朝。
少女たちが脱出計画の要として製作を進めていた気球が破壊されていた。
「おっさんが、おっさんなんて、う、ウソだよな?」
「黙ってないで、何とか言えよ!!」
そしてその犯人は外出禁止時間に出歩いていたミリアだという。
さらには、ミリアの正体は魔法で精神を入れ替えた大人の男でこの牢屋敷に少女たちを監禁した黒幕だと。
そうナノカは告発した。
「ナノカちゃん、何を、言ってるの?」
「も、もう訳がわかりませんわ!!!」
「…………」
少女たちの冷たい視線に晒されるミリア。
だが一切の反論もないまま看守に連行されていく。
「ちょぉっと待て」
それを、海堂が呼び止めた。
「……ちゅーか、さっきからみょーにお前さんからニオうんだよなぁ」
ミリアの動きが止まる。
「すっぱい感じすんぜ? ……あんまし女の子にこういうことゆーのはアレだけど、よ」
鼻のあたりを叩きながらミリアに近づく海堂。
ミリアは微動だにしない。
「なれはてに襲われる前のお前だったら絶対こんなにおいはさせなかっただろ。何があった」
微動だにしないまま、
ミリアはほんの少しだけ、口を開いた。
「おじさんはずっと、みんなの味方だよ」
「……なに?」
それだけ言って、またミリアは看守に連れられていく。
「おい!! 意味わかんねーこと言ってんじゃ」
「まぁまぁ。懲罰房に行ってからゆっくり聞けばいいじゃないですか」
「ッ、離せよハエ女!!」
「嫌でーす」
怒り心頭の者と、困惑する者、そして思案している者。
十人十色の顔色がそこにはあった。
「くそっ、くそっ、くそっ…………ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなぁあああ!!」
地面を叩くアンアンの怒号だけが監獄島に響いていた。
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「────以上よ」
朝食の後、気分が悪いというアンアンとそれに付きそうメルルを除く、残った少女たちは早速ナノカに幻視の内容を聞き、衝撃と混乱のるつぼに目を回した。
「じゃ、じゃあ今のミリアちゃんは【入れ替わり】の魔法でとっくに入れ替わっていたってこと……?」
「いやそれ……マジならキモ過ぎとかいうレベルじゃないんですけど」
「それでこの牢屋敷の黒幕だって……? ふざけすぎだろ」
「正直、信じられませんわ……ミリアさんがその……本物の【おじさん】だというのは」
「事実よ。【幻視】で視たんだもの」
「ふぅん……」
キッと口を結ぶナノカに、マーゴは訝しみの視線を送る。
「ちょっと聞いていい?」
「なに?」
「この前の裁判では実際に物的証拠が出てきたからこそ、幻視で見た映像を証拠として提出できる客観的事実として裏付けが取れていたと思うのだけど……今回もそういう幻視以外でミリアちゃんが黒幕だといえる証拠は見つけられているのかしら」
ナノカの表情が固まる。
「……もしかして、ないの?」
「………………言われてみれば、なかったわ」
おいおいおいと少女全員ため息をついた。
「じゃあほとんど言いがかりじゃねーですのよ」
「マジで信じちまったじゃねーか。びっくりさせやがって」
「えっ」
「……ナノカさん。申し訳ないですけどさすがにそれだけでミリアさんを黒幕というのは証拠不十分ですよ。変質者としては証拠十分ですが!」
「それはそう」
ココがうんうんと頷く横で、エマは深く思案していた。
「……でも、ミリアちゃんの本人の口から何があったかをちゃんと聞きたいよね」
「確かにな。少なくとも中身がマジのおっさんなのは確定してるわけだろ。何かしらのワビは入れさせねーと気が済まねぇ」
「いやいやそういう物騒なことじゃなくて……もしかしたら何か事情があったのかもしれないし」
「事情?」
少女たちの視線がエマに向く。
「みんなもよく思い出してみてほしいんだ。実際にミリアちゃんが昨日までどんな子だったのか」
「ふーむ。なるほど……」
