ゾルディック家のブラコン長男   作:見切り発車丸

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基本マチ視点


デート

 

「ええっ、なんで?! ……ルイ、だよね?」

 

「ごめーんマチ! どーっしてもやりたくなっちゃってさ」

 

 古着をリメイクして売ることで生計を立てている3人姉妹。

 たまたま近くに寄った際に立ち話をして、マチが気になる人が出来たと言ったところ、大はしゃぎした三姉妹がその子を連れて遊びにおいでと熱烈に要請した。

 可愛い妹分の恋路なんて気になるに決まっていた。

 

 服の広告と称してうちの服を着て街を練り歩くのはどうかと長女が提案する。

 

 マチが可愛い格好をして一緒にデートしたら、きっと良い印象を与えられるよと次女が甘い言葉で誘惑する。

 

 ちゃんとバイト代も出すし、男の子用の服を用意しておくよ、と三女が言い、マチは提案に乗った。

 

 男の子用の服を用意している、そう言っていたはずだ。

 

 ルイを担当した2人はキラキラした笑顔で少女を見て頷いている。

 

 その後ろに立つのは見覚えのない――だけど見覚えのあるとんでもない美少女。

 

 女の子と見間違えたことは一度もないが、眠る姿はお姫様のようだと思っていた。

 

 まさかここまでになるとは。

 

 マチはルイがあまりにも可愛らしくて、悔しいような悲しいような気持ちになった。

 

 お互いに素敵な格好をしてデートをするはずだったのに。

 

 レースをふんだんにあしらった白を基調としたワンピースを身につけさせられたルイは、軽く化粧まで施されている。首元から手首までレースで覆われており、肌色が見えるのは顔と手先くらいだ。

 ワンピースの胸元の青いリボンと似たようなものがハーフアップにした髪にもつけられている。

 

 それにしても、よくこの格好を許したなとルイを見ていると、目が合った。

 

 桃色に色づいた美しい唇の両端が左右両対象に持ち上げられる。

 店内を物色していた客が思わず見惚れて持っていた服を落としてしまうほどに綺麗な微笑だった。

 

 空を薄めたような碧の瞳に銀色の長いまつ毛が影を落としている。

 凍てついた瞳の奥はゾッとするほどに静かな怒りを湛えており、付き合いがそこそこ長いマチは無邪気に喜ぶ女たちとは違って背筋を凍らせた。

 

 素直に着せられたのはマチの顔を立ててくれたからだ。鋭い勘がそう弾き出す。

 

 やはり年頃の男の子に女装は怒るか。そりゃ怒るよな。マチは慌てて言い訳をした。

 

「違う。あたしはルイ用に男物の服を用意しているって聞いてて、女装させられるなんて思ってなかった。

 ただ綺麗な服を着て、街を歩くだけで小遣いが貰えるって聞いて……ごめん、怒らないで」

 

「ありり、怒ってたの? ごめんねー。本当にマチは悪くないよ。

 男の子を連れてくるって聞いていたから、ちゃんと男物の服も用意していたんだ。直前でちょっと予定が変わっちゃったけど」

 

「でもマチがせっかく彼氏を連れてきてくれたのに、騙すみたいにこんなことしちゃいけないよ。……本当によく似合うし深窓の御令嬢みたいだけどさ。

 ちょっと悪ふざけが過ぎたね」

 

「ちょっとは悪いと思ってる。でも姉さん!

 この美しい作品を見てどう思った? 適当に用意した男物の服を着せるよりもずーっと魅力的でしょう?!

 せっかくまだ男臭さが出てないのよ? 男物の服を着せるよりも、こっちを着せたいと思っちゃうじゃない? だって!! うちは女の子をより可愛く見せる仕事なんだから!」

 

「ねぇー! ほんと惚れ惚れするほど綺麗に出来たわ〜。

 わたし、女の子の方が好きなのよね。でも君ならいけそう。もしもマチと付き合ってないんなら、あたしと付き合っちゃう?」

 

「ちょっと! ねえさんたち、やめてよ!」

 

「あら、可愛い! 怒っちゃったわね。ごめん。嘘よ。本当に嘘!

