超昂大戦SS フェイクルビー参戦! 聖夜に降り立つ淫夢の戦士 作:環 藍河
暗い。
視界が、心が、何一つとして光を掴めない。
汚濁と涙と絶望に包まれ…
エスカルビー・アステライズは虚空を仰ぐ。
誰にも優しく、困っている人に手を差し伸べる。
その純心の赴くまま、超昂戦士になった。
がむしゃらに鍛え、身の程をわきまえず侵略者に立ち向かった。
無我夢中で駆け抜け…そして、命を落としかけた。
それでも、新たな仲間と手を繋ぎ、恐るべき敵と拳を交わし、和議を成し…
ひよっこ超昂戦士は、曲がりなりにも世界の救世主となった。
それなのに。
(その果てが…これ…なの…?)
現れた偽者たちはいずれも、市民がルビーに向ける秘めた下心の顕現。
少年達の憧れをこじらせ、第二次性徴を覚醒させ毒牙に掛ける、ショタコン・ルビー。
来る日も来る日も自慰に溺れ、絶頂の先の悟りで恐怖を呑み込んで戦う、オナ狂いルビー。
そして、鍛錬及ばず敗れ、凜々しい超昂戦士たる自分が晒す惨めな醜態に昂奮する、ドMルビー。
そんな背徳の願望が接現力を放ち、実体化するほど結集していた。
それほどまでに、多くの市民が。
(いけない私の姿を…カッコ悪いエスカ・ルビーを…期待されてるんだ…!)
死闘をかいくぐった先は、別の絶望だった。
(ああ…っ…)
薄れる意識の中、ルビーはいつかの苦い記憶に周波数を合わせる。
…
……
「帰れよ、偽善者!」「お前らグルだろ!」
「逃げるなルビー! 答えろよお!」
かつて、旗揚げ間もないダイビートに仕掛けられた、アルダークの情報戦。
デマゴーグを撒かれ、助けたいと願った市民が、一転して悪意を芽吹かせた。
それからは、明けても暮れても、砂を噛むがごとき徒労と虚無の日々。
敵を撃退しても。街を護り抜いても。市民を助けても。
全て、全て、悪意と曲解で逆手に解釈された。非難と罵詈雑言に焚き木をくべられ続けた。
身体の傷はこらえても、心が踏ん張れない。
初めてのディストラスト。
それでも、信じた。マイクを通して、素の心を晒した。
「私は、目の前に困った人がいたら…それが幻魔でも、助けます。
何の力も無かった私は、アルダークに襲われて、悔しくて…
たまたま適性があって、超昂戦士になれたんです。
だから、ほっとけなかった。あの幻魔は、悪い子には見えませんでした。
これからも私は…助けたいと思った目の前の一人を、助け続けていきます。」
等身大の言葉は、小さな理解を生み、さざ波のように静かに街に拡散し…
ほんの少しだけ、ダイビートへの、超昂戦士への理解を産んだ。
今は。
言葉が、心が、見えない。
閂市の、鎹市の、いや…もっと大きな、人の集まりが。
目に見える共感と声援の裏で、おぞましい性癖と加虐心を背中に隠している。
その集まりが…実体化を激しく願う執念の掃きだめが…
今、おびただしい接現力で超昂戦士をぶちのめす。
…
……
そして今、ルビーの眼前に立つのは…正義のヒロインの艶姿をまとった、醜悪な欲望の結晶。
最強最悪の幻魔、エスカルビー・ブラッド。
幻魔王に膝を付かせ、幾多の人類の危機を救った超昂戦士をも凌駕する、その力の源こそ…
(ルビー、負けてくれえ!)(ぐちゃぐちゃに! ずたぼろにっ!)
(偽者に、惨めに負けて! びくんびくんって横たわって!)
(エスカ・ルビーの敗北シーン…)(見せろおおっ!!)
下卑た願望が昇華した、自分と同じ姿の戦士の無双ぶり。
(これが…みんなの…
街の人たちの、願いなんだ…!)