大多数の少女にとってのミリアの印象は、おどおどとしていてあまり要領は良さそうではなかったが、常に穏やかで包容力があり、面倒見もよかった。
ココなどは遊び相手として良くしてもらった記憶も多かった。
そして少女たちの記憶に新しいのは、鏡に吸い込まれそうになった事件と、なれはてに襲われたアンアンを助けて負傷した事件。
そこで少女たちはミリアが仲間想いの強い人物であることを強く知ったはずだった。
「…………なんかよく考えたらさ、別に中身がマジのおっさんとか関係なくいいヤツ過ぎね?」
そしてミリアの本質にいち早く気づいたのもまた、ココだった。
「ナノっちが言うにはカラダ目的で入れ替わったらしいじゃん? にしちゃぁ別になんかセクハラしてたとか聞いたことないし……ん-?」
「言われてみりゃあ確かに……」
「……ていうかそもそも【入れ替わり】の魔法って双方の合意がないとできないんじゃなかったでしたっけ」
あ、と全員が口を開けた。
「じゃあ……別に何の問題もないんじゃないですか?」
「かもしれませんわね……気球を壊したのだって、ミリアさんがやったとはとても思えませんわ」
「うぅ……」
「……まぁ、そういうこともあんだろ。オメーもびっくりしてつい言っちまったんだよな?」
うなだれるナノカに、アリサもばつが悪そうにフォローを入れる。
「佐伯のとこには一緒に謝りに行ってやっから」
「ひとりで行けるわよ」
「…………はぁ」
マーゴはため息をついて、エマに別の話題への転換を求めた。
「あ、うん……よし……じゃあ、はい! 脱出計画の再始動をしよう!」
「あぁ、それもやんなきゃですね」
「せっかくの気球が……」
「やー、さすがにもう見られちゃったもんは使えねっしょ」
「そうなんだよね……なにか他にいい案を考えないと」
少女たちはみなミリアのことはいったん脇に置き、新たな脱出計画について練り始める。
拭いきれない不安を押し殺しながら、それでも……
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臨時の報告会の後、ナノカとマーゴの二人は自分の監房へと戻ってきた。
檻を閉めてすぐ、カーテンで外からの視線を遮断する。
「改まって、話って何?」
腕を組んで訝しむナノカの視線に、薄く笑うマーゴ。
「あなたを、占わせてくれないかしら」
椅子と丸机を設置しながら、マーゴはナノカに提案する。
薄笑いだがしかし、その瞳には確かな意思が感じられた。
「占い?」
「えぇ。タロットカード……シンプルでしょ?」
「じゃあせっかくだから……お願いしようかしら」
「OK♡」
椅子に座って快諾するナノカ。
幻視のことで振り回してしまった負い目があるのと、純粋に年相応な占いへの淡い興味もあった。
マーゴがカードをシャッフルする様子をじっと見つめている。
「ナノカちゃんがそんなに熱い視線をくれるなんて……なんだか照れちゃうわね♡」
「ご、ごめんなさい」
「うふふ」
シャッフルし終わったカードを山にして、マーゴはその上から三枚を引いて、裏側のままナノカの前に置く。
「ナノカちゃんから見て右から過去、現在、未来を暗示するカード。そして正しい向きなら正位置、そうでないなら逆位置よ」
「わかったわ」
「では、まずは過去から」
めくられたカードに描かれていたのは、空に落ちる太陽。
「【太陽】の逆位置……ナノカちゃんは何か、過去に大切なものを失っている」
「!」
「その様子だと、心当たりはあるようね」
露骨に目が泳ぎだすナノカ。
マーゴとしてはいつものようにだれにでも当てはまるような十八番の暗示を言ったつもりだったがしかし、予想以上の効果だった。
「ごめんなさいね。別にあなたの過去を暴きたいわけじゃないのよ。ただ三枚のカードはあなたの運命をより良いものにするためのもの。そこまで思いつめるものではないわ」
「え、えぇ。大丈夫」
深く深呼吸して、ナノカはまた目の前のマーゴに意識を戻す。
「続けて」
現在のカード。
描かれていたのは、犬を連れた男。
「【愚者】の正位置……現在のあなたはまだスタート地点にいる。どこに行くこともできるし、どんな選択もできる」
