砂混じりの企業少女   作:華氏6度

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黒く、重たく。

 梟でも鳴きそうな暗い色に空が変わった頃、男が妖しげに光るビルの前に立っていた。

その男は『先生』と呼ばれていた。

その男は教員として来た訳ではない、ではなぜ『先生』と呼ばれているのか。わかりやすく例えるのであれば()の夏目漱石の著書『こころ』だろうか。

自分の思想に多大な影響を及ぼした、又は連邦生徒会長不在の今そんな結果を期待されてか彼は、『先生』であるのだ。

そうは言えどもこの男は勿論人間関係に大きなトラブルを持っているわけでもなく、そしてどこまでも人のために動く人間であった。いかにも不気味なカードの端に書かれていた場所にある目の前で聳え立つ長方形を自分を顧みず手がかりのため、尋ねに来たことがなによりの証左であった。

 

 妖しい建物の自動ドアが開けば、蝙蝠でも飛び出してくるのかと場違いなことを思いながら歩を進める。中にはフロントもなく不愛想な柱が数本あるだけ、特筆すべきところは存外明るいことであろうか。未知との遭遇がおしゃかになったことに内心少し残念がりながらエレベータの随分と高い階に行くボタンを押せば狭い場所で一人になり、自分が真面目モードへと移行していくのがわかる。

 

 たどり着き、個室の仕切りが開き空間が一気に広がる。それは先が見えないほどに――いや違う。暗さで奥の壁が見えないのだ。此処で本当に合ってるのかと疑念を抱きながら慣れれ来た目でとらえたドアノブを引き、前に出れば、刺激の強い光とともに声が聞こえてきた。

 

「お待ちしておりました、先生」

 

その声の主の後ろから差す光で全貌があらわになる。

耳に入ってくる情報とは違い、おおよそ人間とは思えない黒い頭にひびが入るように目と口が見える。そして異形は話を続ける。

 

「あなたとは一度話してみたかったのですよ、連邦生徒会長が呼び寄せた不可解な存在。」

「連邦捜査部『シャーレ』の先生」

 

「ご安心ください私たちは貴方と敵対するつもりはありません、むしろ協力したい。私はアビドスなんて小さな学校とは比にならないレベルで貴方を警戒していますから」

 

「”いったい何者だ”」

先生が、何物かを語らずにいるその異形に誰かと問えば、それは『黒服』と答えた。曰くその名前が気に入っているらしい。黒服は自分が先生と別領域にいながらも同じく外部から来た存在。

ゲマトリアであると語った。そして

 

「ところで、我々に協力する気はありますか?」

 

「”断る”」

「”私はホシノを返しに来てもらっただけだ”」

ホシノの退学届のコピーを力が入ってしまう手で皴を作りながら、前に突き出す。その書類の顧問の欄は空白であった。

 

「なるほど、貴方がサインしていなければ無効であると。厄介な概念ですね」

「そこまで理屈をこねて、貴方は何故首を突っ込むのですか?」

 

「"あの子たちが助けを求めていたから”」

 

「放っておけばいいではありませんか、弱いものに自分を選ぶ権利はない、それだけの話ですよ」

 

「”断る”」

 

黒服が先生ににじり寄る。

「それで手を伸ばして、その先に何がある?」

 

「”あの子たちが、笑って過ごせる日々だ”」

 

「違います、過度な期待と失敗の責任です」

「すべてを救おうという心意気はよしですが、選ぶことは必要です。」

 

「”子供が助けを求めているんだ!まだ解決していないものをほっぽりだすわけにはいかない!”」

 

「はっきり言って今回のことはあなたには荷が重すぎる!戦う力もないでしょうに……!」

 

「”たとえ力がなかったとしても救って見せる!それが大人の役目だから”」

 

 黒服は困惑していた。

いくら説得しても引かないその姿勢に。この男は自信過剰なわけではない、そのくせ状況をちゃんと見た上で作戦もなしに救うと宣っているのだ。普通なら反吐が出るほどの理想家だが、黒服にはどうしてもそれが詭弁に見えなかった。

 

「私の問題か、あるいは……」

”彼”にあてられてしまったのか。

 

「はぁ……あなたのことは気に入っていたのですが、仕方ありませんね。ホシノさんはPMC基地にいます、どうぞお好きに連れ帰ってもらって構いません。」

 

「”わかった、力ずくで取り返させてもらう。それと”」

カイザーPMC。先生がここに来たもう一つの理由。

 

「”彼女について”」

先生の手に握られているスマートフォンには先の少女のスナイパーライフルが写っていた。

 

「あの少女のことですか、知りませんね」

「仮に知っていたとしても、残念ながらあなたには話せません」

「……何度も聞きますが、どうしてそこまで?あの少女が助けを求めたわけでもないでしょうに」

 

「”頼まれたからね”」

 

   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 先生はシャーレに着任して早々、()()の依頼を受けた。

一つはアビドス高等学校からの救援要請。そしてもう一つは。

 

『初見となる。こちらカイザーPMCの一職員だ』

ホログラムが映し出したのは生徒ではなく企業所属のアンドロイドだった。

 

『名前を出すことを控えさせていただく無礼を謝罪するとともに、この通信の秘匿性を保っていただきたい』

『俺はあなたの生徒ではないが、この依頼はあなたにとってきっと関わりのあることだ』

『さて本題に入ろう、内容は単純だ。こちらで働いている、本来なら高校生として生きているはずの少女、『白妙ヒトミ』を助けてもらいたい。』

 

ホログラムに写真が映し出されるが確かに『生徒』であることが確認できる。だがこの画角は盗撮では……?そんな疑念を引っ込めて続きを聞く。

 

『こんな鉄臭い企業なんかではなく、もっと別の場所で子供には青春を送る権利がある、貴方もそう思うだろう?』

 

『返答はいらない。ただ、厄災の狐を単独で退けた貴方の手腕を貸してほしい。よろしく頼む』

 

   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……成程、聞かなかったことにしましょう。」

 

黒服は少し考えたそぶりをして先生の傍を通り過ぎ去り際にこう語る

「お話しできて楽しかったですよ、微力ながら幸運を願います」

 

そうして黒服との話し合いを終えた先生は、次の日から対策委員会と行動を開始することにした。




存外、甘い男なのだな、お前は。

利用規約の、原作の大幅コピーに震えながら第五話を投稿させていただきます。
短いっ!(二千五百文字)


   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 貴方がいなくなってしまってからずっと時間がたったように思えます。
私はまだ受け入れられません。心のどこかで、この時間はずっと続くものだと思っていましたから。それでも平等に終わりは来るのですね。吐き出しては少し楽になろうと文字をしたためてはいるのですが、それでも胸は痛いままです。会いたいです。
あぁ、貴方は悪い方です。貴方がいた世界はあんなにも綺麗だったのに、今、色あせてしまったのは楽しい時間を過ごしてしまったからでしょう。
こうして勝手に思い出しては、勝手に傷つく私を見て、貴方はどんな顔をするのでしょうか。
そんなつらい思いをしても、巻き戻ったら、きっとまた好きになってしまうのでしょう。
そんな私が憎いです。

                    ――華氏6度『九連休』より一部抜粋。
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