「────というわけで謎の視線の正体はまだわかりません。ただ複数人で行動している場合はあまり見られないようなので、みなさんできるだけ二人以上で行動した方がよろしいかと……」
「こえーなぁ。ほんとどうなってんだこの屋敷」
「看守以外のなれはても急に出てきたりしますしね」
「他に言っておきたいことがある子はいる?」
「だ、大丈夫」
「……じゃあ、昨日の夜のことについて話そうか」
ミリアとアンアンが死んだ魔女の魔法による被害に遭った翌日の朝食後。
早速、臨時の情報交換会が開催される運びとなった。
「いやぁ……さすがに参ったよね」
『いつも使っていたはずの鏡から腕が伸びてきたのだ』
「ホラー映画かよ!!!!」
顔面蒼白のココにメルルがそっと駆け寄る。
「……つーかよ。ゴクチョーの野郎はあの鏡についちゃ何も言ってなかったよな?」
「うん……あの後問い詰めてみたけど、死んだ魔女の魔法だから見つけない限りどうにもできないないって……」
「んだよクソが!」
その怒りは最もだとエマは俯く。
そして拳を握りしめるアリサの背中に、そっと触れてつぶやく。
「【アレ】について、みんなにも話していいかな?」
「……あぁ。いい機会かもな」
「なになに、何の話?」
不安そうなココたちに、意を決したエマとアリサが向き直る。
「────ここを、脱獄する計画があるんだ」
少女たちに、どよめきが広がる。
「脱獄ぅ!?」
「しーっ!! 声が大きいですわよ!」
ハンナが口に人差し指を当てながらココを抑えるのを、エマは然もありなんという目で見つめる。
「ごめんねココちゃん。でもこればかりは本当に、ここにいるみんな以外には聞かせられない話だから……」
『天使は?』
「ダメに決まってんだろ」
しゅんとするアンアンに、強く言い過ぎたと反省しながらアリサはできる限り優しい声色で聞かせられない理由を語る。
「……忘れてるかもしれねぇが、あの人はこの牢屋敷の管理者側にいるんだぞ」
「あ……」
「そーいやそうだった」
「あの人はいつか私たちを殺すかもしれない、【処刑人】なのよね」
「人というには少々変わり者過ぎてますが、随分とお世話になっているのは確かですねー」
「あなたが言いますか」
本来ならば海堂は少女たちに甲斐甲斐しく世話を焼く必要は全くないのだが、本人の希望で家事全般を(たまに看守も巻き込みながら)熟しているためそのようには傍目には全く見えない。
美味しい料理によく干された布団、よく清掃されたシャワールームとそこに常備された各種スキンケア用品。
それになにより、彼のどこか気の抜けた雰囲気からすっかり彼の本来の仕事のことは頭から抜け落ちていた。
「ていうか、ここで無理やり働かされてるわけで……ほとんどおじさんたちと同じじゃないか!」
「あぁ……だからもちろん、あの人を放っておくつもりはねーよ」
アリサの脳裏に、かつてもらった海堂の言葉が浮かぶ。
『しーんぱいすんな。自分のことくらい自分で何とかできるっちゅーの』
「説得する。拒否られたって何度でもだ」
海堂の立場と、第一の事件である程度彼の心情を知ることができていた少女たちは、全員頷いた。
「あんだけウチらのために体張ってくれてるあの人を置いてウチらだけトンズラここうだなんて……そんな恩知らずなことはできねぇ」
アリサの固く握った拳に、軋みを上げる音が鳴るほど、さらに力が籠る。
「そうだろナノカ」
「!?」
ナノカは突然に名前を呼ばれて目を点にした。
『だ、誰って……おじさんはおじさんで……』
『……離れて』
『え、あ、ごめ……』
昨日の事件でミリアの過去を幻視して知ってしまったことについて、一旦考えるのをやめて数度瞬いてから、アリサを見つめ返す。
「……その通りよ。彼を置いてなんていけない」
「あぁ」
「そんなことをして、たとえ無事にこの島を脱出できたとして……どうやって日常に還れるというの。私には無理よ。これ以上の犠牲の先の未来なんて、私は望まない」
「ナノカちゃん……」
エマの感嘆の視線に、ナノカは強く頷いて答える。
「ですね!」
「ですわ!」
「たりめーじゃん!」
「はい!」
「うん!」
「うむ」
「……えぇ」
そして他の少女もまた、意思は同じだった。
