「今日は来れたのね」
教室に入ると、蛍に話しかけられる。休んだり出席したりを繰り返していたら、いつの間にか毎朝蛍がすぐ話しかけてくれるようになった。
「うん、最近は元気や!」
まだ子供だし、計画も大事だが勉強の方が大事だ。それにずっと仕事を入れて外に出ていたら初校長からさらに目をつけられてしまうと、小泉月について報告しに行った日に柚香達が蜜柑に伝えた。今日は久しぶりに午後から仕事が入っているが、柚香達とは会わない。
これから計画の準備はお母さん達がしてくれるってこの前言っとったけど…気になって仕方ないよ〜…。
小泉月が転入してきてはや2週間。あの日から教室の雰囲気が…特に棗の様子がおかしい。席は小泉月にお願いされた通りピッタリと隣に座っとるし、どこへ行くにしても腕を絡ませ一緒に行動しとる。文句を言わずに棗が従うなんてありえへん。影で何か言われているのかも…と思っとるけど、真実はわからない。
それに、いつの間にか小泉月の周りには常に人が集まるように…。アリスを使って操作して味方を増やしとるんやろう。その生徒達を使うてウチに言いがかりを言ってきたり、あらぬ噂を立てたりと面倒やけど…それを解決するための盗みのアリスを使えばきっと初校長の思うがまま。
何も気にせんふりをして過ごしている。
「あれ、棗とルカぴょんは?」
いつも通り挨拶をしようとすると、普段なら席にもういるはずの2人が見当たらない。
「棗君なら今日も早速さっき小泉月とどっか行ったわよ!! 流架君は…トイレとかかしら」
パーマが相変わらずイライラしている。棗をたぶらかしている、と。
また棗は、あの人と一緒なんや……。
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あ、棗…!
角で曲がっていく姿を見つけ、駆け寄る。隣には、今日もあの転入生の後ろ姿。
あの子が来てから棗がどう考えてもおかしい。転入生と2人で常にいるから、俺でさえ棗とあまり近づけなくなってしまった。
「なつ…」
今日は話したいことがあったから角を曲がって棗に声をかけようとした瞬間…棗の心底不機嫌そうな声が聞こえた。
「おい。はなせよクソ女」
何となく…今出ていってはいけないと、壁に身を隠す。
「ここは人なんていねえ。いつまでベタベタするつもりだ、胸クソわるい」
やっぱり、棗は好きであの子といるわけじゃないんだ。そう気づいてホッとしていたら、棗がパン!!!と頬を叩かれ、髪を引っ張られていた。
「胸クソ悪いのはこっちのセリフ。誰に口きいてるつもり?クソガキが」
棗…っ!!
「早死にの母親にそっくりね、その目。 気にくわない…気味の悪い赤い目。 本来なら、あんたみたいなクソ生意気なのがターゲットの方が燃えるんだけど…まあ、あの子はあの子で別に燃える理由があるからいいわ。せいぜい余計な邪魔はしないことね。あんたのためにも、あの子のためにも…。私は優しいからさっきの態度については特別に忘れてあげるわ。——いきましょっ、棗クン!」
そして二人はまた腕を組みながら歩いて行ってしまった。
『ターゲット』、『余計な邪魔』……。棗は、何を一人で背負っているの…?
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トイレへ向かおうとしている時、反対側から歩いてきた小泉月に話しかけられる。
「佐倉さん」
ちょうど廊下に人がおらへんからもしかしたら…と思っとったけど、ほんまに声をかけられた…。
「こいず…」
声を出そうとした瞬間、苦しさを感じる。
ダン!!!
小泉月の両手が蜜柑の首に伸ばしてきて、そのまま壁まで押されたのだ。
ゾクっとするような顔で。
「フフ…フフフフフフフフ…」
「はなして!!」
身の危険を感じて月を突き飛ばす。
「ひどぉ〜い、佐倉さん。随分狂暴な事するのね。こわーい」
どっちが…っ!
