私は水筒に残っていた最後の一滴を飲み干した。少し足りなかったが、すぐに動く気にはなれなかった。
憂鬱の重さに耐えきれずに視線を滑らせれば、机の横の空いたスペースが違和感を訴えかけてくる。私の銃が置いてあった場所だ。
そうだ、私は失敗したのだ。厭でも昨日のことが思い出されていく。
砂嵐。この時私は先ほどの自分の行動をひどく後悔した。水分が要る!、水分が要る!、水が要る!!!、頭の中がそれだけに支配される。何重にも見える視界を頼りに冷蔵庫へと向かうが、よろめいた体が躓き玄関の方へと流れていく。
近づく床に抵抗できないままぶつかるその時。
「お、開いた」
がこん、といい音を立てて床よりも先に動いたドアに頭をぶつけた。
「って大丈夫!?」
痛みに悶えながら見上げるといつもの同僚であった。
いつもの彼とは似つかない素っ頓狂な声だと思いながら手に持っていた飲みかけであろうペットボトルを強奪して飲み干す。
「あっま……」
彼が持っていた飲み物は顔をしかめるほど甘々としたジュースだった。
大体お昼ごろのPMC基地の一部屋、白妙ヒトミの私室で二人が向かい合っていた。玄関から部屋の中に話し合いの場所が変わったことは、少しは心を許したことの証なのだろう。
「先ずはお疲れ様だな」
少しの静寂と気まずさを破ったのは彼であった。
「馬鹿にしてるのか?」
「いや違うさ、ほらどうせ昨日から何も食べてないんだろう?」
彼はレジ袋からサンドイッチを取り出して机に置いた。
図星を突かれた私は何も言い返すことができなかった。
「理事の奴からどやされたか?」
珍しくまじめな雰囲気でそう問いを投げてくる。
「お咎めはなかった、それどころか呼ばれもしなかった」
そう。いっそ怒られた方がよかったかもしれない。そう思うほど何もなく、それが私の不安であり昨日から何も手が付かなかった理由だった。
「そうか……」
「それで、どうだった?」
「何がだ?」
「アビドス高校の奴らだよ」
「いけ好かない奴らだ。悪人らしく」
「……思い違いかもしれないぜ?」
「奴らの肩を持つのか?」
「……”先生”はどうだった?」
「あの大人か……」
頭痛のことを言おうと思ったが、何となく彼に弱みを見せるのは嫌な気がしたから押しとどめて。
「あれを守ってるバリア、かなりの耐久性だ」
「そういうことじゃなかったんだが……」
気まずい空気が制空権を取り戻す。
「まあ、いい。とりあえず食べないか?」
「お前が買ってきたんだ、先に食べるべきだろう」
「それじゃ、遠慮なく」
彼は普通にサンドイッチを食べ始める。
あまりにおいしそうに咀嚼するものだから、私も手が伸びてしまう。
此処じゃない場所では戦力の再編成でバタバタとしているが、お構いなしに穏やかな時間が流れていく。
「そんなに気負わなくていいんだぜ?」
「急に何?」
「一応言っておこうと思ってさ、今回はあちらに援軍も来てたんだろ?」
「お前のせいじゃないさ」
「……それでも」
「それでもじゃない」
「お前は重役でも何でもなくただの雇われ。最大限働いでダメだったならそれで終わりだ」
「そこから先はお前の責任じゃない。そうだろ?」
「……」
納得は、できなかったが彼が悲しそうな顔をしていたから、反論もできなかった。
「一人で抱えると大変だからさ」
「俺も頼ってくれよ」
「私よりも扱いの低い職員が偉そうに」
「まあ……そうだが」
「そもそも戦ってるところを見たことがないな」
「痛いのは嫌だからな、前線は戦闘はごめんだ」
「ふふっ」
「おい、これで笑いをとっても嬉しくないんだが!?」
青春のありかであるキヴォトスだとしても、ここでは、PMC基地では。
続かない
警報が暖かな空気を切り裂いた。
「これは……」
「奴らが攻めてきた……?」
如何に精鋭ぞろいの学校とも言えど襲撃ができるほどの戦力ではないと違和感を感じ、端末を見てみると、アビドスの生徒は勿論、ゲヘナの風紀委員の識別反応が確認できる。
いかないと、まずい。
水を入れた水筒を持ち、すわったままだんまりの同僚を横目にロビーへと向かう。
廊下を走っていけば窓の外に銃撃戦の様子が見える、それがさらに私を急かしていく。
ロビーの緊急用のアサルトライフルを手に取り襲撃先のアビドス本校へと走り出した。
今度こそは勝利するために。
救援に向かう、持ちこたえてくれ。
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短いですが、ここで切りたかったので次回に持ち越します。
幕間御用達同僚さん。
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