その眩さを忘れまい
例え
この目を奪い
この肌を焦がし
この身を焼き尽くそうと
燃え尽きる瞬間まで恍惚と共に忘れまい
初めてその力を目の当たりにした時の感動を昨日のことのように葵は覚えている。
鬱然とした光景が広がる中
決然と立つその後ろ姿
毅然としたその横顔
灼然とした輝き
そのすべてが一切色褪せる事無く、瞳を閉じればありありと色彩を伴って瞼の裏に蘇る。
耳障りな声を上げる光の鳥達の悍ましい輝きなど足元にも及ばない燦然たるその力に葵は感動に打ち震え、魅了された。
彼が見せた卍解は、葵の知るどの隊長の卍解とも異なるものであった。
優しい金糸雀の音が透き通るように場を満たし、眩い輝きを放ち現れた鳥籠が血と炎に包まれる地獄に蹲った隊士達を守るように包み込むと、瞬く間に彼らの傷を癒していった。
欠損した血肉が補われ、霊圧が安定し、息も絶え絶えだった隊士達の恐怖に歪んでいた表情が安堵へと塗り替えられ次々と息を吹き返すように回復していく光景は、「奇跡」という言葉以外に当てはまる言葉を葵は知らない。
そして、憔悴し、か細い鳴き声を上げ、罪人のように跪く光の鳥達。
四席という立場にも関わらず卍解を義壱が使って見せたことに誰もがどよめくなか、葵は不思議と落ち着いていた。
彼が見せた力にこそ驚いたが、卍解を会得していたこと自体には驚くどころか寧ろ当然のこととさえ思った。
四番隊に義壱が来た時からずっと感じていた。彼の秘めたる力、大きさ、広がり、深さを。
それは葵自身の贔屓目であることは否めない。憧れ続けていた男が自分の属する部隊に入隊した時、葵は運命を感じた。
霊術院を主席で卒業し、卒業と同時に護廷十三隊への入隊、それも十五席という席官の座まで約束される程の逸材と称されはしても、彼女は少女と言っても過言ではなかった。
憧れ追い続けていた男が自分の上官となった日の販暈がするような喜びを葵は決して忘れてはいない。
横嶌義壱という隊士は葵の憧れだった。
彼の持つすべてに強く惹かれていた。
強さは勿論、寄り添うような思いやりと優しさ、下の者に対しても変わらぬ礼儀正しい振る舞い、弛まず鍛錬を続ける克己的、慢心することなく上を目指す向上心。
夕暮れを思わせる赤銅色の柔らかな髪も、穏やかな鳶色の瞳を湛えた端正な顔立ちも思い浮かべるだけで心が温かくなる。
敵対する者に対しては歪むことなくまっすぐに伸びた背筋と決然とした立ち姿の凛々しさ、それが年若い隊士や幼い者を前にすると目線を合わせるように長身の身体を屈める様も、何もかもが好きだ。
そんな彼と共に鍛錬に励み、回道を学び、剣を振るい続ける日々の幸福。
隊の為、そして彼の為に隊務に邁進する中で、日に日に募る想いは、義壱があの地獄から救い出された瞬間に確固たるものになった。
戦う力も無い、非力なただの子どもだった頃に彼に命を救われて以来ずっと彼を追いかけ続けてきた。日に日に大きく、膨れ上がっていた秘めたる想いが、憧れが、募り続けていた██が、あの瞬間に一気に弾けた。
護廷十三隊における彼の評価は高まっている。
それとは裏腹に十一番隊のならず者達の名誉が失墜しているのは何とも小気味良い。そもそも彼らの名誉などあって無いようなものだ。殆どが修羅の如き強さの更木剣八と、斑目一角や綾瀬川弓親の蛮勇によるところが大きいのだから、そもそも地金を晒しただけに過ぎないと葵は思っている。寧ろ葵にとっては義壱に付随する形で四番隊の評価も見直されていることの方が喜ばしい。露骨に侮蔑する隊は十一番隊が主だが、十一番隊ではなくとも四番隊を侮る隊士は少なくはない。
戦うことが嫌だからという理由で四番隊に来る者もいるせいか、四番隊を腰抜け呼ばわりする者もいることを葵は知っている。