 可愛い妹分の彼氏を取ったりしないわよ」

 

 彼氏だなんだ、と言われてマチは頰を真っ赤に染めた。

 ルイに付き合わないかと聞くねえさんには、焦りと憤りと軽い殺意さえ覚えた。

 

 ルイはどんな顔をしているだろうか。ちらりと横目でルイを見ると、何を言われてもまるで気にした様子ではなかった。それを見てガッカリする。なんだか自分だけが意識をしているみたいだ。

 

 きゃっきゃと喜ぶ姉さん達は、いつもお洒落でいい匂いがしてマチの自慢の姉たちだった。血は繋がっていないがマチは彼女達をよく慕っていたし、彼女達もマチのことを本当の妹のように可愛がってくれた。

 

 彼女らは皆流星街ではそこそこ有名な美人三姉妹なのだが、それでもルイの正当なお姫様のような美しさには敵わない。

 

 死体同然のボロ切れのように倒れていたのに。

 そのときからは考えられないほどの変化だ。

 拾った手前、なんとなく毎日のように見舞いに行っていただけなのだが、月日とともに回復していき顔の腫れが引くと、おとぎ話に出てくる眠り姫のように綺麗な顔をしていることに気づいた。

 性別が男だから王子様といった方が正しいのだろうが、マチの目にはルイは眠れるお姫様のように見えた。

 

 閉ざされた瞳がどんな色をしているのか、どんな性格の人なのか、目覚めが待ち遠しかった。

 

 当初ルイの髪は短めに整えられていたが、いまでは肩口まで伸びている。ルイの癖のないまっすぐな髪を梳かすのはマチだけに許されたことで、密かな楽しみだった。

 

 天使の輪ができた艶やかな銀糸は触り心地もやわらかい。マチの髪は重力に逆らう剛毛なので、ルイの髪がとても羨ましかった。

 

 記憶喪失の弊害なのか、元来の性格なのかは分からないが、ルイはとても静かだった。相槌は丁寧で、尋ねたことには答えてくれるのだが、思えばマチばかりが話していたような気がする。

 

 静かで、感情の揺れがあまり見えない。

 マチはちょっとしたことにムキになってしまうので、そんな大人びたところも格好いいと思っていた。

 

 ルイが笑顔の下で明らかに怒っているのは、とても珍しいことで、そんな新しい一面を見れたことは嬉しい。だが、自分よりも可愛いのが心から複雑だ。

 

 むぅ、と頬を膨らませるマチに気づいた三姉妹が揃って笑い声をあげる。

 

「大丈夫、マチもとーっても可愛いよ! 2人ともうちの服の良い宣伝になるわ」

 

 マチも今日は普段と違って着飾っていた。ねえさんに化粧までしてもらったのだ。

 

 普段着ない可愛い服を着て、髪も綺麗に結ってもらい、鏡で見たときはあまりの変化に自分でも嬉しくなった。

 

 別室で着替えているルイに会うのが、そしてどんな反応をするのかがとても楽しみだったのに。

 

「ほら、マチもむくれちゃってるじゃない。さっさと着替え直してきなさい」

 

 長女がそう言うのに、次女と三女がえええええと不満の声を上げる。

 

「いいじゃない〜ほら、お小遣いはアップするから〜お願いよ〜」

 

 ルイへと必死に拝んでいる。ルイは2人を見ないままに素っ気なく言う。

 

「マチがいいなら、いいよ」

 

「お願いよ〜マチ〜! 今度ちゃぁんと埋め合わせするから!」

 

「……ルイがいいっていうなら」

 

 そう渋々マチが言うと、ルイはあっさり頷いた。

 きゃあああと喜びの声をあげる二人。

 

 あーあ、ルイが格好いい姿をしているところも見たかったのに。

 

 しょげたマチの頭をぽんぽんと撫でてくれる長女。

 次女はニコニコと弾けるような笑顔でプラカードを持ち上げた。

 

「さあて、じゃあコレを持って行ってらっしゃい! 街から出ちゃ絶対にダメよ! 二人とも可愛いから絶対に攫われちゃうわ」

 

 店の名前が書かれた重そうなプラカードをルイに渡している。

 マチの背丈ほどもある大きなプラカード。しっかりとした木で出来たそれを軽々と取り回しているのを見ると、男の子なんだなと思わされる。

 

「この姿で1時間歩き回ればいいんだよね。行こう、マチ」

 

