超昂大戦SS フェイクルビー参戦! 聖夜に降り立つ淫夢の戦士   作:環 藍河

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第11話 そして伝説へ! その祈りに超昂戦士は応える

暗い。

視界が、心が、何一つとして光を掴めない。

 

汚濁と涙と絶望に包まれ…

エスカルビー・アステライズは虚空を仰ぐ。

 

誰にも優しく、困っている人に手を差し伸べる。

その純心の赴くまま、超昂戦士になった。

がむしゃらに鍛え、身の程をわきまえず侵略者に立ち向かった。

無我夢中で駆け抜け…そして、命を落としかけた。

 

それでも、新たな仲間と手を繋ぎ、恐るべき敵と拳を交わし、和議を成し…

ひよっこ超昂戦士は、曲がりなりにも世界の救世主となった。

 

それなのに。

(その果てが…これ…なの…?)

 

現れた偽者たちはいずれも、市民がルビーに向ける秘めた下心の顕現。

 

少年達の憧れをこじらせ、第二次性徴を覚醒させ毒牙に掛ける、ショタコン・ルビー。

来る日も来る日も自慰に溺れ、絶頂の先の悟りで恐怖を呑み込んで戦う、オナ狂いルビー。

そして、鍛錬及ばず敗れ、凜々しい超昂戦士たる自分が晒す惨めな醜態に昂奮する、ドMルビー。

 

そんな背徳の願望が接現力を放ち、実体化するほど結集していた。

それほどまでに、多くの市民が。

(いけない私の姿を…カッコ悪いエスカ・ルビーを…期待されてるんだ…!)

死闘をかいくぐった先は、別の絶望だった。

 

(ああ…っ…)

薄れる意識の中、ルビーはいつかの苦い記憶に周波数を合わせる。

 

…

……

 

「帰れよ、偽善者!」「お前らグルだろ!」

「逃げるなルビー! 答えろよお!」

かつて、旗揚げ間もないダイビートに仕掛けられた、アルダークの情報戦。

デマゴーグを撒かれ、助けたいと願った市民が、一転して悪意を芽吹かせた。

それからは、明けても暮れても、砂を噛むがごとき徒労と虚無の日々。

敵を撃退しても。街を護り抜いても。市民を助けても。

全て、全て、悪意と曲解で逆手に解釈された。非難と罵詈雑言に焚き木をくべられ続けた。

 

身体の傷はこらえても、心が踏ん張れない。

初めてのディストラスト。

それでも、信じた。マイクを通して、素の心を晒した。

 

「私は、目の前に困った人がいたら…それが幻魔でも、助けます。

 何の力も無かった私は、アルダークに襲われて、悔しくて…

 たまたま適性があって、超昂戦士になれたんです。

 だから、ほっとけなかった。あの幻魔は、悪い子には見えませんでした。

 これからも私は…助けたいと思った目の前の一人を、助け続けていきます。」

 

等身大の言葉は、小さな理解を生み、さざ波のように静かに街に拡散し…

ほんの少しだけ、ダイビートへの、超昂戦士への理解を産んだ。

 

今は。

言葉が、心が、見えない。

閂市の、鎹市の、いや…もっと大きな、人の集まりが。

目に見える共感と声援の裏で、おぞましい性癖と加虐心を背中に隠している。

その集まりが…実体化を激しく願う執念の掃きだめが…

今、おびただしい接現力で超昂戦士をぶちのめす。

 

…

……

 

そして今、ルビーの眼前に立つのは…正義のヒロインの艶姿をまとった、醜悪な欲望の結晶。

最強最悪の幻魔、エスカルビー・ブラッド。

幻魔王に膝を付かせ、幾多の人類の危機を救った超昂戦士をも凌駕する、その力の源こそ…

 

(ルビー、負けてくれえ!)(ぐちゃぐちゃに! ずたぼろにっ!)

(偽者に、惨めに負けて! びくんびくんって横たわって!)

(エスカ・ルビーの敗北シーン…)(見せろおおっ!!)

 

下卑た願望が昇華した、自分と同じ姿の戦士の無双ぶり。

(これが…みんなの…

 街の人たちの、願いなんだ…!)

