創世記より引用
「この子は……何者なんだ……?」
「“……”」
この光景、そして状況……
初めて“アリス”と出会った時に似ている。
アリスは『名もなき神々の王女』と呼ばれていた。
という事はこの小さな存在も『名もなき神々』に関係があるのだろうか?
隠すべきものがないとはいえ流石にこのままは色々と良くないので毛布をかけ直してあげる。
「“……あれ?”」
「……先生?どうされました?」
「“冷たい……。”」
そっと肌に触れた。とてもひんやりとしている。
だが質感は人の肌のものだ。
「そうなんです、おまけに呼吸もしていないようで……。」
解析を担当していた生徒がそう補足してくれた。
「こうなると間違いなく人間ではありませんよね……」
やっぱり……この子もアリスと同じ……
少なくとも誰か“詳しい人”に聞くべきかも知れない
「“ねえ、カンナ……”」
「“カ……カンナ……?”」
さっきまで普通にしていたカンナも生徒も何故か唖然としている。
「せ、先生……それ……」
カンナが固まった表情で子どもの方向を指差す。
振り返って見てみると。
「“わっ……”」
さっきまで死んだようだったその子がむくりと上半身を起き上がらせている。
そして同時にぱっちりと目を開けたため、視線が合った。
「“ええっと……おはよう……?”」
「……」
何も返事は返ってこない。それどころか私の言葉を気にも留めずにキョロキョロと辺りを見渡している。
「そんな……!?さっきまで動く気配もなかったのに……!」
今度は少し手を振ってみる。
「……!」
動く手に反応して視線を合わせているようだ。
そして手を止めて私からじっと見つめてみる。
向こうもこちらを見つめ返す。
次に手が届く距離まで近づいてみる。
「……?」
その子どもはゆっくりと手を伸ばしてくる。
「“……ん゛ん゛”」
顔の頬や鼻をぐにぐにとつねられる。強い力ではないけど痛い。
どうやら私という存在を認識したようだ。
「とりあえず……敵意は無い……のでしょうか……?」
「先生……見ててヒヤヒヤしましたよ……」
「”あはは……ごめんごめん“」
カンナと生徒もこちらに来る。
それに合わせるように子どもがカンナ達の存在を認識した。
「それにしても、この子は正体は未だ掴めませんね。」
「小さい子供のように見えますが、性別が判別できず、ヘイローもない……」
カンナが子供に近づく。
「それに、私を怖がる素振りも見せない。」
彼女は自分の顔のせいで迷子に怖がられてしまう事があった。
そのせいか少し嬉しそうにも見える。
子供はカンナをじっくりと見つめている。
いや、カンナというよりカンナの頭上を見つめている気がする。
「”もしかして……その子はカンナのヘイローが気になっているんじゃないかな?“」
「そうなんでしょうか?」
カンナが屈んで子供に顔を合わせる。
予想通りに子供がヘイローに手を伸ばした。
手を伸ばしたところで触れられはしないけども。
「……えっ!?」
解析担当の生徒が声を上げる。
見ると、目を疑った。
ヘイローを……掴んでいる……?
直後、同時に子供の頭上に何かが現れた。
「“っ!?あれは……!?”」
「ヘイローに似た何かを感じます……」
「先生……?どうされました?って……これは……っ」
カンナも立ち上がってそれを確認した。
「ヘイロー……?」
キヴォトスにおいて『生徒』達が皆持つもの。神秘と命を象徴するそれが頭上に浮かんでいた。
というよりは発現した……と言う方が近いかも知れない。
しかし……ヘイローというより、それに近い何か……?