「わ、なんだか一体感出てきましたわね!」
「こりゃ未来は明るいですよ!」
「うん!」
屈託のない笑顔を見せるハンナにつられたのか、満面の笑みを浮かべるシェリー。
エマはその笑顔にどこか生の温かさを感じて嬉しくなった。
「……あれ? てゆーかさ。まだ肝心の脱出方法聞いてなくね?」
「あぁ、それな……ちょっとみんな寄ってくれ」
アリサの手招きで少女たちは団子になって顔を近づけ合う。
「【気球】を作ろうと思う」
「気球!」
「スゲ! マジ?」
顔を見合わせる少女たちに、エマが計画について補足する。
「アリサちゃんの魔法を見て思いついたんだ。一昨日あたりから材料に使えそうなものをちょっとずつ集めてて、あとは肝心の布部分があればできそうだよ」
「おお」
「布というのは、あの風船みたいな部分ですわよね?」
「うん。なかなかちょうど良さそうなのがなくて……」
「でしたらいつも燃やしてる私たちの服なりなんなりを縫い合わせればできますわよ」
「あ……」
その手があったかと驚くエマに、得意げに裁縫の腕を語るハンナ。
そこからはすいすいと段取りが決まっていく。
「……なんかマジにいけそうじゃね!?」
「あとはもうやるだけだな」
「うん!」
エマは元気であるように見せながら、少女たちの顔を見渡す。
昨日の騒ぎで意気消沈したままなのかアンアンとミリアの顔色は優れないが、他の少女には別段変化は見られない。
ハンナやマーゴなどはむしろ血色が良くなってさえいるように見えた。
「じゃあみんな、今日も一日ケガしないように……頑張ろう!」
「おう!」
エマは希望と不穏さを同時に感じながらも、今日もまた、全員の平静を願った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……こんなとこか」
シャワールーム、そのなかのひび割れた鏡のある場所に黄色いテープを巻いて『立ち入り禁止』と書いた紙を貼る。
【処刑人】海堂直也の朝食後の行動は、大抵こうした少女たちの安全を守るための作業に充てている。
「どうも、お疲れ様です。……精が出ますね。いやぁ助かります」
「何しに来た」
ゴクチョーが天井から降りてくるのを海堂は手で払うが、ゴクチョーはそれを意に介さずシャワールームの衝立の上に止まる。
「いえね……主から感謝の言葉を預かっておりますので。それをお伝えしようかと……」
「感謝だーぁ? 俺様が何をしてやったっつーんだ」
「それはもちろん……今やってくださっているような、死んだ魔女の魔法の後始末ですよ」
「あぁ?」
モップの柄をゴクチョーに向けながら、敵意をにじませた声で唸る。
「何が後始末だ。テメーらが勝手に攫って勝手に困って……どこまでアイツらの命をバカにすりゃ気が済むんだ」
「バカにする……というのはいただけませんね」
「どういう意味だ」
「むしろ……罪のない人々に害をもたらさないよう、彼女たちの命がもっとも安息に終えられるための場所が、この牢屋敷なんですが」
海堂は驚きを隠せず、モップを手から落とす。
「はぁ?」
「濃い魔女因子を持った彼女たち魔女候補が強いストレスにさらされると……言語能力を失った怪物、【なれはて】となるのはもう何度も説明しましたね?」
「あぁ」
「ではそんな彼女らを、なぜこの島に収容するのか……まずはそこから説明いたしましょうか」
「なに?」
ゴクチョーはどこか遠い場所を見るように目線を上げた。
「ここはですね、天使さん……【大魔女】が住んでいた島なんですよ」
「なに!?」
魔女候補である少女たちを残酷な運命から救うための手がかり【大魔女】。
その情報が思ってもない場所から出てきたことでいよいよ海堂の視線はゴクチョーから離れなくなる。
「もう何百年も前の話ですが」
「じゃあ、今はいねぇってのか」
「えぇ。理由は定かではありませんが……ただ、遺されたこの島とにはある特別な力が残っていまして」
「んだそりゃ」
「【なれはて】になる直前に強まりきった魔女候補の魔法……この際【呪い】と言いましょうか。それをこの島に留め、集積させられるのです」
「【呪い】……」
海堂はさっきまで作業していた場所を見やる。
