ゾルディック家のブラコン長男 作:見切り発車丸
わけわからんやつのわけわからん話です。
ここにいれましたが、前の方がいいよ〜と思う方、感想で教えてくださいm(._.)m
カコ✖️ミライ✖️イマ
小ぢんまりとした家の中、分厚い遮光カーテンで陽光を遮り、水晶の前に座る幼女たち。
椅子にはたくさんのクッションを積み重ねて、座高を嵩増ししている。それが大人びた表情に似合わずちぐはぐな可愛らしさだ。
冷んやり重い空気が立ち篭める狭い室内で、幼女たちは微動だにしない。
この年頃の子どもであれば動き回っているのが常であろうが、寡黙な大人のように、はたまたよく出来た人形のように姿勢を正したまま動かない。
瞬くタイミングこそ違うが、二人とも瓜二つな顔と体躯である。
二人はつい先日、ささやかな葬式を終えた。
夫と子を亡くして意気消沈する娘を、せめてもの包み込むように抱きしめてやりたかった。
だが、叶わない。抱きしめられるには丁度よいサイズだが、その逆は難しかった。
さまざまな能力も低下した。
小さくなった身体は想像以上に不便だったが、なにより娘よりもぐんと幼い見かけとなってしまったせいで、娘が弱音を溢さなくなったように感じられることが心底歯痒かった。
見かけというのは、人が思っているよりもずっと無意識に働きかける影響が強いのだ。
照り返しの強い日でも、土砂降りの雨の中でも、朝も昼も深夜も関係なく、落ち着かぬ心を慰撫するように墓へと通い詰めていた娘はいま、体調を崩して眠っている。
他人の墓を毎日清める、喪服に身を包んだ可愛い娘。
娘は、その墓の下に眠るのが夫と子どもであると信じて疑っていない。
真実を知りながらも何も言えない二人は、重苦しい空気の室内で何も言わずに固く手を握り合った。
それを契機に、一人は水晶に手を翳し、もう一人は隣で誰かに電話をかけだした。
その携帯は一人の男につながる。
先日、誰の見送りもないままに赤子とともに流星街から出て行った男だ。
幼女──セレネの身体全体を力強いオーラが覆い、練り上げられたオーラが彼女の手元にある紫色の水晶へと注がれる。水晶の奥が仄かに紫の光を灯す。
セレネは先ほどまでの疲れた瞳が嘘のように鮮やかな歓喜で瞳を輝かせて、隣に座るよく似た姉に目を向けて強く頷いた。
みるみるうちにもう一人の幼女──ルーナの瞳もまた輝いていく。
二人とも何も言えない、何も言わない。
だが二人握り合った手がブルブルと歓喜に震えている。
セレネは電話口の向こうにいる男へと抑えた声で語りかけた。
隣の部屋で眠る娘の眠りを邪魔しないように。
「吉報だ……! 既にお前の近くにいる!
次に会うのは約1ヶ月後の街中だ。
お前があの子とともに歩いているときに、あの子がお前の手を振り解いて走り出す。
大柄の男に難癖をつけられてあの子もお前もよくない騒ぎに巻き込まれる。
運命ではそのはずだった。
巻き戻して見たら──妙にぼやけて、薄れて、白んだように光っている。
こんなこと初めてだからわからないが、きっと変わるんだ。
運命が、お前の行動の変化もなしに変わるなんて、本来ならば絶対にあり得ないことなんだよ。
多少強引にでも構わない。
必ず彼と近しくなりなさい。いいね」
セレネとルーナはお互いに頷き合った。
「どういう能力の持ち主なのか、はたまたそれが天性の物なのかわからないけれど、本当に
きっと、救われるよ。きっとだ」
それだけをセレネは言い、ルーナと繋いでいた手を離してクッションの上から飛び降りた。
これからどうするかは既に決めて、事前に共有している。
ルーナはレンコのもとを離れず彼女の様子をみて、セレネは単独で現地へ向かうのだ。
荷物はすでにまとめていた。
セレネは素早く身支度をすると、最低限の荷物だけを持って家から出た。
向こうについたならば適当な場所で待ち合わせて、クロウがセレネのもとへ自分の運命の
セレネはその人物の運命が見えるかどうかを確認する。
もしも見えたならば、きっとそうだ。
見えなければ、彼は
しかし今まで対象の運命を見て、その結果がセレネの助言もなしに勝手に変わることなんて一度たりともなかった。
運命とは、決まった道を歩むもの。
人の未来を見るセレネはそう思っていた。
己の運命は自分で掴み取る。
そんな耳触りのいい言葉は、恵まれた運命の持ち主にしか言えない。
輝かしい未来への道が約束されているからそんなことを言えるのだ。
悲惨な運命が待つ者を何人も見てきたセレネは、娘の婿であり悲惨な運命を辿るクロウのことを心から可哀想に思っていた。
