「────お前、【オルフェノク】だったのか」
「へぇ、そういう名前なのか。この力は」
向かい合う。白い孔雀と蛇。
あまりに尋常でない光景に、少女たちの顔色は恐怖に染まるばかりだった。
「オル、フェノク?」
ナノカの問いかけに、アリサはハッとして答える。
「一度死んで蘇ったっていう……天使の兄さんと、同じってことか!」
「え!?」
「は、え、あれが魔女なんじゃないの!?」
「────どうやら……イレギュラーが発生したみたいですねぇ」
天井から、疲れた男の声が飛んでくる。
「……ゴクチョー!? あなたさっき死んだじゃ……」
「代わりの体です……そう簡単には休めないのが、この仕事の辛いところなんですよね……」
「うげー」
やれやれと言わんばかりのゴクチョーに少女たちから悪態が漏れる。
「オルフェノク……でしたか。まさか囚人の中から現れるとは……」
「テメェ……生きてたんならなんとかしろよ!! もう魔女がどうとかいう問題じゃねーだろ!!」
「いえ、問題ありません。蓮見レイアさんは間違いなく……【魔女】ですよ」
「なに!?」
ゴクチョーは気だるげに、ぱたぱたと少女たちの上を旋回している。
「彼女の内にある【魔女因子】が極端に亢進しています。通常ならもう言葉の通じない【なれはて】になっていないとおかしいくらいに……どうやら、オルフェノクとなったことで意識を保ったまま、真なる魔女として覚醒してしまったようですね」
少女たちの背筋が凍る。
昨日まで仲間だったはずの、一緒に笑っていたはずの蓮見レイアは、ノアを殺して本当に人間をやめてしまったのだと理解する。
「というわけで、予定通り【処刑】を執行してください。頑張ってくださいね……【天使】さん」
海堂を見やりながら、ゴクチョーは天井に消えた。
「…………はーあ」
深くうなだれた後。
「……なんでこうなんのかね」
海堂は、レイアだった孔雀に問いかける。
「天使……そんなに私たちを殺したくないというなら、いい方法を教えてあげるよ」
孔雀は、海堂に重刺剣を向ける。
「逆に、殺されればいい」
「ふざけろ」
重刺剣を掴み、引き寄せて。
海堂はそのままレイアごと窓の外に飛び出した。
「天使!!」
「逃げろ!!」
レイアの拳をいなしながら、海堂は少女たちに呼びかける。
ナノカは看守を助け起こしながら、海堂から目を離さない。
「でも!」
「いいから逃げろ!! 忘れたのか! 俺様は【処刑人】だ!」
「!!」
処刑人。
それは魔女を殺す者。
海堂直也は、人を殺めた罪ある少女たちを殺す宿命にある。
「他のやつらも連れてな! 行け!!」
「────させないよ」
レイアが手をかざした瞬間。
「!? なに……? なんで、蓮見レイアに……」
ナノカの視線が海堂ではなく、白い孔雀の怪物に吸い寄せられた。
「え、な、体が勝手に……!?」
「に、逃げらんねぇ!?」
ナノカだけではない、他の少女たちも。
操られるように立ち上がり、
「どうやら、もともとあった力もより強くなっているようだね」
「何しやがった」
「【視線誘導】。人の視線を好きに操作できる。それが私の魔法さ」
自らの白い肢体に喜びを感じながら、レイアは語る。
「今、みんなの視線を私に固定させた。……ここまで広範囲の複数の人に魔法をかけることはできなかったはずなのに、どうだい。無理を押してまで私を見ようと立ち上がってくれるまでになっている!!」
飛び出した窓の方を見れば、次々と少女たちが窓の外に乗り出そうとするのを、シェリーやナノカが必死に抑えつけていた。
全員、視線はこちらに向いている。
「やめろ!!」
「嫌だね。これが生きがい。私の一番楽しいことなのさ」
「……!」
「思い出したかな? 昨日、君が言ってくれたことさ。楽しいことをしていれば余計なことを考えずに済む。そうだとも! 私は今、充実している!!」
海堂の拳がレイアの正中線に直撃する瞬間、海堂の背後にレイアがいた。
「!?」
「話の途中だろう!!」
「ぐあッ!?」