立ち入り禁止としたシャワールーム、そこで起こった昨晩の事件……その原因こそまさしくその【呪い】であることは自明だった。
「城ケ崎ノアさんの血が蝶になる【呪い】のような可愛らしいものだけならいいんですが……現実はこのように害あるものばかりでして……困りますよねぇ。だからこそ、死後もこんな事故の原因となってしまう魔女候補の魔法を社会に遺すことはできないわけです」
「あいつらは犠牲になってもいいのか」
「罪のない大多数の市民を危険にさらすよりは……まぁ」
「あいつらにだって罪はねぇだろうが!!」
落としたモップを手に取り、海堂はゴクチョーに再びそれを向ける。
「確かによ……あいつらには魔法がある。でもそれだけで罪になるってのか?」
「…………」
「望んでない力を持っちまったってだけで、それが罪になるのかって聞いてんだよ!!!」
「…………ならないでしょうね」
「そうだろうが!」
「力を持っているだけなら……そうでしょうね」
含みのある言い回しに、海堂は訝しむ。
「どういう意味だ」
「彼女たちに罪があるとすれば……彼女たちの力、魔法は一人の人間が扱うには強大過ぎる……そして強大な力を扱うのに、彼女たちの精神は……あまりに幼すぎますね」
「なんだと」
「まぁ……そう遠くないうちにわかると思いますよ。私が今言ったことの意味を。……それでは」
それだけ言って、ゴクチョーは天井に消えた。
「なんだってんだ…………」
言いようのない不安だけが、海堂の胸に残った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……食糧庫の場所は覚えた。あとは搬入口が見つかれば……」
ナノカは一人、【幻視】の魔法を駆使して看守やゴクチョーの目を搔い潜りながら、通気口を這いずっている。
牢屋敷の内部構造の把握、それが今のナノカの目的遂行のための至上命題だった。
「みんなには悪いけれど……これは私自身の問題。巻き込むことはできない」
この屋敷に来た意味を噛み締めながら、埃とカビにまみれた道を進み、昇り続ける。
「…………(それに、まだ信用できない)」
脳裏に浮かぶのは、金髪と化粧水の香り。
「(佐伯ミリア……彼女、あるいは彼……いったい何者なの?)」
昨日までのミリアの行動を思い返してみても、正体を確定させられるような行動は見当たらない。
ミリアがよく見られる場所で【幻視】を使ってみても特に見えるものはなかった。
「(そういえば、最近は夏目アンアンと一緒にいることが多いような)」
思い出した行動の中で、ふたりが娯楽室や食堂で並んでいる記憶が多いことに気づく。
「(それとなく彼女に聞いてみるのも……あ)」
思案していると、行き止まりの格子。
慣れた手つきで外す。
「ふぅ」
牢屋敷の外、湖のほど近くにこの通気口の出口を見つけてからは格段に探索がしやすくなってナノカはこの場所を重宝していた。
周囲を警戒しながら、服に着いた汚れを落とす。
「よし」
誰もいないことを確認し、別の場所の探索に向かおうとした。
────その時。
「誰!?」
どこか禍々しい視線を感じ、振り返る。
「……いない」
林ばかりがあるだけ。
「…………」
黒い影。
棘。
白い仮面。
「気のせいか」
視線の主は、すでにナノカの前にいた。
「…………」
棘のある手がナノカの首筋に伸びるのを、ナノカだけが気づかない。
「────【動くな】」
影が止まる。
「夏目アンアン? いったいな……!?!?!?」
ナノカも、ついに自らの状況を理解する。
ゆっくりと、音を立てず、影から離れる。
「(この雰囲気……まさか【なれはて】!? 管理者が管理していない野良の……)」
「こっちへ【来い】」
「!?」
【洗脳】が効いているのか、アンアンのいる方へと影が動く。
ナノカはアンアンの行動を止めるべく必死にハンドサインのようなものをアンアンに向ける。
「(やめなさい! やめて!!)」
「なんだ効くんじゃないか。看守にも使っておけばよかったな……よし、そこで【止まれ】」
アンアンは満面の笑みでナノカを見て、もう大丈夫だと視線を送る。
「昨日の礼だ。早く逃げろ」
「(ダメ!!!!!!)」
そして何を思いついたのか、なれはてを眺めてアンアンは頷く。
