助けた女の子は魔法少女の敵!?   作:雪山崇一

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第一章(9)パートナー

 本体と分身、二体のカーランによる連携攻撃。

 

「はぁ……ッ!」

 

 突きを受け流し、背後へと回る分身(カーラン)の凪払いを蹴り飛ばす。

 左手から放った魔力で分身を撃ち抜き、動揺する本体(カーラン)の首の真横に蹴りを打ち込む。

 

「っ! ……なら!」

 

 嵜渡を取り囲む風のドームが出現する。

 無論、ただ閉じ込めるだけではない。このドーム内にいる限り、風の刃に体を切り刻まれる。

 

「これで――、なっ!?」

 

 だが――、

 そんな思いつきの技は、ドームの外からカーランに敵意を向ける魔法少女(かのじょ)たちによって破られた。

 絵美の矢が分身を捉え、

 茉優の剣が本体を切り裂く。

 

「お前ら――っ」

 

「あとは任せろって言われましたけど……!」

 

「こっちは香梨(ともだち)をあんな目に遭わせられたのっ! 見てるだけなんてできない!」

 

 二人の魔法少女がそれぞれのカーランに向かって武器を向ける。

 嵜渡の近くにまで歩いてきた茉優が問いかける。

 

「……かお――さっきの、魔法少女は?」

 

「……大丈夫だ。死んではいない。気絶しただけだ……魔法少女の体は治りやすいんだろ? なら後は、あのまま安静にしておけば治るって、俺は思ったけど……」

 

「魔法少女の事も知っているんですね……。

 ウィッチを助けてくれて、ありがとうございます。

 それに……以前、私の事を助けてくれたのも貴方でしたね。

 ――あの時は、ありがとうございます」

 

 嵜渡に聞きたいことはあるが、まずは感謝をと思ったのだろう。素直な感謝の気持ちを伝えてくる。

 

「礼には及ばない。無事でよかった」

 

 視界の先に立つ本体のカーランに剣を向けながら、

 

「下がる気はないんだな?」

 

「ありません。友だちをあんな目に遭わされて、このまま何もせずに引き下がるなんてできない……!」

 

「……わかった――」

 

 茉優よりもさらに一歩前に出る。

 

「なら、お前はもう一人の魔法少女と一緒に、後ろの分身(カーラン)を頼む」

 

 前に対峙した時に気づいた。

 ――本体よりも、分身の方が戦闘能力は低い。

 本体と戦い、これだけの傷を負った魔法少女だが、分身ならば二人でも撃破することができるかもしれない。

 

「貴方は? 一人でカーランと?」

 

「あぁ」

 

 首肯も合わせて返事を返した。

 ……これからも暗躍を続けていくならば、これくらいの壁は乗り越えられなければ意味がない。

 

 それにこれはいい機会でもある――最初にカーランと戦った時の奮闘。それが偶然(まぐれ)ではなかった事を証明する機会だ。

 

 だから嵜渡は何の確証もなくとも、自信を持って宣言した。

 

「――やってみせるさ。

 背中は任せたぞ、青の魔法少女」

 

 その言葉に、ふっ、と小さく微笑むと、

 

「いいですね、そのセリフ。私も一度使ってみたいです……なので、」

 

 方向を変え、絵美の隣に並び立つ。

 

「背中は任せましたよ、紺色パーカー人さん」

 

 不意に呼ばれた不本意な呼び名にズッコケそうになる。

 

「……や、やっぱダサいなその呼び名」

 

「えー、ダサくないですよー! 紺色パーカー人さんの特徴を捉えたいい呼び名だと思います!」

 

 今の今まで会話に入って来なかった絵美が割り込むように意見を主張する。

 

「いやダサいぞ?」

 

「ダサくな――」

 

「クソダサいわ」

 

「え? シスター――」

 

『ダサい』

 

「えええええええ!?」

 

 同時に言われたセリフに戦場でありながら緊張感を欠けさせる叫びをあげる絵美。

 

