いつもはウザいほどくっついてくるクソ女がいない。
「棗!!」
廊下で後ろから流架の声が聞こえた。
振り向くと、息を切らして
何か焦っているような顔を見て嫌な予感がする。
「棗!大変なんだ、佐倉がよくわからない黒服の人達に連れてかれちゃって……」
は…?なんだそれ…。
困惑している棗の顔を見て、蛍が一から説明をする。この前聞いた鳴海達の会話、よくわからない男子生徒から池に落とされそうになったこと、その後蜜柑がアリスストーンのようなものを持っていたこと—————。
話を聞いてなぜか自分が誘拐された事件についての記憶が蘇る。
あの時無効化のアリス以外を使って奴らと戦っていて…。
あいつの隠していることがあの女と学園の動向に関係している、と確信した。
「その顔…棗、何か知ってる?」
「はぁ…。…アイツは無効化のアリス以外にも何かを持ってる。それが関係してるはずだ」
「な…!?」
蛍と流架が予想もしていなかった事実に目を見開く。
「前に誘拐された時…アイツは風のアリスを少なくとも使ってた。でも、それだけじゃ学園が狙う理由がわからねえ」
「ど、どうしよう…」
「俺が本部に忍び込む。そこにいるのは確実だ。必要があれば…燃やし尽くしてやる」
棗のその言葉に蛍と流架も口を噤む。
「おいおい、何企んでんだぁ?お三方」
「そんな物騒な会話、聞き捨てなんねーなー」
翼と殿内が物陰から出てきた。
「話は聞いてた。……事情があったとしても、忍び込むのはお前ら3人でなんてどだい無理な話だ」
殿内の言葉に棗は少し眉をつり上げる。
引き止めようとするなら、強行手段で…。
「でも、俺らと協力するってんなら話は別だぜ」
「…は?」
「蜜柑のことが心配なのは俺らも一緒だぜ?学園のやり方は気に入らねえし。5人で忍び込むぞ!」
それから5人で作戦会議をし、本部へ向かった。
棗は任務後に本部へ行くこともあるため、人気のない道を選びながらも迷わず校長室へ足を進める。しかし、当然すんなりはいかず…。
『侵入者を確認!直ちに警備員・職員は集合せよ!』
ち、やっぱり警報は鳴るよな…。
「作戦通りに行くぞ、チビども!」
殿内の言葉に頷きながら向かってくる警備員に立ち向かう。
「な、体が動かない…!?」
警備員達が翼のアリスで動けなくなっている間に、蛍がバカン砲を撃ち対抗する。
「うわぁ!なんだこのネズミ!!あっちいけ!!」
「炎が!!!あっつ!」
対抗することはできているが、思ったよりも人数が多くて先には進めない。
「おい、殿!アリスを増幅してもらっててもこの数に全員で対応してたらいつまでも進めねぇぞ!!」
「あぁ、ここで足止めを喰らってるわけにはいかない。棗!お前だけでも先に行け。お前ならこの先の道もわかるんだろ!?」
そうだ、アイツはまだこの先にいてどんな状況にあるのかもわからねえ。ここで力を使いすぎて後でつまずいても意味がない。
攻撃をやめて先へ足を進める。
「棗君!あの子を頼んだわよ。何かあったら許さないから」
「棗、気をつけて!!絶対に佐倉を連れてきて!」
己の力不足を感じながら、戦ってくれている流架達の声から遠ざかっていった。
初等部校長室の前に到着する。
任務の報告時にたまにくるだけの部屋、反吐がでるほど胸くそ悪い部屋。
意を決し勢いよくドアを開ける。
すると、目の前には茶色の髪をツインテールに縛ったアイツがいた。
「ウチはあんたのお気に入りになんてならん!!」
初等部の校長の目の前に堂々と立ち、そう宣言していた。
ドアが開いた音に気づいてアイツが振り向く。
「棗!?なんでここに…」
部屋には初校長と、ペルソナ、月、複数人の部下がいた。
蜜柑に手を出されては困るため、蜜柑の前に出ていき初校長達の前に立ちはだかる。
「分かっていたよ、お前が何らかの手でここに来るだろうことは。そこまで愚か者でないことをまだ期待してはいたがね。 さてどうするつもりだ?そこで立ちはだかって、お前に何ができる。どんなに抵抗したところで、所詮籠の鳥。お前たちに事態を変える力も逃げる場所もない。無駄な抵抗をしたところで、今後の扱いを下げるだけ…」
「うるせえ」
棗の低く怒った声が響く。
「好きな女が、同じ闇に落ちてくのを目の前にして、ぐだぐだ
そう言って炎で自分と蜜柑に近づけないようにする。
「炎で押して、この場から逃走する気だ!」
護衛の1人の声が聞こえる。
「氷のアリスで対抗しろ」
ペルソナの言葉を合図に、棗の炎の周りに4人の人が並ぶ。
くそ、俺が来るのを見越して対策をしてやがった……。
どうしたら1人でも蜜柑を連れていけるのかと考えを巡らせていると、廊下から走音が聞こえてきた。
「棗君!蜜柑ちゃん!」
そこには鳴海が…。
「逃げるよ!!」
フェロモンのアリスを使って、部下達を一掃する。
鳴海と協力し合いながら初校長室を後にし駆け出す。
「棗!」
「蜜柑!!」
蛍達も見えてきて、全員が合流する。
「逃がさないわ!まちなさいよぉぉお!!」
しかし月が部下を連れて追いかけてくる。
蛍達ももうかなり疲弊しているのに、まだまだ増えてくる。
どこからこんなに人が出てきてんだよ…、くそ!!
問題の解決策が見つかったと思ったらまた新たな問題が出てくるこの状態に嫌気がさしていると、ピカッと眩しい光とゴロゴロと雷の音が聞こえてきた。あまりの眩しさに閉じた目を開けると、そこには倒れた警備員達がいた。
「神野先生!」
「のだっち!」
神野と野田も合流してきたところだった。
「皆さん無事ですか!?急いで高校長の元へ!!」
は、何で…。
いきなり出てきた高校長という単語に混乱する。
「みんな!ウチに捕まって!!」
わけがわからないまま、とりあえず全員蜜柑に捕まる。
目の前まで月達が迫ってくるが、次の瞬間には見慣れない部屋に移動していた。