超昂大戦SS フェイクルビー参戦! 聖夜に降り立つ淫夢の戦士   作:環 藍河

8 / 10
第8話 地に墜ちた紅蓮! その屈辱を戦士は貪る

「うぐっ…がはっ! あぐっ…!」

イデアの壁に幽閉された、偽エスカルビー最後の一人、エスカルビー・ブラッド。

本物のルビーよりも紅が色濃いことを除けば、オリジナルと寸分違わないデザインの凛々しい戦闘スーツを纏い、罠の中でも勇敢に立ち向かう。

 

テイマーフラストの鞭で切り裂かれた勝負服は、イデアの壁を越えて一度修復された。

フラストたちの慈悲などではなく、超昂戦士の勇姿を再び汚し、屈辱を与えるために。

どすっ! 「ふぐっ!」

ぐしゃっ! 「ああっ!!」

いつもはD2エナジーのオーラを受けて雄々しくひるがえる深紅のカラーは、敵の拳がボディに突き刺さるたび、ひらりひらりと虚空を舞う。まるで、少女戦士の受け止める衝撃と、苦悶を代弁するように。

闘志を支える純白のブーツは、折れ曲がる膝に呼応して惨めにがくがく震え、ダウンすまいと踏ん張るブラッドは、もはや杖に縋り付く老婆のよう。

 

ばきっ。がつっ。

「ぶふっ! ごほっ…!」

頬にフックを、脇腹にボディブローを浴びるたび、虚空に舞う飛沫。

偽ルビーの汗と反吐、そして涙がきらりと輝く。

やがて、透明だった飛沫に血潮が混じりだす。切れた唇、激しい嘔吐…

純白の正義の拳が、勇気のブーツが、吐瀉物で汚されていく。

燃える紅蓮のレオタードが、ツートンのプリーツスカートが…さらに紅く、ブラッド自身の鮮血で染められていく。

 

がしっ!「あっ…!」

『ブーーーッ!!』

(しまった…後ろ…っ!)

ごすっ! どすっ、どごっ!

「がっ! ごほっ、うああっ…!」

 

知性を僅かに備え、人語を口にするフーマン…フーナイトの群れが、イデアの壁の向こう、蟻地獄に堕ちた偽ルビーを迎え撃つ。

最初の数体こそ、残されたなけなしのD2エナジーを込めたキックと拳で吹き飛ばすものの…多勢に無勢。

ほどなく取り囲まれたブラッドは、後ろからスリーパーホールドで拘束され、たちまちボディに、胸に、頬に、顎に…パンチとキックの嵐を浴びる。

『俺たちの仲間を、何百何千と葬りやがって!』

『このクソ女! 仇討ちだぁ!』

《[【ブーーーッ!!!】]》

 

はあっ…はあっ…

「そ…そんな、身勝手…!」

身の丈が倍も違うフーナイトに背中から首を吊り上げられ、抵抗を奪われ…圧倒的劣勢の中でも、ブラッドはルビー譲りの強靱な心で、悪に抗う闘志を燃やす。

 

侵略者アルダークの理不尽な暴力で、街の平穏を、みんなの安寧を奪われた。

だから超昂戦士に志願した。みんなを護るため。平和を取り戻すため。

苦しい訓練に耐え、敗北の恐怖を呑み込んで出撃する日々。

その苦難の末にやっと…超昂戦士エスカ・ルビーは、フーマンたちを討てるようになった。フラストたちを倒せるくらい強くなった。

 

(悔しい…悔しいよっ…!)

フーナイトたちの鬨の声に、唇を噛む。

侵略の毒牙を阻むため、痛いのも怖いのも我慢して戦ってきた。

それをアルダークは逆恨みし、群れをなしてリンチを仇討ちだと言ってのける。

許せない。こんな奴らに好き勝手させるなんて…!

