とある稲妻の呪術廻戦 作:ネシエル
静寂に包まれた夜の学校。
月明かりが屋上を照らし、ひっそりとした冷たい風が吹き抜ける。
その場所に、ひとりの女性が現れた。
長く艶やかなピンク色の髪が、月光を浴びて柔らかく揺れる。
赤紫色の瞳は、闇夜の中でも妖しく光を帯びていた。
彼女が纏うのは、稲妻の伝統的な巫女装束。
装飾の施された着物の袖が風に揺れ、繊細な刺繍が儚く輝く。
その身にある特徴的な長い耳――
それは狐とも、ウサギとも思える、神秘的な形をしていた。
妖艶無比なその美女は、穢れた呪霊の血に汚染されたこの場所に足を踏み入れた。
まるで、その場の闇と穢れをも浄化するかのように――
彼女は静かに周囲を見渡す。
沈黙の中、ゆっくりとしゃがみ込み、
屋上の床に落ちていた一枚の学生証を拾い上げた。
「……」
月光の下、その美しい指が僅かに震える。
学生証の裏に記された名前を、彼女はじっと見つめた。
▲▲▲
〇人々の反応
一般市民『あれ、八重神子様じゃないのか』
一般市民『ま、間違いない。
姿こそ違えと、服装や髪の色は宮司様にそっくりだ』
一般市民『あれ、何をしているの』
一般市民『学生証?とはいうものを拾っているのか』
パイモン『うわ、ついに神子まで出てきたぞ。』
旅人『まあ、眞や散兵も出てくるから、
そうおかしいことではないか』
八重神子『ほう、中々いいデザインじゃないか。
妾の好みであるぞ』
影『耳の形、あれはウサギですか?』
▲▲▲
東京の国会議事堂のすぐ隣。
高層ビルや摩天楼が立ち並ぶその中心に、異質な存在があった。
堂々たる天守を誇る城――稲妻城。
稲妻幕府が開府して五百年、その歴史の中で変わらず権力を掌握し続けてきた。
その内部にある幕府の御用部屋、権力の間。
そこでは、雷電眞が呪術総監部の老人たちに問い詰められていた。
「どういうことですか、将軍様!」
「納得いく、ご説明を!」
呪術総監部の老人たちが、口々に詰め寄る。
彼らは伝統的な傘帽子を被り、顔には呪符を貼りつけた者ばかり。
呪術総監部――
呪術界を統括する老人たちであり、同時にこの世界の“癌”とも言える存在。
彼らは先代将軍 雷電龍馬 の時代から生き延び、時代の変遷にすら動じることなく己の地位を守り続けてきた。
彼らは、生き残ることに特化した存在だった。
「特級変異呪霊、丹羽久秀を貴方様に預けたのは、速やかに処分するためです!」
「万が一、暴走したらどう責任を取るおつもりですか!」
老人たちは畳みかけるように言葉を浴びせる。
だが、雷電眞はその圧力にも動じず、悠然とした態度で答えた。
「そのときはそのときよ。」
そして、軽く笑みを浮かべながら付け加える。
「この世に、雷電将軍の隣よりも安全な場所があるかしら?」
老人たちの顔が険しくなる。
「そういう問題ではありません!」
「相手は呪霊! もとは人間とは言え、今は魔に属する存在!」
「貴方様のお父上、龍馬様を殺した相手と同じですぞ!」
「そうです! 今頃龍馬様は悲しんでおられます!」
その言葉に、眞の心は冷笑する。
(嘘つけ。パピーのことなんて、何とも思っていないくせに。
どうせ、自分たちの地位にしか興味がないんでしょう?)