 

エスカ・ルビーは、優しすぎた。

自らに向けられる劣情を、怒りで薙ぎ払うこともできたのに。

超昂戦士が負けて倒れる姿を見て昂奮したい。

そんな愚かな願望を抱く市民を…許せないとは、ルビーはどうしても思えなかった。

(仕方…ないのかなあ…

 みんながそう思うなら…私…)

 

…

……

 

「至誠は、天に通ずる。…もちろん、市民にもな。」

『…何…?』

少年の精通を奪う企みを阻まれ、今や消滅寸前の偽超昂戦士、エスカルビー・チェリー。

『ルビーの活躍が続く限り、ルビーで性に目覚める少年は増え、私を復活させるだろう…!』

敗者の強がりか、現世への未練か。チェリーのダイイング・メッセージは、世迷い言と切り捨てるには、少し重くのしかかる。

 

それでも、引導を渡すように、ルビーの無二の相棒・サファイアはチェリーを諭す。

「あいつは…エスカ・ルビーは、市民のどんな声も正面から受け止める。

 賞賛も、罵倒も…下卑た欲望もな。」

「そ…そうよっ! ダイビートが理不尽に罵られて、あたしが市民にムカついてた間も、ルビーは変わらなかった!」

トパーズの相槌に乗せるともなく、サファイアが続ける。

「人にどう見られようと、あいつの拳は変わらない。

 誤解されようと、おぞましい目で見られようと、ルビーは怯まない。

 自分の信じる正義のために。自分が守りたい人たちのために。あいつは明日も戦うだろうな。」

 

『…だから、何よ。それって結局、クズどものいやらしい欲望、放置するってことでしょ…?』

「わからないのか? 幻魔王に打ち克った、ルビーの真の強さを…。」

 

……

…

 

「それって、ギャップ萌えよね。」

《えっ…?》

アメイズの魔眼に絶頂を封じられ、接現力の源を失い消滅の時を待つばかりの偽超昂戦士、エスカルビー・ソーサラー。

市民の妄想するルビーの姿…敗北に怯え、陵辱を怖れ、恐怖から眼を背けて夜な夜な自慰に溺れる…そんな痴女ルビーが接現力で具現化された、イマジナリー変態超昂戦士。

《ルビーが戦えば戦うほど、ざこよわオナニー狂いルビーを妄想する市民が増えていく。そして、自分もすぐに蘇るだろう…》

チェリー同様、今際の淵で呪詛を吐くソーサラーに、アメイズが解呪の魔法をつぶやく。

「自分で言ってるじゃない。

バトルじゃ勇敢、ガッツ全開。

そのくせ夜はベッドで半べそ、裏であんあんよがる絶倫ルビー…

昼間は見せない、夜のえっちなよわよわルビーにそそられる…

そんな童貞市民が、あなたのエナジー源。」

《そ…それが何よ。》

 くすっ。

「あなた、男心がわかってないなあ。

 裏の顔は、裏だからそそるの。

 裏が表と同じになったら、おちんちんは勃たなくなるのよ。」

 

……

…

 

「あはっ…あはははははっ! いいっ! 素敵だよ、エスカルビー・アステライズ!」

最後の偽超昂戦士、エスカルビー・ブラッドの嘲笑が闇夜に響く。

 

見よ、同好の士よ、凜然たる少女戦士の敗北を。

ダイビート最強の超昂戦士、エスカ・ルビーを…お前たちの接現力でギタギタに叩きのめし、ぐちゃぐちゃに汚してやった。

勝ち誇る偽ルビーが、一敗地にまみれた本物のルビーを、最強フォームのまま磔にしていた。

 

(あうっ…うう…うっ…)

アステライズフォームのジェットウィングは、無惨な亀裂をたずさえ、十字架の下にスクラップと横たわる。

星をも砕くグローブとシューズは、無骨な錠に繋がれた両腕両脚の先で、だらりと垂れ下がるばかり。

滲む血と汗、涙と涎、あらゆる分泌液でべとつくスーツはずたずた、もはや超昂戦士の死に装束にすぎない。

 

「さあ、見せてよ! もう勝てないって絶望に歪む、超昂戦士の悲嘆の表情をさあ!」

 ぐいっ! 「あうううっ!」

右手でツーサイドアップをわしづかみ、うなだれるルビーの眼差しを無慈悲に吊り上げる。

その姿を配信するカメラやマイクは無いが、みなぎるブラッドの接現力は、数多の市民の精神に直接、敗残兵ルビーの姿を送信していた。

閂市へ、鎹市へ、県境も国境すらも越え、ダイビートを知る全ての民衆へ…!

 

そのまま左腕を肩から回し、ズッ友とツーショットで自撮りするように…

「いえ~い、みんな見てるう~? みんなのヒーロー、エスカ・ルビーで~す!

