ゾルディック家のブラコン長男   作:見切り発車丸

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クロウ

 

 あたたかに降り注ぐ陽光のなかでぐっと伸びをする。そのまま空にむけて手のひらを開く。指の隙間からの陽の光。瞳を突き刺す痛みに思わず目を細める。

 手のひらが透けて紅く染まっている。自分の指の近くで、ずっと天高いところを飛んでいる鳥がすーっと西から東へと移動していく。

 

 へへへ、とルイは笑った。

 

 ゾルディック家の庭は樹海となっていて、大きな木が競い合うように天へ向けて葉を伸ばしているため、いつでもひんやりと涼しかった。

 陽が届かず、しっとりと水分を含んだ空気に、湿った土。人の気配はない。研ぎ澄まされた刃のような、凍てついたもの寂しい森だ。

 

 それとは真逆のからりとした空気。アスファルトで舗装された道路は太陽の照り返しもあって暑いくらいだ。

 

 行き交う人々はみんな呑気そうで、軽やかな笑い声が喧騒にいくつも混じっていて、身も心も軽い気持ちにさせる。

 

 室内に篭りがちになっていたルイは、思わずこぼれた笑みに自分で驚いた。外に出るだけで随分と陽気な気持ちになっている。

 

 日毎たしかに成長している。

 そんな実感を得る日々に、ルイは瞳を輝かせていた。

 

 毎日が素直に楽しい。

 日が沈んで昇って、自分で計画したトレーニングをして、気のいい闘士たちと切磋琢磨する。

 なかには悪質な闘士もいるにはいたが、極一部だけだ。

 基本的に己の実力を磨こうと戦う人間に悪いものはいなかった。

 

 ルイは命の取り合いのない戦いにすっかり魅せられていた。

 

 

 今日久しぶりに外出をしたのは、目の中にコンタクトのようなものを嵌め込んで、目の前が見えないようにしたいと思ったからだ。

 

 枷なしでは楽に勝ってしまうほどにルイの実力はめきめきと上昇していた。

 

 視界を塞がれた状態での戦闘なんて、考えるだけで楽しそうだ。

 

 もしできるのならば、そういうものを作ってもらおう。

 

 意気込んで、ルイは眼鏡屋を訪れた。コンタクトも売っているだろうと踏んだのだ。

 

「いらっしゃい」

 

 店の中にはハゲた小太りのメガネのオヤジが座っていて、涼やかなベルの音とともに来店したルイへ気だるい声をかけた。

 

「コンタクトレンズを特注したいんだけど、できる?」

 

「出来るにゃ出来るが、お嬢ちゃん……親御さんは近くにいるのかい?」

 

「オレは男だよ。あと親は近くにいない。でも」

 

 ルイはスムーズに己の目的が達成されさえすれば、相手がどのような態度を取っていてもまるで気にならなかった。

 

 昔は。

 

 だけど、いまはわざわざ性別の訂正をしてしまう。

 

「お金なら心配しないで。ほら」

 

 ここのところ勝ち続けているので、天空闘技場用に作った口座の残高は跳ね上がっていた。

 

 残高画面を見せるとオヤジは目をひん剥いた。

 

 先ほどまでまるでやる気がない様子だったのに、揉手をしつつ立ち上がる。

 根っからの商売人といったところか。

 

 その様子に呆れた。大人なのにゲンキンなもんだ。

 

「カラーコンタクトのようなものを作りたいんだけど」

 

「はい。何色でもお作りできますよ」

 

「目にはめたら、見えなくなるものも作れる?」

 

 店主は顎に手をかけて唸った。

 

「見えないコンタクト?

 虹彩にも瞳孔にも遮光性の高い色を入れたらできなくもないだろうが……なにせ作ったことがないからな。

 そんなもんが欲しいのか?」

 

「うん、よろしく」

 

「わかった。完全な特注品になるから、普通のコンタクトレンズよりも少しばかり値が張るぞ」

 

「先払いするよ」

 

「よし来た。何セット必要だ? 目の中に直接入れるものだからな、扱いには十分気をつけてくれ」

 

 コンタクトレンズの種類や取り扱い方法などを丁寧に説明してくれる店主。

 

 ルイはそれらの説明をしっかりと聞いて、10セット購入することにした。

 

 前金だけでいいぞというオヤジに、何度も送金するのは面倒だからと一括で支払いを済ませ、後日取りに来ることになった。

 

 携帯があれば、出来次第連絡してくれるらしいのだが、ルイは携帯を持っていない。

 ついでに買ってもいいかもと、次は携帯を買いに行くことにする。

 

