ゾルディック家のブラコン長男 作:見切り発車丸
ゾルディック家長男1
ククルーマウンテンの頂に位置するのは、裏稼業の界隈で知らない者はいない高名な殺人一家の屋敷だ。
屋敷のまわりには濃密な樹海が広がっており、広大なそれの周囲には重厚な塀がずっしりと聳え立っている。
見上げるだけで首が痛くなるほど高い塀だが、この世界の人間であれば飛び越えられる。
なにかを俵担ぎした黒服の男が、疾風のように壁を駆け上がり、敷地内へと入っていった。
ゾルディック家の優秀な番犬は、当主直々に待てをされていた。
正規のルートでない場所から侵入した
ただただ、感情の見えない昏い瞳で黒服の背を追うだけだった。
その日、ゾルディック家に連れてこられた医師がいた。病院で長らく勤務をし、冷静で的確だと腕が評判の中年の男性医師だった。
彼の専門分野は産婦人科で、総合病院であるため病人の数も多いのだが、その日は珍しく産気づいた女性がおらず、まったりと事務室で茶をすすっていた。
彼が覚えてるのはそこまでだ。
知らぬ間に気絶させられ、荷物のように俵担ぎでゾルディック家へと運ばれた。
広々とした屋敷で目隠しを外されて、さあ妊婦だ。お産を助けろと、訳のわからない状況に置かれて一瞬呆気に取られながらも、産気づく妊婦の姿を目の当たりにして、すぐさま己のやるべきことに専念した。
彼は優秀な医師であった。
必要な物品を次々に口にして、執事に持って来させる。
女性は顔面にゴーグルのようなものを装着していた。
顔色を確認するためにも、顔面に取り付けたゴーグルを外してほしいと申し出たが、却下された。
食い下がることはしない。
利口な医師は、己がゾルディック家に連れて来られたことこそわかっていないが、病院で分娩を臨めない何かしらの理由がある裏社会の者に拉致されたのだろうとは見当付けていた。
命に貴賎はなし。そう信ずる医師の患者を看る眼差しは真剣そのもので、手に震えもなく処置や指示は的確。
暗殺家当主シルバ=ゾルディックは一般人にも見どころのある人間はいるものだと内心で感嘆していた。
暗殺一家当主から称賛されていることなど露とも知らない医師の内心は処置が終わったら殺されるのだろうか、と達観にも似た諦めであった。
見た目と正反対に悲壮感に満ちた感情であった。
シルバ=ゾルディックとキキョウ=ゾルディックとのあいだに産まれた待望の第一子は、銀髪の男児であった。
ゾルディック家当主であるシルバと同じ銀髪。
初めての出産とは思えぬほどに妊婦は落ち着いていて、医師が驚くほどの安産であった。
全ての処置を終えると、医師は再び気絶させられて、執事によってあっという間に屋敷の外へと運び出され、元の場所へと帰された。
目玉がこぼれ落ちるほどの大金を抱えさせられて。
「男子か」
感慨深そうに呟くシルバ。
一人目から、後継者となる者に多いゾルディック特有の銀髪の、しかも男児が産まれるとは思っていなかった。
キキョウは出産の疲労にぐったりとベッドに横たわっており、子どもを見る余裕はない。
シルバは、よくやったと心から妻を労う気持ちを込めて、ベッドに横たわるキキョウの手を両手で包み込む。
「立派な男児だ。名は、ルイにしよう」
元気な産声をあげたあと、いまは綺麗に清められてすやすやとベビーベッドで眠っている。
無駄泣きを一切しないところもまた、ゾルディックらしくていい。
「ルイ=ゾルディック。素敵な名だわ」
「きっと素晴らしい暗殺者になることだろう」
「ええ、貴方に似てね。間違いないわ」
出産を労う夫に、口元しか見えないが穏やかな笑みを浮かべる妻。
世間一般がイメージする血塗られた暗殺一家のイメージからはまるで想像できない穏やかな空間がそこには広がっていた。
部屋の隅に控えて空気を消す執事は当主たちへの深い忠誠心と生命誕生の感動と色々な感情があわさって滂沱の涙を流していた。
妻はきらきらとした視線(ゴーグル越し)を夫に向けていたが、ゆっくり休めよと使用人とともに彼が去った後は、久方ぶりの軽い腹を撫でて、のんびりとベッドで眠る体勢になる。
ぺたんこのお腹。もう腹のなかに子どもはいないのだ。
「なんだか寂しいような気がするわ」
将来6人も子どもを産むことになるその女性はぽつりとこぼしたあと、すぐに疲労のままに眠りについた。
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