戦いの轟音が止み、牢屋敷に朝の静けさが戻る。
怪物たちの決着を確信したナノカが真っ先に駆け出すのを追うように、少女たちは裁判所へと戻った。
「────天使!」
埃が舞う空気に、割れたステンドグラスを通って極彩色の光が乱反射している。
やがて光を割るように、窓の外から灰色の人影が現れた。
少女たちはそこで、信じられないものを見た。
「……は?」
青い炎のような何かに包まれたレイアが、
ある少女には、それは彫像のように見えた。
ある少女には、それは宝石のように見えた。
ある少女には、それは紛れもなく遺骸であると……否応なく突き付けられた。
「……ひぃいいいい!!」
怯えたココがミリアの背中に隠れるのを尻目に、ナノカやアリサは海堂に寄り添う。
「……これは、蓮見レイアなの?」
「…………あぁ」
「なん、だよこれ……」
「……
「【灰】……?」
意味が分からないと顔を見合わせる少女たち。
ただでさえ現実離れしている目の前の光景。
ついていけていない者が大半だった。
「俺やレイアみたいな【オルフェノク】はな……死ぬときは灰になる、はずなんだよ」
海堂は顔を伏せ、自分にとっての当たり前は少女たちの当たり前ではないことを思い出し、語り始める。
「線香は見たことあるか?」
「それは……えぇ。もちろん」
海堂は一番こんがらがっていたように見えたハンナに問いかける。
「あれが燃え尽きた後に残る灰……ちょうどあんな感じになって、死ぬ」
「え……!?」
「ふむふむ。吸血鬼や狼男とも微妙に違う、まったく新しい怪物さんなんですねぇ」
「……本当にもう、人間の死に方もできねぇんだな」
海堂が頷く。
少女たちの海堂を見つめる視線に、恐怖が濃くなる。
それに納得している彼は、何も言うことはなかった。
「おるふぇのく……初めて聞きましたわ」
『【オルフェウス】なら聞いたことはある』
「たしか亡くなった奥さんを蘇らせようと冥府に行ったギリシャ神話の詩人さんですね」
「詩人……」
「結局奥さんを蘇らせることはできなかったとも」
「…………」
アリサは、海堂に語られたオルフェノクとなった経緯を思い出す。
一度死に、蘇ったという男の話を。
ナノカは、海堂に触れて見た幻視の内容を思い出す。
ギターに夢を見ていた、一人の男の人生を。
「…………名前の由来なんざ知らん」
海堂が口を開いたことで、瞬く。
二人の意識が目の前の現実に戻る。
「とにかく、レイアも灰になるはずだった……なのにこんなん……何がどうなってんだ……」
「あ、あの…………!」
「んん?」
「私の魔法で……変化が起こるかどうか、確かめてみても……」
「……あぁ、頼む」
ゆっくりと、メルルがレイアに手を伸ばす。
表面を少しなぞった後、顔に触れる。
息を、熱を、拍動を確かめるために。
「失礼します、レイアさん」
メルルが、【治癒】の魔法を発動した。
まばゆい光がレイアを包む。
数分ほどそうして、やがてメルルの手がレイアから離れた。
「…………起きない、ね」
「…………」
蓮見レイアの死をその手で感じ、涙するメルル。
少なくない少女たちの顔に安堵が滲んでいることに、エマは悲痛を覚えた。
「(これでいい……って、思いたくないよ)」
海堂もまた、うなだれている。
少なからず海堂に親しみを覚えていた二人には、見えないはずの男の沈痛な面持ちが見えるようだった。
「────あ……終わったようですね」
天井からの、これから仕事を始めようという男の声。
「よぉ」
「どうも天使さん。お疲れさまでした」
「なぁ、これはどういうことなんだ」
「どう……とは?」
「とぼけんじゃねぇ!!」
海堂の怒号に、ココやアンアンの肩が強張る。
「テメェは……いや、テメェの主サマとやらは知ってんじゃねぇのか。レイアをオルフェノクにしたやつの居場所を!!」
「……【した】?」
マーゴは眉を顰める。
「さて……なんのことやら」
「出せよ、ここの主を。聞かなきゃならんことが山ほどある!」
「……えー……私としても今回のことはわからないことが多くなんとも」