そういった者達の鼻を明かせたことで葵の溜飲は大いに下がった。
そして、今もまた葵は晴れやかとさえ言える気持ちで剣を振るう。
己が信じる「強さ」の為に剣を振るえることが幸福で堪らないと、彼女の剣が語るようだ。
「はぁ!!」
薪を割るように、虚を両断する。
小柄な体格に似合わず、葵の斬術は非常にシンプルだ。同僚が「教本を見てるみたい」と評したことがある。
葵の二回り以上はある虚に対して、正眼に構える。軽く呼吸を整え、地を踏み締める。
「ふ…ッ!」
瞬歩により火の玉の如く飛び出した葵の刀が彼女の動きに対応出来ず狼狽えるように前に突き出された腕を横へと流すように払い、返す刀でそのまま喉から頭部へと斬り上げた。
一呼吸の間に虚がまた一体崩れ落ちる。
彼女の剣は基本に忠実である。鍛錬と実戦によって鍛えられた道場剣法とも言える真っ直ぐな剣は、千差万別な斬魄刀を持つ死神の多種多様な戦い方においては寧ろ目を引く。
「次の舞…白蓮!」
凛とした声へと自然と目が向いた。
──── コォ ──── アァ ─── ッ ────
音も無く押し寄せた凍気の雪崩に幾つもの最下級大虚が呑み込まれていく。
一瞬にして通り過ぎた凍結の津波の後に残るのは自分が凍らされたことにすら気付いていない無数の氷像達。
悍ましさの中にとぼけた意匠の
葵が一体の虚を斬り捨てる間に齎された鏖殺に葵はごくりと唾を呑み込む。
「あれが朽木ルキア…副隊長の斬魄刀…」
その刀は白かった。
刃も鍔も、そして柄も。
すべてが息を呑むような穢れ無き白で染められた刀を優雅に翻す度、ことりと椿が落ちるように虚の頭が落ちていく。
新雪のように無垢な白い刃を閃かせ、とんと虚の首を斬り落とせば、ころりと落ちた頭が静かに砕け散る。日の光を浴びて輝く氷の結晶の中で佇む華奢な少女の姿は、周囲の者達をここが戦場であることを一瞬忘れさせ、感嘆の溜息を吐かせる。
尸魂界で最も美しいと呼ばれる斬魄刀、袖白雪を携え、舞のように次々と虚を葬るのは十三番隊次期隊長と目されている朽木ルキアだ。
(私は隊長の金糸雀の方が綺麗だと思うけど)
そんなことを頭の片隅で思いながらも、葵は油断無く見据えた大虚に上段の一撃を食らわせる。
「はぁ!!」
小柄な身体から放たれたとは思えない程の気迫と共に虚が両断された。
見事なものだな、と朽木ルキアは内心感嘆する。
体躯ならば自分や雛森と同程度の女性としても小柄な少女だというのに、繰り出される斬撃は重く、速く、苛烈であった。
(そういえば恋次が言っていたな。四番隊の四席は勇ましいと。なるほど、咲良殿の太刀筋は確かに気持ち良い程真っ直ぐだ)
「ふっ!」虎徹勇音の凍雲がするりと虚の頭に潜り込む。三つに分かれた刃が不可思議な軌道を描き、虚の頭を四つに両断する。
勇音の斬撃は長身から放たれるからか、何処か緩やかでゆとりがある。特別速いわけでも力が込められているわけでもないのに、するりと届く。
(勇音殿の剣も⋯優雅だな)
真っ直ぐに打ち込まれる苛烈な葵の剣とは異なるが、こちらもまた見事だとルキアは小さく唸る。
ルキアは決して剣才に突出している訳ではないが、それでも二人の斬術は共に有り余る才能に明かせたものではなく厳しい鍛錬の末のものだとわかる。
ちらりと自身の部隊の隊士達を見れば、呆気に取られたように勇音と葵を見つめている。
同じ女性隊士として尊敬を抱いた眼差しを向ける者もいれば、妬みを秘めた目で何処か睨め付けるように見ている者もいる。
養子とはいえ名門朽木家の子であるルキアは他人の心の機微、特に妬みや嫉みの視線には聡い。だから、すぐに彼らの視線の意味するとこ
