砂混じりの企業少女   作:華氏6度

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前夜

まだ何も聞いてはいない。

    神は死んだ、ということを。

『ツァラトゥストラ』より。

 

   ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 平等に訪れる一日の始まり。

カイザーPMCの雇われである白妙ヒトミは、不快感を孕んだ湿りのある布団を奥に押しやりながら状態を起こす。

もう少しそのまま横になっていたいという欲望は、まるで朝を告げる天命をさすがっているのかとばかりに鳴く、目覚まし時計にかき消された。尤もそう仕掛けたのは彼女自身であるが、その少しの鬱憤も朝の快楽の前には何かに転嫁せざるを得なかった。

 

 私は八時一分を示している秒針のない時計に急かされるようにカーテンを開ける。

先ほどまで遮られていた陽光は私に残っていた眠気をふわりと飛ばすが、先ほどまで鈍っていた感覚ではつかみ取れなかったべとりとした汗を吸い込んだ衣服の嫌な感じがそこに滑り込んでくる。

プラマイゼロかと太陽に上から評価を付ければ、観念してベットを手のひらで沈ませながらシャワー室へと向かう。

大体五畳半の決して広くない部屋の僅かな移動時間に、何の装飾もされていない無機質な部屋に少し寂さを覚えながら洗面所まで来た。昨日のことを思い出し、気持ち鏡のほうを向かないように通り抜ける。さらば!と衣服を洗濯機に入れれば少しすっきりしてしまって、シャワーの最初に出る冷たい水をもろに食らった。

 

 普段なら何も感じないようなことにまで繊細に反応しているのは、多分昨日のブリーフィングのせいだ。

アビドス高等学校の『差し押さえ』。私自身受ける任務には『取り立て』や『差し押さえ』などは少なくない量こなしてきてはいるが対象が子供なのは初めてだった。信じてはだめな大人ではなく、子供に敵対し銃を向けるというのは想像だけでもやはり抵抗感があった。

だが約九億という膨大な借金をかなりの時間返していない上に、このカイザーPMC基地を襲撃してきたのだ。そう考えると借金もサボタージュという線も考えられる。

そう裏にある理由を考察してはいるが、私には受けないという選択肢はなく無駄な思考でしかないとそこで切り落とした。

 

 髪と体を洗い終わり、無地の長袖とそれに引けを取らない地味なズボンに着替えベットのある方へ戻る。

そうして起こるであろう戦闘のため先の高等学校の生徒の情報を調べたした。勝手にみると怒られるから、許可を取って支給されるパソコンで。

 

データベースを調べればアビドス高等学校生徒の簡単なプロフィール使用武器、わかりやすい癖とそれを裏付ける過去何回かにわたるヘルメット団。及び『便利屋』という組織の戦闘記録が残されていた。外から来た大人のことも。

 

ある程度調べ終え、セキュリティクリアランスの許す限りの文書を見るともなく見ているとインターホンが鳴る。警戒のためサブマシンガンを手に取り。玄関へと向かう。

平坦な黒いドアに出っ張りをつけている施錠のためのつまみを回しドアを押し込む。

 

「どうも、今暇?」

「貴方か。」

 

開いたドアの隙間から顔を覗かせたのは、昨日食堂で会った同僚だった。人当たりのよさそうな笑顔でこちらを見ている。

 

「『暇か』なんて、デートにでも誘いにきたの?」

 

少し気が立っている私は適当にあしらおうと冗談を吐いたのだが、これが思わぬ形で響くことになる。

 

「大正解。それじゃいこうか。」

「は?」

 

 

 有無を言わさず、引っ張り出され何時間も電車に揺られた末。

今私の前にはキヴォトスでも有数の、ショッピングモールが鎮座している。白を基調に水色の横線で装飾されている外観にセール!や感謝祭!などという調子のいい垂れ幕がぶら下がっている。

一番人入りが強い昼時であるからか、まるで掃除機に吸い込まれるように入り口に向かって人の波が押し寄せている。

ビルも、ビルに反射している光もすべてがまぶしく

 

「あ……えっ。」

思わず気圧され、止まってしまっていた私とは対照的にそのまま歩いていく同僚に小走りで追いつき。

 

「どうして急にこんなこところに……?」

「来たことないだろ?結構楽しいからさ。」

 

「余計なお世話。」

「その割にはわくわくしているじゃないか?」

「何を根拠にっ!」

「顔に書いてるぜ?」

「……」

 

入り口を抜ければ、外よりも明るいかもしれないと思うほどの照明が私を迎えた。辺りのお店はぜひこのお店で買っていってくださいと言わんばかりにショーケースを華やかに飾っている。

 

「まずは、そうだな。俺たちは誠に残念なことに何かを買ってもそれをしまうバッグがない」

「それを買いに行くの?」

「その通り。じゃあ、どこで買うか……」

「あのお店とか。いいんじゃない?」

ショーケースに見たバッグが可愛かったから、少し勇気を出していってみた。彼は表情に驚きを浮かべていた。

 

「何か悪かった?」

「いや、じゃああそこで買おうか。」

その時にはもういつもの笑顔に戻っていた。

 

 

 「いらっしゃいませ」

慣れない店員の溌剌な挨拶にドキリとしながらバッグが集まっているコーナーへと向かう。

私がよく着ている無地のものなんかではなくよく装飾された服と服の隙間を通り抜けていく。

それらすべてが真新しくて。

 

「背中には銃を背負うからリュックサックはやめておいて、耐久性とお洒落の最大公約数を……」

 

彼は何か言っていたが、私には端から一つの選択肢しかなかった。

「じゃあ、私はもう決めたから。先お会計行ってくる」

「えっ。ああ」

 

 

 お店の前で合流したときには初めての買い物に時間がかかった私より早くに待っていた彼と合流して、その後も文房具や洋服店などを見て回った。

動き回ればお腹も空き、フードコートで昼食も取って帰った。

 

 帰りの電車で眠気に襲われていれば、横にいる彼から離しかけられる。

 

「今日のデートはどうだった?」

「まだ言ってたの?」

「デートではないけど、まあ、悪くはなかった。」

「それはよかった。」

何時間にもわたる移動時間で交わされた会話はそれだけだった。

 

 部屋に戻って背負っていた銃を降ろす。本来ならばそれだけのはずだったが、今日は違った。銃を立てかけている机にバッグと文房具を並べ、少し眺めた後寝る支度を済ませ床に就くことにした。

――得体のしれない焦燥感を見ないふりをしながら。

 

 

時は少し遡り。

少女が文房具、具体的にはペンを選んでいる時。

少女の同僚は後ろからそれを眺めていた。

彼は憂いていた。

自分は金のため。だが、あの少女は違う。普通なら高校生として青春を送っているはずの年齢で、特に尖りもしてない思想で。民間軍事企業で雇われて心をすり減らしながら働いている。

だから、自分からバッグを選んだときは安心した。未だ。死んでいない。

 

丁度その頃、少女はやけに子供っぽいペンを選び終えたようだ。

 

あってはならないことだ。

 

解決するのは俺じゃ無理だ。

自分ができることを考えろ。

 

その曇った眼を青く透明に晴らすために。

 

――だから、俺は。




まにあったぁ
今回も一話の文章量が短いです。長い文をかける人は本当に尊敬します……。

余談ですが書いてる途中、PCがエラーを吐いてしまい1000文字程度吹き飛びました。
私自身遅筆の上、駄文にできるだけならないためにいろんな小説の表現を参考にさせて頂いているので、簡単に書き直せるわけもなく……。
リアルに頭を抱えました。皆さんは気を付けてくださいね。こちらからは以上でございます。
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