 さっと手を差し出されて、ついつい握ってしまった。

 

 見かけは信じられないくらいの美少女なくせに、手はガッチリと大きくて硬い。

 

 マチは心臓がうるさいくらいに鼓動しているのをルイに気づかれないようにと祈った。

 

 そんなマチたちを三姉妹は微笑ましそうに見送った。

 

 

 しばらく歩いたところで突然ルイが立ち止まる。

 

「そうだ、言い忘れてた」

 

 ぱっと手が離され、プラカードを持ったルイが振り返る。

 マチを上から下まで見て、花のように微笑んだ。

 

「マチ、とっても似合ってる。すごく可愛いよ」

 

 マチにだけ向けられた美しい笑み。

 心のどこかにあった何とも言えない気持ちが解れて、温かく満たされるのを感じた。

 

「知ってるし」

 

 よしよしと頭を撫でられ「やめてよ!」と恥ずかしくて反射的に言ってしまう。ちょっとキツく言いすぎた。

 離れていく手を慌てて掴んで「早く行こう!」と目を見ないままにズンズンと歩き出したマチに、引っ張られながらルイが笑う。

 しばらくしてからマチも一緒になって笑った。

 

 いつからだろう、ルイがこうして感情を出すようになったのは。

 

 最初の印象は、驚くほどに色素が薄くて無感情な少年だったから、極々最近のことだ。

 他の人の前では前と同じく無表情だけど、マチやお医者様の前だけはこうして笑顔を見せてくれる。

 

 一体彼のなかでどんなことがあったんだろう。

 

「最近よく感情を出してくれるようになったよね。何かいいことでもあった?」

 

「そうかな? ……あまり自覚はないんだけど。

 記憶が戻りかけてるのかも」

 

「ルイを捨てた家族のことなんて、無理に思い出さなくていいと思うけどね。あたしは」

 

 マチに記憶喪失の人の気持ちはわからない。

 

 だけどあんなになるまでボロボロになって、流星街に捨てられていたのだ。

 碌な家族ではないはずだ。

 

 何かとてつもない衝撃があったから記憶が消えているのだから、消えたままでいいと思う。

 

 マチは今のルイのことが好きだった。記憶を取り戻したら突然性格が変貌してしまう――元に戻ってしまうという話も聞く。

 

 それに、記憶が戻ったらどこかに行ってしまうかもしれない。

 

 新しく出来たマチたち家族を捨てて、本当の家族のもとへと消えてしまうかもしれない。

 

「ルイは記憶を取り戻したい?」

 

「まあ、気にはなってるよ。記憶はこれまで歩んできた人生そのものだからね。

 でも今すぐ取り戻したいと躍起になるほどではないな」

 

 静かな口調で、穏やかにルイは言う。それにマチは安心した。

 

 ルイとマチは会話をしながら、のんびりと街の中を練り歩く。

 

 二人の華やかな美少女が綺麗な服を着て歩いているのを、通りすがりの者たちは興味深そうに見ていた。

 

 マチが当初思っていた以上にずっと広告としての効果があるらしい。

 女性物の服がメインの古着屋なので、ルイが女性物の服を着ていることもまた、いい広告になっている。

 マチは可愛らしい服で、ルイは綺麗めの服だ。

 

 ここまで計算して姉さんたちはマチに広告を頼んだのだろうかと勘繰る。いや、絶対自分達が楽しかったからだな。

 

 

 道ゆく人たちの視線を集めることにはすっかり慣れた頃、目の前で言い争う声が聞こえてきた。

 

 黒いスーツを身につけた男と、少年だ。

 

「だから知らねえっつってんだろ! 消えろ、クソガキが!」

 

「お願いします、ただ一度会ってくださるだけでいいんです……お願いします」

 

 黒いスーツの男に必死に縋り付く少年。

 

「スーツだ……あの人絶対マフィアだよ。違うところに行こう、ルイ」

 

 手を引くが、ルイは動かない。

 

 怪訝に思いながらマチがルイを見上げると、ルイは目を見開いて固まっていた。

 

「クロウ……?」

 

 ルイは少年の方を向いて、小さくそう呟いた。

 

 マチの心臓はドクリと嫌な跳ね方をした。

 

 

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