【TSF】ネットゲームの世界に転生しました ~魔王を討伐して富と名誉を~ 作:とんべえ
ゲートを抜けた先は草木の茂るフィールドだった。
南ゲートから間もない距離なので、他の冒険者たちも多く、モンスターの気配はない。
雪華は暫く歩くとわき道に入り、程なくして小さな広場に達した。
丸木棒を構えるも何も変わらないので彼女は藪を突いてみた。
何も現れない。
もう一度突くとガサリと木々が揺れた。
(来た! 最初の獲物!)
現れたのはワイトァンと呼ばれる初心者向けのモンスターだった。
白い毛玉がゴムボールの様に跳ねて襲うのだ。
動物系モンスターにカテゴリーされる。
雪華はバックステップでワイトァンの初撃をやり過ごした。
ワイトァンは着地し、次の攻撃に備えている。
勿論あえて見過ごす理由はない。
雪華は大ぶりの一撃で、木製の丸棒を、叩きつけた。
「キィィィ」
断末魔の声を残して姿を消した。
(ドロップアイテムは、まぁまぁだな)
宝石二つと羽毛一つ、ナイフが一つだった。
同じ様に、ウサギに似た怪物であるレッドスラップ、オオカミに似た怪物ホワイトワングを倒した。
(つ、疲れた……)
気が付けば肩で息をしていた。
受けたダメージは多少で済んだが、立ち回りで疲労していたのだった。
マジックアイテムでもある冒険者証を見ればHPが残り三分の一を切っていた。
疲労による汗が、冷や汗に変わる。
(ここら辺はゲームよりシビアだな。余力を十分に取らないと)
一本だけあるHPポーションを使用すれば、疲労感が抜けていく。
(一度、都に帰るか。アイテムも売らないといけないし)
既に夕焼けとなっていた。
帰路の途中、茂みの奥に雪華を狙うじっとしたモノがいた。
彼女は中ボスだとあたりを付けた。
そしてまた、あれは挑発ではないかとも考えた。
(フィールドの感覚が、こちらとあちらで異なる。手を出さなきゃ大丈夫だ)
残念ながらレベルが足りない。足早にその場から立ち去った。
古都プレセンティアの南大ゲートが見える。
ここは有名なところで昼夜問わず賑わうところだ。
事実、冒険を終えた多くのパーティーが、集っていた。
アイテムの分け合いや、反省会をしているところすらあった。
客車や貨車向けの大型扉が閉まり始めた。
残りは個人レベルの小さな門があるのみだが、それも夜半になる前には閉まる。
それは名も知らないパーティーだった。
「じゃあ俺、夜勤だから」
「お疲れ様~」
「またねー」
数名が光のうねりと共に消えたのである。
呆然と立ち尽くすのは雪華であった。
「ログアウト……」
そんな馬鹿な、ログアウトなんてゲームみたいじゃないか。
何を言っている、初めからゲームの世界に転生したって。
確かにそうだ、そう言った。
俺が転生して自分が作った鈴苑雪華ってアバターを動かしてって、
「ゲームなのにログアウト。ゲームだからログアウト」
何かがおかしい? 否、なにもおかしくはない。
「ちょっと待て」
雪華は走った。
力の限り走った。
目指すは冒険者ギルドである。
門を潜り抜け都内にある大通りに達すると、なりふり構わず走り出した。
まさしくダダダという表現がふさわしい。
そして勢いよく扉を開けた。
勢いがありすぎ、その反動で、扉にはじき返される雪華。
「ぷぎゃ」
賑やかだったギルド内に静寂が訪れる。
空気を読まずに雪華はカウンターに居るギルド職員に詰め寄った。
「いたたた……セレスさん!」
セレスは数ある職員の中でも
「はい。プレセンティア冒険者ギルドのセレスはいつでもお役に立ちます」
「私ってユーザーなんだよね!? って何!? そのやっちゃったわ的な表情」
それは居合わせた二人組である。
「見た目は悪くないのにイタイな、あの娘」
「馬鹿だな。イタイのは多いぞ、見た目が良い奴程な」
「「NPC、ユーザー問わず」」
突っ込んだのは雪華だった。
「そこの外野うっさいっ!」
話の流れを戻したのはセレスだ。
「はい。ユーザー様です。この様な言い方は避けておりますが」
騒めく外野たち。
「いつの頃からかウロボロスのNPCって柔軟になったよな」
「知らないのか。Aiだぜ」
「あぁ、どおりで……え、お前も?」
ギルド内に一仕事を終えたような曲が流れ始める。
「冒険者様方。閉店時間ですのでご退去願います」
「あ、はい」
「鈴苑雪華様、場所を変えてもよろしいでしょうか」
案内されたのはギルド内にある瞬間転送装置〈ワープポータル〉だ。
そのポータルで飛んだ雪華が見たのは、いつか見た転生の間だった。