呪術総監部の連中は、自分の利益しか考えない。
父の死を利用して、彼女にプレッシャーをかけようとしているのが見え見えだった。
「とにかく、被害が出る前に速やかに殺処分を――」
老人たちの騒ぎが最高潮に達した時、突然――
ガラッ
襖が開いた。
その瞬間、老人たちの口が一斉に閉ざされる。
襖の向こうに立っていたのは、一人の男。
スーツを着こなし、
天狗族の笹百合だった。
彼は静かに歩みを進め、呪術総監部の前に立つ。
「笹百合! 貴様、なぜここにいる!」
「無礼であるぞ!」
老人たちが声を荒げるが、笹百合は微動だにせず、落ち着いた口調で言った。
「大変申し訳ございません。将軍様をお迎えに参りました。」
「……?」
眞が小さく首を傾げると、笹百合は続けた。
「将軍様、この後の予定はご存知でしょうか?」
眞は一瞬、考える素振りを見せたが――
「ああ、そうだったわね。大事な予定があったな。」
と、軽く微笑んで立ち上がった。
「将軍様! どこへ向かうのですか!」
「さあ、どこかしら?」
「お待ちください!」
「じゃあ、またあとでね、おじ様方♪」
眞は振り向きもせずに襖を閉じ、権力の間から出ていった。
老人たちは悔しげに奥歯を噛みしめる。
そして、低く呟いた。
「……チッ、売女の娘め。」
▲▲▲
〇人々の反応
一般市民A『く、腐っている』
一般市民B『言っていることは、正しいと思うけど、
最後の発言は完全に余計だったな』
一般市民C『何で無礼な。打ち首だ。打ち首!!』
一般市民D『何か特殊な背景はあるか』
雷電将軍にあこがれている人
『ふむ、処す』
パイモン『これ、放送していい奴なのか』
旅人『これだけでここまで人々を不愉快にしているのか。
流石、将軍』
八重神子『皆、少々苛立って居るお様子だな。
とはいえ、あれが笹百合か。
ほう、異国の服とかなり合っているな。妾も買ってみよう』
影『笹百合・・・』
▲▲▲
車の中
静かな夜の道路を、一台の車が疾走する。
運転席には天狗族の笹百合、
助手席には雷電眞が腰掛けていた。
エンジン音だけが響く車内。
その静寂を破ったのは、笹百合の冷静な声だった。
「……それにしても、本当に良かったのですか?」
眞は窓の外を眺めたまま、適当に返す。
「何が?」
「丹羽久秀のことです。」
笹百合はハンドルを握りながら、慎重に言葉を選ぶ。
「正直言って、あの力は異常です。
ただの人間とはいえ、特級呪物 【両面宿儺の指】 を取り込んだだけで、
あれほどの力を保有するとは信じられません。
純粋な力だけを見れば――
雷電将軍よりも上です。」
笹百合の言葉に、眞は小さく微笑んだ。
「そうだね。」
彼女は頬杖をつき、まるで他人事のように続ける。
「私の術式も見破られたし、身体能力だけを見れば、確かに私よりも上だ。
だからこそ――面白いとは思わない?」
笹百合は一瞬、視線を横に向ける。
「……面白い、ですか?」
「ええ。」
眞は窓の外に映るビル群を見つめながら言った。
「あれほどの力を、もしこちらが握れるなら、
我が国の防衛に必ず役に立つと思わない?」
笹百合は口を引き結び、慎重に言葉を選ぶ。
「しかし……呪術総監部の警戒も無下にはできません。
あれほどの力が暴れ出したら――町一つが消し飛ぶかもしれません。」
その言葉に、眞はふと呟いた。
「一万人……」
笹百合は黙る。
眞はまっすぐ前を向き、静かに語り出す。
「我が国の呪霊による被害は、年間およそ一万人。
それに対して、対応できる呪術師は 1000人にも満たない。
そして、一級、特級ともなれば――
さらに数は限られる。」
眞は笹百合を一瞥し、口角を上げる。
「笹百合、私が何を言いたいか、わかるよね?」
彼はしばらく沈黙し、やがて小さく頷いた。
「……わかりました。」
眞は満足そうに微笑む。
「それに、万が一のことがあれば――私が出る。」
「……」
「だって、私――最強だから。」
そう言って、雷電眞は夜の東京を見つめ続けていた。
その瞳には、揺るぎない自信と……
何かを見据える冷徹な光が宿っていた。
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