくらいだ。

 急いで立ち上がり、パニックになっているお客の元へ行こうとし――

 

「――、……え?」

 

 自分の真上の天井が落下してきている事に気づいた。

 …………逃げられない。間に合わない。

 天井はもう目の前にまで迫ってい――

 

 ガゴォンッッッ!! と、一瞬前までサヤがいた(・・・・・・・・・・)場所を粉砕した。

 

「――――――――、え?」

 

 先ほどとは違う驚きの声。

 自分は今、誰かに抱きしめられている。

 

「大丈夫か?」

 

 紺色の外套を纏った少年(・・・・・・・・・・・)安否(あんぴ)を問いかけてくる。

 少年が姫を抱きしめ真横へ跳んだため、サヤは無事だった。

 

「あ……は、はいっ、ありがとうございます!」

 

「そうか、ならよかった」

 

 少年が先に立ち上がり、その後サヤの手を取り立ち上がらせる。

 

「ここは危ないから、早く逃げるんだ」

 

「それなら貴方も同じです! 一緒に……て、あれ――紺色(こんいろ)?」

 

 少年の纏っている服を見ながらサヤは呟く。

 脳裏を(よぎ)るのは、昨日の絵美の家での会議――魔法少女でもなければ、ミッドナイトの者でもない、紺色のパーカーを羽織った……。

 

「紺色パーカー人!!」

 

「……………………は?」

 

 目の前に立つ少年から間の抜けた声が漏れた。

 ……全く訳がわからない、といった感じなのだろう。

 そんな少年の心情を知りもしないサヤは次々と言葉を並べていく。

 

「あ、あの――貴方、先日私立(しりつ)色彩中学校(しきさいちゅうがっこう)に現れた人じゃありませんか!? ――魔法少女を助けてくれた……っ!」

 

 魔法少女やミッドナイト関係の事は、一般人には基本的に話してはいけない内容。

 それを話すという事は、サヤはこの人物こそがその正体不明の存在だという事に確信を持っているということ。

 

「あのっ、私、サヤっていいます……この間は、魔法少女を助けてくれてありがとうございました! まだお礼を言えてなかったので……」

 

「……」

 

「それで、その……貴方は、何者なのでしょうか?」

 

「……」

 

「魔法少女たちの恩人である貴方にこんな事を言うのは失礼だと承知していますが……ミッドナイトの幹部であるリナと、行動を共にしていますので……もし、お時間があればお話を聞きたくて……」

 

          ◆

 

 嵜渡は色々と困惑していた。

 前にリナから聞いていたマジックワールドの姫の容姿と、目の前の少女の容姿が一致している……それだけでなく、

 

(……紺色パーカー人って何?)

 

 一番はそれだった。

 何者であるかの質問よりも、嵜渡の頭を一番悩ませていたのはそれだった。

 紺色パーカー、という特徴を聞く限り、間違いなく自分の事を言っている。だが……、

 

(ダサすぎるだろ、その呼び名)

 

 ……おい、赤髪の魔法少女、聞いてるか?

 

「紺色パーカー人さん……!」

 

「それやめて」

 

 聞けば聞くほど恥ずかしくなってくる。真面目な顔で必死にそう呼んでるのが余計に嫌だ。

 もう聞きたくなくて、顔を背けながらそう言った。

 

「……俺が何者なのかについては言えない。リナの事についてもだ。

 少なくとも俺たちは魔法少女と敵対するつもりはない。でも馴れ合うつもりもない……言えるのはそれだけだ」

 

「そうですか……わかりました」

 

「……あと、」

 

「あと?」

 

「どうにかしてくれ、その紺色パーカー人(呼び名)

 

「え? ――あ、は、はいっ、ごめんなさい! やっぱりダサいですよね! 私も『ダッサ』と思ってたんです!」

 

(……姫様がダッサとか言っていいのか?)

 

「で、ではその……何とお呼びすれば……」

 

 言われ、嵜渡は悩む。

 別の呼び名、いわゆるコードネームのようなものを考えていなかったからだ。

 

(そういえば……)

 

 リナの話では、マジックワールドで魔力や魔法などを使う者は魔道士(まどうし)と呼ばれるらしい。

 なら――

 

「――メイガス(・・・・)。そう呼んでくれ」

 

 マジックワールドの住人ではなく、魔道士に分類されるかも曖昧だが、魔力や外套や剣(魔法)を使っているという点から、パッと思いついたコードネームがこれだった。

 

「メイガスさん、ですね」

 

「あぁ」

 

 話は終わったと言わんばかりにサヤから離れていく。

 

「……戦いに行くんですか?」

 

 コクン、と頷くと、

 

「わかりました……貴方の事は、今はこれ以上詮索はしません。貴方の言葉に、嘘は感じられませんでしたから。

 私は貴方の事を信じます――ですから、」

 

 サヤは嵜渡の背中に向かい、

 

「どうかお願いします、魔法少女を助けてください!」

 