よわよわザコのくせにイキがって、ニセモノなんかにぐちゃぐちゃに負けちゃいました~!」

ルビーの声をモノマネし、ブラッドはオリジナルの屈服を高らかに宣言する。

言葉で虐め、次は…

 

 ぱっ。

 ぐっ…(しゅうううっ…!)

 

髪を掴む右手を放すと、ブラッドは動けないルビーの眼前で、拳に力を込める。

オリジナルを模倣したパルシオンから、D2エナジーに模した接現力をフルチャージすると…

 

 どすっ!「あがっ!?」

 

一瞬の間をおき、そのまま渾身の拳をルビーのみぞおちへ、深く激しくえぐり込む。

(ああっ…かはあっ…!)

突き刺した後も拳をねじり上げ、胃袋の中身を徹底的にすり潰す。

ルビーは殉教者の姿勢のまま目を見開き、空気と胃液を最後まで吐き出すより為す術がなかった。

 

 どすっ! どぼっ! ぐしゃっ!

「うぐっ…ごぼっ、げぼっ…!」

 

四肢の自由を奪われ、ガードのしようがないお腹へ、さらに一発、二発、三発…

「ああっ…おえっ、ううっ…!」

悶え苦しみ、唾と嗚咽を噴き出してうつむくルビー。

その頭を再び掴み上げ、ブラッドが可愛い声をかぶせる。

「これからルビーはず~っと、偽ルビーさまのサンドバッグになりま~す。きゃはっ☆

新生ざこよわエスカ・ルビーの新生活に、どうぞご期待ください。それじゃ、まったね~!」

 

 かああ…っ。(ああっ…!)

ブラッドの身勝手なアテレコは、声までルビーと同じ。

まるで自分が屈服宣言したかのように…

ルビーの不屈の精神は、羞恥心と屈辱とに侵食されて、今や風前の灯火。

そして…偽ルビーへの隷属の心が、じわりじわりと湧き上がる。

 

してやったりの仕掛け人、エスカルビー・ブラッドは、勝ち誇って空を仰ぐ。

(さあ、世界中のゲス市民ども。お待ちかねのズリネタだよ〜!

しっかり目に焼き付けて、さらなる接現力を私に送ってね…!)

 

 ずぐんっ。どくんっ、どくん…

 ぎゅん…ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅうううっ!

「あはあーーーーっ! 来たっ、来たあああーーーーーっっ!!!」

 

ブラッドの接現力が更に高まる。

それは、この処刑ショーが同接者から得た多大な高評価を意味していた。

(す…すげえよ…)(こんなルビーが見られるなんて…)

(ああ…もっと…)(これからもっと、無様な負けルビーの泣き顔が…!)

 

「ははっ、期待以上にみーーんな、えっちでドSでクズだったんだーー!

 ありがとうルビーファン、ありがとうバカども!

 みんな…大好きだよーーーー!!」

初めて配信がバズり、法外な投げ銭を得たVtuberとは、こんな気持ちなのだろうか。

みなぎり、溢れ、滴り落ちるほどの接現力に、ブラッドは勝利と成功を確信し、恍惚となる。

 

…

……

 

だから、気づかなかった。

 

(…違う。)

(ルビーは…違う…)

 

それは、湖畔に小石を投げ落としたほどの、小さな囁き。

邪な想いが叶い、喜びに打ち震える者たちの影で…

塵ほどの微少な幻魔たちが、心を掻きむしられ、嘆く。

市民が、胸を締め付けられ、無言で叫ぶ。

 

(ルビーは…負けない…!)

(このまま…惨めなままじゃ、終わらない…

終わるもんか…!)

 

ブラッドの送信したルビー磔刑シーン。

その映像は、人類と幻魔の記憶を呼び覚ました。

 

…

……

 

[助けて…助けてくれよ…

 エスカ・ルビーは…特別なヒーローなんかじゃない。

 いつも私と学校でつるんで、笑って、勉強して、バカやってる…

 ただの…ただの友だちなんだ…!]