エスカ・ルビーは、優しすぎた。
自らに向けられる劣情を、怒りで薙ぎ払うこともできたのに。
超昂戦士が負けて倒れる姿を見て昂奮したい。
そんな愚かな願望を抱く市民を…許せないとは、ルビーはどうしても思えなかった。
(仕方…ないのかなあ…
みんながそう思うなら…私…)
…
……
「至誠は、天に通ずる。…もちろん、市民にもな。」
『…何…?』
少年の精通を奪う企みを阻まれ、今や消滅寸前の偽超昂戦士、エスカルビー・チェリー。
『ルビーの活躍が続く限り、ルビーで性に目覚める少年は増え、私を復活させるだろう…!』
敗者の強がりか、現世への未練か。チェリーのダイイング・メッセージは、世迷い言と切り捨てるには、少し重くのしかかる。
それでも、引導を渡すように、ルビーの無二の相棒・サファイアはチェリーを諭す。
「あいつは…エスカ・ルビーは、市民のどんな声も正面から受け止める。
賞賛も、罵倒も…下卑た欲望もな。」
「そ…そうよっ! ダイビートが理不尽に罵られて、あたしが市民にムカついてた間も、ルビーは変わらなかった!」
トパーズの相槌に乗せるともなく、サファイアが続ける。
「人にどう見られようと、あいつの拳は変わらない。
誤解されようと、おぞましい目で見られようと、ルビーは怯まない。
自分の信じる正義のために。自分が守りたい人たちのために。あいつは明日も戦うだろうな。」
『…だから、何よ。それって結局、クズどものいやらしい欲望、放置するってことでしょ…?』
「わからないのか? 幻魔王に打ち克った、ルビーの真の強さを…。」
……
…
「それって、ギャップ萌えよね。」
《えっ…?》
アメイズの魔眼に絶頂を封じられ、接現力の源を失い消滅の時を待つばかりの偽超昂戦士、エスカルビー・ソーサラー。
市民の妄想するルビーの姿…敗北に怯え、陵辱を怖れ、恐怖から眼を背けて夜な夜な自慰に溺れる…そんな痴女ルビーが接現力で具現化された、イマジナリー変態超昂戦士。
《ルビーが戦えば戦うほど、ざこよわオナニー狂いルビーを妄想する市民が増えていく。そして、自分もすぐに蘇るだろう…》
チェリー同様、今際の淵で呪詛を吐くソーサラーに、アメイズが解呪の魔法をつぶやく。
「自分で言ってるじゃない。
バトルじゃ勇敢、ガッツ全開。
そのくせ夜はベッドで半べそ、裏であんあんよがる絶倫ルビー…
昼間は見せない、夜のえっちなよわよわルビーにそそられる…
そんな童貞市民が、あなたのエナジー源。」
《そ…それが何よ。》
くすっ。
「あなた、男心がわかってないなあ。
裏の顔は、裏だからそそるの。
裏が表と同じになったら、おちんちんは勃たなくなるのよ。」
……
…
「あはっ…あはははははっ! いいっ! 素敵だよ、エスカルビー・アステライズ!」
最後の偽超昂戦士、エスカルビー・ブラッドの嘲笑が闇夜に響く。
見よ、同好の士よ、凜然たる少女戦士の敗北を。
ダイビート最強の超昂戦士、エスカ・ルビーを…お前たちの接現力でギタギタに叩きのめし、ぐちゃぐちゃに汚してやった。
勝ち誇る偽ルビーが、一敗地にまみれた本物のルビーを、最強フォームのまま磔にしていた。
(あうっ…うう…うっ…)
アステライズフォームのジェットウィングは、無惨な亀裂をたずさえ、十字架の下にスクラップと横たわる。
星をも砕くグローブとシューズは、無骨な錠に繋がれた両腕両脚の先で、だらりと垂れ下がるばかり。
滲む血と汗、涙と涎、あらゆる分泌液でべとつくスーツはずたずた、もはや超昂戦士の死に装束にすぎない。
「さあ、見せてよ! もう勝てないって絶望に歪む、超昂戦士の悲嘆の表情をさあ!」
ぐいっ! 「あうううっ!」
右手でツーサイドアップをわしづかみ、うなだれるルビーの眼差しを無慈悲に吊り上げる。
その姿を配信するカメラやマイクは無いが、みなぎるブラッドの接現力は、数多の市民の精神に直接、敗残兵ルビーの姿を送信していた。
閂市へ、鎹市へ、県境も国境すらも越え、ダイビートを知る全ての民衆へ…!
そのまま左腕を肩から回し、ズッ友とツーショットで自撮りするように…
「いえ~い、みんな見てるう~? みんなのヒーロー、エスカ・ルビーで~す!