「そうだ……こいつと看守を戦わせて共倒れさせたらいいじゃないか……! よし、吾輩とともに【来い】」
アンアンはもはやナノカを見ず、なれはてを連れて牢屋敷に戻っていく。
ナノカはたまらず走り出す。
「やめなさい!!」
なれはてから伸びる棘の一つが、アンアンに向いて伸びていくのを、止められるものはいなかった。
「────アンアンちゃん!!!」
伸びた棘を止められなくとも、突き刺されながら。
屋敷の窓から飛び出したミリアがアンアンを突き飛ばした。
「な!?」
「ミリア!?」
ミリアの鮮血が蝶となり、アンアンの顔の前を飛ぶ。
「……ミリアから【離れろ】!!」
聞いていたはずのアンアンの【洗脳】を無視してさらに棘を突き刺そうとするなれはてを、ナノカが後ろから殴る。
「な、なんで……」
「効いてたふりをしてたのよ!!」
「う、ぐ」
なれはてはミリアを離してナノカに向き直る。
腰が抜けるアンアンを、ミリアが覆いかぶさるように守る。
「ミリア……」
「だい、じょうぶ……?」
「ミ、ミリ、ア、ちが、血が」
「あは、は……きのうと、ぎゃく、だね……」
「あぁ、ああああああ」
涙でぐしゃぐしゃになるアンアンとミリアの周りを蝶が舞う光景に、ナノカは後悔の感情しか湧かなかった。
「(私のせいだ……私があの場所で外に出なければ……でも!!)」
その後悔を、そして恐れを捨てる。
「来なさい!!」
啖呵をあざ笑うかのように、体をくねらせながら伸びる棘に、ナノカは視線をそらさない。
「させっかよ!!!!」
伸びた棘は、灰色の脚に蹴り折られた。
「カイドウさん!!」
「悪い、遅れた」
そしてそのまま、なれはては少女たちのいない方角まで蹴り飛ばされる。
蹴り飛ばされた先で、なれはてはうめくような声を上げてから森の奥へと消えた。
「……行ったぜ」
すとんと腰を落とすナノカに、海堂はしゃがんで手を伸ばす。
「昨日といい今日といい……大変だったなおい」
「え、えぇ……ホントに」
起き上がらせてもらいながら、ナノカはアンアンとミリアの方を確認する。
すでにメルルやエマなどの少女たちが二人を救護している。
その中の一人、アリサがナノカを見て、瞳に涙を滲ませながら走ってくる。
「……ナノカ」
「アリサ」
二人はしばらく見つめ合ってから、アリサはナノカの帽子を顔を覆うくらいまで深くかぶらせて、そっと呟いた。
「何で単独行動してんだとか言いたいことはめちゃくちゃあるが…………んなの後だ」
「…………」
「無事で、よかった」
「…………ごめん、なさい」
ナノカが深くかぶった帽子の中で静かに泣くのを、海堂とアリサは何も言わず、肩を抱きしめた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「う、うぅ……ミリアさん」
医務室。
ミリアが眠るベッドの傍で、エマに肩を抱かれたメルルの嗚咽が響く。
「…………」
「ミリア……」
反対側でも、泣くアンアンをナノカが寄り添っている。
「────ミリア!!」
大きく扉が開く音がして、海堂が早歩きでミリアに向かう。
そして大きな音に反応したのか……
「……う~ん、うるさいよぉ」
ミリアが首を上げて、やんわりと海堂に注意した。
「傷、塞がってよかったなぁ」
「はいぃ……!」
メルルの嗚咽が大きくなるのを、苦笑いしながらエマは背を擦っていた。
「ふぁ……あづ!?」
「ミリア!?」
「あ……ごめんごめんアンアンちゃん。あくびしたら痛んじゃっただけだよ」
「はぁ……」
のんきに笑うミリアにナノカはため息をつく。
「あれ……ナノカちゃん? なんでここに?」
「なんでって、私も当事者だったからだけど」
「え、そうなの!?」
「そうなのって……あぁ」
ミリアの位置からは自分がいたことはわからなかったのかと、ナノカは納得した。
「ナノカちゃん?」
「いえ……ごめんなさい」
「?」
「(身を投げうって誰かを助けて死にかけて……そんな人の中身がどうかなんて)」
首をかしげるミリアを見て、ナノカは確信できた。
「(色々と悩んでいたのが馬鹿らしい。【佐伯ミリア】は、信用していい人よ)」
霧が晴れた気分で、ナノカは笑う。
「あれ~……?」
