【TSF】ネットゲームの世界に転生しました ~魔王を討伐して富と名誉を~ 作:とんべえ
オオカミに似たモンスターホワイトワングの群れが迫り寄る。
雪華の武器は使いこんだ木製の丸棒だ。
先端を下方向に向け、待ち受けること五秒、鋭い突きを三連撃。
正確に鼻先をとらえクリティカル発生三匹を倒す。
残り二匹。
ホワイトワングは雪華の間合いのうちだ。
彼女は瞬時に丸棒を中程に持ち替え ――シフトウェイト―― 軸足を中心に大きく回す。
残りに二匹をまとめて吹き飛ばした。
「ギャワッ!」
静寂が訪れた。
あるのはホワイトワングの虫の息の物のみだ。
彼女はナイフでとどめを刺した。
動物の姿は消え、ドロップアイテムが現れる。
なめし皮を五枚手に入れた。
背負っていたバックパックの分を含めれば三〇枚以上あった。
「そろそろ売りに行くか」
いつもの南ゲート前に露天商が看板を出していた。
『【高価】なめし皮買い取ります【買い取り】』
NPCではなくプレイヤーであった。
メラニー=メランナと名乗ったので鈴苑雪華と名乗りあった。
普段はNPC道具屋で売りさばく雑品だが、まれにクエストで必要なアイテムとなるのだった。
その場合、割高で売りさばく事ができるのである。
「全部で千ゴールドどう?」
「それでよろしく」
それじゃあと背を向ける直前の事だった。
メラニー=メランナが「一緒に遊ばない?」と雪華に向て言ったのだった。
雪華は初め、どういう意味か理解できなかった。
昔、男だった頃の猥談を思い出したが、今は女なのだったので、パーティの話をしているのだろうと改めた。
メラニーは雪華がいつも同じところで狩りをしていることを知っていた。
雪華もどこかで見た姿だと覚えるぐらいには繰り返していた。
だものでメラニーは誘ったのである。
雪華は少し考えた。
マンネリであるのは事実だが、どの程度のリスクがあるのかは分からない。
リスクとは転生者という意味だ。
雪華は言った。
「ちょうど良かったって言っちゃうかな。こちらかもお願い」
メラニーは答えた。
「良いタイミングって?」
「さすがにマンネリ気味なんだなこれが」
「それじゃぁパーティ結成を祝して」
二人は握手をその証とした。
ブラックスミスのメラニーは少々変わった出で立ちをしていた。
隠す所はちゃんと隠しているが露出が大きい、だがセクシャルというよりは粗野というデザインだった。
多彩な色を使っているのも、要因の一つだろう。
何より目を引くのは身の丈より大きなハンマーだ。
うら若い現代風アマゾネスが評価として適当だった。
問題はどこへ行くかである。
雪華は昆虫系を苦手としていた。
ステータスではなくグロテスクな見た目が苦手なのだった。
事実森の中で遭遇した場合は極力避けていた。
全長一メートルに達する芋虫を想像すれば、理解はされよう。
(だが苦手意識を放っておくのは良くない)
良い機会だとプレセンティアから南東にあるソシルオ村へ向かうことにした。
動物系・植物系・昆虫系モンスターに事欠かないエリアだった。
メラニーは言う。
「それじゃぁ出ッ発!」
大型のモンスターには大型の武器が、小型のモンスターには小型の武器が適切である。
メラニーはハンマーとは別にアクスを持っていたので、雪華はラウンドシールドとショートソードを選んだ。
レベルだけならメラニーの方が高いが、盾を持っている雪華が先頭に立つことになった。
ガスや糸を吐くモンスター対策である。
メラニーが言う。
「雪華ちゃんってさー、」
ちゃん付けはやめてよ、と彼女はそう思ったが、変なニックネームになるよりは良いと気にしない事にした。
雪華は飛来してくる吸血蝙蝠を、盾で受け止め弾いてからショートソードで切りつけるという戦いをしていた。
「カメラアングルって後ろからみてるの?」
カメラアングルと聞いて雪華はなにの話か良く話か良く分からなかった。
「カメラアングル?」
「カメラアングル」
メラニーは、樹のモンスターウィローをアクスで叩き砕いていた。
雪華はメラニーを襲う枝をショートソードで切り落としていた。
「あ、あー。視点の事ね。」
まずい、どうしよう、雪華はそう思った。
通常であればつまりメラニーはスマホの画面で見ている、つまり周囲もまとめて見れる俯瞰視点〈バードビュー〉だ。
一方、リアル視点、つまりキャラクター視点に限定されている雪華にはそんな物はない。
嘘をつきたくはなかったが、転生の話になればこじれるに決まっているので、こういった。
「ちがうよ。リアル視点」
「そっかそうなんだ。ひょっとして噂のログアウトできない人?」
「はい?」
「知らない? そう人たちの事」
「……居るの? 初めて聞いた(そういえばあの神様は二度目がどうのって言っていたな)」
「だんだん増えてるって話もあるんだ」
「初めて聞いた」
「そう、あ、地震だ。最近多くて困る……ニュース速報でた。震度6だって」
「地震?」
「ごめんなさい。ちょっと上が――」
メラニーはログアウトして消えた。
(地震で回線が落ちたかな)
一瞬、もう戻れない家を思い出したが、すぐ止めた。