よわよわザコのくせにイキがって、ニセモノなんかにぐちゃぐちゃに負けちゃいました~!」
ルビーの声をモノマネし、ブラッドはオリジナルの屈服を高らかに宣言する。
言葉で虐め、次は…
ぱっ。
ぐっ…(しゅうううっ…!)
髪を掴む右手を放すと、ブラッドは動けないルビーの眼前で、拳に力を込める。
オリジナルを模倣したパルシオンから、D2エナジーに模した接現力をフルチャージすると…
どすっ!「あがっ!?」
一瞬の間をおき、そのまま渾身の拳をルビーのみぞおちへ、深く激しくえぐり込む。
(ああっ…かはあっ…!)
突き刺した後も拳をねじり上げ、胃袋の中身を徹底的にすり潰す。
ルビーは殉教者の姿勢のまま目を見開き、空気と胃液を最後まで吐き出すより為す術がなかった。
どすっ! どぼっ! ぐしゃっ!
「うぐっ…ごぼっ、げぼっ…!」
四肢の自由を奪われ、ガードのしようがないお腹へ、さらに一発、二発、三発…
「ああっ…おえっ、ううっ…!」
悶え苦しみ、唾と嗚咽を噴き出してうつむくルビー。
その頭を再び掴み上げ、ブラッドが可愛い声をかぶせる。
「これからルビーはず~っと、偽ルビーさまのサンドバッグになりま~す。きゃはっ☆
新生ざこよわエスカ・ルビーの新生活に、どうぞご期待ください。それじゃ、まったね~!」
かああ…っ。(ああっ…!)
ブラッドの身勝手なアテレコは、声までルビーと同じ。
まるで自分が屈服宣言したかのように…
ルビーの不屈の精神は、羞恥心と屈辱とに侵食されて、今や風前の灯火。
そして…偽ルビーへの隷属の心が、じわりじわりと湧き上がる。
してやったりの仕掛け人、エスカルビー・ブラッドは、勝ち誇って空を仰ぐ。
(さあ、世界中のゲス市民ども。お待ちかねのズリネタだよ〜!
しっかり目に焼き付けて、さらなる接現力を私に送ってね…!)
ずぐんっ。どくんっ、どくん…
ぎゅん…ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅうううっ!
「あはあーーーーっ! 来たっ、来たあああーーーーーっっ!!!」
ブラッドの接現力が更に高まる。
それは、この処刑ショーが同接者から得た多大な高評価を意味していた。
(す…すげえよ…)(こんなルビーが見られるなんて…)
(ああ…もっと…)(これからもっと、無様な負けルビーの泣き顔が…!)
「ははっ、期待以上にみーーんな、えっちでドSでクズだったんだーー!
ありがとうルビーファン、ありがとうバカども!
みんな…大好きだよーーーー!!」
初めて配信がバズり、法外な投げ銭を得たVtuberとは、こんな気持ちなのだろうか。
みなぎり、溢れ、滴り落ちるほどの接現力に、ブラッドは勝利と成功を確信し、恍惚となる。
…
……
だから、気づかなかった。
(…違う。)
(ルビーは…違う…)
それは、湖畔に小石を投げ落としたほどの、小さな囁き。
邪な想いが叶い、喜びに打ち震える者たちの影で…
塵ほどの微少な幻魔たちが、心を掻きむしられ、嘆く。
市民が、胸を締め付けられ、無言で叫ぶ。
(ルビーは…負けない…!)
(このまま…惨めなままじゃ、終わらない…
終わるもんか…!)
ブラッドの送信したルビー磔刑シーン。
その映像は、人類と幻魔の記憶を呼び覚ました。
…
……
[助けて…助けてくれよ…
エスカ・ルビーは…特別なヒーローなんかじゃない。
いつも私と学校でつるんで、笑って、勉強して、バカやってる…
ただの…ただの友だちなんだ…!]
