火の息を吐き
血の刃を振るう
火の目を向け
血の道を作る
鉄と臓腑と苦痛の山で
愉悦と喜悦と満悦の中で
お前は笑う
土塊を蹴散らし野蛮に
肉塊を踏み躙り粗暴に
鉄塊に座して高らかに
お前は笑い続ける
暴力に愛されているのか
暴力を愛しているのか
思い煩うことなく笑い続ける
ズンと重たい音と共に大地が震える。
巨大な塊が地を抉るように落ちた音が倒れ伏した身体の芯にまで響くようだ。
義壱はその震源へと痛む身体を押して視線を向ける。
そこには余りにも無骨な、人の背丈程もあるであろう鉄の塊が三つ地を抉り鎮座していた。
「ふぅ…何とか扱えたな…おい、大丈夫かよ義壱」
三つの鉄塊の中心に佇む男が普段と変わらぬ調子で呼びかける。
その口調がいつも通り過ぎて、義壱は今しがた起きた出来事が夢か幻なのかとさえ思う。
しかし、それは紛れもなく義壱の前で起きた出来事であった。
根本から薙ぎ倒された木々、砕かれた岩山、抉り取られた大地、そして辺り一面に撒き散らされた
目の前の鉄塊とそれを振るう男が齎した惨劇であり、刻み込まれた暴力の爪跡だった。
* * * *
十一番隊三席斑目一角、そして当時は七席だった横嶌義壱は
そこには報告通り大虚が確かにいた。
それも五体も。
先発隊として派遣されていた十一番隊の他の席官達は既に全滅していた。倒れた
六体もの
最下級大虚とはいえ複数集まれば隊長格ですら苦戦を余儀なくされる。
ましてや席官になったばかりの死神2人ならば死が待つのみだ。
事実、横嶌は
戦闘力で横嶌より数段勝る斑目一角ですら粘りながらも徐々に押し切られていった。
隊長格の応援を呼ぶ暇も無く、そのまま2人は死を待つばかりであった
──── 本来であれば。
「…ったく、しゃーねーな…」
何度も
「義壱、隊長達には内緒にしといてくれよ」
血の絡んだ歯を剥き出しにした獰猛な笑みを浮かべる一角に、義壱は訳もわからずただ頷くことしか出来なかった。
「卍!解!!」
血塗れの獣が咆哮を上げた。
大気が獣の気迫に圧されるように震えた。
膨れ上がる霊圧は
副隊長クラスどころではない、隊長クラスにすら匹敵し得るのではないか。
それほどの霊圧が傷だらけの一角から蒸気の如く噴き上がる。
巻き上げられる土煙に思わず顔を伏せる。
轟々と吹き荒れる乱気流のような風と霊圧に義壱の肌が粟立つ。
最早義壱の本能は
土煙が晴れると思わず義壱は「あぁ…」と感嘆とも呻き声とも付かない声を漏らしていた。
鬼灯丸の刀身を数十倍にしたような巨大な刃と
「龍紋鬼灯丸」
それは刀と呼ぶには巨大で、刃と呼ぶには無骨過ぎる鉄の塊であった。
暴力を形にしたような刃の中央には龍紋の名を表すように龍の紋様が彫られている。
一角は徐に刃を構えると、
「久しぶりだからなぁ〜…やり過ぎちまっても恨むんじゃねぇぞ!!」
獰猛な笑みはより凄惨なものになった。
「しゃあッッ!!!」
血塗れの獣が跳躍する。
自身の傷口から滴る紅い雫を撒き散らしながら、鎖に繋いだ鉄塊と共に飛び上がる姿は禍々しく野蛮の一言に尽きる。
『〜〜〜〜〜!!!?』
鉄塊の一撃で額を割られた最下級大虚の一匹が形容し難い悲鳴を上げる。
「ひゃあ!!」
もう片方の刃で
彼から滲み出るのは死への恐怖でも、敗北への不安でもなく、死神としての使命感ですらなかった。
─── 喜悦 ───
一角の笑みからはそれだけが溢れていた。
力を存分に振えることの悦びに満ちた咆哮を上げ、赤く染まった顔に満面の笑みを浮かべて暴力を愉しむ姿は義壱の目には凶々しさ以上に純粋な美しさとなって焼き付いた。
火の息を吐き
血の刃を振るう
火の目を向け
血の道を作る
鉄と臓腑と苦痛の山で
愉悦と喜悦と満悦の中で
お前は笑う
俺も笑う
笑うお前を見上げて笑う
まるで頂に咲く花の様に
赤く染まるお前を見上げて笑う
笑うことしか出来ない俺を
俺は嗤う
ただ嗤う