ゾルディック家のブラコン長男 作:見切り発車丸
ビスケット=クルーガー様
拝啓
夏の盛りとなりゾルディック家では蝉たちが賑やかに合唱しています。如何お過ごしでしょうか。
さて、先日はビスケットさんにお目見えし、本当に嬉しかったです。ビスケットさんが去ってしまってから連絡先を伺うことを失念していたことに気づき、こうして手紙をしたためた次第です。
私はビスケットさんのことをもっと知りたいですし、ビスケットさんにも私のことをもっと知って頂けたら、と思っております。
もしよろしければ、これから私と連絡を取っていただけませんか。
それでは暑さ厳しき折柄、体調など崩されませんようご自愛ください。
かしこ
ルイ=ゾルディック
ルイ=ゾルディック様
手紙をありがとう。私は堅苦しいのは苦手なんだ。そんなに畏まらなくて大丈夫だ。
それから、私のことはビスケと呼んでくれていい。
確かに私は心源流拳法の師範代を務めているから連絡を取りたがる人間は多いけど、弟子入りするんでもなければ口頭や手紙で得られる情報なんて少ないと思うけど。
一応携帯の連絡先は書いておくけど、私はあまり携帯を見ないから。
ビスケット=クルーガー
ビスケさんへ
お返事いただけて本当にうれしいです!
あまりにも嬉しくて、弟のイルミに自慢したら、イルミも手紙を書きたいと言い出して、いまはビスケさんとイルミと二人に手紙を書いています。
早速これからビスケさんと呼ばせていただきますね。
私のことはルイと呼び捨ててください。
私はビスケさんが心源流の師範代だから連絡が取りたいのではありません。心源流の情報が欲しいわけでもありません。ただ純粋に、ビスケさんのことが知りたいだけです。だから弟子入りも望んでいません。
携帯の連絡先をありがとうございます。
奇遇なことに、私もあまり携帯は見ません。もしご迷惑でなければ、このまま文通させていただけたらと思っています。
ルイ
ルイへ
ビスケでいいってば。
どうしてもなにか付けて呼びたいって事ならビスケちゃまにして。
変なやつだね。
手紙でいいっていうなら、それでいいけど。でも道場宛だから中身が見られないとも限らないよ。
私は手紙なんて書かないから何を書いていいのかわからないんだけど……。
一応携帯の連絡先も教えてくれたんだね。登録したよ。
ビスケ
ビスケちゃまへ
今日ゾルディック家を散歩していたら、ビスケちゃまにそっくりな綺麗な花が咲いているのを見つけました。
私は毒にはそこそこ詳しいのですが、身近に生えている美しい花々の名前を少しも知らないことに知識の偏りを感じました。
その花でできたリップクリームが売っていると執事から教わったので、同封します。もしよかったら使ってください。
ビスケちゃまは如何お過ごしでしょうか。
携帯の連絡先を登録してくれたんですね。嬉しいです!
私も、ビスケちゃまの連絡先は登録しました。いつかまたお声を聞ける日が来ればいいのですが……。
ルイ
ルイへ
私を花に喩えるなんて、変わった子だね。
手紙を覗き見たネテロのジジイが笑って揶揄ってきたから、しっかりぶっ飛ばしたよ。大丈夫、あんたがそんなつもりじゃないってことはちゃんとわかっているからね。
それと。本当にちゃまをつけて呼ばれたのは初めてだよ。呼び捨てでいいって意味だったんだけどね。
ゾルディック家の人間はやっぱり毒にも詳しいんだね。謎の暗殺一家だと知れ渡っているけど、あんたと手紙をしているとどうも……。
遅くなったけど、洒落たリップクリームをありがとう。随分とセンスがいいんだね。毒が入っていたりはしないよね……?(冗談だわさ)
ビスケ
ビスケ……ちゃまへ
本人の許可なく手紙を覗き見るだなんて、とんでもない方ですね! ビスケちゃまは可愛くて優しい方だから、ネテロさんもついつい甘えてしまっているのでしょう。
私はあまり自分のセンスについてはわからないのですが、ビスケちゃまが喜んでくれてとても嬉しいです。
もちろん毒なんて入っていませんよ!