 

だが。

 ぐきっ。ぎりぎりぎりっ…

「く…ああっ…放せっ…!」

 ぐっ…ぶらん、ぶらん…

右足首のパルシオンが鈍く輝き、シューズに注ぐエナジーで、背中のフーナイトに裏蹴り。

だが、いくら大きく振りかぶっても、D2エナジーを込めても、首を絞められて小学生の鉄棒の逆上がりのような無理な姿勢から放つキックなど、フーナイトの腰や太腿をくすぐる程度。純白のニーソックスとブーツが振り子のように前へ後ろへ虚空をたゆたうばかり。

抗う強靭な正義の心とは裏腹に、今の彼女は、理不尽をただす力を奪われ、惨めにもがくばかり。

ろくにガードも取れず、ブラッドはエスカ・ルビーが倒してきたフーマンたちの怨念を、その一身に代わりに浴びるより他なかった。

 

ガードを取るべき拳で、首に巻き付くフーナイトの剛腕を引き剥がそうと、抗うブラッド。

当然、顎もボディもがら空きであった。

 

ざっ、ざっ、ざっ…がばっ。

《歯を食いしばれ。エスカルビー。》

「あ…ああっ…」

別のフーナイトが磔の超昂戦士に正対し…

 

どすっ!「がはっ!」

ばきっ! がきっ! 「あぐっ! がっ!」

腕でガードするにも、手を離せば絞め落とされる。

ノーガードのみぞおちに、渾身の正拳突きが右、左、右と食い込む。胃袋が喉から飛び出そうな拳の衝撃に、ブラッドは両の瞳を見開くばかり、表情がたちまち苦悶に歪む。

 

[もう貴様は終わりだ、観念しろっ!]

ごすっ!「ぶっ!」

がつっ!「うぐっ!」

そのままフーナイトの拳は、超昂戦士の顎を左から、右から薙ぎ払う。

かわすことも逃げることも封じられたブラッドは、怪力フーナイトの拳を無防備に喰らう。

「おぶっ…あがっ…ぐう…うぶっ…!」

空を仰ぎ、切れた口の中から滲む血を飛ばし、えずく胃液を口から噴き上げ、フーナイトの胸の中でびくんびくんと仰け反るだけ…。

弓のように反り返ったボディはびくびくっと痙攣し、超昂戦士の鍛えた腹筋が、スーツに脂汗でくっきり浮かび上がる。

 

『喰らええええっ!!』

どぼおっ!

「がっ! …うあああっ!

 ……~~っ!!」

深紅のレオタードに吸い込まれるように、極太の拳が今また、ブラッドの下腹部を貫いた。

前に突き出たアーチが腹筋ごと、暴力でくの字にへし折られると、戦士のプリーツスカートが白旗を上げるようにひらりと空に舞い上がる。

フーマンたちを幾度も打ち破ってきた両脚が、ブーツごとゴム仕掛けの人形のようにびくんと斜め前に跳ね上がった。その後、重力に負け、深紅のストライプをあしらったルビーのシューズはぶらんと力なく垂れ下がる。

アッパーで仰け反った頭はボディブローで一転、がくんと真下にうなだれ、真っ赤なツーサイドアップが彗星のように弧を描く。

見開いた両眼からガッツは失われ、ルビー譲りの翠の瞳からぽろぽろと苦悶の涙がこぼれ落ちる。

負けるものかと歯を食いしばるも、フィニッシュブローで腹から空気を残らず絞り出され、抵抗空しく口をこじ開けられたブラッドは…嗚咽し、俯いたまま低く悶え喘ぐ。

 

ずぐんっ、ずきんずきんっ…!

びくんっ! どくん、どくんっ…

「うあっ…がはっ…うえっ…」

『まだ息があるか。そのタフさ、後悔させてやろう。その腹、スーツがちぎれるまで殴り続けてくれるわあ!』

「…ううっ…!」

 

 ごおおおお……っ!

【新快速が通過します。フーナイトは白線の内側までお下がりくださーい。】

《[【「なっ!!!」】]》

 

 ぐしゃっ!! がががががっ!!

《[【ブーーーッ!!?】]》

「きゃっ…がはああーーーーっ!!」

 

 ぐちゃっ!

 どしゃっ、どすんっ、ぐしゃっ!

