[完結] From outside Kivotos   作:ケトゥ毛

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大人と無垢なる子の間に生まれつつあるもの


※猿展開注意


6話『育まれる絆』

 

「なあ、見ろよ。あれ。」

 

「あれが噂のか」

 

「『シャーレの先生』」

 

「シャーレの先生は色んな生徒会とアホほどつるんどったんや。そんな奴から金ゆすったらいくらになると思う?」

 

「その額、500億……」

 

「でもわざわざ誘拐するなら専門の業者に頼めばいいのに」

 

「ボケーッ、分け前が減るやろうが」

 

「みんなで誘拐するから尊いんだ、絆が深まるんだ」

 

「いやちょっと待てよ、そんな奴を誘拐するなんて難易度が高すぎるんだぜ」

 

「具体的な策を教えてくれよ」

 

「おいおい誰も“先生を”誘拐するなんて言ってないでしょうが」

 

「ふうん、つまりどういうことだ」

 

「おそらく最近話題の”先生の娘“の事を言っていると思われる」

 

「そしてこれが娘の画像」

 

「なんやこの可愛い子は……(ギュンギュン」

 

「あかんやん欲情したら 神様も悲しむで」

 

「 性異

  愛常

  者  」

 

「お……お前 変なクスリでもやってるのか」

 

「どうせ先生のガキみたいなもん金ゆするだけの道具やんけ なにムキになっとんねん。うーっやらせろ」

 

「ククク……ひどい言われようだな まあ事実だからしょうがないけど」

 

「愚弄を超えた愚弄」

 

 

「では行くぞ選ばれし者

 500億円を掴むチャンスを与えられた強き者

 単刀直入に言おう ミレニアムにいる、ある子供を攫ってきてほしい

 先生の娘で”長い白髪“を持つ少女だ

 もちろんめちゃくちゃ小さい

 しかもこの戦いには絶対守らなければならない条件がある

 子供を攫う時に先生を傷つけてはならない

 銃や爆発物などの武器は使用禁止

 なぜなら万が一にも"先生"を殺してはならないからだ

 何よりも"先生が生きている事"が大事なんだ

 ぶっちゃけこのガキの命なんてどうでもいいんだ

 “金"さえあればなぁ

 さぁ腕に自信のある者は今すぐミレニアムへ行け

 先生を失神KOさせろ

 急げっ 乗り遅れるな 500億を掴むんだ

 “誘拐・ラッシュ"だ」

 

 

———————————————

 

 

 

 

 

 

「“ふう……終わったぁ……”」

 

 セミナーとの話を終えて一息つく。とりあえず学園内外問わず厳重に警戒する事になった。私がミレニアムと話を進めている間、連邦生徒会の他のメンバーはまた別の生徒会との連携を図っていたようで効率的に物事が進んでいる。

 

 その間、アベルはゲーム開発部に預けておいた。今その迎えに行くところだ。端末を起動してモモトークで今から行く事を伝えようとするが……。

 

「“……あれっ”」

 

 なかなかメッセージが送信されない。回線が悪いんだろうか……?

 まあどの道行くんだからあまり気にしなくていいか。

 

「“あれっ、あれっ”」

 

 ゲーム開発部の部室に来た……が……。

 誰もいない。もぬけの殻だ。

 

 何処かにいってしまったんだろうか。

 

「(“こりゃ探さないと駄目そうだな……”)」

 

「“ねえ、そこの君”」

 

 近くに居た適当な生徒を捕まえて問いかける。

 

「……?はい、何でしょう?」

 

「“ゲーム開発部の子達を見なかったかな……?”」

 

「あー……あの子達ならさっき外に出ていくのを見ましたよ。」

 

「“本当?教えてくれてありがとう!”」

 

 外出しているのか……しかし……どこへ!

