Lantern & Cage   作:FOOO嘉

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渇望はある

勝利への渇望は

この胸を掻き毟る程に

ただ、お前に告げられないだけだ

渇望に勝る矜持があると

そう染み渡らせる言葉を

決して持たぬから




酒宴

 

 

「まったく、大したもんじゃわい隊長は」

 

空になった丼をテーブルに置くと、感極まったように射場が唸る。

頼んだ酒を入れるべき盃は寂し気にテーブルの隅に押しやられ、酒を満たすのは早々に平らげた天丼の入っていた丼である。

同席していた隊士は誰もがそれを今更驚きはしない。

酒豪の射場には猪口も盃も物足りない。湯飲みですら味気ない。故に丼だ。

丼に波々と酒を注ぎ、それをたらふく飲む。

味の良し悪しなどわかるのかと尋ねる者はいない。

彼と酒席を共にする者達の中に彼の飲み方を咎める者もその量を嗜める者もいない。

寧ろ豪快さを好ましく思う者さえいる。

それは射場鉄左衛門という男の魅力の一つかもしれない。

 

が、それはそれとして面倒くさいと思う者がいるのも事実である。

 

「飲み過ぎだぜ射場さん」

 

射場の隣で酒を傾ける班目一角もその一人である。

 

「これが飲まずにおれるか。義壱の努力を知ってて胸が熱くならん奴なぞ男じゃないけ」

「その義壱が思い切り引いてんじゃねぇか」

ついには「横嶌隊長」呼びから「義壱」へと戻っている。

当の横嶌義壱は一角の向かいに座り楽しそうに射場と一角を見ている。

その手にある猪口は先ほどから減っているようには見えないが、一角も射場も無理に酒を強要する者ではない。

 

「でも、僕は正直納得してるよ」

「ん?」

「義壱が卍解を会得していたことに」

 

義壱の隣で一人だけグラスに葡萄酒を注いでいた綾瀬川弓親が、揶揄うような視線を向ける。見る者が見れば、ほんのりと朱に染まった頬を色っぽいと思う者もいるかもしれない。

 

「弓親に話してたかな?」

「いいや、僕が勝手に推測してただけさ。ただ、確信めいたものはあったけどね」

く、とグラスの酒を傾けると、弓親が一つ息を吐く。

「君の斬魄刀は素直な子だと思うから。義壱なら屈服させることは容易いんじゃないかと」

「屈服?違うよ」

 

薄く笑う弓親に、少し困ったように微笑むと義壱は盃の酒を一口舐める。

 

「分かり合っただけさ。同じ想いを抱く同志として」

 

 

 

 

 

放っておけば今にも男泣きを始めそうな射場を横目に、一角は手の中の湯飲みに目を落とす。

荒々しい戦いぶりとは裏腹に一角は酒を飲むときは静かに嗜む。無論飲む量は射場にも劣らないものであるが。

 

「…悪かったな、ウチの馬鹿どもが」

一角が義壱の盃に酒を注ぐ。

「もしかして今日のこと?」

「随分震え上がってたみてぇじゃねぇか…馬鹿どもが」

言われて思い出す。

一番隊舎に呼ばれて向かおうとした際のことか。総合救護詰所から聞こえてきた怒声に思わず足を運んだ時のいざこざと呼ぶ程でもない些細な揉め事だ。

 

「耳が早いね。らしくもなく」

「うるせ、らしくもないは余計だ」

注がれた酒を一息に乾す。一角が酒を注ぐのは彼なりの労い、或いは謝意の現れだ。

不器用な男だと今更に思う。

「弓親から聞いてな…」

「なるほど」

ようやく納得がいった。

一角という男は良く言えばおおらか、悪く言えば大雑把な男だ。あの様な些細なことを気にするのかと思っていたが、弓親が彼の耳に入れたらしい。

当の弓親は素知らぬ顔でチーズを摘んでは葡萄酒を飲んでいる。

マイペースな昔馴染みから、眉間に皺を寄せた一角に視線を戻す。

 

「大した事じゃないさ。それに隊士が命の危機なんだから放っておく訳にもいかない」

「命の危機?大袈裟過ぎんだろ」

「そうかな?そうかもね」

 

狐に摘まれたように怪訝な顔をする一角に、それ以上は告げずに注がれた酒で唇を濡らす。

 

「それに、四番隊(ウチ)は慣れてるし、僕もよくわかってる」

四番隊の扱いにも、十一番隊の蔑みにも。

十一番隊と四番隊、2つの隊で席官の座にいたのだから。

「四番隊を腰抜け連中だと思ってやがる馬鹿どもがまだいやがるなんてな」

「十一番隊の隊風は理解してる。席官クラスがそんなことを思ってないことも」

徳利を掲げて見せると一角は黙って空の湯呑みを差し出す。

 