…どさっ。

 

取り囲むフーナイト軍団ごと、暴走したレールフラストがブラッドを吹き飛ばす。

無様に轢かれて宙を舞い、そのまま墜落した超昂戦士を前に…同胞の群れが多重事故の現場同然にいくつも横たわる中、意に介さぬ怪人が勝ち誇る。

【カンカンカンッ。人身事故発生、直ちにエスカルビーを線路から排除するであります!】

 

「う…ううっ…!」

 ぐぐっ…

さらに突進しようと正対するレールフラストに抗おうと、吹き飛ばされて這いつくばるブラッドは拳に力を込め、立ち上がろうと肘で大地からボディを引き剥がす。

 

 ぐらっ…ずきんずきんっ…

 どくっ、どくんどくんっ…

「あうっ! く…くはっ…」

痛めつけられた腹筋は悲鳴を上げ、瞳は焦点を失ったまま。それでも超昂戦士は重力に逆らい、ファイティングポーズを構え…

【閂市発、エスカルビー地獄送り回送列車、ドアが閉まりまーす!】

 ごおおおおっ……!

「くっ…!」

 

《正者必滅! 天罰覿面!》

 どごおおおおおっっ!!!

【カーーーンッ!?】「きゃあーーーっ!!」

 ふわっ…ぐしゃっ。どしゃっ。

 

突進をかわそうと左へ飛んだところを、レールフラストごと真逆の方向に撞き飛ばされ、再び地を這うブラッド。

【だ…脱線事故発生…!】

「か…かはっ、げほっ…!」

 

《超昂戦士に由緒正しき和の心を叩き込むまで、愚職は滅せぬわあ!》

煩悩の鐘で聖夜を支配しようと企てるも、偽ルビーたちに倒され、鐘を奪われたジシャフラスト。

だが、ルビーへの復讐と閂市の肉欲の夜を今度こそ為し遂げようと、しぶとく蘇った。

 

 ずしん。ずしん、ずしん…ぐしゃっ!!

「あああーーーーーっっ!!!」

這い上がろうともがくブラッドを、背中から僧兵が四股で踏み抜いた。

 ぐりっ、ごりごりっ…

「かはっ…うぐうう~~~っ…」

そのまま、ポイ捨てされた煙草のように、超昂戦士は背骨をえぐり潰されていく。

 

どすんっ! 「!?」

圧搾から逃れようと体をねじるブラッド。

その眼前の石畳に、ジシャフラストが丸太棒を突き落とす。

《どうだあ、愚職の業物は。太いだろう、頑丈だぞ。

 愚職の剛腕で振り抜いても撃ち抜いても、びくともせぬぞ。》

「な…何を…!」

踏みつけられて抵抗できず這いつくばるブラッド。

これ見よがしに突きつけられた丸太は、《今すぐにもこいつで貴様の拳も両脚も、粉砕しても構わぬのだぞ》と無言の恫喝をほのめかす。

(そんなこと、されたら…私…もう…!)

恐怖と戦慄を飲み込みながら、エスカルビー・ブラッドは精一杯強がる。

 

《異教の聖夜にかぶれた超昂戦士に、正しき和の行く年来る年をこいつで叩き込むのだ。

 大晦日にはちと早いが、まずはこれから鐘ごと貴様の腹を百八度撞いてくれるわ。》

「なっ…!?」

《喘ぐがいい、呻くがいい。旧年の罪と穢れを、超昂戦士の悲鳴で清めるのだ。

その後は貴様を臼代わりに、この撞木で餅つきだ。餅米と一緒に、そのだらしない胸の膨らみも、破廉恥なその陰唇も、たっぷり撞きほぐして進ぜようぞ。》

「そ…そんなこと…! あぐっ!」

 ごりっ。ぐりぐりっ…!

《口をつぐめ、エスカルビー。敗北者の惨めな姿、年またぎにたっぷり市民に晒して、ダイビート壊滅の第一歩に辱めてくれるわ!》

判子を念入りに捺印するかのように、ブラッドの顔面を撞木でぐりぐりといたぶるジシャフラスト。

 

(く…悔しいっ…!)