「だから出せって言ってんだろうが!!」
「まぁまぁ……落ち着いて」
「なにが落ち……」
海堂が怒りの言葉を言い終わる前に背後から看守が注射器を刺す。
するとたちまち海堂の脚から力が抜けていった。
「兄さん!!」
「おお……口が利けるレベルですか。ホントは【なれはて】の調整に使う鎮静剤なんですが……まぁまぁ効いてくれたみたいですね」
「テ、メェ……!!」
支えようとするアリサを制止しながら、海堂はゴクチョーを睨む。
「……看守」
呼びかけに答えるように、看守が海堂の前に立つ。
「【魔女】の回収を」
レイアだったものを、看守はその細い腕で抱え上げた。
「そいつをどうするつもりだ!?」
「……あぁ、あなたは初めてのことなので知らなかったですよね。処刑した【なれはて】は保管するんですよ」
「!?」
「といっても今回は少々特殊な状況ですが……まぁとりあえず様子見ということで」
「待……て」
海堂の伸ばした手は看守に届くことなく、レイアだったものはホール中央の十字架に磔られる。
そして大きな駆動音とともに、昇降機のように十字架はホールの下へと降りて行った。
「あ……そうそう。城ケ崎ノアさんの遺体も裁判中に収容しましたので、お気になさらず」
「……あぁ?」
「今朝は随分と働いてもらいましたし……まぁ休んでいてくださいよ。部下を休ませるのもこちらの仕事ですから……」
そう言い残して、ゴクチョーは天井へと消える。
「……クソッ!!」
力無く床を殴る鈍い音がホールに響く。
打ちひしがれる海堂に少女たちはどう声をかけていいのかと目配せし合う中で、ただ一人、マーゴだけは冷ややかな瞳で彼を見据えていた。
「ねぇ天使さん。一つ聞きたいのだけど」
「……どうした?」
「オルフェノクという生き物は、どのように生まれてくるのかしら」
アリサの表情が強張る。
海堂は当然の質問だとマーゴに体を向け、答えた。
「死んだ人間がオルフェノクとして蘇る。ごくまれにな」
「え、ゾンビってこと?」
「……大体あってる」
「それだけじゃないのよね?」
マーゴの瞳は、冷たいままだった。
「……あぁ」
「言いたくないなら、当ててあげましょうか」
「いや、言う」
海堂は深呼吸して、少女たちに改めて向き合ってそれを告げた。
「────オルフェノクは、生きた人間を襲うことでオルフェノクにすることができる」
海堂への言葉に逡巡していた少女たちの瞳もまた、驚愕と恐怖に染まった。
そして想起する。
『この力をくれた者によると、正確には【使徒再生】というらしい。……愛ゆえの行為だよ。素敵だ』
『そしてただの人間だとほとんどの場合死んでしまうらしいが……私たちは特別だから必ず成功するんだってさ……すごいよね!』
レイアの言葉、その真意を。
「じゃ……じゃあ、さ」
最初に口を開いたのは、ココだった。
「あ、あんたも……レイアっちみたいに……あてぃしらのこと……襲う、の?」
「俺は人間のつもりだ」
「……は?」
海堂は地面に手をついて、頭を下げる。
「見た目はこんなんでも俺はずっと人間のつもりだ。だからお前らにひどいことはしねぇ。したくねぇ! ……だから……だから約束してくれ!」
「な、なにを?」
「自分じゃどうにもならなくてなんかをぶっ壊したりぶっ殺したい気持ちになったときゃ……まず俺を殴れ!」
「!?」
「できる限り受け止めてやる……取り返しのつかないことになる前に……な?」
顔を上げて、懇願して、もう一度頭を下げる。
「お前らに、人間のままでいてほしいんだよ!!!」
頭を下げたことで、海堂の体が先ほどの戦いで生々しく傷付いていたのを、少女たちは見た。
マーゴもまた、彼の覚悟に口を閉ざすほかなかった。
「……いやだよ」
「え……?」
「もう、傷ついてほしくない……あなたも、みんなも……う、うぅ……」
「エマさん……」
「どうして、こんなことになっちゃったの……?」
「…………」
泣き崩れるエマを、メルルが抱き寄せる。
────ここに、第一回魔女裁判は閉廷した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