私は普段トレーニングや任務をする時間以外はイルミと遊んでいるのですが、ビスケちゃまは修行以外の時間は何をして過ごしていますか?
あと、ビスケちゃまはパドキア共和国を拠点に活動している
最近……おっと、これ以上書くと長くなってしまいますね。また次回にでも。
ルイ
ルイへ
ジジイは妖怪に片足突っ込んでるから、多少ぶっ飛ばしても問題ないのさ。
ゾルディック家は家族思いなんだね。そういえば初めて会った時も弟と一緒にいたね。ちょっと意外だったよ。
修行以外の時間ねえ……本や雑誌を読んだり、買い物に出かけたりしているかね。
近くに居心地のいいカフェがあって、そこで時間を潰すこともあるかな。
正義団体ね、たしか莫大な報酬で誘いをかけてきたことはある。
もちろん断ったよ。カキンに新しい王が立ったニュースは最近のことだった気がするけれど、時が過ぎるのは早いね。もう自国だけでなく他国にも手を伸ばし始めているのかい。
きな臭い組織だし、ハンター協会でも注意して見ているよ。
金に困った賞金首ハンターが在籍しているらしいけど、私はあいつらのやり方は好かないんだ。
言いかけてやめるのはあるけど、書きかけてやめるのは斬新だわさ。
長さなんて気にしなくていいから、ちゃんと書きな。
ビスケ
ビスケちゃまへ
ビスケちゃまとカフェ、想像するだけでうっとりします。私もご一緒できればどれほど嬉しいでしょうか。
もしよろしければどんな本や雑誌を読んでいるか教えてください。
ゾルディック家といえば世間一般では暗殺一家ですもんね。家族仲のことなど考える人はそうそういないと思います。でも私は家族のことが大好きですし、きっと世間一般の家庭と同じように家族思いなんだと思います。
ビスケちゃまが正义に所属していなくて一安心しました。万が一にもビスケちゃまを暗殺する任務なんて受けたくなかったので……。
もしも知り合いが所属しているならば、そうなる可能性があるということを教えてあげてください。ここだけの話ですが、父が熱心に調べているようなんです。
私は最近、家業について悩むことが多いです。
殺し屋という職業に自分が向いていないのではないかと思えてならないのです。
間違っても家族にはこんなこと言えませんが……秘密にしてくださいね。
ルイより
机に向かい、筆を取って頬杖をつくビスケの背後にネテロが忍び寄る。もちろんビスケはその気配に気づき、さっと便箋を隠した。
「なんじゃ、見せてくれんのか」
「ジジイに見られると減るわさ。それに結構不味そうなことも書いてるし……」
「ふぉっふぉっふぉ、最近随分と楽しそうにしておるのぅ。
なんじゃ、ゾルディックの小倅とまだ文通が続いておるのか?」
「まあね。結構筆まめで、あたしが1ヶ月ほど送るのを忘れていても、1週間以内に返事が来る」
「本気でお主に気があるんじゃ……?」
「まさか。やっと10を越えたような少年だわさ」
「ふぉふぉふぉ、子どもの成長は恐ろしく早いぞ。なに、お主とてこーんなにちっこい子どもだったのに、いつのまにかワシより立派に成長して」
「黙れジジイ。
そういや以前この子にリップクリームを貰ったんだけど、この年頃の子が喜ぶものってなにかしら」
「ふむ……ゾルディックの子じゃ。金は有り余っとるじゃろうしなぁ」
「そうなのよね」
「ゾルディックの小倅を弟子にしてやるのはどうじゃ〜?
ワシの直弟子であるお主から教わりたい人間は多いなか、特別に、なんつって言ってやったら喜ぶんじゃないかのぅ〜?
才能豊かな人間を教えるのは楽しいぞぉ〜」
「ないわ。……一瞬グラっとしかけたけど、すでに念まで習得済みのようだしね。
ところで、新入りのことなんだけど──」