背中を、肩を踏みにじられ、さらに文字通り、顔を潰されたヒーローは…

屈辱に唇を噛み締めることしかできなかった。

 

【待て待て待てえっ! エスカルビーは私の獲物! 割り込み乗車はご遠慮いただこう!

元旦特別ダイヤ編成・企画列車『超昂戦士とイク初詣号』ヘッドマーク代わりに、エスカルビーを先頭車両に磔にして、クズ撮り鉄どもの被写体にしてやるのですぞ!】

[ブーッ!! 面倒くせえ! 大晦日まで待ってられるか!]

[殴る! ヤる! エスカルビーは今潰すっ!]

復旧したレールフラストとフーナイトの群れが、ハイエナのように獲物をよこせとわめき散らす。

 

「フ…フラックス…プロ-ジョン…」

《[【なっ!!?】]》

「ビート……エヴォリューションっ!!」

 

 かっ…ぎゅおおおおおんっっ!!

 

仲間割れの隙に這い上がった手負いの草食獣が、昏き絶望の底から…

紅くまばゆく、超新星の輝きを放ち、乾坤一擲の進化を遂げる。

 

闇を切り裂く2対のジェットウイング。ボディスーツは胸の両脇からVゾーンまでまっすぐ切れ込み、悪を討つ一筋の流星のよう。胸のジュエルの輝きが、戦士の再起を鼓舞する。

立つことも許されなかった敗者が、今はそのシューズで敵を一蹴せんと、聖夜の闇空に舞い上がった。

 

「数多に輝く星の光が、人を導き悪を討つ!

 エスカルビーブラッド・アステライズ! 悪の現場に、ただいま参上!」

《[【し…しまったっ!!?】]》

「これ以上、あなたたちの好き勝手には…ならないっ!

 全員倒して、脱出しますっ!!」

 

【…なんてなあ。】「!!」

 ざざざざざざっ。

{コマンダー軍団、構えっ!}

 がしゃっ。がちゃがちゃがちゃっ。

(なっ…!)

息を潜めていた伏兵たちが、超昂変身を読んでいたかのように姿を露わに。

 

{撃てえーーーーっっ!!}

 どががががががががががががっ!!

 ずどんっ! ひゅんひゅん…どんっ!

 どがっ、どごおっ!!

「ああっ…きゃあああーーーっ!!」

 

アステライズへの進化さえも、読まれていた。

コマンダー小隊が四方八方から、ここぞとばかりに高射砲を超昂戦士に乱れ打ち。

ダイビート最強の機動戦闘力を持つアステライズフォームでも、これではひとたまりもなかった。

 

 ふらっ…ぷすぷすっ…

「あ…あああっ…! くっ…!」

翼も、戦闘スーツも、煤けてずたぼろ。逆転を賭けた超昂変身が、あっけなく劣勢に追い込まれた。

「はははーーーっ! ここはイデアの壁の中! いかにアステライズとて、我らの掌で踊るだけさあ!

 観念して堕ちるがいい、エスカルビー!」

「ま…まだだっ! 私、まだ…飛べるっ!

 スターバースト…」

 

〔メネメネメネッ!〕

 きいいいい……ん……!

 

…ぼふっ。しゅううう……っ…。

「なっ…!?」

超昂戦士を希望の空へ舞い上げる、4発のロケットエンジンが…一基、また一基と失火。

〔このウェーブフラスト様のジャミング電波で、貴様の翼の電子回路を狂わせた!

 超昂戦士の装備とて、しょせんは科学! さあ、堕ちろエスカルビー!!〕

「あっ…あああーーーーっ!!」

 

 ぎゃるんっ! ふわっ…ひゅうううううっ…!!

 

「うあああーーーーーっ!」

 …ぐしゃっ! 