してしまう。
彼らの瞳の奥にある感情は「四番隊に助けられてしまった」という屈辱感だ。治療や補給で助けられたのであればわかる。しかし戦闘において自部隊の副隊長であるルキアと肩を並べて戦う四番隊の姿に彼らの矜持が傷つけられたのだ。
ルキアは自身の部隊の隊士達の人となりを知っている。他者をむやみに妬んだり侮蔑したりするような者達ではない。それでも普段は意識していない感情はあるのだろう。
四番隊を侮る隊員がいることは知っている。ルキアはその事実を苦々しく思っているが、だからこそ四番隊にも強い隊員がいることを目の当たりにするのは良いことなのかもしれない。
袖白雪を鞘に納めると、ルキアは隊員達の元へと駆け寄る。流魂街東地区四十八区と五十一区に大虚が出現した報告を受けてから一刻ほど前のことだ。
常であれば報告するまでもなく配備されていた隊士達で応戦するだけのことであるが、この数ヶ月発見されることの多い大虚の群れに遭遇したのだ。七番隊の管轄である四十八区には七番隊副隊長の射場が、そして十三番隊管轄の五十一区には同じく十三番隊の副隊長であるルキアが派遣された。
負傷者多数の報告を受けた四番隊の対応は素早く、
現場に到着した時の被害はルキアの想像を越えていた。
斬魄刀を折られ血溜まりの中にうずくまる者や、住民を庇って既に事切れた隊士などの姿が五十一区の至るところで見られた。
嫌な笑みのように仮面を歪め、くちゃくちゃと隊員のものか流魂街の住人のものか判別の付かない血塗れの脚を租借する虚、報告にはなかった中級大虚の姿を目にした瞬間、ルキアは袖白雪を解放し大虚に躍り掛かっていた。
そこからは殲滅戦の如き光景が繰り広げられた。
副隊長とはいえ、卍解を会得し次期隊長と目されているルキアにもはや最下級大虚はおろか中級大虚ですら大した脅威とはなり得なかった。
獅子奮迅の活躍をしたのはルキアだけではなかった。
戦闘部隊ではない四番隊で四席が派遣されると聞いた時は、ルキアは治癒を優先した布陣であると思った。
同時に、彼女達が自身の部隊の隊員を治療してくれている間は自分が命に代えても守り抜かなければと密かに覚悟を決めていた。
しかし、虎徹勇音と咲良葵、この二人の戦いぶりを目にしてルキアは考えを改めた。普段は婉然たる挙措が印象的な虎徹勇音のしなやかな太刀捌き、可憐な少女としか見えない咲良葵の豪然とした太刀筋、いずれも救護部隊であることを忘れてしまいそうなほどの強さと勇ましさであった。
(我々も負けてはいられんな)
ルキアは自身の鍛錬も、十三隊の鍛錬もより真摯に取り組まねばと決意を新たにする。
四番隊に戦いにおいても遅れをとってはならないのだから。
救護部隊がどれほど多忙を極めるのか、ルキアは数少ない友人の一人である山田花太郎からよく聞き及んでいる。
彼らが実戦において他の部隊に遅れを取るのは侮蔑すべきことでもなければ嫌悪すべきものでもない。どの部隊にも出来ない任務を担っている彼らがいるからこそ、自分たちは安心して戦いに赴くことが出来るのだと理解している。故に気持ちを引き締めるのだ。
救護や補給を一手に担ってくれる彼らに戦いまで任せてしまっては立つ瀬が無いではないか。
「副隊長!!」
悲鳴にも似た声にルキアは思考を打ち切った。
副隊長とはどちらを指すのかを確認するまでも無かった。
到着するや否やルキアが斬り伏せた虚の屍のすぐ近くに小さな人だかりが出来ている。そこは虚に襲われていた十三番隊士の倒れていた場所だったからだ。
「どうした…─── ッ」
駆け寄ったルキアが思わず顔をしかめた。