「へぇ……」
ナノカの表情には感嘆の色。
なんてわかりやすい子なんだろうとマーゴもうっとりしている。
「【愚者】っていうくらいなのに、随分ポジティブな結果なのね」
「ふふ、タロット占いにおける【愚者】は【おバカさん】って意味じゃないのよ。アルカナの旅路をゆく主人公にしてゼロ番目の大アルカナ……すべての始まり、無限の可能性を意味するの」
「なるほど……野菜とお肉のスープみたいなものね」
「うん?」
「カレールーを入れればカレーになり、シチューのルーを入れればシチューになる。和風だしで肉じゃがにしてもいい……そういうことよね」
「え、えぇ。そういうことよ」
「ふふん……」
とりあえず満足している様子なのでマーゴは最後のカードをめくる。
描かれていたのは……
「【皇帝】の逆位置……不安定、誤った判断による失敗の暗示ね」
「な……」
顔を青くするナノカ。
だがマーゴは微笑んでいた。
「言ったでしょう? これは未来のカード。本当にそうなるとは限らない。確定しているわけじゃないわ」
「そ、そうね……うん。そうよね」
「ねぇ、ナノカちゃん」
「なに?」
「似てると思わないかしら」
するりと、蔓のように。
マーゴの手がナノカの手を絡めとる。
「この占いと、あなたの【幻視】の魔法」
「似てる?」
「えぇ」
ナノカは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔でマーゴを見る。
「過去や未来の情報を断片的に得て、それを未来に生かそうとする……という意味ではよく似てると思うのよね」
「それは、確かに」
頷いて、しかしまだ釈然とはしていないナノカ。
「でも、いきなり何?」
「だからこそ、誰かの運命を知ることができる力を使うときは、相手の気持ちに立つべきよ」
マーゴの瞳は、真剣そのものだった。
「いい、ナノカちゃん。確かにあなたが視たミリアちゃんの過去は人道に悖るものだったのかもしれない」
「…………」
「でもそれはあくまで断片。別の情報……たとえば見えた幻視の前後に何が起きていたかで、まったく意味が変わるかもしれない」
「意味が……変わる?」
ナノカの問いに、マーゴは頷く。
「さっき幻視の内容を教えてくれた中で、ミリアちゃんは踏切の前で泣いていたというのがあったわよね」
「えぇ」
「それはたとえば、どんな状況?」
「どんなって……」
考えてこともなかったことを考えるナノカ。
女子高生が泣きながら踏切の前にいる状況。
そして、思い至る。
「まさか……自殺しようとしていた?」
目を伏せ、ゆっくりと頷くマーゴ。
「でも、なぜ」
「それこそ知る由もないこと……重要なのはそこではないでしょう。そんな彼女に何が起こったか」
「【入れ替わり】……あっ」
自殺しようとする女子高生に肉体の交換を迫る男。
だがそれは、『死のうとする少女に、すでに安定している成人男性が自分の生活基盤を譲渡しようとている』とも言い換えられる。
「……そういうことかもしれないし、そうでないかもしれない」
「私はもしかしたら……とんでもなくひどいことを……」
「そう思えたのなら、あなたは自分の魔法をもっと上手く使えるようになるわ」
「ありがとう、宝生マーゴ」
頭を下げるナノカ。
「……どういたしまして」
「でも、意外ね」
「というと?」
「あなたは、あまり人に説教をするタイプには見えなかったから」
「……ふふ、そうね」
マーゴ自身、自嘲するように笑う。
「いわれのない罪を着せられるのは、誰でも嫌でしょう?」
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「よし剥けたぞ」
海堂はメルルとともにアンアンを医務室へ運んだあと、そこでまたリンゴを剝いていた。
「いらん……物を食べる気分ではない」
「……そうかい」
「アンアンさん……」
さめざめと泣くメルルに、海堂はお前も少し休めと椅子を差し出す。
メルルは頭を下げたあとそれに座ってすぐ、舟をこぎ始めた。
「……寝つき良いな」