あの日、世界中の人と幻魔が、心を震わせた。
幻魔王オルタナスタインの裁きが、超昂戦士の心の臓を貫いた。
玉座から墜落するルビーの変身が解け、露わになった正体と、酷な真実。
未来を信じて拳を握り、己の未熟にためらわず、命を賭して立ち向かっていたのは。
特殊訓練を重ねたソルジャーでも、宿命を帯びて生まれた神の子でもなく。
ごく普通の、女子学生だった。
かつて、ダイビートへの不信に怯まず、素朴に不器用に信念を語った、エスカ・ルビー。
もはや、紅蓮の超昂戦士が貫き続けた無私の献身を、疑う者などいるはずもなかった。
だから、誰もが祈った。声を上げ、念を送り、リプライを付けた。
打算も、我が身かわいさも忘れ、皆が心を一つにして…少女の再起を祈った。
(ルビー…がんばれ…!)(がんばれ…!)(がんばれ…!!)
人類は、ルビーに生存への願いを託して。
幻魔は、ルビーに共存への願いを託して。
何千万、何億の人の想い。
そして桁違いの、生体レベルから単細胞レベルまで何百兆、その遥か上の桁までの、幻魔たちの思念。
黄河砂もの、那由多もの思念が、大地に横たわる勇者の胸を衝く。
その一つ一つに打ち震え、泣き、悲しみ、僅かに歓喜し…
そして、その総てが少女の鼓動を衝き上げた。
若き戦士は最強のエナジーに導かれるまま、人類初の超昂変身を為し…
再起を果たし、絶望の淵から幻魔王を叩き伏せた。
……
…
そして、今。
十字架に捕らわれるルビーの姿は、この星に生きるあらゆる生物の思いを、今一度呼び覚ました。
そしてあの日のように、誰もが超昂戦士の再起を乞い願った。
人々と、多くの生きとし生けるものたちが…思い出した。
超昂戦士の、怯まぬ勇気と無私無欲の信念を。
そしてその真心に打たれた、自らの心の叫びを。
(…頑張れ、ルビー。)(頑張れ…!)
(負けるな…!)(立ち上がれ…)(勝って…!)
その言霊は闇夜を越えて結集し、共鳴する。
一つ一つは、雨粒。
しかし集い、水たまりはせせらぎへ、小川はいつしか大河へ。
瞬く間に、ブラッドへの応援をも凌駕する怒濤となる。
そればかりか。
(お…俺、ルビーに…勝ってほしいっ…!)
(ピンチでゾクゾクできるのは…一生懸命で…強いルビーだから…)
(倒れても、悶えても、立ち上がる。そんなルビーが好きなんだ…!)
寸前まで敗者のルビーに歓喜した者ですら、再起を願い思念を送っていた。
サファイアは見破っていた。
ルビーの本当の強さは、ADDD適性でも戦闘力でもない。
強い思いでまっすぐ進み、いつも人の思いそのものを変えていく。
疑われても、蔑まれても、愚直な言葉と行動が心を打つ。
人間の不信も、幻魔の疑念も、悪魔との共存も…ルビーの積み上げた信頼が叶えたと言っていい。
そして、今また。
黒一色の盤面が、隅から、奥から、怒涛の反転を拡げ…
戦局の旗色は、希望の純白に染め抜かれていく。
(…声が…聞こえる…)
…。
、って。…るな。
…ばれ…!!
(あ…熱い…!
みんなが…こんなにも…!)
頑張れ。頑張れ。頑張れ。
負けるな。立ち上がれ。立つんだ。
燃え尽きた心が、こんなにも昂ぶる。
無垢の闘志が拳を焦がし、健脚に魂を注ぐ。
(叫ぶんだ、ルビー!)
……!!
「フラックスプロージョン!
ディープ・エヴォリューション!」
かっ…しゅうううううっ!!
「なっ…何っ!?」
湧き上がる心のまま、超昂の鍵を開ける。
磔の超昂戦士が、導かれるまま封印を解き放つ。
咎人の胸に結集し、あるいは弾け散る接現力が、闇夜を裂き、夜明けの陽光を呼ぶ。
ぱきいいいいいんっ!
「ば…バカなっ!?」
邪な接現力でルビーを拘束し続けた強固な手枷足枷は、もはや灼熱の砂漠に置かれた氷の欠片も同然。
砕け散り、一瞬で霧散した。
かっ! (ううっ…!?)
