ゾルディック家のブラコン長男 作:見切り発車丸
出会ってから、それこそ毎日のようにクロウから連絡が来た。携帯の着信はクロウばかりだ。一回だけメガネ屋のオヤジから連絡があったか。
主にヒソカに対する悩みごとや相談だったが、そのほとんどにルイは真摯に答えた。
本当に色々なことを聞かれた。
クロウのほうが詳しいんじゃないかってことまで。
たとえば食事の内容や睡眠の悩み、どうやって一緒に遊ぶか。
どうやって1日を過ごせばいいのか、いつからヒソカの修行をはじめてもいいのか、一人で過ごさせてもいいのかなどなど……。
ルイはクロウとともに心から悩んだ。自分のことのように知恵を絞り、育児書を読み耽り、労力を厭わずに二人に尽くした。
たしか彼は13歳だと闘士の情報で紹介されていたはずだ。
7歳も歳下のルイの発言をメモを取りそうな勢いで熱心に聞いてくれたから、余計に熱が入った。
子どもだというだけで侮る人間が多いから色々大変だよね、なんてしみじみ頷きあう。
こういうときに公的な資格があればとても強い。ハンター資格が人気なのも頷ける。
クロウもハンター資格は持っていないし、今のところ取る予定もないという。
お互い人気が高いこともあり、ファンが勝手にできていることも話題に上がった。
「そういえばキミのファン、さっきちょっと出たときにみたけど、ずっと出待ちしてるよ」
「よくオレのファンだってわかったね」
「キミの名前が書いたどでかい看板みたいなの掲げてたからね」
そりゃわかるな。
そんなんいるのか。
ルイは表情こそいつも通りに口角を上げたものであったが、内心ではかなり引いていた。
一体その謎の行動で誰が喜んで、誰が得をするのだろうか。
……本人だけか。
周りのことなど気にしない人間というのは一定数存在するものだ。
「ここの闘技場のファンとの距離感には気をつけたほうがいいよ。
ボクは以前2人ほどとんでもない奴に付き纏われてさ……」
「うん」
面白そう。もちろん第三者として。
「初めはボクも面白がってたんだけどさ、厄介な奴に目をつけられてからはもう笑えなくなったよ」
嘘か本当か、困った顔で語るクロウは色々と個性的なファンの話を聞かせてくれた。
自称恋人から始まり、パトロン宣言をするおじさん、前世の母に、宇宙の運命により定められたソウルメイト。
次々出てくる変人のファンたちにルイは笑い転げたが、一番ヤバかったのは病みまくった美女。
もう一人のストーカーはジャポンの忍者だ。
忍者は地獄の底までお供します! タイプの暑苦しい奴だからまだマシ。
病みまくった美女がナイフを持って追いかけてくるのがそれはそれは大変だったらしい。
美女に追われて住居を変えたことは一度や二度のことではないらしい。
ルイはいまのところそのような被害には遭っていないので、クロウが変人ホイホイなだけのような気もする。
「ちなみにそれはいつのこと?」
「7年くらい前からだったけど、いまも追われ続けてるんだよね。
とんでもない厄介者で、もはや呪いレベルだ。ははは」
ははは、と軽く笑うクロウの目線は遠い。
7年前というと、ルイと同じ年のときか。
そもそも13というのが怪しいのだが。
怪しくても、何かを隠していても、ルイとしては全く構わない。だが隠す気があるのかないのか分かりづらくて扱いに困ることが多々ある。
少し前にルイが会話の延長線上で尋ねたときのことだ。
「ヒソカってどっちに似てるの?」
パパ似かママ似か、よくある話題の一つだ。
少なくともルイはそのつもりで会話を振った。
クロウはそれにこう答えた。
「ボクにも似てるけど、向こう寄りかなぁ」
ボク似で、向こう寄り?