食堂。少女たちは集合していたが、食事している者はシェリー以外いなかった。
海堂は裁判の後片付けで昼食を作れてはいなかった。
朝食として作り途中だったサンドイッチを発見したシェリーはそれを昼食として頬張っている。
「よく食べられますわね」
「お腹すいちゃいましたし。カピカピですがサンドイッチはサンドイッチですよ」
「そういうことじゃなくて……はぁ」
「えぇ!? 食べちゃったんですか!? あ、危ないですよ……!?」
「えー? 食べないほうがもったいないですよー。ほら、みなさんも食べましょうよ。多分おいしいですよ」
「多分ってなんですのよ……」
笑顔でサンドイッチをすすめてくるシェリーの手を制止して、アリサは立ち上がった。
「……なんか、見てたら食欲戻ってきたな。なんか作るか」
「え!?」
「なんだよ。なにに驚いてんだよ」
「アリサちゃん料理できるんだなぁって……おじさん驚いちゃって」
「できちゃ悪いかよ」
「わ、悪くないよ!! 全然悪くない!!」
大げさに弁解するミリアに、アリサはため息をつく。
「……なんか食いたいもんあるか? ……つっても、ありもので適当にやるだけだけど……」
「え!? 作ってくれるの!?」
「たりめーだろ。一人分だけ作る方がメンドいしな」
「お、なになに? ヤンキーご飯作ってくれんの?」
「誰がヤンキーだコラ」
「こわー。あ、じゃあせっかくだし料理配信すっか!」
「勝手に決めんな! 誰がやるか!!」
「いーじゃーん。映すの手元だけにするからー」
「……ハァ……邪魔したらぶっ飛ばす」
「あざーす」
談笑する少女たちを、マーゴは見つめる。
少し伸びた指の爪をなぞりながら。
「…………」
「マーゴちゃん?」
「あら、エマちゃん。どうかした?」
「その……何か思い詰めていたように見えたから……」
エマの顔を見れば、赤く腫れた瞳に見つめられた。
マーゴはそれに目を合わせず。いつものように薄く笑って答える。
「大丈夫よエマちゃん。思い詰めていることなんてないわ」
「そ、そう……?」
「えぇ」
「…………わかったよ」
「あなたこそ大丈夫?」
「ボク?」
「えぇ……今日のことで、随分と心を痛めているようだから」
エマは胸を押さえて、小さくうなずいた。
「私から見れば、エマちゃんは少し……他人の痛みを自分事にし過ぎているわ」
「え、そ、そうかな」
「えぇ。もちろんそれはあなたのいいところでもある。でも必要以上に痛みを受け取ってしまうのは……むしろ悪いことだわ」
「悪い……」
「ほどほどでいいのよ、何事も。そうでないと、きっと押し潰されてしまうわ」
「……」
不意打ちのようなマーゴの言葉にエマは少し目を泳がせた後、ゆっくりと口角を上げて、笑顔を作って見せた。
「ありがとうマーゴちゃん。ボク、頑張ってみるよ」
「よかった」
「うん!」
手を振ってシェリーたちの方に戻るエマに、マーゴも手を振り返す。
「…………」
やはり、伸びた爪は変わらない。
「柄にもないことを言ってしまったわね」
『……マーゴくんはね、私と同じなのさ』
「レイアちゃん」
『家族を、社会を、人間を憎んでいる……紛れもない、私の同類』
「もっと早く、今みたいなことがあなたにも言えていたら……違っていたのかしらね」
目を閉じ、いなくなってしまった少女のことを思い出し、またすぐに元の薄い笑顔に戻した。
「私も頑張ってみるわ」
「……ナノカ」
暗い顔でこれからの行動を思案していたナノカに呼びかけたのは、アンアンだった。
「なにかしら」
『ノアののこしたものがあるかもしれないから、いっしょにさがしてほしい』
「……あの監房の中で、私の魔法を使えばいいのね」
アンアンがスケッチブックを大きくめくって、サムズアップの絵を見せる。
「スタンプかよ!」
「わかった。行きましょう」
ココのツッコミを背に、二人はノアの遺体があった監房へと向かった。
「…………」
「…………」
白く塗りたくられた監房の床に、大きな血の蝶が描かれている。