束縛から放たれたルビーの輝きは、煌めきは、なおもとどまらない。
一敗地にまみれた科学の鎧が、凛然たる英雄の気概を纏い、新たな伝説を紡ぐ戦士に祝福を捧げる。
真紅のセーラーカラーはマントと化し、勇者のオーラを雄々しくなびかせる。
情熱のレオタードを包むアイボリーのチュニックは、古代の歴戦の拳闘士のごとく。
下半身のプリーツスカートはそのままに、腰から垂れる月桂樹のチェーンが、少女戦士に軍神の加護を授ける。
両手のグローブはアダマンタイトのガントレットに進化。手甲に輝く赤石は、邪を薙ぎ払う祈りの輝石。
頭部のカチューシャと両足首に翼を拡げ、屈辱に総身を汚された紅蓮の超昂戦士は、今ここに地獄のマグマの底から、伝説の炎と共に羽ばたく。
(ああっ…あっ…!)
絶句するブラッドを視界の端に。
自らの危機を幾度も超えてきた拳が、脚が、心が…人々の期待を浴びて熱く燃えたぎる。
「みんなの祈りを護るため、胸の鼓動が天を衝く!
超昂戦士…レジェンド・ルビー! 悪の現場に、再び参上!」
もがれたジェットの翼は、今ここに伝説の大翼に生まれ変わった。
希望の超昂戦士は、雄々しき翼を拡げ、ここに蘇ったのだ。
「ふ…ふざけるなああっ!! そんな善意の募金みたいな接現力で…!
どろどろの欲望、もう一度その身で味わえええっ!!」
超昂変身を模した偽超昂戦士が激昂する。
その名の通り、自らの血反吐をそのまま浴びたような赤黒いスーツで、ブラッドは漆黒の空に再び舞い上がると…
「ギャラクシーダスト・エスカレーションっ!!」
ひとたびルビーを大地に屠った、最強の必殺技を躊躇なく放つ。
がっ! ぐぐっ…
「くっ…!」
大地に立つルビーは両脚を拡げ、両腕を交差して隕石の一撃を正面から受け止める。
「ははっ、まるで変わってないじゃない! もう一度地べたに沈めええっ!!」
勝ち誇るブラッドは見落としていた。
眉一つ動かさず、易々と質量を受け止める勇者ルビーの、誇りに満ちた眼差しを。
「はああーーーっ!!」
どしゅっ! 「うわあああっ!?」
…ぐしゃっ!
気合い一閃、ルビーは両の拳を振り下ろし、ブラッドを薙ぎ払う。
今度は吹き飛ばされた偽戦士が、無様に石畳に頬ずりする。
「くっ…うあっ…!」
墜落した星屑が、屈辱に打ち震えながら這い上がる。
がくっ。(…えっ?)
ブラッドの血の気が引く。
五臓六腑をぱんぱんに満たしていた接現力が、レジェンドルビーに吸われるかのように、たちまち枯れ細っていく。
大河のごとく注ぎ込まれた欲望の力も、今は蛇口からしたたる程度。
(そんな…クズどもの欲望が…すっかり萎れてる…!
ルビーが…ルビーが、あいつらを変えたっていうの…?!)
ずん。(ひっ…?!)
振り向くこともできない。見なくてもわかる。
震える背中の向こうから、ひしひしと伝わる接現力。
(ああっ…くそっ、くそおっ…!!)
怯える。わななく。
超昂ルビーに黒星を付け、最強の接現力で頂点に立った、最強幻魔の自分が。
エスカルビー・ブラッドは悟った。
今、後ろに立つのは、人と幻魔の無垢の願いを背負う、伝説の戦士。
その前では、自分など太陽の前の星屑にも等しいと。
「…見て、ブラッド。」
ぱあああ…っ…!!
レジェンド・ルビーの右拳に、右脚に集まる接現力。
立ちはだかる絶望を打ち砕く、紅蓮の勇者の希望の一撃。
(…っ!!)
「みんなが私に…エスカ・ルビーに思うことは、一つじゃない。
中にはえっちな思い、恥ずかしい思いもいっぱいある。
それでも、頑張れって。護ってくれてありがとう、って思いも、いっぱいある。
私は…その思いに、私は応えたいんだ。」
地球の津々浦々から。幻魔界の彼方から。
少しずつ集めた応援の力が接現力の結晶となり、ルビーの拳に閃光を灯す。
しゅっ。(!!)
刹那、ブラッドの視界から消えたルビー。
次に認識したのは、地球の中心から衝き上げる紅蓮の炎。
一瞬で懐に踏み込んだ勇者は、大地を蹴り上げ、燃える拳を光差す空へ…!