「……と、いうわけですので、貴方の事は何とお呼びすればいいですか?」

 

 わりとショックだったのか、『ダサい……ダサい……』と俯く絵美に苦笑いし、

 

「メイガス。そう呼んでくれ」

 

 つい先ほど決まったコードネームを告げた。

 

「わかりました。

 私はシスター。いまショックを受けて固まってるのはシャイン。貴方が助けてくれた子はウィッチって言います」

 

 了解、と一言返し、その場から駆け出した嵜渡は戦闘を再開する。

 

「ダサい、ダサい――ど、いっったああああああ!?」

 

 茉優は絵美のケツを蹴り飛ばし、現実へと引き戻す。

 

          ◆

 

 いくつもの暴風が矢のように襲いかかる。

 嵜渡の行使できない自然現象を操る魔法。

 

 怪人がどれほどの存在なのかはわからない。

 魔女から生み出されている以上、肉体の強度も身体能力も常人とは桁違いなのだろう。

 戦闘能力も魔法も、魔法少女と並ぶがそれ以上だ。

 ――だが、

 

「っ! なに――!?」

 

 (オレ)(けいけん)が、ソレを凌駕する――ッ!

 

 前へと突き進みながら横へと跳んで回避、スライディングで頭上を(はし)る攻撃を(かわ)し、剣を振るい胸を穿(うが)とうとしていた風を弾く。

 

「くっ――!」

 

 斬りかかった瞬間、翼を使いカーランは飛び上がるが、嵜渡は斜めに跳び上がり、壁を蹴り、『く』の字を描くようにカーランへと飛びかかる。

 

「この――ッ!」

 

 飛びかかってきた嵜渡に槍を放つが、くるん、と羽でも生えているかのような身のこなしで槍を回避し、カーランを蹴り跳ばす。

 

「ぐぼっ! っ――!?」

 

 壁へとめり込んだカーランが急ぎ顔を上げると、そこには剣を振り下ろす嵜渡の姿があった――振り下ろした先に存在したもの全てが両断され、瓦礫となって崩れ落ちる。

 

「はぁ、はぁ、……っ!」

 

 紙一重(かみひとえ)で回避したカーランからは過呼吸が止まらない。

 崩れ落ちる瓦礫。その前に佇む嵜渡はゆらりと半身(はんみ)で敵を見る。

 

「――逃がすか」

 

 気づけば、

 

「――――ッッッ!?」

 

 ――嵜渡(ヤツ)は目の前にいた。

 

          ◆

 

 香梨(ウィッチ)は多種多様な魔法を使えるが、茉優(シスター)絵美(シャイン)は一つの魔法しか使えない。

 茉優は『水』。絵美は『炎』の魔法だ。

 

「当たれッ!」

 

 だが、一つの魔法と言えど扱い方によっては無限の可能性を秘める。

 

 水を纏い、殺傷力を高めた剣、

 放たれる、圧縮された複数の巨大な水の塊、

 地面からいくつも吹き出し、吹き出した水の柱一つ一つが触手のようにカーランに向かい攻撃を仕掛けていく。

 

 カーランが舌打ちを鳴らす中で、茉優とカーランの得物が火花を散らす。

 

「ふっ! はぁ! やぁあッ!」

 

 茉優の剣技(けんぎ)に後退したカーランの頭上から、炎を纏った矢が飛来(ひらい)する。

 

「っ……小賢しい!」

 

 二人の真上へと跳躍していた絵美が、何度も何度も火矢(ひや)を穿つ。

 茉優の連撃と、絵美の援護射撃。

 魔法少女二人の連携によってカーランの分身はどんどん削られていく。

 

「――でも、」

 

 ピュオッ! と、茉優の胸目掛けて鋭い風が奔った。

 

「ッ!?」

 

 咄嗟に後方へと下がる――が、体を真っ二つにされる事は防いだが、胸の表面を風が切り裂いていく。

 

「ぁ、ぐ……!」

 

「まだまだ甘い!」

 