「…それが抜けた理由か?」

「そんなつもりはないさ」

 

湯呑みを傾けながら口にする言葉に首を振る。

口は悪いが、仲間意識が強いのだこの男は。

一度懐に入れた者を放っておけずに気にかけてしまうくらいにお人好しであり、敵であっても気に入れば心を向けてしまう程度にはある意味物好きなのだ斑目一角という男は。

変わらない幼馴染に義壱が微笑む。

 

「何笑ってやがる」

「いや、一角は本当に十一番隊が好きなんだと思って」

 

自分が十一番隊を抜けたことに何か思うところがあるのだろう。

己の愛する十一番隊(モノ)を友と共有出来なかったことが寂しいのだろう。

しかし、そのことを指摘すれば絶対に認めないこともわかっている。

だからこそ敢えて少しばかり話の焦点をズラしてやる。

そうすると一角はおかしな程素直に胸の内を語るのだ。

 

「戦いに命掛けてる馬鹿ばかりだからな。ここは戦いには困らねぇ。戦って、戦って ─── 」

「更木剣八の下で死ぬ、だろ?」

「おう。それに最近は特に面白ぇ戦いにも恵まれてな」

「旅禍 ─── 黒崎一護か」

「そういや義壱は一護とは会ってたんだったか」

「個人的な面識というか患者だったよ。藍染の時には随分と死に掛けていたから」

「その節はありがとうよ」

 

特徴的な髪色の少年のことは知っている。

瀞霊廷で彼を知らない者を探す方が難しいのだろう。義壱が知っているのは藍染に腹部を真一文字に切り裂かれ皮一枚で繋がっている無惨な姿と入院中の際の気さくな振る舞いだけだ。

あとは一角と恋次が敗れ、更木剣八とは引き分け、そして朽木白哉を制したこと。

 

「何で一角がお礼言うのさ。彼の怪我なら殆どあの少女が治してしまっていたしね。私は精々三席の指示に従って入院中の世話をしていただけさ」

「お前がまだ十一番隊にいる時だったらもっと違っていたかもな」

「三席の君が敗れた相手に四席だった僕がいてどうにかなるとも思えないけど」

「ハッ、抜かせ」

乾き掛けていた刺身を二、三切れ纏めて放り込むと、酒で流し込む。

徳利から瓶に持ち替えて手酌で酒を注ぐ一角は揶揄するように口元を釣り上げていた。

 

「お前が大人しく一騎打ちを見届けるタマかよ」

「なんて言い草だ」

「違うか?」

 

乱暴に注いだせいで淵から溢れた酒が手を濡らすのも気にせずに湯呑みを乾す。

盃を机に置く。水の入っていた空の湯呑みを手に取ると、一角がずいっと酒瓶を差し出してきた。

湯呑みへと注がれた酒を一息に飲み干した。

 

「違わないね」

「へっ」

 

鼻を鳴らす一角に、口角を上げてみせる。

普段意図して浮かべる笑みではない。

 

「ようやくらしい顔するじゃねぇか」

「嫌だな。褒められてる気がしない」

「んだよ。褒めてるつもりだぜ。十一番隊らしいツラだって」

「褒めてないよそれ」

 

酒のせいだ。

こんな風に飲むなんて久しぶりだったからだ。

 

「けど、違うって言うならそもそも一角の時点で違ってただろ」

 

怪訝そうに眉を顰める一角を真っ直ぐに見る。

 

「黒崎一護は瀞霊廷に来てから別人のように強くなったと聞く。勿論、それは彼の素質と心の強さ故なのだろう。けれど、それだけじゃない。彼が強くなれたのは恵まれたからだ」

 

何も言わずに湯呑みを傾ける一角から視線を逸らさない。

隣の弓親がいつの間にか酒を飲む手を止めて会話に聞き入っている。

 

「良き戦に。三席、副隊長、そして隊長。段階を踏んで戦いを経験することで素質を開花させていったからだ。つまり、─── 」

 

手にしていた湯呑みにピシリと罅が走る。

 

「君が最初から卍解を出していれば黒崎一護に敗れることは無かったはずだ」

 

 

 




斑目一角と綾瀬川弓親と横嶌義壱
流魂街出身の幼馴染
同時期に席官になった
弓親が自分に四席を譲った理由を尋ねたら

「だってさ…美しくないでしょ。本当は三が一番美しいけど、三席は一角に相応しいからね。次に美しいと言ったら…五しかないでしょ?」

と説明されて宇宙猫になった。
数字に美しいとか美しくないとかあるのか、納得するまで書き続けた結果、義壱は書道が上達し、暫く漢数字を見るのが嫌になった。
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