遂にエンジンが全停止。そのまま失速し、きりもみ急降下したブラッドは…

翼をもがれ、最強フォームのまま、再び地に墜ちた。

 

……

「……。」

成層圏から大地に叩きつけられ、陥没したクレーターの中心で仰向けの大の字にくたばり、石畳に半身をうずめる超昂戦士。

人類の希望を拓く紅き流星、エスカルビー・アステライズの姿は、もはやそこには無かった。

(……、あ~~っ…。)

指先にも、脚にも、力が入らない。

白目を剥き、あぶくを唇の端に浮かべ、虫の息で僅かに衝き上げては引く双丘だけが、虚空を目指す。

 

 じわっ…

(…私…もう…飛べない…。)

切り札の超昂変身を完膚なきまで破られた。

フラスト怪人たちも、コマンダーも、フーナイトも、一体残らず無傷。

瞳には悔恨の涙。一矢報いることさえ阻まれ、ずたぼろの敗者として無様に、星一つ無くなった闇夜の虚空を仰ぐ。

 

偽ルビー…エスカルビー・ブラッドは…

 

 じゅくっ。

 どくんっ。どくん、どくんどくんどくん…!

 

絶望の底から湧き上がる甘美なエクスタシーを、両胸に、腹下丹田に、秘唇の奥に宿す。

(ああっ…コレだっ…!

 私、今…無様に、ヒキガエルみたいに…

 みんなが憧れる超昂戦士なのに…惨めで、情けなくて、みっともない…

 醜態…晒してるよおっ…!)

 

幻魔の亜種であるエスカルビー・ブラッド。

その命の源は…一部市民がエスカ・ルビーに抱く、邪な心が生んだ接現力。

 

強く、正しく、勇敢な心を…惨めにへし折られ。

鍛えた身体も、オーバーテクノロジーの武装も、完膚なきまでに叩き潰され。

悪に敗れ、自らの無力を悔い、蹂躙される最強の超昂戦士…。

 

その痴態を貪りたい。

絶対正義の戦士が悪の華に屈し、甘美な姿で手折られ、絶望に天を仰ぐ様を…

拝みたい。昂ぶりたい。

 

果たしてブラッドは…その淫らな夢を具現化し、自らも被虐の愉悦に鼓動を衝き上げていた。

(私…今の私は…みんなが見たがってる、惨めな負け犬ルビーなんだ…!)

 

…じゅん。じゅくっ。

 

(見て…! もっと…!

 最強フォームでも敵わない、超昂戦士のくせに弱くて、情けないエスカ・ルビーを…

 みんな…見てぇ…!)

指先、ボディ、爪先まで全身くまなく迸るダメージ。五臓六腑が酸素を求めて叫んでいる。

生命維持すら限界ぎりぎりの五体を大地に埋め…それでもブラッドは絶頂寸前にまで昂ぶっていた。

 

 がしっ! 「うぐっ!?」

 がばっ…ぐぐっ、ぐいいっ!

「あ…ああっ…ああ~~っ!!」

 

ジシャフラストがブラッドの喉を、ネックの黒く輝くインナーの上から、わしづかみ。

そのままネックハングで吊り上げ、握力で喉笛ごと締め上げる。

 

 ぎりぎりぎりっ…! 

「がはっ! …うあ…ああっ…がああっ…!」

クレーターから発掘された紅き隕石が、敵の手で再び虚空へ引きずり上げられた。

 

 びくんっ、がくがくがくっ。

 ぶるぶるぶるぶるっ。

(ふ…振りほどけ…ないっ…!)

両腕も両脚も、反撃の意志と裏腹に…ぴくりとも持ち上がらず、痙攣するばかり。

アステライズフォームの腰のプリーツスカートと、背中のカラーが揺れるたび、戦士の失神までのカウントダウンが進む。

僧兵のネックハンギングを打ち破るべきブラッドの武器・純白のグローブと深紅のシューズは、だらりと真下に垂れるばかり。もはや拳を作ることも、蹴りを打ち込むことも叶わなかった。

 

 ぐりっ! 「あううっ…」

 ごりごりっ! 「ぐ…うう~~っっ…!」

破戒僧が五指に力を込めるたび、真っ赤なツーサイドアップがびくんっ、びくんと跳ね回る。

重力に抗えないブラッドの、せめてもの抵抗は…頭を左右に、前後に揺さぶるだけ。

急所攻撃から逃れんとする、超昂戦士の必死の防御行動だが…眠たくてぐずる赤子のイヤイヤも同然。あまりに無力だった。

 

《…ふん。》

 ぱっ。(えっ…?!)

