ゾルディック家のブラコン長男   作:見切り発車丸

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年不相応な友人

 

 ご挨拶できるかい? と優しくヒソカへ語りかけるクロウ。高めで甘い声色は幼児に向ける独特のそれだ。

 

 クロウに抱かれるヒソカはじーっと黙ったままルイのことを見上げている。

 

 切れ長の吊り目の金色瞳。細められた瞳がまるで猫のようだと思いながら、ヒソカへにっこりと微笑みかけた。

 

 ヒソカは表情を変えずにルイを真正面から見据えている。

 

 ほんのわずかに寄せられた眉が、言葉にならない彼の気持ちを表しているようだ。

 ルイは笑顔のままそっとヒソカから視線を外した。

 

 それを見たクロウが苦笑する。

 

「すまない、あまり人と接し慣れていないんだ。

 昼食はまだかい? ぜひお礼をさせて欲しいんだ」

 

 大人びた態度でそう言い、この近くに美味いランチを出すお店があるんだと爽やかにエスコートする。

 

 ルイもよく大人びていると言われるが、同年齢で同じように大人びたタイプと出会うのは初めてのことだった。

 そもそも同年代の人間と会うことも滅多になかったな。

 

 同年代の気が合いそうな友人。

 友人という定義こそ知っているが、まるで自分には縁遠いと思っていた。

 側から見ればきっとそうだ。

 ルイはにまにまと機嫌良さげに笑った。

 

 

 赤み掛かった煉瓦造りの建物に洒落た看板がかかった洋食屋。

 扉を開くとカランカランとベルが鳴る。

 

 いらっしゃい、と温かな笑みで出迎えたのは小太りの中年女性だ。ふっくらとした頬、目元に刻まれた優しげな笑い皺がなんとも温厚そうだ。古ぼけてところどころ黒ずんだエプロンで手を拭きつつ早足に駆け寄ってくる。

 クロウと親しげに二言三言会話をしたあと、ルイへと向いて腰をかがめる。

 

「あなたは初めましてね。クロウちゃんの友達かしら?

 おばちゃんいーっぱいサービスしちゃうわ! たくさん食べて行ってちょうだいね」

 

 クロウはニコニコと()()()()()()笑顔を浮かべて、案内もされずに慣れた様子で席へと向かう。

 

 おばちゃんが古ぼけた木製の子ども椅子を持ってきて、クロウが高い高いの要領でヒソカを高い椅子に座らせている。

 

 ヒソカは椅子に座った瞬間に、クロウへと両手を差し出して泣き出した。

 

「ヒソカ、座っていなさい。抱っこじゃご飯は食べられないだろう?」

 

 静かに諭されて、くすんくすん鼻を啜りつつ泣き止んだ。

 だが、なにかを我慢するかのように唇を尖らせるヒソカ。

 

 めちゃくちゃ聞き分けがいいな。

 イルミもそうだったが、子どもって本当に賢いよな。

 

 でもたぶん、ヒソカが泣いてるのは抱っこが理由じゃないんだよなあ。

 

 すん、と鼻を鳴らしたルイはほぼ確信しつつクロウへ言う。

 

「オムツだと思うよ」

 

「は?」

 

「ヒソカ、オムツを替えて欲しくて泣いてたんじゃない?」

 

「……そうだったのか?」

 

 クロウがヒソカへと尋ねる。ヒソカは答えない。

 

 物言わぬイルミを毎日観察し続けていたルイは、おおよその幼児の欲求が手に取るようにわかるようになっていた。

 

 暗殺者らしからぬ平和な特技である。

 

 ヒソカはそこそこ顔に出るし、聡い。感情表現が恐ろしく乏しいイルミの様子を見分けてきたルイからすれば、ヒソカはかなりわかりやすい部類だ。

 

 1歳ってもう喋るんだっけか。話しているのは聞いたことがないけど、クロウの発言はおおよそ理解できていそうな雰囲気だ。

 

 帰ったらイルミも話すようになっているかもしれないな。

 なにせあの子は世界一可愛くて賢い子だから。

 