火花を散らしながら、海堂が地面を転がる。
「天使!!」
「くそ、速ぇな……!?」
振り返ろうとした瞬間、海堂は違和感に気づく。
「(首が回らねぇ!?)」
「私を視認できない位置に、視線を固定した」
「なに!?」
「君には見られなくても、別にいいしね」
「うおッ!?」
背後からの音もない攻撃の連続。
怯みながらも海堂はカウンターを入れようとするが、レイアのスピードはそれを避けていく。
「遅い遅い……何もかもが!」
「チッ……(攻撃された後じゃ、もう捉えらんねぇか)」
遊ぶように、レイアが正面から攻撃を繰り出してきた。
「ハンデ欲しいかい?」
「余計なお世話だよ!」
それを払いながら、海堂がレイアの急所を突こうとする動きさえわかっていたように、今度ははレイアがカウンターを入れる。
「ぐお……!」
「ははは、そんなものかい? 先輩」
「テメ……!」
「おっと」
ひらりと躱して、また背後に回る。
「やっぱり……この力の使い方においても、私は一番のようだね」
レイアの高笑いに、少女たちは歯嚙みする。
「卑怯者ー!!」
「卑怯? ……持てる力を最適に使うことのどこが卑怯なのかな?」
「配信だったら炎上してんぞ芸能人!!」
「ハッ……というか、僕は今不当な裁判による処刑に抗っている真っ最中だ。君たちの投票による、ね。……卑怯なのは、はたしてどちらかな?」
「【人殺しが卑怯を語るな】!!」
「……うーん、まあこれから仲良くなればいいか。きっと、力をくれた私への感謝が、憎悪すらも上書いてくれるだろう」
少女たちの自分を蔑むような視線すら、今のレイアにはただ自分の存在証明を喜ぶためのものでしかなかった。
「ハ、ガキがいっちょ前にイキりやがって……世の中な、上には上がいんだよ!」
「フン」
海堂の背後への横殴り。
もはや見る必要すらないとばかりに、レイアは歩き避ける。
「そういうこと言うやつに限って、勝つ努力をしてるようには見えないんだよねぇ……なんでなのかな。自分より上がいるなら、そいつより上になるための努力をすればいい。簡単な話だとは思わないかい?」
軽い談笑でもするかのように、レイアは笑いかける。
「……まぁ、同感だな」
「ふぅん……なら、君の努力も見せてほしいな」
海堂の死角から、重刺剣が飛ぶ。
「──左、首狙いの7時!!」
ナノカの声が響いたとき。
海堂の腕が重刺剣を折り砕いていた。
「なに!?」
「ハァ!」
「ぶッ!?」
孔雀の横面を、蛇の拳が殴り抜けた。
「……サンキュー」
少女たちの中から歓声が上がる。
「的確な指示、ナイスでしたナノカさん!」
「ナノっち、すげぇ……全指示厨見習うべきじゃん」
「ちょっと違うくねーですの?」
「勝て、勝ってくれ……天使」
「…………」
だが、笑顔を取り戻した少女ばかりではなかった。
「(……なんで、こんなことになってるんだろう)」
エマの頬を、涙が伝っている。
「(あんなに優しかった天使さんと、レイアちゃんが殴り合って、殺し合って……こんなの、こんなの間違ってるのに……)」
「……桜羽」
「(みんなはそれを良しとしてる。でも、ボクには何もできない……ただ、誰かを魔女だと追い詰めるだけ……ボクたちの中に、正しさなんて……)」
「桜羽!!」
アリサに肩を揺らされて、エマの瞳に光が戻る。
「アリサ……ちゃん?」
「今は、見届けようぜ」
「え……?」
「どんなに見るに堪えなくてもよ、こんな状況になってるのはあのバカを追い詰めたウチらの責任でもある。……だから……せめて焼き付けようぜ」
エマの手が、アリサに強く握られる。
「もう二度と、こんなことが起きないようにするために」
「!!」
アリサの言葉に、強い決意に、エマの冷たくなっていた手に熱が戻る。
アリサの手を、エマは握り返した。
「そう、だね」
「おう」
「もう、誰かが死んだり傷ついたり……こんなことは最後にしないといけないから」
固定された視線。
その先で、蹲り怒りの声を上げるレイアだった孔雀。