わずかにだが血とスプレーの臭いが混ざった空気の中を、二人は苦々しい顔で進んでいった。
「……頼む」
「えぇ」
ナノカは血の蝶に触れ、目を閉じた。
──ザ─────────
『あ……よごれ、ちゃう……』
『ここ、なら……』
────ザ───────
「……見えたわ」
「本当か!」
「ベッドの下に何かある」
ノアの死に際、彼女がそこに何かを滑り込ませたのを、ナノカは【幻視】の魔法で見た。
二人はしゃがんでその場所を確認すると、確かに何か薄いものがあるのがわかった。
ナノカは手を伸ばすが、わずかに指先に届かない位置にある。
「ギリギリ届かないわね。何か長いものがないと」
「……ホウキの柄」
「!?」
長いものと言われてアンアンが真っ先に思い出したのは、ノア殺害の凶器、その一部。
「でも、あなたそれは……」
「凶器に罪はない……取ってくる」
悲し気にそう言って、アンアンは監房を出る。
「…………強いのね」
ナノカにとってのアンアンは少女たちの中で一際虚弱に見えたものだった。
だがスケッチブックでの会話による魔法を発動させないための工夫、裁判前の犯人への激しい敵意の発露を見て、認識を改めていた。
「人は見かけによらない、か。……本当に、その通りかも」
海堂やレイアの事情も含めて、ナノカの他者を見る目も変わりつつあった。
「持ってきたぞ」
「ありがとう」
柄を伸ばし、それに届いたのを確認して、少しずつ横の隙間から取れるように移動させる。
「そっと、そっとだ」
「うん」
二人で、遺したものに届かせる。
苦い過去に縋ってでも。
そして、手にする。
「これは……!!」
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もう誰もいない裁判所ホール。
そこに一人の灰色の背中があった。
「あいつらの中に、ここの主がいる……」
掃除の最中。海堂直也は自分だけの場所で、少女たちの中にいる黒幕を……魔女候補の処刑という残酷なルールを強いる者が誰なのかを導き出そうともがいていた。
「でもそれをあいつらに言うのは……いや、ダメだ」
少女たちの中に疑心暗鬼の種を埋める選択はできなかった。
海堂にとって最も避けたい事態は、少女たちの命が散ること。
少女たちがこの島にやってくるまでにも、屋敷内で武器になりそうなものは必須の生活用品以外は少女たちの目に触れない場所に隠していた。
殺人事件であれ事故であれ、命の危険だけは防がなければならなかった。
【少女たちに中に隠れた黒幕は誰なのか】
この難題も、海堂は自分の力だけで解決することを望んでいた。
だが殺人事件が実際に発生してしまった今、海堂の脳裏によぎる言葉があった。
────本当にそれでいいのか。
「でもよ……」
今も、海堂の背中を黒幕が笑ってみているのかと思えば、放っておくことはできない。
自分だけならいい。だがその視線が他の少女に向かってしまった結果が、ノアの死とレイアのオルフェノク化を招いている。
「……ちゅーか、ゴクチョーの野郎はなんでレイアがオルフェノクになってたのを知らなかった……?」
この牢屋敷のすべてを知っているはず、いや、知っているべき存在。
だが彼すらも自分と同程度ほどの情報しか与えられいない可能性に、海堂は思い至る。
「あいつの上にいる管理者は、あいつにも隠さなきゃいけないことをやってんのか……?」
ゴクチョーより上位の人物。牢屋敷の【管理者】。
少女たちの中にまぎれているという黒幕。
レイアがオルフェノクとなった原因。
「まさか……管理者がオルフェノクか……!?」
そこで、海堂の古い記憶とつながる。
「子供集めてオルフェノクにするって……なんかどっかで聞いた話だな……」
かつて想い人だった少女の顔とともに、その少女にまつわるオルフェノクの起こした事件についての記憶が蘇る。
「確か……り、り……」
「カイドウさん」
「りかいどう……は?」
振り返ると、そこにいたのはナノカとアンアンだった。
「なんだ。俺様は今忙しいんだ」
「わかってる。でも、渡したいものがあって」