 どさっ。ぐしゃっ。「うあ…っ…!」

 

やおら絞首刑を止めるジシャフラスト。

ルビーは両脚から落ち、トルソーを支える力さえ失われたボディで、前のめりに卒倒する。

「げほっ…うえっ…!」

またも顔面を地にうずめると、開いた気道から酸素をよこせと、肺が悲鳴を上げる。息を吸っては膨らみ、吐いてはしぼむ両胸で、石畳にパイズリの雨を降らせるブラッド。

 

 がしっ! ぐいっ! 「あううっ!」

《エスカルビー。貴様に愚職が和の伝統正月を教えて進ぜよう。》

 今度は首裏をわしづかみ。上半身だけを引き上げ、耳元で悪企みを宣告すると、取り囲むフラストに目配せして、処刑執行を促す。

 

 しゅっ…がしいっ!「くはあっ!」

 ぎりぎりぎりぎりっ…「うあっ…ま…また、首っ…!」

「シシシッ。このイデアの壁にお招きしたのはミーですよ。忘れてんじゃねえよっ!」

「ぐ…ぐああ〜っ!!」

テイマーフラストの鞭が、背面からブラッドの首を締め上げる。

 

【カンカンカン! 地獄行き下り線、踏切進入。下りる遮断機にご注意を!】

 がすっ! 「あうっ!」

 罪人を裁くように、レールフラストが遮断棒でブラッドの首を上から打ち据える。

【ポイント手動切り替え、入りまーす。】

 そのまま、先っぽを石畳に突き立てた遮断棒で、獲物の首筋をてこの原理で上から潰す。

「ぐあっ…あ…かはっ、ぎいっ…!」

鞭で後ろへ、棒で前へ。フラスト怪人のギロチンツープラトンに、呼吸と闘志をたちまち奪われる。

首のインナーに食い込む武器が、超昂戦士の汗とよだれでたちまち濡れそぼり、雨だれのようにしたたり落ちる。

 

《もう一丁!》

 ごりっ! 「あぐっ!」

最後にジシャフラストが、丸太でブラッドのツーサイドアップをぐりぐり擂り潰す。

《さあ、愚職の撞木に遮断棒、鞭でぐるりとあしらう盆栽。

 これが超昂戦士の無様なお正月じゃあ。

 コマンダー、フーナイト! 写してやれ。》

 

 ぴぴっ。かしゃっ、ぱしゃぱしゃっ。

録画開始の電子音と、シャッター音が寄せては返す。

石畳に引っ立てられた反逆者、エスカルビー・ブラッドの処刑ショーは、まさにクライマックス。

勝ち誇るフラスト怪人3体に囲まれた敗者の、絶望と屈辱に沈む表情を下卑た視線が舐め回す。

 

鞭で縛った首を後ろから引き上げ、仰け反るブラッドの頭を革靴で踏みにじる調教師。

カメラ右手からは暴走列車の遮断棒が頸動脈を締め上げ、紅き咎人を屈服させる。

左手の僧侶は利き腕側から、拳をグローブごと丸太で潰し、肩をカラーの上から左脚で踏んづけ、まるで不動明王が餓鬼を成敗する絵巻のような構図で、ブラッドは最強フォームを踏みにじられる。

 

(あ…ああっ…!)

最強の戦闘スーツをまとい、日々欠かさない鍛錬で引き締めたボディ。

人類を幾度も救った超昂戦士の勇姿は…今や見る影もなかった。

素肌をしたたか紅く灼かれ、科学の鎧は至る所焦がされ…高射砲の着弾痕を痛々しく総身にたたえるエスカ・ルビーは…まさに満身創痍の全身を晒し、屈服を強いられていた。

 

(写されてる…記録に、残されてる…。

 負けた私の…惨めな姿…。悪いやつらが勝ち誇って…記念に写してるよお…。)

四方八方から浴びせられるフラッシュと、レンズの反射光のカクテルライト。

怪人になすすべ無く屈し、取り囲まれて晒し者にされる超昂戦士。

《貴様は敗者だ、エスカルビー。》

その構図がブラッドに、無言の烙印を幾重にも焼きごてで刻み込んでいた。

 

《足りませんねえ。謹賀新年のポートレートだというのに、笑顔が無いではないですか、エスカルビー。》

「なっ…!?」

[メネメネメネッ! お任せあれ!]