「……なぜだ!! なぜだなぜだなぜだ!!」
「お前と戦ってるのは、俺だけじゃねぇ。お前が傷つけようとしたあいつらもだ」
「うあぁああああああああ!!!」
レイアの背に、まさしく孔雀模様の翼が広がる。
「ハハハハハ!! 空すらも私のモノということか!!」
「あん!?」
「翼が生えた!! 今度は空からも来る!!」
「なにぃ? ……そりゃそうか、鳥だったなあいつ」
「孔雀だ!」
空高くから、レイアがナノカに向けて突撃する。
「こっちに来る~~~!?」
「させっか!」
海堂は少女たちのいる割れた窓に走り、窓を塞ぐように立つ。
「ひっ……」
「視界塞いじまえば、お前らもう逃げられるんじゃねぇか? ほら行け!」
「あ、う」
「もたもたすんな!!」
「ダメよ! 私が見なきゃどこから攻撃が来るかも……」
「どのみち俺が塞いでんだから見えねぇだろうが!」
「あ……」
固まる少女たちを押し、海堂は無理やり窓から離れさせる。
「心配すんな。今ならわかる」
「カイドウさん!!」
「天使さん!!」
「兄さん!!」
「────アァアアアアアアアアア!」
空を裂く轟音とともに、孔雀は一本の大矢となって蛇を貫き……
「え?」
貫く、はずだった。
「なん、で」
海堂の左手に握られた短刀が、レイアの心臓を貫いていた。
「お前が剣出せるみたいに、俺様も出せるやつがあるのよ」
「ち、が」
正確に、短刀は心臓の位置だけを貫いていた。
「俺様は鼻もいいが耳もいい。デッケぇ音出しながら飛んでくれたおかげで、どこから来るかなんて見なくてもわかんのよ」
振動感知、蛇の特性。
海堂もまた、自身の能力を駆使して戦っていたことを、レイアはこの瞬間にようやく気が付いた。
「あ、あぁ……」
青い炎が、レイアを包んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「リンゴはね、むいた後は塩水にさらしてあげると長持ちするのよ」
「すごい!!」
幼き日、母との思い出にはいつもリンゴがあった。
「おいしい!」
「ふふ、ゆっくり食べて」
リンゴの味と香りがあれば、母の笑顔を思い出すことができた。
「いい? レイア。いつか、あなたに大事な人ができたら……こうやっていつも一緒においしいものを食べるのよ」
「? ……うん」
「そうしたらきっと……きっといつまでもいっしょにいられるわ」
……今思い返してみれば、母以外の家族と食卓を共にしたことはなかった。
「見て」
ベッドサイドモニタの音が響く病室の中で、私は母に耳打つ。
この真っ黒の画面に映る波形だけが、今の私に母の生を感じさせるすべてだった。
「私を見てよ、おかあさん」
母は、心の病だった。
蓮見の家の妻としての重圧に、負けたのだ。
もうこの病室に来ない父と兄は、壊れた家具を見るような目をしていたのを覚えている。
────許せなかった。
母のうつろな目が、私を見たことはなかった。
ときどき、テレビの中の華やかな景色に吸い寄せられているだけ。
だから、私もそっちに行くと決めた。
同年代の他の子が遊んでいる間も、自分を磨くことだけに集中した。
暇なのかとクラスメイトに言われた。
誰よりも勉強した。
そんなことより仕事を手伝えと言われた。
誰よりも我慢した。
お前などがと言われた。
誰よりも練習した。
どうせ無理だよと言われた。
誰よりも努力した。
嗤われた。貶された。嫉まれた。妬まれた。
誰よりも。誰よりも。誰よりも。誰よりも。
【母に見てもらう】
その夢ができた瞬間から、私は国民的アイドル【蓮見レイア】を作り上げるだけの存在になった。
生きることのすべてを、その夢に捧げた。
そうしていたらいつからか、私は家族の中で一番の稼ぎ頭になっていた。
父も、兄も、他の蓮見の人間のだれもが私に優しくなった。
家族どころか、子供はもちろん大人すら、みんなが私に優しくなった。
君ならできると、信じてたと言われた。
そう言う誰もが、私の目を見ていなかった。
────許せなかった。