停止しかけた思考と会話をルイはいつも通りのポーカーフェイスで動かした。
ポーカーフェイスのまま、まるでなにも気づいていない様子で続けた。
「ふぅん、そうなんだ。
イルミはどっちにも似てる感じがしないんだよね。強いて言うなら天使? 笑うなよ。本当なんだからさ。
――オレ? オレは母親似だって言われるよ。まあ母親の顔なんて直接見たことがないんだけどね。
――違う違う、死んでないよ。物理的にゴーグルを着けているから見えないってだけ」
明らかに文脈にそぐわないクロウの返答があったが、ルイはあえてスルーした。
誰に似ているか、ボクにも似ているが、向こう寄り。
向こうって何だ、誰だ。
お互いに怪しいところは感じながらも、お互いに踏み込み過ぎず、適度な距離感で過ごしていた。
お互いに変なところで遠慮がちになるのもちょっと面白かった。
部屋を覚えるくらいに仲良くなれば、もう携帯での連絡など必要もなくなり、直接ルイの部屋にクロウが来るようになった。
ルイは携帯を今まで持っていなかったこともあり、なかなか連絡に気づかない。同じ場所にいるのだし、直接来てもらった方が色々と手っ取り早い。
ヒソカを連れたクロウはルイの部屋にほとんど毎日入り浸っており、寝るときやルイが観戦しに行くとき以外は3人部屋も同然の状態になっていた。
一緒に修行したりゲームしたり他愛無いことを話したり、そうしているうちにあっという間に1日が過ぎていく。
いつぞやオススメの育児書を買って渡したら、いたく感激された。
こういうのを求めていたんだ! と育児書を天に掲げて大袈裟に喜ぶものだからルイは胸がくすぐったくなって思わず笑ってしまった。
クロウの発案で街にきていた話題の奇術師のショーも観に行った。
大きなテントが張ってあり、中央が舞台となっている。
そこそこいい席が取れて、近くで見ているのに見抜けない不思議な技々を観て皆で歓声をあげた。
ヒソカも周りに合わせて小さな手でぱちぱちと拍手していた。
奇術師の男は普段はオーラを垂れ流しにしているのだが、技の時だけは念能力を使っているのかと思うくらいに念が練り上げられていた。
一流の芸能を持つ者のなかには無意識に念能力を開花させる者もいるらしいので、それかもしれない。
誰よりも不思議な技の虜になったのはクロウで、瞳を輝かせてどれほど凄かったのか、どれほど感動したのか何度も語り、手品ショップでトランプを買ってきてマジックを練習してはヒソカに披露していた。
クロウの紹介で評判の占い師のところへも行った。
小ぢんまりとした一軒家は、看板もなにもなく、普通の家とまるで変わらなかった。
知る人ぞ知る、というやつらしい。
「おやクロウ、また来たのかい。あんまり占いに頼りすぎるのもよくないよ」
口元までを紫のローブで覆った小さな老婆が言う。
顔は見えないが、口元や細い喉、声は老いた女性のものだ。
「今日はこいつを見て欲しくてきたんだ」
「生年月日と名前を。偽名を使っても構わないけれど、精度は落ちるからね。
あたしの占いはあんたが心のなかで一番疑問に思ってることに対して答えるから、質問は声には出さなくていい。
むしろ、指定はできないから言っても無駄さね。ひゃっひゃっひゃ」
ルイは生年月日と名前を素直に答えた。
クロウがゾルディック、と聞いて目をひん剥いていた。
そういえば言ってなかったっけか。
なるほどな……とも呟いている。
なにがなるほどなんだ。
水晶玉に手をかざした老婆が言う。
「あんたは――一度死にかけた?
それまでのあんたは――空っぽ。なぁんにも見えない。ただただ深い闇。
空っぽだったから、たくさんの魂の情報が書き込まれた。
その情報のなかに、あんたが大事にしとるものもある。それを活かすも殺すも、あんたの選択次第だ。
思い出し、気を正しく配りなさい。大切なものを無くしたくなければ。
初回だし、あまり見えなかったから金はいらないよ。
次にまたあたしを頼りたく思ったときに来とくれ。さあ、帰った帰った。次の客が待っとるんだ」
追い出されるように家を出ると、クロウは自分が最近占ってもらった内容を教えてくれた。
「ボクの占いにはこのままでいるのがいいって。
仲間とともに戦力増強に努めよ、ってね。
仲間なんてキミしかいないだろう?」
乗り気ではないクロウに念の修行をつけてもらうよう頼むならいまだな、と思う。
楽しい日々を過ごしながらも、ルイは悪夢を定期的にみるようにもなっていた。
老婆の声が脳裏に響く。
--思い出し、気を正しく配りなさい。大切なものを無くしたくなければ。