 

あの日、世界中の人と幻魔が、心を震わせた。

幻魔王オルタナスタインの裁きが、超昂戦士の心の臓を貫いた。

玉座から墜落するルビーの変身が解け、露わになった正体と、酷な真実。

 

未来を信じて拳を握り、己の未熟にためらわず、命を賭して立ち向かっていたのは。

特殊訓練を重ねたソルジャーでも、宿命を帯びて生まれた神の子でもなく。

ごく普通の、女子学生だった。

 

かつて、ダイビートへの不信に怯まず、素朴に不器用に信念を語った、エスカ・ルビー。

もはや、紅蓮の超昂戦士が貫き続けた無私の献身を、疑う者などいるはずもなかった。

だから、誰もが祈った。声を上げ、念を送り、リプライを付けた。

打算も、我が身かわいさも忘れ、皆が心を一つにして…少女の再起を祈った。

 

(ルビー…がんばれ…!)(がんばれ…!)(がんばれ…!!)

 

人類は、ルビーに生存への願いを託して。

幻魔は、ルビーに共存への願いを託して。

何千万、何億の人の想い。

そして桁違いの、生体レベルから単細胞レベルまで何百兆、その遥か上の桁までの、幻魔たちの思念。

 

黄河砂もの、那由多もの思念が、大地に横たわる勇者の胸を衝く。

その一つ一つに打ち震え、泣き、悲しみ、僅かに歓喜し…

そして、その総てが少女の鼓動を衝き上げた。

若き戦士は最強のエナジーに導かれるまま、人類初の超昂変身を為し…

再起を果たし、絶望の淵から幻魔王を叩き伏せた。

 

……

…

 

そして、今。

十字架に捕らわれるルビーの姿は、この星に生きるあらゆる生物の思いを、今一度呼び覚ました。

そしてあの日のように、誰もが超昂戦士の再起を乞い願った。

 

人々と、多くの生きとし生けるものたちが…思い出した。

超昂戦士の、怯まぬ勇気と無私無欲の信念を。

そしてその真心に打たれた、自らの心の叫びを。

 

(…頑張れ、ルビー。)(頑張れ…!)

(負けるな…!)(立ち上がれ…)(勝って…!)

その言霊は闇夜を越えて結集し、共鳴する。

一つ一つは、雨粒。

しかし集い、水たまりはせせらぎへ、小川はいつしか大河へ。

瞬く間に、ブラッドへの応援をも凌駕する怒濤となる。

 

そればかりか。

(お…俺、ルビーに…勝ってほしいっ…!)

(ピンチでゾクゾクできるのは…一生懸命で…強いルビーだから…)

(倒れても、悶えても、立ち上がる。そんなルビーが好きなんだ…!)

寸前まで敗者のルビーに歓喜した者ですら、再起を願い思念を送っていた。

 

サファイアは見破っていた。

ルビーの本当の強さは、ADDD適性でも戦闘力でもない。

強い思いでまっすぐ進み、いつも人の思いそのものを変えていく。

疑われても、蔑まれても、愚直な言葉と行動が心を打つ。

人間の不信も、幻魔の疑念も、悪魔との共存も…ルビーの積み上げた信頼が叶えたと言っていい。

 

そして、今また。

黒一色の盤面が、隅から、奥から、怒涛の反転を拡げ…

戦局の旗色は、希望の純白に染め抜かれていく。

 

(…声が…聞こえる…)

 

 …。

 、って。…るな。

 …ばれ…!!

 

(あ…熱い…!

 みんなが…こんなにも…!)

 

 頑張れ。頑張れ。頑張れ。

 負けるな。立ち上がれ。立つんだ。

 

燃え尽きた心が、こんなにも昂ぶる。

無垢の闘志が拳を焦がし、健脚に魂を注ぐ。

 

(叫ぶんだ、ルビー!)

 ……!!

 

「フラックスプロージョン!

 ディープ・エヴォリューション!」

 

 かっ…しゅうううううっ!!

「なっ…何っ!?」

 

湧き上がる心のまま、超昂の鍵を開ける。

磔の超昂戦士が、導かれるまま封印を解き放つ。

咎人の胸に結集し、あるいは弾け散る接現力が、闇夜を裂き、夜明けの陽光を呼ぶ。

 

 ぱきいいいいいんっ!

「ば…バカなっ!?」

邪な接現力でルビーを拘束し続けた強固な手枷足枷は、もはや灼熱の砂漠に置かれた氷の欠片も同然。

砕け散り、一瞬で霧散した。

 

 かっ! (ううっ…!?)