ある日、私に人にはない力があることに気づいた。
願うだけで、みんなの視線が自分に集まるのだ。
クラスメイトの視線を私に集めてみた。
いつからか王子様なんてあだ名がついた。
観客席の視線を私に集めてみた。
あんなに遠かったセンターポジションが、噓のように足元に固定された。
笑顔。いちめんの笑顔。
私が、私のために、私の力で集めた笑顔。
冷たかった私の周囲の空気が、温かみのあるものになっていた。
人に見られるのは好きだった。
自分が他者より優れている実感を得られたから。
「なんだ、簡単だったじゃないか」
────こんなものなのか。
夢はいつか叶うだろう。
蓮見レイアの努力ではなく、故も知らぬ力によって。
ついに、母の視線と華やかな世界の中心にいる自分の姿が重なる日が来た。
テレビを見つめる母。
それを見つめる私。
夢が叶う時、人は胸を抑えるのだと知った。
「私を見てよ、おかあさん」
ゆっくりと、母が私に振り返った。
「……あら、どなた? はじめまして」
────ぐしゃり。
高いところから、果実が落ちたような音。
うつろな瞳に、ひどい顔をした私が写っていた。
最後に母が私を見てくれたのはいつだっただろうか。
────
「違う」
あぁ、そうだ。そうだよ。
こんな私は。
人にない力を持っている私は。
きっと、もう人間ではないんだ。
蓮見レイアでもない。
その形をしているだけの化け物。
そうに違いないんだ。
「……いっしょに、リンゴを食べませんか?」
「……よろしいんですか? 私なんかと」
「もちろん」
人に見られるのは好きだった。
自分がここに存在しているという実感を得られたから。
忘れられていないという証明を、得られたような気がしたから。
「なのに、わからないんだ」
夢も、家族も、社会も、人間も簡単なはずだった。
はずだったのに。
「私は、何のために生きればいいんだろう」
「みなさんは【魔女】になる因子を持っています。そして【魔女】になった囚人は……あのー……処刑しますので。そこの天使さんが」
最初の転機は、私という化け物の正体を知った日。
そしていつか私を殺すのだという……灰色の、私とは違う種類の化け物と出会った日。
彼は、死にゆく少女を救おうとしていた。
彼は、自分に私たちを殺させるなと言った。
そして、彼の作る料理には、素朴ながらも確かな気配りと繊細さを感じさせた。
行動と言動だけみれば、まるでただの善き人のよう。
処刑人、【天使】。
人の姿をしていないだけの、人。
私とは真逆の存在。
「────わからないんです」
昨日の、朝食のあと。
ノアくんを殺す前。
私の口はひとりでに彼に問うてしまった。
「何のために生きればいいのか、わからないんです」
「……あん?」
何を当たり前のことを、とでも言いたげな視線。
「あ、す、すみません突然。困りましたよね」
「別に困っちゃねーさ。びっくりはした」
「……あ、はは」
「何のために生きれば……ねぇ」
顎を掻きながら、彼は思案している。
本当に……仕草まで人間そのもの。
どこか気の良さそうな男の姿が透けて見えるような。
「あ。これとかどうだ?」
目の前に剥かれたリンゴが置かれた。
「…………え?」
青天の霹靂、とはこういう時に言うんだろうか。
「食うか?」
「え、えぇ……どうも」
いつの間に用意していたのか。
でもとりあえず、勧められるまま。
「いただきます」
つまんで、口に入れる。
「……しょっぱい?」
味覚を疑う。
「……!?」
疑った瞬間、想像以上の甘味が口内を満たす。
「リンゴはな、うっすい塩水にさらしてキンッキンに冷やしてやると……いいんだこれが」
「……おいしいです」
どこか、母の味を思い出す。
あの頃、何の不安もなかった、幼き日の思い出の味。
「メシが美味いってのは、幸せだよな?」
「……はい?」
突然の問いかけ。
意味がわからなかった。
「急にこんなとこにさらわれてきて、怖ぇこともあって……キツイと思う」
急に語りだして、なんだ?