 

 びいいいいいっっ!!

「あっ…かっ、はおおおおーーーっっ!!」

 

……

 

「…あはっ☆」

 

ウェーブフラストの怪電波に正気を冒されたエスカルビー・ブラッドは…

屈辱と羞恥の表情から、一転して満面の笑顔に。

 

「閂市の皆さ~ん。私は、超昂戦士エスカ・ルビーは…

 アルダークのフラスト怪人に! コマンダーに! フーナイトたちに!

 全然歯が立ちませんでしたっ! 惨敗して、懲らしめられちゃいましたっ☆」

 

その瞳は焦点を結ばず、今のルビーはまるで夢遊病者。

拳で、蹴りで、必殺技で敗れても、決して心では屈しない。

不屈のガッツでどんなときも諦めず、その魂で逆転勝利を呼び込み、幾度も人類の未来を拓き続けた。

エスカ・ルビーの誇りと、鋼鉄のハートが…

自らの言葉で、無惨に砕け散った。

 

録画も撮影も続く中、カメラの前で嬉嬉として語り始める偽ルビー。

「超昂戦士なのにぃ、最強フォームでぇ、悪いやつらにお仕置きされてます☆

 テイマーフラスト様に調教されて、レールフラスト様に引き回されてぇ☆

 ジシャフラスト様に姫始めされて、ウェーブフラスト様に頭の中を真っ白にされて…☆☆

 そのあとはコマンダー様とぉ、ザコのフーナイト様たちにボッコボコにされてぇ…

 ポイ捨てされて、ダイビートに着払いで送られちゃうんです☆☆☆

 ぼろぼろでぐちゃぐちゃ、べとべとにされた戦闘スーツの姿でぇ、負け犬ルビーは箱詰めで送還されちゃうんですぅ…!」

 

自白剤をしたたか投与されたように、饒舌に醜態を語るブラッド。

紅蓮の超昂戦士エスカ・ルビーの…屈服と隷属を自ら認める、完全敗北宣言だった。

 

その心の奥底で、僅かに残された良心と自尊心が、自分の言葉に蹂躙されていく。

(わ…私…。本当に、ザコ超昂戦士だよお…!

 ダイビートの恥さらしで…みんなの希望を裏切って…!

 イヤっ…嫌だよお…!)

 

 どくんっ。(……?)

 どくんっ、どくんっ。(……。)

 

 どっどっどっどっ…(……!)

 

……

…………

 

 どくどくどくどくどくどくっ!!

 ごおおおおおおおおおおーーーーーーーーっっっ!!!!

 

《[【な…っ、何いいいーーーーーっ!!?】]》

 

笑顔のまま慟哭していた紅蓮の超昂戦士が…総身から翡翠のオーラを放つ。

ぐちゃぐちゃに、どろどろに汚された。

誇りの戦闘スーツは爆撃に灼かれ、拳とタックルに千切られ、装着者の汗と涙と吐瀉物に濡れそぼる。

勇気の心も、蹂躙と洗脳に屈し、自ら泥を塗った。

 

本物のエスカ・ルビーでは成し得ない、史上最悪の陵辱に…昂ぶる被虐の鼓動が応える。

 

「…ありがとう。みんなの夢、あなたたちに叶えてもらったよ。

 私はブラッド。超昂戦士エスカルビー・ブラッド。

 悪いやつらに叩き潰されて、踏みにじられて、心をへし折られて…

 ピンチに、苦痛に、屈辱に悶える姿を望む市民が、極上のエナジーを注いでくれる…!」

 

