【TSF】ネットゲームの世界に転生しました ~魔王を討伐して富と名誉を~ 作:とんべえ
雪華はその部屋を知っていた。
おそらく二度目だろうと察しを付けた、そしてそれは合っていた。
白い空間に一枚の黒いプレートが立っていたが、それには厚みがなかった。
回り込み、見る角度を変えても一枚のプレートだった。
それは次元の違いによるものだ。
「鈴苑雪華。あえてこう呼ばせてもらうが、ここに二度来た人物はお前が初めてだ」
「貴方が神様ですか?」
「そう呼ばれるときもある。多くは“管理者の石”と呼ぶ」
「あの、私は死ぬのでしょうか」
「その質問の意図を見抜けば“いいえ”だ。再びウロボロスに戻ってもらう」
「私はNPCになるんでしょうか」
「答えは“いいえ”だ。彼の者たちには魂がない」
「魂ですか」
「その質問の意図を見抜けば“はい”だ。ウロボロスを支えているのは素粒子力学に基づくテクノロジーだ。転生もまた同じ」
「私の記憶を操作したのも」
「その質問の意図を見抜けば“いいえ”だ。全ては確率であった。もっとも、都市の娘に当てはまるのは予期してはいた」
「なぜウロボロスを作ったのですか」
「万物には終わりがある。それは転生前のお前が居た地球も同じ。その時の避難先として用意された」
雪華が深いため息をついたのは、すべてを思い出したからであった。
「前の私が使っていたスマホは、抽選で当たった数少ないウロボロス社の純正品でしたね。分かりました。戻ります」
雪華の意思が反転する。
プレセンティア冒険者ギルド内に帰った雪華を待っていたのはセレスだった。
セレスは思わず雪華を抱きしめた。
「よかった。もう戻ってこないかもって心配していたんですよ」
「ごめん。迷惑かけちゃった」
「良いんですよ。冒険者様の為のギルド職員ですから。あ、でも転生の間へのポータルはこれっきりですよ。欠損率がウロボロス内のポータルと異なり高いんです」
「なんか良く分からないけれど、そうする」
◆
戦いの結果は準備で決まる、偉人の格言だ。
雪華は宿に居た。
多少奮発し個室である。
着替えももう慣れた。
借りた桶に水を入れ、タオルを浸す。
絞ったそれで体をふいた。
(慣れたというよりは、神様の一件が衝撃的過ぎてどっか行ってしまった感じだ)
次はアイテムの整理である。
雪華は買ったばかりの背負い鞄〈バックパック〉を開けた。
それは持てるアイテムの数が増えるのだった。
「宝石は全部売って、ポーションはどうするかな。回復量は多いけれど、一個当たりの重さで考えるとチーズが良いんだよね」
経験値が欲しければ連続で戦うのみだ。
その場合ポーションが適当である。
「それほど持てないし、いざという時をかんがえると、数を稼ぐしかないなら、ポーション二本と残りはチーズかな」
日誌にメモをしていく。
何をしたのか、何故そうしたのか、その結果がどうなったかを、毎回見直すのだ。
所持はしていないが、復活の魔法と復活のアイテムがあるので生き返ることは可能かもしれないが、死を前提にするのは誤りだ。
ソロプレイヤーも多いがある程度のレベルがないと相手にされないので、そのレベルまでは精進するのみである。
武器である木製の丸棒を手に取った。至る所がすり減っており、末端に至っては欠けてすらいた。
軽く力をかけて曲げるとミシリを立てた。
タオルで拭うと中心部あたりに亀裂が入っているのが見て取れた。
他の傷と異なり曲げると広がる傷であった。
「そろそろ買い替え時か。冒険は何かとお金がかかる」
雪華はランプを消した。
(しばらくはプロセンティアの周りで狩ろう……ふあぁぁ)
思い出すのはセレスの抱擁である。
柔らかく暖かかった。
あの神は素粒子力学などと難しいことを言っていたが、NPCだろうがAiだろうがユーザーだろうが一体どの様な違いがあるというのか。
(おやすみセレスさん)
◆
モンスターにはアクティブ型とパッシブ型がある。
アクティブ型は圏内のプレイヤーを襲うが、パッシブ型は何もされなければ何もしてこない。
問題なのはアクティブ型で時々群れている時がある。
オオカミに似たモンスターホワイトワングなどがそれである。
(こういう時は、と)
拾った石を投げ、一匹だけに当てた。
雪華を見定めたそのホワイトワングは一匹で迫りよる。
間合いを図ること、ワン・ツー・スリー、木製の丸棒を眉間に打ち込んだ。
「シッ!」
「ギャワッ!」
クリティカルになり、のたうち回るモンスター
雪華はとどめを刺した。
ドロップアイテムを回収してバトル終了。
良いお年を。