「メルルは……ずっと誰かしらの心配をして、常に気を張っているんだろう」
「なるほどな」
納得した海堂はベッドの上でみの虫になっているアンアンを見つめながら、機嫌を直させるにはどうすべきか思案した。
「んー、なんかないか?」
「んん?」
「してほしいこととか、ねーのか?」
「……ミリアの開放だ」
「いやそれはちょっと……」
アンアンはみの虫からダンゴ虫になってしまった。
「他ので頼む!」
手を合わせ頭を下げる海堂を、アンアンは横目でちらりと見て、少し考えてから答えた。
「今日一日……吾輩に付いて、吾輩の言うことを聞いてくれないか」
「はい?」
「そうするなら大人しくしていてやる」
ムスッとした顔で睨みつけるアンアンに頭を搔きながらどいうすんべと海堂。
しかし背に腹は代えられぬと腹をくくった。
「いーでしょう!!」
「……いい、のか?」
「おうとも。二言はない」
「じゃあ……ふふ。さっそく、いいか」
「っしゃこい!」
アンアンは儚げに笑う。
「一緒に遊んでほしい」
午前中はアンアンの提案する遊び……主にアンアンを高い所に揚げたり回したりの、本来なら小さい子供にやるようなことを145㎝の少女にやるのはかなりの疲労を伴うと思われたが、海堂直也はオルフェノクである。
尋常の体力はしておらず海堂自身もアンアンのことはほぼ幼児として接していたため特に違和感を感じていなかった。
「────何やってるの」
ナノカが医務室に見舞いに現れるまでは。
「遊んでやってんの」
「見ればわかるけど……」
「ほーれ【ピザ回し】」
「わははははははははは!!!」
「(私が間違っているというの……?)」
ぐるぐると目を回すナノカにメルルは肩を寄せた。
「お昼は吾輩の言う通りのレシピで、パンケーキを作ってほしい」
「────はい作りました!」
「「「うぉおおおおおおおおおお!?」」」
昼食時、少女たちの目の前には五段重ねでホイップクリームのデコレーション。イチゴやブルーベリー、はちみつとシロップが彩りを魅せるアンアン印のパンケーキ。
本人も満面のどや顔を披露。満足気である。
「こんなん作っちゃってまぁ……自分でもびっくりですわ」
「みな、食うがいい!!」
「「「いただきまーす!!!」」」
少女たちが幸福を頬張るさまを見て、アンアンは笑った。
しかしすぐにそこに寂しさが滲んで消えるのを、肩に載せていた海堂だけが気づいた。
「一緒にホラー映画を観てくれ」
昼食後の娯楽室。
海堂の脚の間にアンアンは腰を降ろして二人で薄暗い画面の中を見ていた。
人間が次々と黒い塵に変わり、世界が崩壊していく中で懸命に希望を探して生きる二人の男女の結末を見届けた。
「……お前さん結構どぎついやつが好きなのな」
「こういうのがいいんだ」
「正直映画のホラーとかもう全然怖くねーだろとかナメてたが……いやぁこれはすごいぜ。下手に血とかモツとか見せない、搔き立てられるコワさっつーか、想像させて怖がらせる感じが上手いっつーか」
「中々話せるじゃないか」
「フ、なめんな。こう見えても芸術批評はおちゃのこ……って、ちゅーかアンアンさんよ。スケッチブックはどうしたよ」
話せるじゃないかというアンアンの言葉で思い出したのか、海堂はアンアンが今日はスケッチブック越しでの会話をしていないことに気づく。
「あぁ。あれはもういいんだ」
「もういい?」
「うむ。なくなったんだ【魔法】」
「あ……そう。そうなの」
「…………」
「はぁあ!? なくなるとかあんのか!?」
「あるみたいだ」
アンアンは恥ずかしそうに微笑して、海堂の手を包む。
「……天使よ」
「ん?」
「今日は、吾輩のためにありがとう」
「あぁ、まぁいいってことよ」
「最後に、もう一つ聞いてほしいことがある」
「何だ?」
一呼吸おいて、アンアンは答えた。
「吾輩の、【罪】について」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「【私】が起きたぞ! 一番綺麗な紅茶を淹れろ! それと! とっても美味しいパンを焼け!」