人だかりの中心で倒れている隊員は、ルキアが到着した時に倒れていた隊員であった。出血量からしても大した傷ではなかったため、その場から離れ四番隊に治療を受けるように指示を出し、隊員も「はっ!」としっかりとした返事をしていたはずだった。
しかし、その隊員は今、顔を和紙のように白くしながら弱々しく小刻みな呼吸を繰り返している。
死覇装は小さく穴のようなものが空いている程度の損傷しか無い。
ざわりと嫌な予感を覚える。
隊員の傍にひざまずき、死覇装をはだけさせる。
その場にいた隊員達が息を呑むのがわかった。
中には「ヒッ」と短く悲鳴を上げるものもいた。
隊員の青白くなった身体の半分を黒紫色の痣が広がっていた。
それは文字通り広がっていた。
和紙に墨汁を垂らしたときように、現在進行形で痣が広がっているのだ。
「……これは…」
声が震えそうになるのをかろうじて堪える。
副隊長の自分が動揺を露わにすれば隊員達に不安が広がる。
ルキアは歯を食いしばると、努めて冷静に振る舞うように己に言い聞かせる。
「虎徹副隊長!!」
「はい!」
他の隊員達の治療に当たっていた勇音が弾かれたように立ち上がる。
自分を呼ぶルキアの声に只事ならぬ事態を察した勇音はすぐさま瞬歩でルキアの隣へと駆け寄る。
事態の緊急性を察したのか、勇音のみならず葵も瞬歩で駆けつけた。
四番隊の二人が黒紫の痣に眉をしかめる。
それだけのことでルキアは隊員の症状が決して楽観視出来るものではないのだと理解する。
「……毒ですね。それも異常な速度の」
「虚が」
毒なんて使うのですか、という質問は言葉になる前にルキアの舌の上で苦い煙のように溶けて消えた。
虚が異常な能力や不可思議な能力を持つことなどルキアはとっくに知っている。今更毒程度で何を驚くのかとルキアは己の浅慮を恥じる。
そうしている間にも、隊員の身体の上を意思を持つアメーバのように黒紫の痣は不気味に蠢き広がっていく。
勇音が指先をそっと痣に伸ばす。
淡く輝く霊力を纏った指先が広がっていく痣を追うようになぞる。
「回道を施そうにも浸食速度が早い…」
皮膚の上を霊力を纏わせた指で軽く精査するようになぞっていた勇音のこめかみを一筋の汗が伝う。
「咲良さん」
「わかってます」
勇音の隣で彼女の触診を見つめていた葵が頷く。
小太刀ほどの斬魄刀をゆっくりと引き抜くと鍔元から切っ先へと、刀身を指で撫でる。
留めよ…
ふわりと花の香りがルキアの鼻孔を擽る。
切っ先から鍔元へと葵の細い指先がつぅっと撫でると同時に、葵の掌に薄紫色の針入れが最初から存在していたかのように収まっていた。
葵は針入れから薄紅色の針を一本摘み上げると、隊員の痣を冷たい眼差しで見据える。
皮膚の上に広がる痣ではなく、その皮膚の向こうにある「何か」を見つけ出したのか、葵は淀みの無い手つきで隊員の痣の一点に針を突き立てた。
薄紅色の針がぬぅっと隊員の身体の中へと沈み込む。
ぴくんとルキアの目には痣が一瞬震えたように見えた。まるで急所を突かれた動物が痙攣するように。
薄紅色の針を突き立てると、隊員の身体をじわじわと広がっていた痣がぴたりと動きを止めた。
「おぉ…ッ」
葵の行為を固唾を呑んで見つめていた隊員達が驚嘆の声を上げた。
「ふぅ…」葵が細く長い息を吐いた。彼女の背から緊張の空気がゆっくりと溶け出ていく。
「副隊長、お願いします」
「ありがとう咲良四席」
すぐさま交代するように勇音が回道を施していく。
「見事なものですね」
「え?」
少し離れたところまで下がった施術の光景をぼうっと見つめていた葵の隣にそっとルキアが立っていた。
「四番隊の方々が回道を施すのを見たことは何度もありますが、今のような術は初めて見ました」
「そんな、もったいないお言葉です朽木副隊長」