「ふ、不思議ですね.....」
アリスの時に似ていると思ったが……少し、いやかなり違うように感じる。
その子供が起き上がって立とうとしたのか、毛布を取り払ってたどたどしい動きで台座から降りた。
〈べちっ〉
上手く降りれなかったのか、その子は姿勢を崩して転んで顔を地べたにぶつけてしまう。
「“大丈夫っ!?」
慌てて駆け寄る。だが何事も無いように立ち上がった、まるで痛みを感じていないかのように。
「大丈夫そうですね……。意外と頑丈なのかな……?」
「“ええっと……君?は何か話せたりするの?”」
「……」
少し話しかけてみても無言のまま。
「“言葉は分からないのかな?”」
「……?」
今度はゆっくりと首をかしげていた。
「会話はできそうにないですね……。」
言葉は理解していない、というか言葉という概念を理解しているかすら分からない。
アリスが目覚めた時、彼女は機械的な言葉遣いをしていたし、言語を介し、会話ができた。
最初は状況が似ているとは思ったが……。
やっぱりかなり違う。
「先生、この子……どうしましょう?」
「”うーん……“」
「”とりあえず、”詳しそうな人“に当たってみようかな“」
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私はこの子と共にミレニアムに来た。
理由はもちろん得意現象捜査部の部長、明星ヒマリ。彼女なら何か知っているかもしれないからだ。
わざわざこの子と共に来たのには少し理由がある。この子はまるで刷り込まれたひよこのように私に付いてきては離れなかった。
そのため、連邦生徒会、ヴァルキューレと話し合った結果、私がこの子を一時的に保護する事になった。下手に引き離したりして刺激した場合どうなるかが全く分からないため、そうしたリスクを避ける必要がある。
そのため、ヴァルキューレの警護の元でミレニアムまで来た。
一応全裸のままで来させるわけには行かないので、この子の持ち物であったどうかは定かでない例のオーバーコートやヴァルキューレの制服などを上手くサイズに合わせて着用させた。
カンナ達と別れる時、少し彼女が寂しげな顔をしていたのが印象的だった。
「なるほど……それでミレニアムが誇る超天才にして清楚系病弱美少女、『全知』の学位を持つこの私を訪ねてきた、というわけですね」
一応事前にメッセージで訪ねる事は伝えたのだがかな細かい詳細の事情までは話せていなかった。
「“そうなんだヒマリ、何か知ってないかな?”」
「……ですが……残念ですね。稀代の秀才にして天才ハッカーである私の情報収集能力をもってしても、この子に関する情報は、ついぞ見つかりませんでした。少々想定外でしたね……。」
「“そうなんだ……忙しいのにありがとうね。”」
「いえいえ……ですが。『名もなき神々の王女』がそうであったように……この子が、『無名の司祭』が遺した“オーパーツ”である可能性も、決して否定はできません。」
「ふふっ……超天才にして全知を司るこの私の直感が、そう簡単に“無関係”だと言ってくれないのです。」
ヒマリは儚げに微笑む。
「ですのでこの件については、引き続き私が調査を続けましょう。進展があり次第、必ずご連絡しますね、先生。
「“ありがとう、助かるよ”」
ヒマリとエイミに別れを告げて部屋を出る。
この子が部屋にある色んな機材に触れようとするので静止させるのが大変だった。
「“やっぱりおいそれとはいかないか……”」
「ぉい、す、れ」
何か言葉を真似ようとしているようだ。段々と子育てをしているような気分になってきた。
ここで、わざわざミレニアムに出向いた理由を思い出す。
ただヒマリに聞くだけなら通話やメッセージなど遠隔での手段も使えたはずだ。
じゃあ何故直接ここまで出向いたかって?
「パンパカパーン、野生のアリスが現れた!」
「“やあ、アリス”」
「あっ先生〜!来てたんだ!」
「こんにちは、先生」
ゲーム開発部のアリス率いる勇者のパーティが現れた!
「おや? 先生にも新しい仲間ができたみたいですね!」
「先生?その子供?……は一体?」
「本当だ! 見た事ない子だけど……」
双子の姉妹に問われる。なので事情を説明する……
「……つまり先生はこの子の正体を探るクエストの最中なのですね!」
「くエ、スと」
「“段々と言葉の発音ができるようになってきたね”」
この子が言葉を真似ようとする。こんな調子で聞いた言葉を度々復唱している。
「……確かに、言葉も話せないのならアリスちゃんの時とは違いますね。」
「先生!この小さな仲間の名前はなんですか?」
「“うーん……名前があったのかも分からないんだよ”」
「え?じゃあここに書いてあるのは何?」
モモイがコートに描かれた『Abel』の文字を指差す。
「折角だからアリスの時みたいに名前を決めちゃおうよ!」
「だからこの子の場合は....あべる?」
「“アベルで合ってると思うよ”」
「じゃあアベルって呼ぼうよ!」
「“確かに、名前があった方が呼びやすくていいね”」
「じゃあ君はアベルね!」
「ア、べる……?」
名前に反応した。それが自分につけられたものだということを理解しているかは分からない。
「では初めまして、私はアリス! 勇者です!」
「私はモモイ、こっちはミドリだよ! よろしくね!」
「アり、す、もむぃ、みどぃ」
「“そういえばモモイ、ユズは一緒じゃないの?”」
「ユズなら“いつもの場所”にいるよ?」
きっと部室のことだろう。
「“そっか、教えてくれてありがとう。”」
「“……アリス、一ついいかな?“」
「はい、何でしょう?」
「”アリスはこの子から……いや、アベルから何か感じたりするかい?“」
「うーん……どういうことでしょうか?」
「“ちょっと質問が大雑把だったね....”」
「“ええっと、何か……こう……特別な何かを感じたり……とかはないかな?”」
上手く説明できない……でも
もしかしたらアリスとアベルは関連性があるかもしれない....
「そうですね....」
「私と似ているような違うような……でもモモイやミドリたちとも似ているような……。うーん、分かりません!不思議な感覚です!」
「“なるほど……ありがとう、アリス。”」
似ているようで、違う……?
