近づいていけば戦闘の跡、気絶している職員が増えていった。
私は体の芯まで冷えそうな焦燥感とともに足に伝う力を強めていく。砂嵐も頭痛も見捨てられたのかと思う不安な心すらも、今向こうにいる理事を助けに行かない理由にはならなかった。
力なく倒れている職員がただの景色に変わった頃、ようやく前線が見えてきた。かなりの大隊と感じ取れる軍の一部を見てみればボロボロのバリケードに隠れ、手に持つアサルトライフルのマガジンを交換している職員の横で丁度身を乗り出している別の職員が頭を打ち抜かれて倒れたところだ。
キヴォトスではよくあるとは言わずともめったに見ないほどではない普通の銃撃戦の様子だ。ただ、地面に黄色に光る模様が浮かんでいることを除いて。嫌な予感と共にほほを伝う汗がポツリと輪郭を離れた時だ。
――爆発が起きた。除雪車が飛ばす雪のような綺麗にも見えた放物線で、あの向こうに見える崖からミサイルが飛んできたのだ。
それはあたりの建築物を吹き飛ばしていく爆風を生み出した。私は目を見開いて観ることすらできなかった。
煙が晴れた先には対策委員会のメンバーと何やら重装備な先生が姿を現した。生憎と何かは袋をかぶっていてうかがえない。落ち着くために水筒を口に傾ける。
絶望的な状況、だかここを通すわけにはいかない。だから一日振りに見る奴らに威嚇を込めて。
「最初は五人だけだったのに、随分と増えたようだな」
アサルトライフルのセーフティを外しながら、話しかける。
「そういうあんたは一人だけじゃない。私たちはホシノ先輩に用があるからすぐに退いてほしいんだけど」
返してきたのは黒見セリカ。押し殺しても、溢れ出る恐怖感に思わずグリップを握る力が強くなる。
「私はどうしてもここを退くつもりはない」
彼女らに照準を合わせる。
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目の前にいる少女の意思の表れかのように、強く風が吹く。
少女の後ろから援軍が集まり始めている。
全員でかかればすぐ倒せるだろうが、時間は少し稼がれる、それに、震える少女の姿が脳裏によぎる。そこまでして、何が彼女を……。いろんな考えが巡り歯ぎしりをしてしまう。
時間でいえば少女と相対してから十秒も経っていないながら、その場には硬直が生まれていた。
「これが天丼ってやつかしら」
暗がりに光が差し込むように高らかなアウトローの声が聞こえる。
「便利屋68!?」
「この私たちが忙しい中せっかく来てあげたのよ?」
私たちと少女の間に便利屋の全員が集まる
「一刻も早くいかなきゃいけないんでしょ?ここは私たちに任せて先に行きなさい!」
「……ん、行こう」
シロコ先輩がそういった。そして私含めてみんなも同じ気持ちだった。
「お礼は言わないけど、これが終わったらラーメンでも食べに行くわよ」
そう会釈して、走り出した。
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「ふざけるな!」
通り抜けようとしている対策委員会に銃口を向けるが、銃身を打たれストップをかけることはかなわなかった。
「ぐっ!」
「貴方の相手は私たちなんだけど?」
煙を発しているスナイパーライフルを構えながら便利屋68社長の陸八魔アルはこちらを見ている。
「それなら、貴方たちを倒してすぐに止めに行くだけだ!」
「くふふっ、やれるものならやってみなよ!」
室長、浅黄ムツキがバッグを投げてくる。瞬間的に距離を取るがそのバッグからは光があふれて。
ドカンと爆発し煙が上がる。だけど、射線が切れるなら好都合だ、そのまま黒く濁った空気を突き進む。前に一人の影が見える。
「しょ、勝負です!」
平社員、伊草ハルカの姿だ。
「上等だ!」
先手を取ってきた彼女のショットガンをすんでて避け、アサルトライフルを打ち込む。腕に少し食らったが、こちらもかなりの感触が……あったはずなのだが。伊草ハルカは何事もなかったかのようにそこに立っている。
「死んでください死んでください死んでください!」
それどころか怖いことを言いながら銃を撃ってきている。戦闘距離が短くなる煙の中でショットガンと対峙するのはまずい。煙の外に逃げるもののその途中に横をかすめる銃弾が空気をゆがませていくのを感じる。とんでもない衝撃だ。一度ボロボロの廃墟の影に隠れて水筒の水を飲もうとすると、ハンドガンを突き付けられる。
「ごめんね」
「なっ……!」
地面を蹴って距離を取り反撃しようと銃のグリップを握りなおすも、震えで手元がおぼつかない。
反対に課長、鬼方カヨコのハンドガンが私を削っていき退避を強いられる。
一度立て直さなければと建物の影を駆け抜けるも、目の前に大口径の銃弾が着弾し、足が止まってしまう。飛んできた方を見れば陸八魔アルと浅黄ムツキがいた。
「なんで、全員そろって……」
「なんでって、残ってるの貴方だけだからね~」
横からほかの社員も出てくる。
「……」
「少し聞きたいことがあるのだけど」
「貴方たちに話すことなんてない!」
かぶせて遮るが、陸八魔アルはお構いなしに話を続ける。
「貴方なんでカイザーPMCで働いてるのよ、お金で動いてるわけでもなさそうだし」
「関係ないし、悪人に話すことはない」
「そこよ。アウトローの私たちはともかく、アビドスのあの子たちは悪人ってわけじゃないと思うのだけど」
一部を強調しながら陸八魔アルがそんなことを言ったとき。とんでもない爆発音と、鈍い音が背後から響いてきた。
後ろを振り返れば少し遠くに巨大なロボットが倒れ、煙を上げているのが見えた。
あれは……たしか。
