二つ、隊長6名以上の推薦を受け、残る7名のうち3名以上にそれを承認されること。
三つ、隊員200名以上の立会いのもと、現行の隊長を一騎打ちで倒すこと。
以上が護廷十三隊の隊長に就く方法である。
隊長に就くのはこの三つのうちいずれかの条件を満たせばいい。
「·····申し訳ございません横嶌隊長⋯」
京楽に代わり、包みを手にした麗人が眼鏡越しに男を申し訳なさの籠る眼差しで見つめる。
「本来ならば護廷十三隊新隊長着任の儀を正式に執り行わなければならないのに」
護廷十三隊一番隊副隊長伊勢七緒、普段は凛とした彼女の声が微かに暗い影を帯びるのは規律と礼儀を重んじる彼女にしてみれば無理からぬ事情からだった。
菖蒲が萎れてしまうのを目にした時のように、男は痛ましげな表情を浮かべかぶりを振る。
気にしないで欲しいと物語る男の表情に少しだけ安堵したように表情を和らげると七緒は皺ひとつなく折り畳まれた ─── 純白の羽織隊長羽織と任官状と書かれた封書をそっと差し出す。
隊長羽織と任官状を恭しく受け取る男に、七緒の後方で少し崩した姿勢でやり取りを眺めていた総隊長京楽春水は人好きのする笑みを浮かべる。
「ま、後日ちゃんと式はするからさ。ゴメンよ」
堅苦しい空気を嫌うその人となりを知る男は苦笑を浮かべる。
「そんな謝らないでください総隊長。私のような未熟者に大袈裟な式典自体が不相応なんですから」
「こらこら、謙遜も行き過ぎると嫌味になるよ。それじゃあ君の試験に立ち会った僕らの目
が節穴になっちゃうよ」
「あ、いえ、そんなつもりじゃ」
「総隊長。そのような意地悪」
「はは。いじめちゃったね。でもね君が研鑽を怠らず、隊務に忠実だったことは誰もがわかってるんだ。君の着任に異を唱える者は誰もいないさ義壱君」
「春水さん⋯」
「胸を張りなよ。今日から君は四番隊隊長なんだから。卯ノ花さんに顔向けできるように立派に励んでおくれよ横嶌隊長?」
* * * *
一番隊隊舎の敷地から一歩出たところで義壱は一つ深い息を吐いた。
背中に圧し掛かっていた見えない重りのようなものを幾分かそれで吐き出した気がした。
まるで吐き出した息すら重いような気がする。
義壱は握り締めていた掌を開く。
「総隊長の気迫⋯か」
じっとりと汗ばんだ掌を改めて握り締める。
尸魂界の治安維持を担う護廷十三隊の頂点に立つ男の放つ気迫に呑まれまいと気を張っていたようだ。
総隊長京楽春水は強さと聡明さを兼ね備えた男であるが、決してむやみに他者を圧することをしない。
それどころか軽薄で飄々とした振る舞いは時に人を呆れさせ、また時には人を和ませる。
それは彼の性分でもあるのだろうが、己の持つ強さを隠そうとする振る舞いではないかと義壱は思う。勿論それを指摘したところできっと京楽は「いやだな〜義壱君は真面目なんだから。僕は堅苦しいのが嫌いなだけさ」と笑って言うのだろう。
それが京楽春水という男の、強者故の余裕というものなのだろうか。
春水であの気迫なのだ、歴代最強の死神と言われた山本元柳斎重國総隊長から受けた隊長達はさぞかし生きた心地がしなかっただろう。
おろしたての隊長羽織を靡かせながら歩く義壱を通り過ぎる隊員達が敬意の籠った視線を向けてくるのを居心地悪く感じる。
義壱自身人に注目されることに慣れていなかった。
更にいえば、敬愛の眼差しや敬慕の念を向けられることも苦手なのだ。
こんな視線に晒されることに慣れる日が来るとは思えない。
そもそも自分が隊長の器だとは義壱には思えないのだ。
「よう、義壱」
重たい足取りで新天地、四番隊舎へと向かう義壱に気安い様子で手を挙げる男を見て、義壱の口に笑みが浮かんだ。
「一角!」
「バカたれ!!」
手を振る一角に「どうしたんだい?」そう口にしかけたとこで射場の遠慮の無い拳が一角の頭を殴り付けた。
「痛ってぇぇな!!何で殴んだよ射場さん」
「何でもクソもあるかい。立場を弁えぇ立場を弁えぇ立場を。すんません横嶌隊長!!」
ビシッと音が聞こえてきそうな程に綺麗に90度腰を曲げて頭を下げる射場と彼の屈強な手に抑えつけられた一角に義壱が慌てる。
「ちょ、ちょっと鉄さん。頭上げてくださいよ」
「止めんでください横嶌隊長。コイツには足らんのですわ副隊長の自覚が」
「痛ぇ、痛ぇって!」
義壱が宥め透かしてどうにか射場と一角の頭を上げさせるまで、隊舎の前では恐縮する隊長とどつき漫才のように言い争う副隊長二人という奇妙な光景が繰り広げられることとなった。
横嶌 義壱(よこしま ぎいち)
四番隊第四席を経て四番隊隊長に就任
就任式を行なっていない為、隊長代理
尚、四番隊配属前は十一番隊第四席であった。