 メガネ屋の店主からホームコードが書かれた紙をもらって店を後にした。

 

 

 外に出て歩いていると、見知った顔が小さい子どもの手を連れて歩いているのを見つけた。

 

 見知った顔、といっても知り合いではない。毎日観戦していると、それなりに出場する闘士の顔を覚えてしまうのだ。

 

 ルイは基本的に150階以上の試合を観戦をしている。

 

 チケット屋ともすっかり打ち解けて、毎回世間話をするようになり、ルイと同じくらいの歳で随分と活躍している少年がいることは聞いていた。

 

 ルイは暗殺者と思えないほどにコミュニケーション能力が高い。

 そのような教育を受けてきたことに加えて、ルイ自身が人のことが好きだった。

 

 幼い見た目とは裏腹に落ち着いた言動、そして類い稀なる容姿。ニコニコと愛想も良いことから、大抵の人間から好感を得やすいことも輪をかけてコミュ強への道を歩ませた。

 

 

 たしかあの子の名前は、ヒンパ、だったか。年齢は13歳らしいが、見た目だけで言えばもっとずっと幼く見える。

 それこそ同い年のように。

 

 天空闘技場の申し込み用紙には結構な出鱈目を書いている人間が多い。名前も偽名でいいし、年齢も適当でいい。

 

 ルイの実年齢は6歳だが、体格が良く落ち着いた言動をすることから上に見られる。

 

 ヒンパの実力は150階で優に戦えるほどに高いものだ。

 適度に勝ち、適度に負けてそのあたりの階数をキープしているが、総合的に見るとルイよりも強そうだ。

 

 淀みのない見事な纏をしている。能力者と戦うところを見る機会があったのだが、流れるようにスムーズなオーラ移動に感嘆した。あれほどの念能力者ならば、ヒンパの実年齢はもしかしたら13どころではない可能性が高い。

 

 よちよち歩きの幼児の手を引いて歩いている。

 ヒンパは闘技場で見るが、あの小さな子どもは見たことがない。明らかに血のつながりを感じさせる顔立ちだ。弟だろうか。

 

 ルイは子どもが子どもを連れて歩いている状況よりも、天空闘技場に弟を連れてくるという斬新な発想に脱帽していた。まるで思いつかなかった。どうしてその交渉をしなかったのだろう。

 

 執事が隠れてついてきていることなんて、とっくの前から気づいている。ルイが試合をしている間は執事にイルミの面倒を見て貰えばいい。

 

 任務にイルミを連れて行くのは危険が過ぎるが、天空闘技場で戦うだけならばなにも危ないことなんてなかったのに。

 

 いいなぁ、とぼんやりその背中を眺めていたルイだったから、気づいた。パッと素早くヒンパの手を振り解いた幼児が短い足をとてとてと素早く動かして突然走り出す。

 

 周りも見ずに走り出したものだから、明らかにガラの悪い大男と正面からぶつかりそうになっている。突然手を離されたヒンパは、人混みのなかに紛れた弟の姿を見つけられず慌てた様子できょろきょろと左右を見回している。

 

 素早く駆け出したルイは、ひょいと子どもの脇から手を入れて抱き上げた。間一髪、男に蹴られる前に抱き上げられた幼児は、まるで何が起きているのかわからない様子できょとんと前を見つめている。

 

 ルイはそのまま移動し、慌てるヒンパへと声をかけた。

 

「やあ。お探しものはここだよ」

 

「あっ、キミは……!」

 

 どうやら向こうもルイに見覚えがあるらしい。幼児をヒンパの隣に下ろすと、ひしっとヒンパに抱きつく。

 黒髪をぴったり撫で付けてオールバックにしている少年は、疲れた大人のように笑った。苦労しているみたいだ。

 

「すまない、本当に助かった! 見失って血の気が引いていたところだった」

 

「構わないよ。ヒンパ、だよね。オレはルイ」

 

「ヒンパは天空闘技場で戦う用の名前なんだ。よければクロウと呼んでくれ。

 珍しく子どもが戦っているから、ボクもキミのことを覚えているよ。強いんだな」

 

「君こそ」

 

「キミは6歳だろう? 本当に大したもんだ。

 この子はヒソカ。1歳だ」

 

 和やかに二人笑い合い、自然に連れ立って歩き出す。

 クロウはヒソカを抱き上げ、ルイはヒソカへと手を振った。不審そうな顔をしながらも小さく手を振ってくれる。

 

「今から時間はあるかい?」

 

 そう笑顔で聞いてきたクロウに、ルイはにっこりと微笑んで頷いた。

 

 

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