「ぶっきらぼうなやっちゃ……あ、リンゴ食おうぜ」
「お、いいねぇ。さすが天使さんだ」
海堂がするするとリンゴを剥く横で、だがアンアンの顔は険しかった。
「……アンアンさん?」
『吾輩は、ここにいてはいけない』
そうスケッチブックに書きなぐったものをメルルに見せてから、アンアンは立ち上がろうとして
「────逃げるのか?」
海堂が、そっと呟いたのを聞いて硬直する。
「お前さんよ、全部自分が悪いとか思ってんだろ」
「……ぐ」
唸るアンアンに、海堂は続けざまに言い放つ。
「そんでそれを誰にも言わず抱えたまんま、申し訳ございませんでしたって顔でずーっと隅っこにいるわけだ」
「…………」
「なめんな」
剥かれたリンゴを皿に置いて、海堂はアンアンに向き直る。
「そんなことぁ俺がさせん。ちゃんとお前の口から、何が原因でミリアがケガしたかしっかり全員の前で話すんだ」
「待って、責任なら私にも」
「じゃあナノカもだな」
「……」
真剣な面持ちになるナノカとアンアン。
しばらくの静寂。
「……真面目過ぎか!!」
「「!?」」
それを我慢できない海堂が足を組んで叫ぶ。
「ミリアにはもう謝ったんだろ?」
「それはもちろん」
「うむ」
「じゃあもう終わってんだよ、誰が悪い悪くないとかそんな話はよ!! だったらあとは何があったとか、次に似たようなことになったらどうするか、ならないためにはどうするか……そういう全員が役に立つ話をすりゃいい。お前らの気持ちなんざ他のやつらにゃどぉーでもいいの!!!!」
「「ぐぅ……」」
最もだと思った二人はぐぅの音しかでなかった。
「い、いやいや天使さんそれは言い過ぎなんじゃ」
「言い過ぎなもんかよぅ! ……あのな、こういう小さなわだかまりの種がな、あとでめーちゃめんどくさいトラブルのもとになったりすんのよ」
「おぉ……それは、確かに」
「な? というわけではい! 切り替え!」
「「切り替え……」」
「切り替え~~~~た!! はいOK!!」
海堂は二人の前で手を叩く。
なにがなんだかという表情だった二人だったが、ミリアが噴き出した後につられて、二人も笑い出した。
「……」
『彼女たちの力、魔法は一人の人間が扱うには強大過ぎる……そして強大な力を扱うのに、彼女たちの精神は……あまりに幼すぎますね』
海堂の脳裏に、ゴクチョーの言葉が浮かぶ。
「(幼さが罪なら、成長すりゃいいだけじゃねぇか。力を持て余さないくらいによ)」
リンゴの乗った皿を見て、海堂はもう一人。ここにはいない少女の顔を浮かべる。
「ほら、リンゴ食えよ!!」
「いただきます!」
そして笑顔の少女たちに囲まれて、海堂はただ、己にできることを考え続けていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
数日後。
ミリアが快復し立って歩けるようになった頃。
「────なんで」
シェリーとハンナに連れられて走ってきたエマが目にしたのは、破壊されつくした作りかけの気球の残骸だった。
「こんなのって、ないですわ……」
「誰が、こんなこと」
茫然としているエマの周りに、騒ぎを駆け付けた他の少女たちが集まってくる。
そしてもちろん、海堂も。
「…………あぁ」
脱獄計画を知らなかった海堂も、残骸がもとは何だったのか把握して、手のやり場に困るようにぶらつかせる。
「………………お前ら」
そして海堂が口を開こうとした瞬間、全員のスマホに通知音が鳴る。
そして通知内容を見た全員が、ただ一人に視線を向けた。
『佐伯ミリアさんが、外出禁止の深夜に出歩いていたそうで。規則を破ったため、懲罰房に入ってもらいますね……やれやれ』
「なんでよ」
初めにミリアに掴みかかったのは、ナノカだった。
「やっぱり、騙していたのね」
「…………」
「あなたは佐伯ミリアの肉体を魔法を使って奪った……中身は大人の男……そしてこの屋敷の主!! そうでなんでしょ!?」
全員が驚愕に固まった。
「何か……言ってよ……」
「…………」
「言いなさいよぉ!!!!」
地面が崩れていくような。
世界が終わってしまうような。
「何が、どうなってんだ……」
ミリアの瞳に生気はなく、ただ、虚空を見つめているようだった。