「そんな…ミーの調教も…」

《列車事故も…遮断機も…》

【愚職が撞木で痛めつけたのも…】

 くすっ。

「うん。フーナイトのリンチも、コマンダーたちの砲撃も。

 みんなみんな、巡り巡って、私のエナジーのエサ☆」

 

 ふらっ…ぐぐぐっ…

ボディもハートも再起不能、そのはずだった。

拳を潰され、両脚を砕かれ、腹筋も内蔵も両頬もぐしゃぐしゃ。

絶体絶命の超昂戦士は…淡くも鋭く、そして煌びやかに輝きをまとって再起する。

 

紅蓮の光は不滅の炎。

いつもの活気溢れる口上が無くとも、今、眼前のエスカ・ルビーは…

 

 びりびりびりびりびりっ…!! びしびしびしっ! びきびきっ!!

 

溢れる接現力が闇夜を震わせ、石畳に亀裂を走らせていた。

 

《[【ひっ…!

   ひいいいーーーーーっ!!】]》

フラスト怪人も、コマンダー軍団も、フーナイトの群れも。

数の多寡を忘れ、束になっても敵わない、目の前の覚醒した超昂戦士に本能で恐怖する。 

 

……

 

 ばりいいいいいんんんっっ!!

「イデアの壁、破壊成功! 突入可能です!」

「了解っ! エスカ・ルビー、救助に入りますっ!!」

 

 がばっ! …すたっ。

「!?」

 

ダイビートの救出部隊がこじ開けた鳥籠に、オリジナルのエスカ・ルビーが突入。

だが、そこでルビーが見たものは…阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

ただし、ルビーの想像とは真逆の。

 

「あはっ☆ 到着が遅いなあ。

 でも、そのおかげで私…過去最高にゾクゾク、ドキドキできちゃった☆」

暴走同然に燃えさかる、偽超昂戦士を幾重にも包むエナジーのオーラ。

その妖しい輝きで照らされ、ブラッドの足下に…いや、四方の十数メートルに、フーナイト・コマンダー・フラスト怪人の残骸が、昇天することさえ赦されず、倒木のように寒空の下に廃墟を為していた。

 

「あ…あなたは…!?」

「私はあなた。市民みんなの希望を叶える、紅蓮の超昂戦士。」

「!!」

 

 くすっ。

「そして…あなたの評判を変態ドMザコ超昂戦士に貶める、エスカ・ルビーの天敵☆」

「なっ…!!」

「見て。このエナジーの迸り。

 あなたの護りたい市民は、あなたの惨めな負け姿にドキドキして、こんなに昂ぶってるんだよ。

 イヤでしょ? 醜いでしょ? 私なんか、今すぐにも消しちゃいたいでしょ?」

「くっ…!」

 

ガッツと炎の超昂戦士に対峙する、被虐と欲望の超昂戦士。

同じ笑顔、同じ拳、同じボディに秘めるは、真逆の心。

市民の救いがたい欲望と、自らも知らない深部の心を前に、超昂戦士エスカ・ルビーは逡巡していた。

(続)




…というわけで、第8話をお届けしました。
執筆ペースが落ちてますが、方向性に迷いつつ、斜め上に全力スイングしている怖さに足がすくみながら…いや、単に忙しいだけですゴメンなさいっ!
偽エスカ・ルビー最後の1人が満を持して(?)登場。普段より増量、様々な怪人にねちっこく蹂躙してもらってます。
モチーフは超昂シリーズ(エスカレイヤー・ハルカ・エクシールの敗北H)でもありますが、劣化コピーに見えたら、筆者の描写力の拙さです。

超昂シリーズではシナリオ分岐でバッドエンドがIFとして描かれていますが、超昂大戦は敗北Hで超昂戦士の完全なバッドエンドまでは描けない(闇堕ちや寝返り、洗脳があっても最後は救出、治療で復帰)ので、一度そのギリギリを公式スピンオフで描いてもらえないかなぁ…とは思ってます。
その欲求を形にしたのが今作ですが、単に筆者の性癖お気持ち表明?
少なくとも、読者さまの好き嫌いは分かれるかも、と恐くもあります。
第9話、今しばらくお待ちください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。