 

束縛から放たれたルビーの輝きは、煌めきは、なおもとどまらない。

一敗地にまみれた科学の鎧が、凛然たる英雄の気概を纏い、新たな伝説を紡ぐ戦士に祝福を捧げる。

 

真紅のセーラーカラーはマントと化し、勇者のオーラを雄々しくなびかせる。

情熱のレオタードを包むアイボリーのチュニックは、古代の歴戦の拳闘士のごとく。

下半身のプリーツスカートはそのままに、腰から垂れる月桂樹のチェーンが、少女戦士に軍神の加護を授ける。

両手のグローブはアダマンタイトのガントレットに進化。手甲に輝く赤石は、邪を薙ぎ払う祈りの輝石。

頭部のカチューシャと両足首に翼を拡げ、屈辱に総身を汚された紅蓮の超昂戦士は、今ここに地獄のマグマの底から、伝説の炎と共に羽ばたく。

 

(ああっ…あっ…!)

絶句するブラッドを視界の端に。

自らの危機を幾度も超えてきた拳が、脚が、心が…人々の期待を浴びて熱く燃えたぎる。

 

「みんなの祈りを護るため、胸の鼓動が天を衝く!

 超昂戦士…レジェンド・ルビー! 悪の現場に、再び参上!」

 

もがれたジェットの翼は、今ここに伝説の大翼に生まれ変わった。

希望の超昂戦士は、雄々しき翼を拡げ、ここに蘇ったのだ。

 

「ふ…ふざけるなああっ!! そんな善意の募金みたいな接現力で…!

 どろどろの欲望、もう一度その身で味わえええっ!!」

 

超昂変身を模した偽超昂戦士が激昂する。

その名の通り、自らの血反吐をそのまま浴びたような赤黒いスーツで、ブラッドは漆黒の空に再び舞い上がると…

「ギャラクシーダスト・エスカレーションっ!!」

ひとたびルビーを大地に屠った、最強の必殺技を躊躇なく放つ。

 

 がっ! ぐぐっ…

「くっ…!」

大地に立つルビーは両脚を拡げ、両腕を交差して隕石の一撃を正面から受け止める。

「ははっ、まるで変わってないじゃない! もう一度地べたに沈めええっ!!」

 

勝ち誇るブラッドは見落としていた。

眉一つ動かさず、易々と質量を受け止める勇者ルビーの、誇りに満ちた眼差しを。

 

「はああーーーっ!!」

どしゅっ! 「うわあああっ!?」

 

…ぐしゃっ!

 

気合い一閃、ルビーは両の拳を振り下ろし、ブラッドを薙ぎ払う。

今度は吹き飛ばされた偽戦士が、無様に石畳に頬ずりする。

「くっ…うあっ…!」

墜落した星屑が、屈辱に打ち震えながら這い上がる。

 

 がくっ。(…えっ?)

 

ブラッドの血の気が引く。

五臓六腑をぱんぱんに満たしていた接現力が、レジェンドルビーに吸われるかのように、たちまち枯れ細っていく。

大河のごとく注ぎ込まれた欲望の力も、今は蛇口からしたたる程度。

(そんな…クズどもの欲望が…すっかり萎れてる…!

 ルビーが…ルビーが、あいつらを変えたっていうの…?!)

 

 ずん。(ひっ…?!)

 

振り向くこともできない。見なくてもわかる。

震える背中の向こうから、ひしひしと伝わる接現力。

 

(ああっ…くそっ、くそおっ…!!)

怯える。わななく。

超昂ルビーに黒星を付け、最強の接現力で頂点に立った、最強幻魔の自分が。

エスカルビー・ブラッドは悟った。

今、後ろに立つのは、人と幻魔の無垢の願いを背負う、伝説の戦士。

その前では、自分など太陽の前の星屑にも等しいと。

 

「…見て、ブラッド。」

 ぱあああ…っ…!!

 

レジェンド・ルビーの右拳に、右脚に集まる接現力。

立ちはだかる絶望を打ち砕く、紅蓮の勇者の希望の一撃。

(…っ!!)

「みんなが私に…エスカ・ルビーに思うことは、一つじゃない。

 中にはえっちな思い、恥ずかしい思いもいっぱいある。

 それでも、頑張れって。護ってくれてありがとう、って思いも、いっぱいある。

 私は…その思いに、私は応えたいんだ。」

 

地球の津々浦々から。幻魔界の彼方から。

少しずつ集めた応援の力が接現力の結晶となり、ルビーの拳に閃光を灯す。

 

 しゅっ。(!!)

 

刹那、ブラッドの視界から消えたルビー。

次に認識したのは、地球の中心から衝き上げる紅蓮の炎。

一瞬で懐に踏み込んだ勇者は、大地を蹴り上げ、燃える拳を光差す空へ…!