「ライジング! エスカレーションっっ!!」
「ああああーーーーっっ!!」
大地から噴き上がるマグマに呑まれ、ブラッドは自らの消滅を覚悟した。
……
…
……?
ルビーの拳はブラッドの鼻先を焦がし、炎の柱は虚空を燃やして空を切った。
どくん。どくっ、どくどくどくどくっ…!
「ど…どういう、つもり…?」
九死に一生を得たブラッドが、心臓が飛び出しそうな胸を押さえて問いかける。
「ブラッド。貴女も誰かの…私に向ける誰かの思い。
だから、倒して消して、無かったことにはしたくない。」
……!!
「わ…私、あなたを陵辱したのに?」
「うん。ありのままの人たちを護るのが、ダイビートだもん。」
ふっ。
「甘ちゃんね。ここで私を消さないと、絶対後悔する。
クズ市民って、どうしようもないんだから。その権化の私には、わかるんだから…!」
「……。」
沈黙するルビーに、ブラッドがおぞましい独白を続ける。
「気づいた? さっきのあんたの必殺アッパーで…私、甘イキしたんだ。
アソコじゅくじゅく濡らして、びくんびくんって…。
でも、これがあのクズどもの期待。本物のあんたが虐められても、偽者の私が潰されても、あいつら昂奮するんだから。」
「…うん、何となくわかってた。」
「それだけじゃない。その凜々しいレジェンドフォームも、奴らにかかれば新しいオカズ。
ずたぼろにして、ぐちゃぐちゃに潰して昂奮したい…それがあいつら。
そして想いを募らせて、接現力を吐き出して、また私は蘇る。
それでもいいの? キモくておぞましい、こんな私を…」
くすっ。
「それでも。変わる人もいるし、変わらないままでも。
たとえそれで、私がまた貴女に負けそうになっても。
ダイビートが…私がやることは変わらない。
もっと強くなって、もっとたくさんの人を護る。それだけなんだ。」
……!
(かなわない、なあ…)
しゅううう…っ…
ふっ。
半ば呆れ、ため息を吐きながら。
おぞましき欲望の化身、エスカルビー・ブラッドは…
歪んだ欲望が底をつき、しばしの眠りに就いた。
「……はあ…っ…」
くらっ。
目眩にも似た、安堵のため息を一つ。
偽ルビー騒動にひとまずの終息をもたらし、伝説の戦士となったエスカ・ルビーは空を見上げる。
ぴーっ、ぴーっ、ぴーっ。
《ルビー、目標消滅、作戦完了だ。よくやった。》
「長官…了解しました。レジェンド・ルビー、直ちに帰投します!」
護るべき人たちの声を思い出し、胸を熱くたぎらせながら、ルビーは帰途に就く。
きっと今夜は新衣装をまとってのDチャージ。心にぽつり落とした影を、優しく埋める人がいる。
そして超昂戦士は、明日もまた出撃し、誰かを護る。
その勇姿に勇気づけられる人がいる限り。
【超昂大戦SS フェイクルビー参戦! 聖夜に降り立つ淫夢の戦士 完】
どんだけ謝罪しても、し足りません。
第1話が2024年12月、終章(この第11話)が2026年8月…読者様からすりゃ「なめとんかワレえ」ですわな。
中身も特殊性癖だらけ、万人ウケなど狙うもんかい! 最後まで見届けて下さった方! (たとえ「この作風はヤダ」としぶしぶであっても)それだけで作者的には神様ですよーー!!
私的事情ですが…2025年があまりに酷かった。公開録音とかコミケ参加とか、アリスソフト放送局の常連ハガキ職人になれたとか、いいこともあった裏で、本業は社会人人生でワースト。
そのストレスをSSで吐き出すわけにいかないので、メンタル不安定時は書かないようにしてたら、ブランクがこんなにも。…あ、今は転勤したのでご心配なく。ようやく新職場にも慣れつつあります。
さて、弊社は大体(シリアス・プラトニックor純愛H方面)(ハード・敗北H方面)(おバカ方面)の3方向の超昂大戦SSを書いてきました。おバカは「初体験シリーズ」で不定期補給してますので、次はハートフルでピースフルなヤツを書きたい気もしますが…ネタは敗北方面の方が先に下りてくるかも?
まだ超昂大戦が続くことを嬉しく思いつつ、魅力を伝えきれないすみっこザぁ~コSS書きですが、まだまだ執筆続けていくつもりです。