故郷から逃げるようにして場所を転々としていた彼は、唯一信じていた肉親にまでも裏切られている。そのことを彼は知らないが。
過去を見て知ったが、クロウがどこへ行ったのかをストーカーに教えたのは、クロウの弟だ。
同じように親に愛されていながら、兄ばっかり可愛がられていると僻み、人気者の兄を羨み、少しくらい苦しめばいいと堕とそうとしたのだ。
過去を見ても未来を見ても悲惨としか言いようのないクロウの運命を、かの少年──ルイは切り開いた。
それがどれほどの偉業なのか、きっと数多の変わらない運命を見続けてきたセレネたちにしかわからない。
ルイもまた未来に干渉する能力があるのだろう、とは思う。
しかしあの幼さで未来を変える能力を持ち得るとは、どういう境遇で生きてきたらそうなるのだろう。
念とは、想いだ。一際強い想いが能力となって現れる。
幼児が未来を改変したいと願うだろうか。否、普通に考えてあり得ない。
なんにせよ、直接見てみなければ。
体躯の小ささは誤魔化せないが、変声は得意技だし、大きなローブで身体を覆って、見える部分に特殊メイクを施せば、歳を誤魔化して飛行船にも乗れた。
わざわざ老婆に偽装したのは、幼い子ども一人での旅はなにかと不都合が多いからだ。
飛行船では個室を借りて、ほとんどそこから出ずに過ごしていた。
衰えてしまった能力を少しでも底上げ出来れば、と念の修練をしていると、クロウから電話がかかってくる。
街中でヒソカを助けてくれたルイと接触した、との報告を受けた。
水晶で見てから、30日。
おおよそ占い通りにイベントは起きた。
やはりクロウから貰っている年齢が多いから、かなり高い精度で占える。
つい先ほど起きたことなど、クロウの運命を手繰れば容易く見ることができる。
水晶に手をかざすと、大柄な男にぶつかる前にひょいと抱き上げられたヒソカの姿が映る。
クロウの手を振り払ったヒソカは、以前は大柄な男にぶつかっていたはずなのに。
突如として現れた銀髪の少年がヒソカを抱き上げて災難を回避している。
やはり、変わっている。
セレネは感動に打ち震えた。
この少年によって未来が変わった……!
なんて稀有な、なんて不思議な存在だろう。
よくある占いのちゃちな言い方をすると、この少年はとんでもないラッキーパーソンのようなものだ。
クロウのラッキーパーソンは間違いなく、この少年だ。
セレネは神に深く感謝した。
長旅の末、天空闘技場近くで適当な家を借りて、クロウとルイが待ち構えていたセレネは、知ろうと思えば彼らが来る日だって占いで大体わかるのに、あえて占わず、一日千秋の思いで待った。
そして、月日と共に仲良くなり、クロウに連れられて来たルイの運命を
わずかではあるが、
ルイ=ゾルディック
彼の心の奥底にあるのは、強烈な願望
弟を、救いたい。
どこまでいっても真っ黒い、上から下か、はたまた右も左もわからなくなるただ黒だけの空間。
空っぽのそこが、弾けるように消えかけた。
それを繋ぎ止めるかのように、流れ星のような尾のある光が過去から現在からそして未来からも飛んできて、器を満たしてゆく。
助けよ、育め、愛あれ、と。光たちは囁くように歌う。
その光は一族のなかで淘汰された感情深き魂たちの無念の想いであり、願いであり、魂の情報であった。
特別な存在の彼は短い人生で、
彼にもまた、この光景は見えていたはず。
いまは忘れているかもしれないが、
だから彼は特別なのだ、とセレネは納得した。
だが本人にその自覚はなさそうだ。
見えた運命を辿るほど虚しいこともなかろうか、と思い悩む。
彼はすべて知っていて、何も知らない。
セレネは内容をぼかして彼に占い結果として伝えた。
本来であれば、ルーナが年齢を受け取っていない人間の運命は見れない。
それなのにルイの運命が一部とはいえ、見えた。
これは本来あり得ないことだ。
そしてすなわち、彼はセレネが見える運命に組み込まれており、それを変えることができる人間だということになる。
クロウとルイを追い出したあと、震える手で携帯を取り出し連絡したのは双子の姉だ。
「ああ、
間違いなかった。
ルイ=ゾルディック、彼こそがこの縺れた運命の
セレネの能力は双子の姉ルーナの
年齢とは、その人が積み重ねてきた運命だ。
占いのような形態にしているが、実際は
過去も見ることができるが、特にメリットはないため使うことは少ない。
これは付随する能力だが、対象が年齢とともに積み重ねてきた経験の一部は、念の力としてセレネたちに還元される。