そう言って、ナノカが渡したものは。
「城ヶ崎ノアが、あなたのために描いたものだと思うから」
ギターを弾く、帽子をかぶった顎髭を生やした男……のように見える、子供の落書きのような絵だった。
「………………ノアが、俺に?」
うなずくナノカから、手を震わせながらそれを受け取る。
「そっか……いい、絵だな」
「この絵の人って…………」
「きっと俺だ。なんでか知らんが、あいつは俺の人間だった頃の顔がわかるみたいでよ……不思議な奴だったよなぁ……」
アンアンの瞳から、涙が溢れている。
袖で拭こうとするのを、ナノカがハンカチで拭いてあげていた。
『うん。でもただの絵じゃないよ。特別な絵……のあが、魔法じゃなくて自分の手で描いた絵』
「こんな大作をよ、きっと、自分の手で渡したかったよなぁ……」
海堂の震える手に、アンアンが手を添える。
「ノアも、きっと喜んでいる……」
「え?」
『お前に会えたことは……ノアにとっていいことだった。その絵が何よりの証拠だ』
「……そっか」
鼻の位置を擦る海堂に、アンアンは笑顔を取り戻した。
「こわいことばかりだが……お前がいてくれて助かっている」
「え? あ、そう?」
「……吾輩は、もうお前のことを怖がったりしない」
「おう!」
アンアンのスケッチブックには、『これからも、よろしく頼む』と大きく書かれている。
ナノカも、そんな二人を見て自然と笑顔になっていた。
「────ナノカちゃーん、アンアンちゃーん!」
「ん……ミリアか」
息を切らしながら、ミリアが裁判所に走ってきた。
「あ、天使さんも! お疲れ様です!」
「あぁ。どしたよ」
「やーあの、アリサちゃんがこんな大きなパンケーキをね! 焼いてくれちゃって!! もうおじさんびっくり!! みんなで食べようってときに二人がいないもんだから探しちゃったよ~」
「む……悪いことをした」
「それは大変なことね。今行くわ」
二人の目に輝きが戻っているのを、海堂は微笑ましく見つめていた。
「いいじゃねーか。たらふく食ってこい!」
「え、あなたも行くでしょう?」
「いや俺様はまだ掃除が……」
「行くの。そんなの後ででもいいでしょ」
無理やり連れて行かんとばかりに、海堂の灰色の腕を引っ張るナノカ。
「え、な、ちょ、わーった! 行く、行きます!」
「仲良いなぁ」
「いいことだ」
「(ノア、ヒロ、レイア……お前らの仇は必ず取ってやる。だから、今はいいよな?)」
三人の少女に囲まれて、灰色の蛇は嬉しそうに食堂へと向かっていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「────まずは第一の贄」
牢屋敷の某所。光の差さない場所。
レイアだったものが、
「どうぞ」
そして光るものに引かれて、闇に消えた。
闇の中から、石を砕くような音が響いてくる。
「…………」
そして、静寂が戻る。
「やはり、一人だけでは不足でしたね」
「────そう焦るものではありませんよ」
ひたり、ひたりと。
微かな足音とともに。
純白の衣と純白のとんがり帽子を纏う、血のような赤い瞳孔を星のように輝かせた少女が闇の中に浮かぶ。
「……お待ちしておりました。
「宴は始まったばかり。彼も、まだ楽しみたいでしょう」
「そうですね。私も今回はもうすごく楽しませてもらって……やっぱり天使様を処刑人にして正解でした」
「ふふ、よかった。長いお勤めでしたものね……」
「でも、今こうして報われて……私は幸せです。全部この力のおかげです」
純白の少女と談笑する白い樹木の怪物が、手のひらから枝を伸ばして見せた。
「【トネリコ】……私たち大魔女にとって、なじみ深い力……あなたにぴったりです」
「はい……!」
伸びた枝は杖のようになり、得物として握られる。
トネリコがそれを振るうと、青い蝶が虚空から現れた。
純白の少女は、三日月のような笑みを浮かべながら、トネリコを撫でる。
「もうひと頑張りですよ……」
「頑張ります……!」
怪物が笑う。
闇が、蠢く。
「王の眠りは、まだ深いのですから」