 苦悶(くもん)の声を漏らす茉優の胸に槍の切っ先が迫/ゴオオオオッッッ(・・・・・・・・)!! ……と。

 

 瞬間――紫の炎(・・・)がカーランを焼きつくした。

 

「あ、あァア!! ああァああaaaアアアアaaaアアァァアアアアッッッ!?」

 

 灼熱感から逃げようと悶え苦しむカーラン。

 

「――っ!!」

 

 好機と見た茉優が前へと踏み出し一閃――カーランは切り飛ばされ、その右腕に絵美の矢が突き刺さる。これで槍は振るえない。

 

「シスター!」

 

 絵美の(まほう)が茉優の剣に纏わりつく。

 

「これで――ッ」

 

 仲間からのエンチャントを受け取り、丸腰のカーランへと逆手持ちの炎剣(えんけん)を振り下ろす……!

 

「――終わりだぁぁぁーッ!!」

 

 炎が(ほとばし)る。

 (そんざい)が焼失する。

 ――カーラン(分身)との戦いはここに決着した。

 

          ◆

 

 上空に向けて魔力を放つ……数瞬後、魔力は光線の雨となって戦場に降り注いだ。

 

“魔力の雨の中を”必死になって避けていくカーラン。

“自分の意志の中を”容易く駆け抜けていく嵜渡。

 

 魔力(あめ)の中で嵜渡の一閃を受け止めカーランは吹き飛ぶ。

 追撃の為、嵜渡はカーランの元へと駆け出すが、

 

「バカめ――!!」

 

 カーランが手を振るうと、先へと踏み込んだ嵜渡の周囲に無数の風の刃が出現する。

 茉優とはレベルの違う警戒の高さ。

 無数の()は、嵜渡が避けるよりも先に体を切り刻み――

 

 

 

 ――茉優も救った紫の炎が嵜渡を覆った(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 風の刃は紫の炎を突破できず、嵜渡を仕留める事に失敗する。

 

「あ、あの炎は――」

 

 カーランは驚愕(きょうがく)する。

 見覚えがある――アレは、あの炎は――――

 

「――隙を見せたわね」

 

「!?」

 

 背後からの攻撃に振り向き様に槍を構えるが、何の意味も成さず上空へと槍が弾き飛ばされてしまう。

 槍を弾いたのは大鎌(・・)……その所有者は目の前にいる。

 死神のような大鎌に(・・・・・・・・・)漆黒のローブ(・・・・・・)

 そして紫の炎も行使する(・・・・・・・・)存在は――

 

 

()……リナ(・・)――!?」

 

 

 返答の代わりに紫の炎が放たれる。

 全身を焼かれ、カーランの体が宙を舞う。

 

「く……!」

 

 ――まだ終わらない。

 ボフッ! と……自分を守っていた紫の炎から嵜渡が飛び出し――(たて)となっていた紫の炎が、今度は紺色の剣に纏わりつき、斬撃(ざんげき)と化す。

 

「――――」

 

 カーランは見た。

 嵜渡の……鋭くもどこか少女のようにも見える(・・・・・・・・・・)少年の瞳を。

 宙を舞う敵を見据える嵜渡の瞳は告げていた。

 

 

 

       “――もらった(・・・・)――”

 

 

 

「ひっ……!?」

 

 情けない声を漏らしながら、周囲に複数の竜巻を出現させる。

 敵を倒すためではない、自分を守るために。

 …………それが間違いだった(・・・・・・・・・)

 

 

 ――――斬ッッッッッ(・・・・・・)!!

 

 

「    、あ――」

 

 攻撃を止めてしまえば、もう嵜渡を阻むものは何もない。

 紫炎(しえん)の一閃が竜巻を霧散させ――続く二閃目がカーランを袈裟懸けに切り裂いた――。




『リナ』

 お客の避難や救出を終えて駆けつけた、嵜渡のパートナー。
 最後に見せた『死神』を思わせる武器や服装は、リナの戦闘の際の姿。今回が初出。
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