 夢見心地に考えていたルイに、クロウが言う。

 

「もしよければ好きなものを頼んでおいてくれ。

 ボクはちょっと場所を借りられないか聞いてくる」

 

 クロウはヒソカを再び抱っこして、店員のところへと歩いていく。

 

 未だ子どもの兄と弟の2人で不都合はないのだろうか。

 

 兄だけが出稼ぎにくるのならばわかるが、弟も一緒にいるとなると、面倒を見てくれる両親は既にいないのかもしれない。

 

 訳ありの人間など世の中にごまんと居るが、幼い弟を連れた少年が天空闘技場で戦っているのは珍しいことだろう。

 

 クロウがヒソカを連れて闘技場内を歩いているのは見たことがないので、上手に隠しているようだが。

 

 勝つ手段を選ばない人間に、明らかに相手の弱みであるものを狙って試合に負けるよう強要してくる者がいる。

 

 目に入れても痛くないほどに可愛い弟を持つルイは、クロウ達に対して珍しくも情を感じていた。任務で殺せと命じられたら、気が進まない程度の。

 

 

 戻ってきたクロウたちとともに注文を済ませて食事をはじめる。

 

 ルイはドリア、クロウは焼肉定食、ヒソカはお子様ランチだ。

 どれも食べきれないほどにたくさん盛られている。

 

 クロウはさっきはありがとう、とルイへ言い、ぐっと顔を近づけてきて声を潜めて尋ねた。

 

「もしかしてキミも……アレかい?」

 

「アレ?」

 

「訳アリ、なんだろう?」

 

「いや? 特にそんなことはないけど」

 

「それにしては子育てに慣れているじゃないか」

 

「オレにも弟がいるからなんとなくそうかな、って」

 

「……まあそういうことにしておこうか。

 お互いの身の上はおいおい語ろうよ」

 

 運ばれてきた料理を食べつつ、他愛ない会話をする。

 

 ルイとクロウの共通のことである天空闘技場での戦いや、弟のことが中心だった。

 

 ルイは弟がどれほど素晴らしく可愛い存在かを語り、クロウを引き攣った笑みにさせた。

 

「それにしても、ヒソカってあまり食べないんだね。

 この年頃の子どもだとそういうものなの?」

 

「ボクもこの子があまり食べてくれなくて心配しているんだ。

 お菓子は好きだし、果物なんかは青い果実でも喜んで食べるんだけど、こういう食事処に連れてきてもあまり食べてくれないんだ」

 

「青い果実でも……」

 

 冗談だと思って流そうとしていたのに、クロウがさらに説明を補足する。

 

「前に果樹園をやっててね。

 熟しすぎているのは逆に嫌いみたいで、青い果実を勝手に採取して食べていたよ」

 

「……なるほどね。

 真面目な話、もしかしたら、普通の食事だとこの子には味が濃過ぎるんじゃない?」

 

「盲点だった! たしかに薄味の野菜なんかは結構よく食べている気がするよ」

 

 その可能性は考えていなかったらしい。

 ゾルディックで英才教育を施されながら、育児書を読み耽った変わった子どものルイ(6歳)ならまだしも、普通の子どもならば決して手を伸ばさない代物だ。

 

 クロウは見た目こそルイと同年代に若い。

 だが時折見せる仕草が妙に大人っぽく映る。

 

 天空闘技場で見た目に惑わされずに本質を捉える修行を繰り返しているからだろうか。

 ルイはクロウが自分に負けず劣らず、もしくはそれ以上に異質な存在であると思っていた。

 

 念能力を修めており、ルイよりも高い実力者な時点でどう考えても普通の子どもではない。

 

 強さでいえばルイよりも強いのに、200階にいかずにルイと同じように150階行こうで勝ったり負けたりを繰り返しているところも気になる。

 

「そういえば、どうして偽名で登録してるの?」

 

 ここは尋ねてもいいだろうと判断した。

 突っ込まれたくないならば、最初から違う名を名乗ったりしないだろうし。

 