 

「ライジング! エスカレーションっっ!!」

「ああああーーーーっっ!!」

 

大地から噴き上がるマグマに呑まれ、ブラッドは自らの消滅を覚悟した。

 

……

…

 

……?

 

ルビーの拳はブラッドの鼻先を焦がし、炎の柱は虚空を燃やして空を切った。

 どくん。どくっ、どくどくどくどくっ…!

「ど…どういう、つもり…?」

九死に一生を得たブラッドが、心臓が飛び出しそうな胸を押さえて問いかける。

 

「ブラッド。貴女も誰かの…私に向ける誰かの思い。

 だから、倒して消して、無かったことにはしたくない。」

 

……!!

「わ…私、あなたを陵辱したのに?」

「うん。ありのままの人たちを護るのが、ダイビートだもん。」

 

 ふっ。

「甘ちゃんね。ここで私を消さないと、絶対後悔する。

 クズ市民って、どうしようもないんだから。その権化の私には、わかるんだから…!」

「……。」

沈黙するルビーに、ブラッドがおぞましい独白を続ける。

「気づいた? さっきのあんたの必殺アッパーで…私、甘イキしたんだ。

 アソコじゅくじゅく濡らして、びくんびくんって…。

 でも、これがあのクズどもの期待。本物のあんたが虐められても、偽者の私が潰されても、あいつら昂奮するんだから。」

「…うん、何となくわかってた。」

「それだけじゃない。その凜々しいレジェンドフォームも、奴らにかかれば新しいオカズ。

 ずたぼろにして、ぐちゃぐちゃに潰して昂奮したい…それがあいつら。

 そして想いを募らせて、接現力を吐き出して、また私は蘇る。

 それでもいいの? キモくておぞましい、こんな私を…」

 

 くすっ。

「それでも。変わる人もいるし、変わらないままでも。

 たとえそれで、私がまた貴女に負けそうになっても。

 ダイビートが…私がやることは変わらない。

 もっと強くなって、もっとたくさんの人を護る。それだけなんだ。」

 

……!

 

(かなわない、なあ…)

 しゅううう…っ…

 ふっ。

 

半ば呆れ、ため息を吐きながら。

おぞましき欲望の化身、エスカルビー・ブラッドは…

歪んだ欲望が底をつき、しばしの眠りに就いた。

 

「……はあ…っ…」

 くらっ。

 

目眩にも似た、安堵のため息を一つ。

偽ルビー騒動にひとまずの終息をもたらし、伝説の戦士となったエスカ・ルビーは空を見上げる。

 

 ぴーっ、ぴーっ、ぴーっ。

《ルビー、目標消滅、作戦完了だ。よくやった。》

「長官…了解しました。レジェンド・ルビー、直ちに帰投します!」

 

護るべき人たちの声を思い出し、胸を熱くたぎらせながら、ルビーは帰途に就く。

きっと今夜は新衣装をまとってのDチャージ。心にぽつり落とした影を、優しく埋める人がいる。

そして超昂戦士は、明日もまた出撃し、誰かを護る。

その勇姿に勇気づけられる人がいる限り。

 

【超昂大戦SS フェイクルビー参戦! 聖夜に降り立つ淫夢の戦士 完】




どんだけ謝罪しても、し足りません。
第1話が2024年12月、終章(この第11話)が2026年8月…読者様からすりゃ「なめとんかワレえ」ですわな。
中身も特殊性癖だらけ、万人ウケなど狙うもんかい! 最後まで見届けて下さった方! (たとえ「この作風はヤダ」としぶしぶであっても)それだけで作者的には神様ですよーー!!
私的事情ですが…2025年があまりに酷かった。公開録音とかコミケ参加とか、アリスソフト放送局の常連ハガキ職人になれたとか、いいこともあった裏で、本業は社会人人生でワースト。
そのストレスをSSで吐き出すわけにいかないので、メンタル不安定時は書かないようにしてたら、ブランクがこんなにも。…あ、今は転勤したのでご心配なく。ようやく新職場にも慣れつつあります。

さて、弊社は大体(シリアス・プラトニックor純愛H方面)(ハード・敗北H方面)(おバカ方面)の3方向の超昂大戦SSを書いてきました。おバカは「初体験シリーズ」で不定期補給してますので、次はハートフルでピースフルなヤツを書きたい気もしますが…ネタは敗北方面の方が先に下りてくるかも?
まだ超昂大戦が続くことを嬉しく思いつつ、魅力を伝えきれないすみっこザぁ~コSS書きですが、まだまだ執筆続けていくつもりです。
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