「だからよ、どんなことがあっても……とりあえずメシは美味いって、わかってる幸せがあれば生きてやろうと思えるんじゃねーかと、そう思ったわけだ」
「……はぁ」
なんとも、安直な。
「あら? ちょっと違った?」
「いえ、ただ、このリンゴが思っていたよりも美味しかったもので、びっくりしてしまったというか……」
「なーんだよ! 嬉しいー!」
「……ハハ」
「いいか、そういうモヤモヤすんのはな、なにも楽しいことしてないから湧いてきちまうんだ。んなもん、とりあえず美味いメシでも食ったりしてりゃすーぐ忘れちまうさ。あんま深刻になんなよ」
……それはわかる。
誰かの視線を集めているときは、この空虚さを忘れることができた。
『もういい加減あきらめないか? あの人のことは』
でも消えない。
消えないんだ。
『お前には輝かしい未来が待っている。あの女のことは忘れろ。いいな』
こびりついたものに、すぐに塗りつぶされてしまって。
手の中から零れ落ちてしまって。
「……ごちそうさまでした」
「うむ。よきかな」
それだけじゃ、私を幸せにしてくれないんだ。
「お昼のバーベキュー、道具とか外に出すの手伝いますよ」
「お、いいの? サーンキュー」
わからない。
わからない。
────私は、どうすれば前に進める?
「大丈夫。これであなたは、一番になれる」
答えは、すぐにやってきた。
二つ目の転機は、私という化け物にもう一つの力を与えられた日。
まったく見知らぬ場所に突然迷い込んだと思えば、そこに人影があった。
「誰だ!?」
「ふふふ」
天使と同じ灰色の……いや、もっと白い【何か】。
樹木を思わせる風貌に伝説上の魔女を思わせる姿。
それが突然目の前に現れて……
「ぐふ……」
樹木の枝のようなものに、体を貫かれた。
その、次の瞬間。
「美しい……」
私もまた、白くなっていた。
これは、孔雀の羽だろうか。腕や足に生えている。
さらに、いわゆるフランスの騎士、シュバリエというんだったか。
あれに近い服飾を思わせる躯体。
そして鋭く輝く、もともと持っていた物より大きな重刺剣。
「同じように、みんなにも祝福を分けてあげてくださいね」
「何を言っている……?」
「【使徒再生】といいます。普通の人では死んでしまうほどの呪いも、魔女候補のあなたたちには祝福なのです」
「ま、待って……」
「どうぞ、心の赴くままに……」
そう言って【何か】が姿を消すとともに、私はもと居た場所に戻っていた。
「うっ」
力が、湧き上がってくる。
そして、告げてくる。
────殺し、殖えよ。地に満ちよ。
「…………あぁ」
そういうことか。
理解した。
何をすべきか。
何のために生きるべきか。
「そうか。力か」
力だけが、すべての答えだったのだ。
「わかっているよ」
殺すさ。
殺したい子なら、いるとも。
城ヶ崎ノア。
誰よりも奔放に、自己で周囲を塗りつぶさんとする虹色の……私よりも、みんなに見られていたあの少女を。
あの子がいたままでは、私は真に満たされない。
「でも、殺すのに力は使わない」
殺すことさえ祝福になってしまう。
「死んだままでいてもらわなくては」
あぁ楽しみだ。
「この【答え】を、早くみんなにも教えてあげたいな」
そしたらずっと。
みんな、私を見てくれるよね。
────そうだと、いいな。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「私は死ぬのか」
炎に包まれる自分を見ながら、レイアは海堂に問いかけた。
「……あぁ」
「死にたくない」
炎に包まれた腕が、海堂を掴む。
「まだ、死にたくない!」
海堂はそれを、払うでもなく。
縋りつくレイアの手を優しく包んだ。
「……レイア、あの時はちょっとふざけちまったけどよ」
「?」
「【何のために生きればいいのか】なんて真面目に答えるのがよ……ハズくてよ。ホントはこう答えたかったんだ……【夢のため】だって」
「夢……」
夢と聞いて、レイアが思い出したものは。
「母さん……」
「どんなヒネた子供でも、笑って生きていけますように」
「……?」
涙で、揺れる声。
「それが、俺の夢だった」
海堂の、肩が震える。
「夢だったのにな……────何をやってんだ俺は!」
見えない涙を流す海堂の頬に、レイアの手が伸びる。
「……あなたにリンゴをむいてあげたい」
「……え?」
「夢、ですよ。私の、いま、の────」
レイアの手が、海堂に届くことはなかった。
「…………よく、できましたね」
蓮見レイア、【死亡】。
残る魔法少女は───あと10人。