「以前天空闘技場で荒稼ぎしたことがあってね。

 もう本名じゃ登録できないから、適当な名前で登録したんだ」

 

 クロウの隣で静かに席に着くヒソカはルイの様子が気になるらしく、ちらちらとこちらを伺っている。

 

 雑談をしつつルイは喜んでヒソカにちょっかいをかけた。

 

 警戒心の塊だったヒソカも、満面の笑みであやし続けるルイにだんだんと声を出して笑ってくれるようになっていく。

 

 それなりに楽しく食事を終えて、ルイはクロウたちと別れることになった。

 

 別れる頃にはすっかりヒソカはルイに懐いており、クロウは「もしよければまた会ってくれないか」と尋ねてきた。

 これは社交辞令ではなく、むしろ少しばかり必死な様子を滲ませて。

 

「いいよ」

 

 ルイは一も二もなく頷いた。

 

「連絡先を聞いてもいいかい?」

 

「オレ、携帯持ってないんだよね」

 

 これは遠回しな拒絶だろうか?

 

 微妙な表情で笑ったクロウに「今から買いに行こうと思ってるんだ」と素知らぬ顔のルイが付け加える。

 

「そうか! もしよければ、同行しても構わないかい?

 ボクで良ければ機種をオススメさせてもらうよ」

 

 是非とも頼む、と自分を売りつけてくるクロウ。

 

 いやに必死な様子ではあるが、ルイは気にならなかった。

 自分よりも実力者であるクロウともっと親しくなりたいと思っていた。

 

 ヒソカはすっかりルイに抱かれている。

 

 初めの警戒した様子からは考えられないほどの変化である。離れまじ、と腕の部分の服をガッチリと握りしめているのがなんとも愛らしい。

 

 ルイは人が好きだ。子どもはもっと好きだ。

 

 ヒソカは良い子そうだし、イルミの良い友達になってくれそうだな。なんて何度思ったかわからないことを思いつつ、ヒソカを抱っこしたまま歩く。

 

 子どもが3人で歩いていると、結構な頻度で視線を感じる。

 ヒソカは明らかに幼いし、3人とも見目が優れているものだから余計に。

 怪しい視線が時折混じっている。

 

 ルイもクロウも見かけによらない実力者であるため、こんな街中でどうこうされる可能性は低い。

 

 路地裏なんかに入ったら危険度はぐっと上がるが、それでもルイたちの敵ではない。

 

 自由に行動してていいと言いつけている執事も、ルイたちの後をつけている。なにかあれば対処に動くことだろう。

 

 

 クロウへと視線を投げかけると、困ったように肩を竦めて首を振った。

 どうやら、こんな視線に晒されるのはいつものことらしい。

 

 

 携帯屋にはズラリとさまざまな種類が並べられていて、どれを買えばよいのか迷うところだった。

 

 クロウが携帯についての説明と、自分のおすすめを教えてくれる。

 

 結構楽しそうに語っているので、機械類には詳しいのかもしれない。

 

 ルイはクロウに勧められた携帯を買った。

 

 ビートル04型。現時点で出ているビートルシリーズの最新機だ。

 

 屋外での圏外が限りなく少なく、100種類の民族言語通訳機能があり、テレビの視聴が可能だという。高性能だ。

 

 見た目は光沢のあるカブトムシの形をしている。

 

 バサっと羽が開くのが超格好いい。

 

 金は天空闘技場でたっぷりと稼いでいたため、一応値切りをしようと動いてくれるクロウを遮って購入した。

 

「いいよ。時は金なり、って言うじゃん。余った時間でどっか行こうぜ。

 さっき飯奢ってもらったし、次はオレが払うからなんか甘いものでも食べに行こうぜ」

 

は〜〜。すげぇな。これが青い果実(ガキ)の発言か?

 

 ぼそりとつぶやいたクロウはルイに聞こえていないと思っているらしいが、あいにくの地獄耳だ。しっかりと聞こえている。

 

 自分もガキなのにな。ルイはそんな言葉は口にしない程度には精神的に大人だった。

 

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