とある稲妻の呪術廻戦   作:ネシエル

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第二話 キャラデザ

白い部屋の中

 

静寂の中、白い机に向かうアレクの手元には、

幾重にも重ねられた線画が広がっていた。

 

 

描くのはただ一柱、雷電眞。

稲穂のように柔らかく風に揺れる長い紫の髪。

 

静謐さと神秘性を兼ね備えた美しき女神。

 

深い紫色の瞳は、威厳と慈愛を宿し、見る者を包み込むような

穏やかさを示し。

 

和風を基調とした装いには雷を象徴する意匠が施され、

優雅さと神性を調和する。

 

 

 

アレクはペンを動かしながら、

心の中で呟く。

 

『キャラデザイン、

それはアニメ作品における第一印象を決定づける重要な要素。

制作プロセス全体の基盤となる設計図」

 

静かに、

しかし確かな意思を込めてペンを動かすアレク。

 

下書きが完成し、油性ペンでのペン入れを終えた彼女は、

ふぅと一息つく。肩を回して凝りをほぐすその仕草は、

精霊となった現在の彼女には本来必要ないものだが、

前世から染みついた癖のようなものだった。

 

彼女は振り返り、

ふわふわと浮いている小さな天使(仮)――

ティティに声をかけた。

 

「なあ、ティティ。この部屋にタブレットとか生み出せないか?

いや、タッチパッドでもいい。

最悪、スマホでも」

 

ティティは目を細めて呆れた

表情を浮かべる。

 

「なんで徐々に性能を上げて要求してくるのよ。

普通は逆でしょうが。

無理だ。いくら私が天空の主でも、

無から有を生み出すなんてできない。

魔力が回復したら考えてあげる」

 

「ケチだな…

」とぼやくアレク。

 

ティティの顔が一瞬で赤くなり、

怒りの表情に変わった。

 

「なっ…貴様、この天空の主に向かってそのような暴言を吐くとは!

いいだろう。妾が真の姿を取り戻した暁には貴様を処刑し、

バラバラにして魂もろともアビス共の餌にしてくれる!」

 

「はいはい、どうぞご自由に」

とアレクは軽く流し、再び机に向かう。

 

ティティが怒り心頭でふくれっ面をしているのをよそに、

アレクは色塗りの工程に取りかかった。

水性ペン、水彩ペン、マーカー、インクペン――

ありとあらゆる道具を駆使して雷電眞に命を吹き込んでいく。

 

 

白黒だった世界に次第に命が宿る。

 

顔を塗り、瞳を描き、そこに輝きを与える。

目指すのは、女神をも魅了する宝石のような輝きを放つ瞳。

 

 

服は武士道の伝統を感じさせ、

袖が長く裾がひらりと揺れる和風の戦闘服。

 

濃紫を基調に金色の刺繍が施され、

高貴さと威厳を演出。

背面に雷の紋様が描かれ、

電光のような力強さを象徴するシンボルへ。

 

 

 

アレクの手が止まることはない。

彼女の中で練られたイメージが、徐々に現実のものとなっていく。

 

 

 

 

▲▲▲

 

 

 

 

 

『イラストとアニメのキャラクターデザインは、

共通点が多いものの、制作目的やプロセスにおいて

本質的に異なる役割を持つ。』

 

『どちらもビジュアル表現を基盤とするが、

役割と求められる要件には大きな違いがある。

まず、イラストは主に一枚絵として完結した作品を目指し、

視覚的なインパクトと美しさが重視される。』

 

『一方で、キャラデザは、

アニメーション制作全体を支える設計図としての役割を果たし、

動きや表情の変化、複数アングルからの視認性を考慮した

実用的な設計が求められる。』

 

『イラストは自由な構図で個性を求められるが、

キャラデザインでは衣装や小物、全方位の設定画、表情差分、カラーパレットを明確化し、統一仕様に仕上げる必要がある。

これは、制作チーム全体で統一感を持たせて、

作品の品質を維持するために必要不可欠なことだ。』

 