 

 

 

 

 

————————————

 

 

 

 

ダダダダダッ〉〈ダダッダダッ

 

「ひぃ〜〜!」

 

「なんで私たちがあんな野蛮人に襲われなきゃならないの〜!?」

 

 一方そのころ、ゲーム開発部とアベルはチンピラ達から逃げていた。

 

 

 

 

 暗い路地裏の湿った空気を引き裂くように、下品でねっとりとした声が鼓膜を打つ。

 

「アハアハ見つけたぞクソガキ」

 

「ボクゥ?ミレニアムのコやね?ちょうお姉チャンたちにつきおうてや」

 

「きっとあのガキ共は清純そうな顔をして私達の銃口をしゃぶりたくてウズウズしてるのさククククク」

 

 泣いて詫びている弱者に対して冷徹非道にぶちのめす精神(メンタル)が“強さ”だと信じている野蛮人達。

 彼女らがゲーム開発部を執拗に狙う……!

 

 下劣な笑い声が狭い路地に響き渡る。行き止まりの壁に背中がぶつかり、少女たちは足止めを食らっていた。

 

「……!」

 

 ハッと息を呑み、血の気が引いていくのを感じながら、青ざめた顔で周囲を見渡す。

 

「し……しまった……!」

 

「追い詰められてしまいました!」

 

 退路は完全に断たれていた。絶望的な状況を前に、少女たちが身を寄せ合ったその瞬間、先頭の女が背後に向かって大声を張り上げた。

 

「おーい、クソガキを行き止まりに追い詰めたぞォ。集合ォ」

 

 合図に応じて、ドタバタと無遠慮な足音が幾重にも重なって近づいてくる。足音の主たちは、まるで獲物を追い詰めた猟犬のように薄汚い笑みを浮かべていた。

 

「すごい数のチンピラが集まってきてます……!」

 

「チンピラ……?今なんか言ったかクソガキ」

 

 低く脅すような声が飛ぶ。だが、怯える仲間を背に庇うように前へ出たアリスは、一切引くことなく真っ直ぐに女たちを見据えた。

 

「アリスは人面獣心のクソ野郎と言ったんですよ!」

 

「アリス、これ以上は危険だよ!インターネットで見たセリフ使うのを止めて!」

 

 あまりにも突飛で煽り性能の高い言葉にヒヤリとしながらも、必死で制止の声がかかる。しかし、チンピラたちの輪の中から、さらに一人の見知らぬ女が下劣な笑みを浮かべて歩み出てきた。

 

「はっはー英雄色を好むと言うじゃないか コレが強い奴は“コッチ”も強いものよ」

 

「聞いてないし!というか誰!?」

 

 理解不能な理屈と唐突な乱入者に混乱を深めつつも、少女は叫ばずにはいられなかった。これ以上、理不尽な暴力に屈するわけにはいかない。強い視線を向け、問いただす。

 

「何が目的なの?こんな事して何になるって言うの……?」

 

「あたし達に意見するんじゃねーよクソヤロー」

 

 言葉を遮るように、カチリと金属的な冷たい音が響き渡った。チンピラが黒光りする拳銃の銃口を、躊躇なくこちらへと突きつけてくる。

 

「やるしかなさそうだね……」

 

「アリス、負けません!」

 

 覚悟を決めたように武器を握り直す少女たち。震える膝を必死に抑え込みながら、自らを奮い立たせるように言葉を紡ぐ。

 

「わたし達は……C&Cを相手に戦った経験もある……だから、なんとかなる……きっと……!」

 

 過去の過酷な修羅場を思い出し、希望を見出すユズ。だが、その言葉すらも、目の前の狂気に満ちた女たちにとっては格好の娯楽でしかなかったようだ。

 

「ふうん、一応色々な経験を積んできたらしいな。」

 

 銃口を向けた女は、歪んだ愉悦にその顔を盛大に歪ませた。少女たちが積み上げてきた努力、希望、プライド、それら全てを足蹴にし、打ち砕く瞬間を想像して舌なめずりをする。

 

「だがその積み重ねて来たものをグチャグチャに崩壊させるんだ、これはもうギャンブル異常の快楽だッ」

 

「まともじゃない……!」

 

 目の前の女たちが浮かべる常軌を脱した笑みに、冷や汗が頬を伝い落ちる。圧倒的な圧迫感を前に戦慄する少女たちをあざ笑うかのようにチンピラたちの怒号が響き渡った。

 

「多勢に無勢だ いっけぇ」

 

 合図と同時に、野蛮人たちが一斉に弾丸の雨を降らせる。

 

「みんな!アリスの後ろに隠れてください!」

 

カンッカンッ

 

「なにっ」「なんだあっ」

 