 嵜渡からは見えずとも、深く頭を下げた。

 

「――――」

 

 その言葉に一瞬立ち止まった嵜渡は、安心させるような優しい声で、

 

「――任せろ」

 

 一言、柔らかく返し――戦場へと跳んだ。

 

          ◆

 

 刃のような暴風を躱しながら絵美は得物(えもの)の弓を構え、矢を引き絞る。

 矢は放たれるが、カーランが身を捻りこれを躱す。

 

「もらったわ」

 

 カーランの周囲の風が唸り、小型の竜巻(たつまき)となって絵美を呑み込みにくる。

 

シャイン(・・・・)……!」

 

 茉優が絵美の事を魔法少女の時のコードネームで叫ぶ。

 

 コードネームはそれぞれ、

 

 絵美は『シャイン』。

 茉優は『シスター』。

 香梨は『ウィッチ』。

 

 三人の特徴から付けられたコードネーム。

 そして、

 

「させないっ!」

 

 ウィッチというコードネームの名の通り、多種多様な魔法を行使する香梨が障壁(しょうへき)が張り、絵美を守る。

 絵美を守ると、茉優と香梨がそれぞれ『剣』と『槍』の得物を持って、カーランへと切りかかる。

 

「甘いわ」

 

 二人の同時攻撃を片手の槍で軽く()なすと、香梨の顔面を裏拳で殴り飛ばす。

 次いで茉優を暴風で吹き飛ばし、そのまま絵美を巻き込み地面に叩きつける。

 

「か、は……ッ!? くっ……シャイン! シスター!」

 

「――貴女が一番厄介ね」

 

「!?」

 

 気づいた時には遅い。

 槍の石突(いしづ)きが香梨の腹を貫いた。

 

「ぐ、ぼあァア!?」

 

 バンッ! と弾けるように魔法少女としての姿が消し飛び、石突きはより深く腹部に刺さっていく。

 

「い゛ッ!? う゛、ぼ、ごえぇッ!!」

 

 やがて石突きが離され、カーランは香梨の顔面を蹴り飛ばした。

 ただでさえヒビの入っていた壁に香梨の体が激突し、

 

「――――――カ、アボ……ッ!?」

 

 血の塊を吐き出され、意識が消えかける。

 香梨の体が激突した事により、ヒビの入っていた壁が壊れ、香梨の体へと降り注いでいく。

 

「香梨ちゃぁぁぁぁぁんッ!!」

 

「香梨ぃぃぃぃぃぃッ!!」

 

 コードネームで呼ぶのも忘れ、二人が必死に手を伸ばすが、それを嘲笑うように瓦礫は次々に香梨を埋めていく。

 

「まずは一人、ね……」

 

「――貴様ぁぁぁぁぁーッ!!」

 

 急接近し茉優が剣を叩き込むが、ボロボロの体から振るわれる剣はカーランには止まって見えるも同然だ。

 四連撃を防いだ後、五撃目でつばぜり合いを起こす。

 

「よくも――よくもッ!!」

 

「すぐにあの()の元へ送ってあげるわ」

 

 空いている左手に風を凝縮(ぎょうしゅく)させ、騎槍(ランス)を形作る。

 

「バイバイ♪」

 

 風のランスが茉優の腹部を貫き――

 

「――、がッ!?」

 

 それよりも速く(・・・・・・・)一条の魔力がカーランを撃ち抜いた(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 カーランが怯んだ直後、立ち上がった絵美が矢を放つ。

 忌々しく舌打ちし、カーランは回避する。

 

 ……魔力が放たれた場所へと顔を向ける。

 そこは瓦礫に潰された香梨がいる所だった。

 今の魔力により、積み重なっていた瓦礫は辺りに飛び散っている。

 

 ……そこにいたのは、瀕死の香梨……()――

 

「っ――、貴方、は……」

 

 茉優が言葉を漏らす。

 

 ――そこには香梨を守るように抱きしめ、こちらへと片手を向けている紺衣の魔道士の姿があった。

 

「…………ぁ……紺色、の…………」

 

 それを最後に香梨の意識は途絶えた。

 死んだわけではない、意識を失っただけ。

 

「……来たわね、紺衣の魔道士」

 

 僅かな緊張を含み、カーランが槍を構える。

 そっと香梨を地面に置き、紺衣の魔道士は右手に剣を生み出す。

 

「そういえば名前を聞いてなかったわね……貴方、名前は?」

 

 握られた剣に並々ならぬ魔力が(つど)う。

 カーランは魔道士に悟られないように緊張の息を吐き出し、

 

「……メイガス」

 

 今にも斬りかかりかねないコードネーム(少年の名)を聞いた。

 

「ふ――ッ!」

 

『分身』――魔法少女の時には見せなかった臨戦態勢(りんせんたいせい)

 カーランの数が増えようと紺衣の魔道士(メイガス)に動揺は見られない。

 

 少年は、奮闘した三人の思いを継ぐように宣言した。

 

「あとは任せろ――」




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