「はぁいアンちゃん♡」
「待っててねアンちゃん♡」
病弱で引っ込み思案な【私】のために、両親はとても甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
それが、その頃の【私】にはたまらなく嬉しくて、嬉しくて。
だから、なんでも欲しがった。
欲しいものはなんでも手に入った。
本でも、ゲームでも、服でも、住む家でさえも。
「これも! これもこれもこれも! ぜーんぶほしい!! 前にも言っただろう? もう【二度と忘れるな】! 」
なんでも、手に入ってしまった。
部屋には、欲しかった楽しいモノがあふれていた。
「「アンちゃん、他にも欲しいものはない?」」
「お父さんとお母さんの真っ赤な笑顔!」
安心だけは手に入らなかった。
「一人は怖い、そばにいて」
「はぁい、アンちゃん♡」
「眠れない、そばにいて」
「はい、アンちゃん♡」
しばらくして、両親は片方が片方をかばうように、交互に現れるようになった。
この時から、両親も【私】も、なんとなく魔法の存在に気づき始めていた。
なぜ願いが叶い続けるのか。叶え続けえてしまうのか。
それでも
変わらない。
「アンちゃん、他にも欲しいものはない?」
「お父さんと……お母さんの真っ赤な笑顔!」
安心だけは手に入らなかった。
「アンちゃん♡ケーキを焼いたわよ♡」
「違う」
「アンちゃん♡クッキーもあるぞ♡」
「違う」
「アンちゃん♡アンちゃん♡アンちゃん♡」
「アンちゃん♡アンちゃん♡アンちゃん♡」
「やめてくれ」
「「アンちゃん、他にも欲しいものはない?」」
「お父さんとお母さんを返してよぉおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
両親は、度重なる洗脳のせいでついに精神を壊した。
安心の意味を、失った。
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「【私】は【私】を許せなかった。だから【吾輩】になることにした」
海堂は、何も口にすることができなかった。
「天使、吾輩を処刑してくれ」
想像を絶するアンアンの境遇に目を抑えて伏せた。
「欲しいと願って、願い続けた果てで、本当に失ってはいけないものを失った……吾輩は、幸せを願ってはいけなかったんだ」
「違う!」
そして、否定する。
アンアンではなく、アンアンが自分を追い込もうとする場所を。
「それは違うぞ。いいか。お前は!! ……お前は確かに間違えた。取り返しのつかないことをな。……そんで、ちゃんとそれをわかってる」
「わかっているから、なんだ」
「もう、間違えないだろ」
アンアンの歯が軋む音が響いた。
「でも……でももう帰ってこないんだ!!!! 失った人たちは!!!!」
「背負うしかねぇだろ!」
「!?」
海堂はしゃがんでアンアンの肩を掴んで、強く答える。
「背負うことしか……できねぇんだよ。そんでそいつらの分も、お前が幸せになんだよ」
「でも、吾輩は……」
「お前だって被害者だ。望まねぇ力を勝手に持たされて、苦しんで……だから、もうそれ以上自分を責めるな」
アンアンの頬に、伝うものがあった。
「優しすぎる……お前は」
「俺様のいいところだ」
「でも、そう言ってもらえて、嬉しい」
「おう」
「自分を許すことは……まだ難しいと思う」
伝うものを、袖で拭って、強い瞳で答える。
「だから、まずはその優しさに相応しくなれるよう努力する」
「おう!」
わしわしとアンアンの頭を撫でる海堂。
アンアンも、恥じらいながらもそれを受け入れていた。
「(だから天使よ、見ていてくれ。これから見せる吾輩の一大劇作を)」
アンアンに安心はもういらなかった、突き動かす使命感が、身を焦がしているから。
「なんで」
「なんでよ」
佐伯ミリア、【死亡】。
残る魔法少女は───あと9人。
「なんで、こうなるのよ」
夜。21時。
懲罰房にて黒部ナノカと柴藤アリサが佐伯ミリアの磔にされ腹部を切り裂かれた死体を発見。
まだ、一日は終わらない。