 甲高い金属音が鳴り響く。アリスは“光の剣(スーパー・ノヴァ)”を盾にし、仲間を守る。

 

「その銃身を、振り回せんのかよ……!」

 

「な……なにっ、まるで通じない」

 

 ンピラたちは動揺を露わにする。弾丸を弾き返すアリスの背後で、少女たちは即座に次の行動へ移っていた。

 

「そうだ!ミドリ、ユズ!今のうちに誰かに助けを!」

 

「さっきからやってる!でもメッセージも送れないし通話も上手く繋がらない!」

 

「おかしい……回線が悪いってレベルじゃない……!」

 

 必死に端末を操作するものの、画面には不吉な圏外の表示が躍るだけだった。外部との連絡を遮断されているという異常事態に、焦色がさらに濃くなっていく。

 

「ふうん、真正面からの攻撃は駄目か……」

 

 正面突破が阻まれたことを悟ったリーダー格のチンピラが、冷徹な笑みを浮かべながら指を鳴らした。

 

「高壁部隊を放てッ」

 

 リーダー格のように見えるチンピラが叫ぶ

 

「な、何……?」

 

〈ドタッドタッ〉

 

 着地音が頭上から響き渡る。異変に気付いたモモイがハッと上を見上げた。

 

「みんな!真上から何か降ってくる!」

 

「私なんて10階以上あるビルから華麗に着地する芸を見せてやるよ」

 

 頭上の高壁から飛び降りてきたチンピラが、地面に降り立つなり不敵に笑う。理不尽すぎる乱入に、モモイは思わず銃を構え直しながら叫んだ。

 

「チイッなんでビルの屋上からチンピラが降ってくるの!(カッカッ)」

 

「ムフフフ チンピラなのは朝の8時まで、それ以降は犯罪組織に変身するの」

 

「くっ……!」

 

〈ダダダダダッ〉

 

「痛いなあ……」

 

 高壁野蛮人がモモイに迫る。

 

「この指が悪いことをするんだね?」

 

〈ガシッ〉

 

「あうっ」

 

「お姉ちゃん!」

 

 容赦のない怪力で腕を掴まれ、モモイはあっけなく地面へと組み伏せられてしまう。

 

「ハハハハ 本当アホですねぇ お前はっ 数秒後に同じ目に合うと言うのに」

 

 嘲笑う声とともに、残りの襲撃者たちも一斉に動き出した。

 

「ミドリ!ユズ!後ろ!」

 

「はうっ」「ひっ……」

 

 悲鳴が重なる。背後から襲いかかられたミドリとユズも、抗う間もなく地面へと押し倒されてしまった。

 

「みんな!アリスが助けます!」

 

 仲間たちの危機に、アリスが光の剣を構え直して一歩踏み出そうとするが……。

 

「おっと、動くなよ」

 

「!」

 

 鋭い制止の声とともに、組み伏せられた仲間たちの頭上に黒光りする銃口が突きつけられた。

 

「そのデカブツを下げてもらおうかァ?」

 

「ほいだらこいつらをあの世に送ったろか あーーーん?」

 

 下劣な笑みを浮かべながら、人質を取った野蛮人がニヤニヤとアリスを睨みつける。仲間を盾に取られたアリスは攻撃を加えることができない。

 

「くっ、卑怯です!」

 

 絶体絶命の危機の中、なおも下劣で品性のない言葉を吐き捨てる女たちの声が狭い路地に響く。

 

「「おいコラッ何を遊んどんねん 早よ“ガキ”を回収せんかい」

 

「やめて!アベルを離して!」

 

「私はジェンダーレスだぜ 女も子供も平等に凌辱してやるのよ……」

 

「ムフッ 今からする事は二人だけの秘密にしようね……」

 

 あまりにも不快で歪んだ欲望を突きつけられ、少女たちは身をすくませる。痺れを切らした別のチンピラが怒鳴り散らした。

 

「アホっ!無駄な事せんと早よガキをこっちに―――」

 

ドガアアアアアァァァンッ‼︎‼︎

ダダダダダッ

 

 言葉を最後まで言い切る前に、爆発的な一撃が路地裏の壁を粉砕した。猛烈な爆風と煙が巻き起こり、一閃の銃光が走る。

 