能力を使えば使うほどにセレネたちは老いるが、能力も強くなる。
基本は、ルーナに
それに付随して、運命に絡む人間を見るついでに、人探しなんかも出来るようになった。
だが能力の低下した今は、近い未来と過去を見ることと、待ち受ける大きな出来事を見ることくらいしかできない。
除念師探しは能力なしでやらねばならなくなった。
年齢を与えることは、相手に経験と念の力をも渡してしまうことになるためにセレネたちは弱体化したのだ。
このようなイレギュラーな使い方は、よっぽどのことがなければしないはずだった。
レンコを害した女を直接殺すわけにはいかないが、出来るだけ早いこと始末してしまいたかったのと、自信があるらしいその美貌を崩すためだ。
あの女は自らの優れた容姿を武器にして、流星街の男衆やマフィアの下っ端なんかにも秋波を送って好き勝手していた。
流星街の人間は、外の人間を嫌う。だというのにあの女がのうのうと生きていられたのは、根回しがうまかったからだ。
美貌が崩れれば、彼女に一時の庇護を与えていた男たちは自然と去っていくと見た。
あんな女に
女が念能力者であればその選択肢もなかったが、一般人であったこともそうした理由の一つだった。
色々と都合が良かったのだ。
一般人ならば念を覚えてもいなければ能力もないし、経験が還元されて能力が強化されることもないだろう、と甘く見た。
セレネはクロウの運命を見て悲劇の
よくもまあこれほど次から次に厄介ごとに巻き込まれるもんだと当初は感嘆すらした。
そうして今まで降り注ぐ災難をせせこましくもちまちまと対症療法のごとく、この災難にはこの行動、この災難にはこの行動、と避け続けて生きてきた。
だがこの悲劇の運命を彼ならば、根っこから書き換えられるのだ。
そんな稀有な存在のことをセレネたちは
現世に降りてきた、全てを司る神のような意味合いだ。
セレネは念を練り上げる。
水晶には、次の大きな出来事が映っていた。
१/३
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ガチャガチャ、とドアノブが捻られている。
「ルイにい!」
よいしょ、と椅子から降りたヒソカが駆け出していく。
クロウはその後ろに続く。
クロウが鍵を開けると、ドアノブに手をかけたヒソカが扉を開く。
「ルイに……?」
「た・だ・い・ま・、クロウさま。
随分探したのよぉ?」
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「あぁあぁ、なんてことだ。能力まで身につけちまったか。
たまたまクロウのストーカーをしていた女が何万人に一人の才能の持ち主だなんて……つくづくあの子はついてない。
ほんとうに見ていられないね……」
水晶に映り込む、醜悪で美しい女の笑顔。
眉を顰めたセレネは、水晶には触れぬまま、両手で時計まわりに紫色のつるりとしたそれを撫でる仕草をする。
すると景色はぐるぐると変わっていく。
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マンションの一室、倒れ伏した少年の死体にうっとりと頬擦りするのは醜い老婆。
「ああクロウ──ようやくわたしのものになった……♡」
老婆は深い皺をさらに濃くして満足そうに笑いながら、机の上にあった液体を呷る。
毒薬だ。
老婆は少年の死体に覆い被さるようにして倒れる。
近くに立っていた若い女が消えた。
<ヒソカは? とセレネは胸中に浮かんだ疑問のままに水晶を撫でる>
トランプを抱きしめた幼児は、ホテルのロビーで背後をちらちらと確認している。
鬼が捕まえにくるのを楽しみに待っているのだ。
きっと、もうすぐ来るはずだ、と、ずっと、ずっと待っている。
哀れな。鬼のいない鬼ごっこに興じる子ども。
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セレネは水晶には触れぬまま、身体から激しく怒気と念を立ち昇らせて、今度は反時計回りに、ハンドルでもまわすようにくるくると水晶を空中で撫でる。
どんどんと映像がブレていく。
不明瞭になった映像がす、と水晶から消える。
セレネは大きくため息をついた。
安堵のため息でもあった。
よかった、この未来も変わるんだ。
自分たちの経験を渡してしまったため、能力を使うのが心からしんどい。
全身から多量の汗をしたたらせ、呼吸も荒いままに一人呟いた。
「
1年後、この運命が覆るようにと、セレナは心から願った。