社長さんは部屋から出ていき、林さんがうちをレッスンルームまで案内してくれた。
「ごめん、僕も社長の打ち合わせに参加しなきゃいけなくて…いつも通り3人で練習していてくれるかな?佐倉さんは自由にいてもらって構わないから…。佐倉さんをよろしくね」
申し訳なさそうに林さんもいなくなる。
少し気まずさを感じていると、気遣ってまた話しかけてくれる。
「えっと、改めて佐野悠真。アリスは夢見のアリスです」
「黒川大輝!浮遊術のアリスだ!」
「白石碧。…水のアリス」
アリス…どこまでいうべきなんやろか…。うちのアリスは特殊や。簡単にいいにくい…。
「あ、アリスとか言いたくなかったらいいから!よろしくね、蜜柑ちゃん」
いうか迷っているのが顔に出ていたようで悠真がフォローしてくれる。
「なんでしゃちょーも林さんもいなくなっちゃうかなぁ」
碧が不貞腐れたような顔で言う。
「ってかなんで女の子なの!?大輝も悠真もなんとも思わないわけ?」
「いや、まぁメンズグループってなってたからびっくりはしたけど」
「俺は俺たちに付いて来れるやつなら気にしねぇぞ!」
碧って奴…可愛い顔してるのに性格終わっとるな…。
「ごめんね、碧って女の子トラブルが多いのと人見知りなのが相まって、知らない人…特に女の子には態度が悪いんだ…」
じゃあどうしてアイドルに…
「僕はただアリス学園に行きたくないだけ。まぁ、今は大輝と悠真と活動するのが好きだけど…こんなダンス経験も歌もできるのかわからない女の子も一緒になんて!」
「まぁまぁ、落ち着いて。とりあえずレッスンしようよ。僕たちが準備してる間に良かったら今練習してる動画見て待ってて」
そう言って悠真がタブレットを渡してくれた。ダンサーの人達が、3人でダンスを踊っている動画が流れている。
ザアイドル曲という感じの曲で、結構アップテンポなこれを歌いながら踊るというのはなかなかに大変そうやな…。
音楽に合わせてダンスの練習をする3人をレッスンルームの後ろに小さく座って眺める。
社長さんが激推しする気持ちもわかってくる。テレビで見るようなアイドルに負けないほどのレベルの高さや…。もちろん小学生ということもあって動きは小さく、カッコよくてキュンとするというよりかは頑張ってて可愛いというキュンになりそうだ。
大輝はとりあえず元気にパワフルな振り付け、悠真は滑らかで優しさが溢れるような踊り、碧は可愛いさを売りにした振り付けが多めなのが特徴的で、それぞれのキャラクターが立っていてとても良いなと思いながら見つめると、違和感を覚える。
「そこ、違う」
「え?」
ずっと静かだったのにいきなり声を発した蜜柑に驚き3人の動きが固まる。
「碧のさっきのステップちゃうよ。ほら」
さっき貸してもらったタブレットを開き、その箇所を再生する。
「あ…」
碧が気付き、悔しそうな顔を浮かべる。
「あと、2サビのとこ大輝はもっとこうやって踊った方がええと思って」
大輝の隣で歌いながら踊って見せる。
「おお!そっちの方がカッケー!!ありがとな、蜜柑!」
「…蜜柑ちゃん、もうダンスも歌も覚えたの…!?」
悠真が口をアングリ開けながら問いかける。
「え、うん。数回見たし」
「うそだ!僕達歌だけでも一日以上かかったのに…!」
碧がそんなはずないとずっと文句を言っていて、その隣にいる悠真が宥めている。
別にうそなんかじゃないんやけど…。
口でそう言っても通じないと思い、実際に歌いながら踊ってみる。
一曲分フルでやってみせると3人とも固まってこちらをずっと見ている。
「蜜柑って、ダンスとか歌の経験があるのか?」
「いや、しっかりはないけど…」
「覚えられただけでも普通にすごすぎるけど、歌もダンスも僕らよりすごい…」
まぁうちは蛍に誘われて、町内会のいろんなコンテストに出て優勝しとったからな!
「実際に踊ってみて思ったんやけど、ここも3人らしい振り付けを踊りながらフォーメーション変えた方がええんやない?」
3人それぞれの動きを自分なりにやってみる。
「おお〜!」
「確かに、そっちの方が良いかもね。碧は?どうなの??」
悠真がニヤニヤしながら碧に話を振ると、碧は不貞腐れたような顔をしながら答える。
「まぁ…そっちの方が僕の可愛いさが出てるし、二人の良さも出てると思う…」
その言葉を聞いて大輝と悠真が笑いながら同意する。
「その、蜜柑…。蜜柑のこと知らないのに色々言って、ごめん…」
目を逸らしながらバツが悪いような表情で碧が謝ってくる。
嫌なやつとは思ったけど別に謝られるほどやないし…。
「社長さんが占った結果やからって言っても、真剣に頑張ってるところによくわからんうちが急に来たら納得いかんのもわかる。せやからダイジョーブ!気にしてへんよ」
それを聞いた碧は少し微笑みながら、ありがとうとお礼を言う。