【TSF】ネットゲームの世界に転生しました ~魔王を討伐して富と名誉を~ 作:とんべえ
キャラクターの能力はステータスで決まるが、職業によるスキルボーナスがある。
剣の威力を高めたければ、力の強さと器用さを上げれば良いが、職業スキルである片手剣スキルを挙げると、さらに威力が増す。
もちろんこれは剣士系のスキルであり、他の職業を選んだ場合、別のスキルを活用する戦い方になる。
ブラックスミスの場合は、鍛冶打ちをするので、鈍器系の武器を選ぶとスキルボーナスが付くのであった。
雪華とメラニーが本来装備できない武器を使えるのは、スマホ越しで操作している一般ユーザーと異なり、実際にその場にいる転生者だからである。
二人はいかにウロボロスシステムを使いこなせるかがポイントになる。
例えば、メラニーがアンデットに囲まれていた場合、飛び武器を持たない雪華はどうするかというと、足元にある石を蹴りつけるのだ。
そうすると石が当たったアンデッドは、その方に向きを変え、つまり雪華のショートソードで、倒されるのである。
雪華のショートソードは青い光を放っていた。魔力の消費と引き換えに武具の威力が増す雪華のユニークスキルだった。
「フゥゥーハッ!」
一閃、三体のアンデッドつまりスケルトンやグールやらのアンデッドの首が文字通り飛んで行った。
雪華が「グールはともかくスケルトンは黄金の頭蓋骨を落とすからその路線でいこう」と言ったのでメラニーは「お金随分ため込んで何に使うん?」と聞いた。
「家」
「家かぁ。拠点としてはありだけど、賃貸?」
「もちろん分譲。今利率が低いから狙い目」
「利率?」
「割り増し払う代わりに、まとまった金を貸してくれるって。それで買う」
「誰に聞いたのそれ」
「同じ終焉派の人。冒険者ギルトにも裏を取ったから間違いない。ウロボロス銀行、ガイドブックにも載ってない裏テクだ」
「ログアウトのある普通のユーザーには意味ないしね。と言いますか借金返済の為の冒険って切ないよぉ」
「何を言いますか。ワンルームだろうと一国一城の主」
「最下層の魔王〈ヴァンパイア〉目指さないの?」
「後回しで問題ありません。どう?」
「うーん、私の部屋もあるなら」
「結婚しようか」
「考えておく」
冗談を交える和やかな空気、その時だ、突然寒気が二人を襲ったのである。
「なに、あれ……」
先に気づいたのはメラニーだった。
彼女の視線の先に黒い球体が存在していたのだった。
それはモンスターでもなくウロボロスシステムによる自然環境効果でもなかった。
したがって、黒い毛玉が浮かんでいるという表現では誤りとなる。
空間を貫くただの黒、が正しい。
雪華が思い出したのは自らを管理者の石と名乗った神、それとの接見である。
その得体のしれない圧力に二人は、空間に固定でも去れたかの様に身動きが取れなくなった。
(なんだこれ、金縛りか? 突発イベントにしてはなんか妙だ)
それに触れた一体のグールは、幾何学的な球面を残して、消えた。
(まずい、うごけない、というか呼吸ができない。メラニーッ!)
メラニーも同じ状態に陥っていた。
(動け、動けーっ!)
雪華はどさりとメラニーの倒れた。
「あっ、か、――はぁぁぁぁ」
雪華は呼吸らしきものを取り戻し、身体の自由らしきものも取り戻した。
バックパックを投棄し、メラニーを背負う。
一歩、二歩、三歩、遠ざかる程に受けていた圧力が弱まる。
それは十歩に至るか至らないかという頃である。
メラニーはむせ返した。
呼吸と身体の自由を取り戻したのだった。
「メラニー、歩ける?」
「……どうにか」
何かが歩み寄る音がする。
二本の足で大地をこする音だ。
出入り口は目と鼻の先なのに、障害が現れた。
「こんな時に、くっそ」
構える雪華のショートソード、その先端を摘まんでいたのは終焉派の隊長 真一郎だった。
「君たち運がいいね。あれに遭遇して無事だったのなら」
「……隊長?」
「いえす、ざっつらい」
「この先は今危険ですよ」
「答えは“いいえ”だよ」
真一郎の背後から一人の男が現れた。
先日冒険者ギルド職員のセレスに不埒な行為をはたらいていた者だ。
「強制ログアウトが掛かってもここにいるなら、こいつらも転生者か。ふん、まぁいい」
真一郎とその不埒者の関係と問いただそうと、雪華が口を開く前に、その不埒者は奥に踏み入っていった。
「真一郎さん、あの男を止めないと死にます」
「あの男はダンプトと言うんだけど、ウロボロスに転生して十八年だそうだ」
「十八年……」
「延命派の隊長をやったことも、終焉派の隊長をやったことも、レベルを最大まで上げたことも、ウロボロスにこの人ありという位有名な人だった。でもいつの間にかああやって終わりを求めはじめたんだそうだよ」
その男ダンプトは、徐々に薄くなり、足が消え、腕が消え、最後は吸い込まれるように全てが消えた。
対消滅だと言わんばかりに黒いナニかも消えた。
「真一郎さん、あの黒いのは一体何ですか」
「素粒子の糸くず、それが塊になった物」
「素粒子?」
「簡単に言うとエラー。複雑化したこの世を運営しているシステムの、避けられない間違いの塊」
「簡単に言って、危険なものだとわかりました」
「そだね。それが分かりやすい。それじゃ僕は終焉派管轄の他のダンジョンへ行くから」
「それじゃ」
「さよならー」
「雪華、はい、バックパック」
「メラニー、体の調子は?」
「だいぶ時間があったからねぇ、もう問題無し」
「うちらも一度宿に戻ろう」