「血は争えないってホントね。犯罪者の母親と、そういうとこそっくり」
な……
「ねえ佐倉さん、クラスの中心でみんながあなたを大好きで今とても楽しいでしょう?そんなあなたの大事なものを1つ1つ壊して奪っているのがとっても楽しい。あなたの苦しむ顔を想像する度にあなたの母親を重ねてゾクゾクしてたまらなくなるわ」
…小泉月は昔からきっと変わっとらん、子供の頃のことをずっと引きずってるんやと、同情もしながら話を聞く。そして、お母さんのことを知っているのは当然知らんぷりや。
「あんた何言うて…」
嘘やとバレるかも…と蜜柑は少し怖がっていたが、伊達に芸能活動はしていない。仕事でお芝居もやっていたのがここで活かされたらしい。
「あなた本当に何も知らないのね。あなたの両親のことを…人には言えない、恥さらしなあなたの出生の秘密」
『恥さらし』…?ウチは、お母さん達が想い合っていたことの証明であって恥ずべきことなんて何もない。
「教えてあげてもいいわよ、勿論あなたが私に対していい子で今日見たこと聞いたことを一切他言しなければの話だけど。これから先起こるあなたとあなたのまわりの被害を少しでもおさえたいのなら’’だまる’’ことと、’’でしゃばらない’’ことね」
そして月は教室の方へ歩いて行った。
「ちょっとあんたたち、いーかげんにしなさいよね!!」
トイレから帰ってくると、半開きになっているドアからパーマの声が漏れ聞こえてきた。
「小泉さんが、さっき急に廊下で佐倉から首絞められそうになったって言ってたんだ!」
「だーかーらー!!そんなことする程大バカじゃないっていってんでしょ!」
どうやら、さっきウチが小泉月からされたことを、’’ウチがやった’’とアリスで操っている子に吹き込んだらしい…。操っている子達に慰められている小泉月の姿が隙間から見える。
最近のあらぬ噂の効果もあってか疑心暗鬼になっている生徒も多いらしく、いつも蜜柑と特に仲良くしているメンバー以外は蜜柑がやった可能性も捨てきれないと思っているようだ。
「でもー」
「『でもー』…じゃないわよ!どこまであんたら小泉菌に毒されてるのよ。もー、なんとか言ってやって棗君っ!」
パーマがいつもの仏頂面で席に座ったままの棗に話しかけた。
「—————佐倉蜜柑にもう関わるな。あいつの話もするな。…嫌なら俺の前から消えろ。お前らがそこまで庇い立てする価値、あいつにはねえよ」
「…棗?何言って…」
「なんでそんな…蜜柑ちゃんを仲間はずれにするようなことを…!」
ルカぴょんと委員長の、困惑している声が聞こえる。
「きいただろ、さっさときえろ。めざわりなんだよ」
棗は蜜柑がドアの向こうにいたことに気づいていたようで、横目で蜜柑を見ながらそう言い放った。
「佐倉!?」
「蜜柑!」
流架と蛍がひどく驚いた顔をして蜜柑の方を振り返る。
蜜柑は、居ても立っても居られなくなりその場から立ち去った。
棗が、学園から…小泉月から、ウチを守ろうと言ったことかもしれへん。でも………でも、理由があるからってあないなこと言われて…何も思わないわけやない。全く気にしないことなんてできへん。
もし、少しでも本心が入っていたら…?と胸が痛む。
何も考えられなくて、頭がぐちゃぐちゃになって目に涙が浮かんでくる。
無我夢中で目的地もなく走っていると、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。そして、すぐ後に、背中に暖かさを感じた。
え……?
後ろから抱きしめられたのだ。驚きのあまり足を止め振り返ると、顔は蜜柑の肩に伏せられていて見えないが、髪の隙間からは見覚えのあるピアスが目に入る。
棗…?
そしてそのまま顔は見せず教室の方へ走り去って行ってしまった。
どうして…。
呆然とその場に立ち尽くす。
……抱きしめてきた棗の手……熱もって、悔しそうに…力をこめてた—————。