ゾルディック家のブラコン長男 作:見切り発車丸
奇跡は起きた。
奇跡としか、言いようがなかった。
もともとシルバの食事に混ぜられていた毒。
ベンズナイフに仕込まれていた神経毒。
それらが合わさり、神経系を激しく活性化させる麻薬のような役割をしたこと。
また毒と毒との相性の問題で、身体に相反する働きをしたために、身体に対する即効性が削がれたこと。
これらがルイを生き延びさせることに繋がった。
毒の作用で何百倍にも鋭敏になったルイの精孔が、そばにいたキキョウのオーラで刺激され、ルイにオーラは直接ぶつけられていないにも関わらず、無理やり開かれたのと同じようになった。
そしてルイの莫大な生命力は一気に溢れ出た。
異変に気づいたのはその場にいた念能力者全員である。
能力をもたぬ執事は、空気が明らかに変わったこと、そして上司の執事たちが緊迫した面持ちで目を合わせたことに気づいた。
とうとう小さな主人が死んでしまうのだろうかと、慌てていた。
死に至りそうなほどの毒を喰らい、文字通り死ぬほどの苦しみのなかでも凪いだ心を持ち続けたルイ。
身体の自由は相変わらず効かないが、この不思議ななにかは自らの意思ですこし動かせることに気づく。
本能的にオーラを身体に留めようと試みた。
目を瞑っているのに、手に取るように周囲の状況がわかる。
気配察知の訓練の際に目を閉じて攻撃を対象したり、人の場所を当てたりすることはしたが、そのときよりも俄然冴えている。
頭のなかに周囲の映像が浮かぶほど。
不思議に思いつつ辺りの気配を探ると、みんなこの不思議ななにかを持っていて、それを身体に纏わせている人間と、垂れ流しにしている人間とがいるのだと知った。
キキョウのそれは高ぶる感情のままに燃えるように練り上げられている。一際強い。
ルイは彼女の腹に、少し異質なそれを感じた。
キキョウのそれとは違う、ような。
それはとても温かかった。
その温かさを感じていると、産まれて初めて安らぎを覚えた。
心の奥が薄いヴェールで覆われるようにふわりと温かく、心地よい。
満たされた感覚だった。
いまならなんでも、できるような全能感。
心地よさを感じつつ、ルイは思い出していた。
雷に打たれたかのような衝撃であった。
――かつて××××弟を。
――彼を護ると誓ったことを。
――弟。そうだ、大切な弟。俺が、護らないと。
ルイのどんどんと垂れ流されていた生命力が全身に纏われる。
まるで昔から纏を習得していたかのように、美しく、少しも乱れぬ様子で。
まさか5歳の幼児が、念能力者となるだなんて。
念を修める一部の執事達は絶句していた。
やはりこの一家には化け物しかいない。
纏をおこない、身体能力が強化されたおかげか、解毒薬がようやく効いてきたのか、ルイの容体も落ち着き始めていた。
絶望の淵から一気に感激へ。感情の振り幅のすごいキキョウは人々の鼓膜を突き破るほどに叫んだ。
実際、数人の鼓膜は数分ほど使い物にならなくなった。
「まあああああああああ! 信じられないわ……! さすがはシルバと私の子! 天才だわ……!
ああ、はやくシルバに知らせたいわ……!」
毒を受けていたこと、多量のオーラを放出したこと、そして思い出したルイは脳にも身体にも激しい疲労を覚えて、意識を失った。
短いですが、キリがいいので