ルキアは照れたように手を振る葵を好ましげな目で見つめる。
「十三番隊副隊長として、隊を代表してお礼を言わせてください」
「……ちょ、そんな、やめてください副隊長」
形の良い頭を綺麗な姿勢で下げるルキアの所作に一瞬見とれてしまった葵は一拍置いて慌てふためく。
傍目から見れば、可憐な少女二人が頭を下げたり、慌てふためいたりする様は一種おかしな可愛らしさすらある。
副隊長が四席に頭を下げるなど本来あり得ないことだ。しかも、朽木ルキアは四大貴族のひとつ、朽木家の息女である。
「いえ、我が隊の隊員の命を救ってくれたのだから、お礼を言うのは当然かと」
「それを仰るなら、人命救助は四番隊隊士として当然のことなんですから」
その言葉にルキアは微笑ましいものを見るように目を細める。
ルキアは職務に忠実な者、特に謙虚な者を好む。
副隊長という立場となり、部下を持つ立場になってますますそう思うようになる。
個人としてならば恋次のように強く己に自信を持つ者も好きなのだが、護廷十三隊士、それも部隊を任される立場になるととにかく素直で謙虚で、働き者の隊士は好ましく、そして有り難い。
初めて会ったにも関わらず、葵の物腰や隊務への姿勢にルキアは好感を抱いていた。
「先ほどのは回道なのですか?」
ルキアが視線を人だかりへと向ける。
勇音の治癒が完了したのか、先ほどまで土気色で呼吸も荒かった十三番隊士がゆっくりと起きあがっているのが人垣の隙間からでも見て取れた。
解毒さえ済めば、傷そのものは浅かったのかもしれない。
「貴方が針を刺したら毒の進行が止まったように見えたのですが」
「回道…とは少し違うのかもしれませんけれど、私の斬魄刀の能力です」
葵もまた隊員の命が助かったことにホッとしたのか、安堵のため息とともに柔らかな笑みを浮かべていた。
ふわりとした笑みを浮かべる様は、なるほど霊術院を卒業してからさほど年月が経っていないというのも頷けるほどにあどけなさを漂わせている。
死覇装でなく可愛らしい着物、学校の制服にでも着替えれば現世でもよく目にするような可憐な女学生にしか見えないだろう。少なくとも刀を握り虚を斬り倒す任務に身を置いているとはとても思えない…自分のことを棚に上げてルキアはそんな感想を抱いていた。
「藤袴は『留める』能力なんです。病でも毒でも」
「それは…確かに」
回道とは少し異なる。強いて言えば縛道だろうか。
鬼道系の能力が付与される始解は珍しくない。中には全く戦闘系ではない能力もある。
「…横嶌隊長もそういえば…」
「え?」
「ああ、すみません。口に出してしまっていました」
「横嶌隊長が何か?」
「いえ、貴方の始解を見てふと思い出したのです。横嶌隊長の卍解を。貴方といい横嶌隊長といい、四番隊に相応しい能力だなと思って」
「それはどういった意味で…」
一瞬、ほんの僅かな一瞬、葵の目がきゅっと細められる。
ルキアはそれに気付かず、人だかりに目を向けたまま答える。
「敵を殺すのではなく、味方を助ける能力。ただ壊し、殺すだけの能力よりも素晴らしい能力だと思います」
「……ありがとうございます」
仄かに立ち上りかけた██を納め、葵はぽつりと呟く。
「誰もが貴女のような方でしたらよかったのに…」
その言葉はルキアに届くことは無かった。
葵の言葉は袖白雪によって大気に舞う氷の粒と共に空へと流され溶けていった。
【藤袴】
解号:「留めよ」
能力:解号と共に刀身が薄紅色の縫い針と針入れに変化する。患部に刺すことで毒や病の進行を止める。あくまでも「留める」だけなので、治癒された訳ではない。
的確な箇所を見抜くのは斬魄刀の能力には含まれないため使用者の研鑽が求められる。