『だが、それは、今の私には必要はないことだ』

 

 

 

 

▲▲▲

 

 

 

 

 

アレクはペンを置き、背筋を伸ばす。

 

 

 

 

ペンを置いたアレクは、背筋を伸ばして一息ついた。

 

「終わったのか?」

とティティが問う。

 

「いや、まだ正面画だけだ。

これから側面、背面、さらには感情表現も描かないといけない」

 

 

 

「なんて面倒な…」

ティティが肩をすくめる。

 

「元人間のくせにそんなにこだわって、

何がしたいんだ?」

 

「あなたが要求したんでしょう?」

とアレクは呆れたように答えた。

 

ティティはふいっと顔を背けて、

「フンだ。もういい。寝る」

と言い残し、空中でそのまま浮いたまま落下して眠りについた。

 

アレクは無言で彼女を確認すると、

再びペンを握りしめ、作業に戻った。

 

 

▲▲▲

 

 

 

鳴神大社

 

神櫻を守るように佇む鳴神大社。

 

 

原神の支配する七国の一つ、

稲妻が管理する神社である。

 

 

 

ここは雷神バアル、別名御建鳴神主尊大御所を祀り、

鳴神民の信仰を導く宗教団体であり、

影向山の山頂にある。

 

 

武力行使は将軍の名誉を傷つける行為であるため、

鳴神大社周辺での武力行使は禁止されている。

したがって、大社は幕府の管轄下にはなく、

大社が崇拝する雷神の管轄下にある。

 

 

 

 

 

 

その内部は厳かな静寂に包まれていたが、

そこには一人、艶やかで優雅な狐のような女性――八重神子がいた。

 

 

 

稲妻の神事と霊的守護の要である『鳴神大社』を束ねる宮司で、

事実上三奉行に並ぶ有力者の一人。

 

 

同時に国内で人気の娯楽小説を扱う出版社

『八重堂』の編集長でもある。

 

 

 

 

彼女は畳に座し、

座卓に肘をついてお茶をすすりながら娯楽小説を読んでいる。

 

 

「やはり、最近の娯楽小説は異世界転生系のテンプレばかりだな、

読者も今頃飽き飽きしている頃だろう。

八重堂からも売上が下がっていると聞いているし、

ここいらで火花を付けたい所だが、肝心な火付け役となる作品はおらん以上。

どうしたものか」

 

「た、大変です。

宮司さま」

 

襖を開け、堂々と入る。

八重堂の編集者一人である男へ八重神子は顔を向ける。

 

 

「どうした、そんなに慌てて、

嫁にでも逃げられたのか」

 

「違います。宮司さま、大変です。

大ニュースです。どうでもないです」

 

 

「ほう、無粋にも妾の神社に押し入れたということは

相当、いい知らせじゃろう。何だ。」

 

「これ、見てください」

 

編集者から受け取ったのは、

数百枚もの絵。

色鮮やかなで表現された原画には、

まるでキャラクターが今にも動き出しそうな生命感を宿している。

一筆一筆が計算され尽くし、

その繊細な線と色彩の配置に、八重神子は思わず見入ってしまう。

 

 

「なんだこれは」

 

 

八重神子は驚愕した。

 

 

繊細な絵に対する評価ではない、

もっと、別のことだ。

 

 

「凄いですよね。

今朝、これを持ってきた人から見せてもらって

思わず、飛び出してしまいました。

以前、宮司様が言っていた爆弾はこれだと、

私、直感し・・・」

 

 

 

「今すぐ、これを書いた者を呼べ!?」

 

「え・・・」

 

「早く行け!?妾の言うことも聞かんのか」

 

「は、はい。す、直ぐ手配します。」

 

去っていく、編集者を見届け、

八重神子は再び、絵に向き始める。

 

 

「よもや、この世にこのようなものがあるとは」

 

 

 

八重神子は失われた神の一柱、雷電眞を描かれた絵を見て、

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