すぐさま走り出す。
「まちなさい!」
太ももに鋭い痛みが走るが、それでも走り続ける。歩きにくいが、構わずに。
打ち抜かれたのだと気づいたのは少したってからのことだった。
「逃げられた……」
「しょうがないよ、社長。あれ以上撃ったら後遺症になる」
「それにしてもすごい執念ね、あの子たちにうらみでもあるのかしら」
「追いかけましょうか……」
「そうね、一応」
…………
自分の意志とは関係なく息が荒くなる。それほどまでに全力で走っていた。なぜなら
「理事!」
横たわっている理事に近寄る。
「何をしている!奴らを追いかけろ!」
顔を上げた理事の第一声はそれだった。それならば、追いかけなきゃ。
「っわかりました!」
対策委員会を追うため大急ぎで建物へと、アビドス本校へと駆け込んだ。
西日がやけに暑かった。
改装されたアビドス本校は洞窟のように暗く静かで不気味さを感じさせた。前にも来たことがあるような既視感も。尤も感じられたのはノスタルジーなんかではなく、不快感だけだったが。
進んでいけば遠くから再開を喜ぶような声が聞こえてきた。
私にはまだ気づいていないらしい。これはチャンスだ。
最後の曲がり角へと忍び足で近づいた後アサルトライフルを構えて、飛び出した。
五人が固まっている。勝てないだろうが、一人でも倒すために照準を向ける。それが任務だから。
トリガーにかけた指に力を入れようとした寸前、何よりも先に大人の声が響いた。
「”待って!”」
狭いこの通路ではその声は何回も反響して、気づけば銃を降ろしていた。
その大人はこちらに近づきながら。
「”ヒトミ……だよね?”」
「貴方に名前を教えた覚えはない」
「”よかった。布をかぶってるから顔が見えなくて”」
「”渡す機会があってよかったよ、はいこれ”」
「あ……私の銃」
それも二丁も
「何がしたいんだ……?」
一歩前に進んだところで立ち止まる
「”自分の銃持ってないと大変でしょ?”」
「”他のじゃ勝手も違うだろうし”」
「対価はなんだ」
「”そんなものいらないよ、ただ返すためにもってきたんだから”」
「”あ、でもできれば敵対するのをやめてほしいかも”」
なんなんだ、この大人は。ふざけるな。そんなはずはないだろう。私の聞いた大人はだまして、弱みに付け込んで、そんな卑劣な存在だったはずだ。だが、この行動の意味が分からない。私に隙を作るためじゃない。後ろの対策委員会ならばすぐ私のことを制圧できただろう。それを静止してまで私に銃を返すメリットが浮かばない。
「”ヒトミの雇い主もケガしてるし”」
「”ここで戦うよりも銃を取ってまた次に戦闘した方がいいんじゃない?"」
そうだ、理事がけがをしている。疑ってる暇はない。
大人に近づいて、銃を受け取る。
「っその水筒は!」
「”その銃結構重いんだね”」
少し遠くで小鳥遊ホシノが何かを言いかけたような気がするが、大人の声で遮られてしまった。大人のほうを見てみると腕を痛そうにしている。大人なのにそんなに力がないんだなと思っていたら。
目を見開いている小鳥遊ホシノが急速にこちらに近づいてくる。
彼女からは尋常じゃない危機感を感じる。やっぱりこの隙を狙って、私をだまして……!?
瞬間的に水筒の横のグレネードのピンを引いて衝撃を与える。
起こる爆発に削り取られながら理事のほうへと逃げるように向かった。
「”っホシノ!?”」
先生は急に走り出したホシノに驚きはするものの、ぶつぶつと喋る彼女の独り言を聞き取るには至らなかった。
「ホシノ先輩!?どうしたの!?」
他の対策委員会メンバーも集まってきて、ホシノの異変を聞き出す。
「なんでもないよ~少し気になったことがあっただけ」
「それよりもおじさん安心してつかれちゃったな~」
気になることはあれど騒動は終わりを迎え、対策委員会はひとまずはアビドス高等学校へと帰ることにした。
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赤くなった砂漠を一人で歩く。残念ながら夕日がきれいだと思えるほどの心の余裕は残っていなかった。理事から拒絶されてしまったことが大きく響いていた。血の滲んだ足を痛ませながら歩いていれば
「白妙ヒトミ。貴方は重大な勘違いをしている」
後ろから声がかけられる。振り返れば小柄な体系に白い紙と黒い羽。風紀委員長、空埼ヒナだ。
「何の話だ」
大声は出なかった。
「このままだと、取り返しのつかないことになるわよ」
「だから何を」
「そのまま真実を言ってもあなたは信じないでしょう?」
「……」
「だから警鐘を鳴らしに来ただけ」
「でもそうね、もっと危機感を持ってもらうためにこれは言っておきましょうか」
「白妙ヒトミ、四年前に私立ネフティス中学校に入学」
「なっ!?」
頭痛がする。
「しかし、二年後に行方不明に……とここでやめておきましょう、私もそれを撃たれるのは願い下げだわ」
その言葉でようやくスナイパーライフルを空埼ヒナに構えていたことに気づいた。
「もう少し自分で考えてみることね。それじゃあ」
空埼ヒナはいつの間にかいなくなっていた。とにかく頭痛がひどい。取り敢えず帰ってから物を考えようとおぼつかない足取りで帰路に就いた。
私は何か・・・されたようだ・・・
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家にいる時間すべて寝ていると時間が経つのが早く感じますね。
生活が風化していくのが感じ取れます。
後書きの欄を毎回日記のごとく使っているのですが、やっぱりXとかでやった方がいいんですかね。ここの欄が使いやすく……。