ヒントになるかと思ったがやはり全貌が見えない。
「先生、確かアベルちゃん……いや、くん? は突然現れて、その後呼吸もせずに眠っていた……と言いましたよね?」
「“そうだね……”」
「やっぱりアリスちゃんのように“名もなき神々“に関係が……?」
「”……もしかしたらそうかもしれない。でも余りにも情報が無さすぎるんだよね……。だから危険な存在かも—-……“」」
「先生、ミドリ、それはアベルも“魔王”かもしれない……ということですか……?」
「“あっいや、違うんだアリス....そう言うつもりじゃなかったんだ……”」
いけない……少し配慮に欠けていたかもしれない……。
しかし彼女は落ち込んだりするのではなく、アベルに向き直り体を屈めて顔を合わせた。
「聞いて下さい!アベルの正体はもしかしたら魔王かもしれません……私もそうでした……。」
「でも“なりたいものになってもいい”ということを先生やみんなが教えてくれたんです!」
「だから私は勇者になれたんです!だからアベルもなりたいものになればいいんです!」
「アリス……」
「“アリス……!”」
思わず目を見張る。そうだ、彼女だって成長する。
少し見ない間にこんなに立派になった彼女を見て目頭が熱くなる。
「先生……? まさか……泣いてるの?」
「“え……?いやっ(ズビッ)泣いて(ズビッ)ないよ……!(ズビッ)”」
「先生……?」
後方から聞き慣れた声がする……。
「なんで泣いているんですか……? そしてそのお子さんは一体……?」
「“ユウカ……?”」
セミナーの会計担当、早瀬ユウカが何やら私とアベルを交互に見ている。
「まさか……先生の……!?あぁ……」
「「「”ユウカ!?”」」」
「大変です! ユウカが突然泡を吹いて倒れました! 即死魔法にやられてしまったようです!」
「えぇ……」
その後、何とかユウカを介抱した。
“妙な勘違い”をしていたらしく、しばらく会話が噛み合わなかった。
この日から私が子持ちの既婚者であるという噂が流れ始めてしまったのはまた別の話。
しばらくアベルはゲーム開発部のみんなと共に居た。まるでアリスに兄弟ができたように見えて少し微笑ましかった。
この子が笑ったりして感情を出す瞬間は未だに見れていない。でも色んな事に興味を抱いているように見える。なぜなら分かりやすく目を輝かせているからだ。
今のところアベルから危険な感じはしない。
元々、私についてくるばかりだったが勝手に目に入ったものに触ろうとしたり、気づかない間に遠くにいっていたりと逆に私がついていなければいけない状況になってしまった。
そのため、これからも引き続きこの子の面倒を見ることに。
「“アベルー?寝るよー?”」
そして今、この子と共に私の居住区に居る。
まさかこんな突然に子育て紛いの暮らしが始まるとは思わなかった……。
しかし、代わりに普段の仕事を減らしてもらえたため、少し嬉しいような自分もいる。
寝床に入り、就寝の準備をする。
「“アベル?”」
首を傾げてこちらを見ている。“睡眠“という行動を知らないようだ。
しばらくすると似たように仰向けになって目を閉じた。この子は私の行動を真似て学習していっているのかもしれない。
私も目を閉じる。そして意識が泥濘に沈んでいった……。
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『……先生!? 先生!? 起きておられますか!?』
『また例の”
『場所は……』
『”アビドス砂漠“です!!』
[補足]
-先生
男先生です。失楽園編の主人公だった“名無しの彼”とは正反対の性格をしている、真面目で優しい爽やか野郎という認識でいいです。もちろんめちゃくちゃ生徒想い。男である事にとても重要と言うほどではないけどそこそこ意味があったりします。
-アベル
5、6歳ぐらいの見た目。イブキよりも小さい。
“ヘイローは息遣いのようなものだから生徒は一つ一つ識別できるわけではない”ようなので、この子のヘイローは生徒達からは「ヘイローだけど.......何だろう?」という風に少し違和感を感じられてます。なので明確に違うかどうかなどは判別できていません。
今更ですが、“彼ら”の名前や役割、モチーフは基本聖書から来ています。
-ジャンル
失楽園編と雰囲気が全然違うのは文字通り“ジャンル”が違うからです。
-名前
この作品において重要なテーマの一つだと考えています。名前を含む“自己”に関わるものは基本重要になってくると思われます。
現時点ではとにかく不明な点が多いと思われますが、物語が進展するに連れて答え合わせがされていくような構成にするつもりです。焦らすようで申し訳ない....
オリキャラ周りがかなりダークな雰囲気になる可能性があるのですが、参考にしたいのでできれば......
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暗い。陰鬱な雰囲気は好き
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別にいいと思う
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あまり好きでは無い