【TSF】ネットゲームの世界に転生しました ~魔王を討伐して富と名誉を~   作:とんべえ

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異世界転生

 ウロボロスとは、MMORPGの一つである。

 

 今でこそ様々なMMORPGがあるが、大容量回線が普及し始めたネットゲーム黎明期を切り開いたビッグタイトルでもある。

 

 ファンタジーゲーム様式で、かわいらしい画面とは裏腹に、練りこまれたゲームシステムをもっており、子供から大人まで、猫も杓子も熱中したのだった。

 

 

 その世界の都市で、一人の女が目を覚ました。

 

 否、正確に言えば現れたが正しい。

 

 小さなつむじ風が吹いたと思ったら現れたのだった。

 

 暫く呆けたように突っ立っていたが、目の焦点が合うと、四方八方を見始めた。

 

「どこだここは……」

 

 自分の口調に違和感を感じつつも、目の前の光景が重要だと、それを棚上げにした。

 

(町の中だとは分かるが、いったい何処の国だ。少なくとも日本ではないが、どこかで見たような……)

 

 レンガ造りの建物に、切り出し整えた岩の舗装道路。

 

 どこからどう見てもファンタジー風の都市である。

 

(そうだ。スマホに地図アプリがある……!)

 

 体のどこかにあるだろうスマホを探そうとしてやめた。

 

 その女は自分が女物の質素な衣類を着ている事に気が付いた。

 

 そしてまた、服の中がどうなっているかも、察しがついた。

 

 確認すべきだ、したくない、本当になかったらどうする、あるに決まっている、だがこの感覚は……完全に思考が停止する。

 

 

(と、とにかくだ。とにかく……)

 

「そこのお前さん」

 

 それはその女にとって見知らぬ中年女性だった。

 

 ただ青果物の露店を切り盛りしていることは一目でわかった。

 

「え、おれ?」

 

「娘っ子が俺なんて言うもんじゃないよ。ボサーッとしてるなら商いを手伝ってく……これは失礼しました。ユーザーさんだったとは」

 

「ユーザー……?」

 

「ちょい待ち。おばさん、それってどういう事だ」

 

「申し訳ありません。権限の都合でこれ以上知らないんです」

 

(ユーザー、ユーザー、ユーザー……!!)

 

 女の心に浮かんだ一つのビジョン、二つの区画を通り抜け左手を見ると、予想通りに広場があった。

 

 中央にある噴水の彫刻も寸分違わない。

 

(やっぱり、ここはウロボロスの古都プレセンティアだ)

 

 その都市は、MMORPGウロボロスと寸分違わぬ街並みだったのである。

 

 その途端、女の心中を占めていた焦燥・不安と言った負の感情は、懐かしさと楽しさで塗りつぶされていった。

 

(懐かしいな。友達と徹夜してダンジョン攻略したり、他所のパーティと競い合ったりした……)

 

 そこではたと気が付いた。

 

(なら、俺が見ているこの景色は一体なんだ)

 

 プラットホームであったスマホはおろか据え置き型ゲーム機でさえ再現不可能な、映像の密度である。

 

 その女は、レンガ造りのレンガに触ってみた。

 

 触った感触が確かにあった。

 

 ザラリとした手応えと、粘土を焼いた匂い。

 

 触角はともかく嗅覚まで再現されている。

 

 そんなテクノロジーなど聞いたことがなかった。

 

「そっか、そうか。俺は夢を見ているんだ。そうに違いない。あははは」

 

 まさしく青天の霹靂で、女は自分の頬をつねってみた、痛い。

 

 だが夢は冷めない。

 

 もう一度更に力を入れてつねってみた、やはり痛い。

 

「夢から覚めない、何故」

 

 脳裏に浮かぶとある文字列。

 

(まさか、これが、異世界転生?!)

 

 それは日本のノベル業界に於いて一大ジャンルである。

 

 男向けであったり実は女向けであったり、実は何方でも問題無かったりする業界だ。

 

 女は、噴水に駆け寄り、水面に映る己の姿を見定めた。

 

(やっぱりそうだ。この姿は俺が作ったキャラクター、アバターだ)

 

 チクリとする鋭い頭痛と共に朧げなビジョンが沸き上がる。

 

(だがこのアバターは二番目だ。なぜ男である一番目を……ちょうど作り直しをしようと消したんだっけか)

 

 その女は、時間の経過と共に落ち着いていった。

 

 華奢な自分の腕を抱き、ゆっくりと擦る。

 

 心と体の差は、ゼロにはならない。

 

 その差は、不快感として表れていた。

 

 だが憑依にみられる犠牲者がいないのは救いだ。

 

 何よりこの鈴苑雪華〈すずその せつか〉の創造主でもある。

 

“慣れてしまえ”

 

 全てが満ちている人生なぞ存在しないのだ。

 

 くよくよしている時こそ、何かをした方がいい。

 

 ここがゲームの中ならやることは一つ。

 

 冒険の開始だ。

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