「うっ」「はうっ」「あっ……」

 

ドサドサッ

 

「な、なんだあっ」

 

 突如として発生した爆発と容赦のない掃射。ゲーム開発部の仲間を束縛していた犯罪チンピラたちが、何が起きたかも理解できぬまま次々と地面に崩れ落ちていく。爆煙の中から、見慣れた小柄な影と頼もしい存在がゆらりと姿を現した。

 

「ったく……仲間の誰とも連絡が取れなくなったって時に……」

 

「「「「ネル先輩!!」」」」

 

「“私もいるよ!”」

 

「「「「先生!」」」」

 

「お前ら、無事か?」

 

「ネル先輩……!どうしてここが……」

 

「話は後だ。立てよチビ共、まずはあいつらをやる。」

 

 短くそう言い、ネルは銃を構え直す。先生が駆けつけてくれた安心感と、頼もしすぎる先輩の登場に、ゲーム開発部の士気は最高潮に達した。

 

「アリス、ネル先輩に合わせます!先生もいれば無敵です!」

 

「先生、指揮をお願いします!」

 

「“任せて!”」

 

 先生の力強い頼もしい声が響く。一転して追い詰められたのは、ついさっきまで威張り散らしていたチンピラたちの方だった。

 

「あの、ガキと大人が増えたんスけど、いいんスかこれ」

 

「ボケーッええわけないやろっ あれはただのガキやないっ、あの凄腕エージェント集団『C&C』の悪名高き『00(ダブルオー)』やっ あの異常性愛者(ペド)が早よガキ連れてこんかったせいで面倒い(めんどい)事なったやんけクソボケがーッ」

 

「なんだよこのクソ展開 あたし達はヒャッハーって突っ込んですぐにやられるザコキャラかあッ」

 

「なめてんじゃねえぞ こらあッ」

 

 自身の置かれた状況のヤバさに気づいたチンピラたちが混乱と怒号を極める中、ネルの導火線に火がついた。

 

「てめぇら、ぶっ壊してやるよ!」

 

「光よ!」

 

ダダダダダッ〉〈ドガアアンッ

 

う あ あ あ あ あ」「い や あ あ あ あ

 

「こんなのがいるなんてワタシは聞いてないよっ」

 

 助っ人、美甘ネルの登場によりチンピラ達が一網打尽にされていく。

 

「あないなハナクソにええようにいわされて こいつらワシの兵隊のツラ汚しじゃ」

 

「C&Cはルールで禁止スよね」

 

「キヴォトスはルール無用だろ」

 

「クソッ どないしたらええんやっ」

 

 完全にペースを握られ、絶体絶命の混乱に陥った野蛮人たちの絶叫が、煙の充満する路地裏に虚しく響き渡ル。

 

 

「おいっ なんとかしてくれ」

「なんじゃあ、この無惨な有様は」

「あのう、先生撃ちましょうか?」

「『00』を倒すんですか?」

「そんな事……ってその手があるやん」

 

「お前らァ、先生をぶち殺せぇっ」

 

「えっでも金は……?」

 

「今は生き残るのが先やっ、あの先生の指揮を止めへんとこいつらには勝てへんっ」

「先生の死刑決定ェ」

 

「っしゃあ!」「殺す……」

 

ダダダダダッ〉〈ダダダダダッ

 

 野蛮人達が様々な方向から先生に向けて掃射する。逃げ場のない圧倒的な面攻撃。

 

「っ!!まずいッ!」

 

「先生!危ない!」

 

「”っ!しまった—-“」

 

たたっ

 

 死を覚悟したその瞬間、小さな影が素早く滑り込み、先生をかばうように前に乗り出した。

 

「”……!? アベル!?“」

 

「危ない……銃弾が……!」

 

バチンッ

 

「なっ、なんだあっ」

 

「”これは……っ!“」

 

 一瞬の静寂の後、凄まじい現象が巻き起こる。先生に向かって放たれた数百を超える数の銃弾が、まるで不可視の壁に沿って動くかのようにアベルの周囲で綺麗な円を描き、そのまま全弾、野蛮人たちに向かって恐ろしい精度で撃ち返されたのだ。

 

ダンッダンッダンッ

 

「う あ あ あ あ あ」

 

「インチキ……糞」

 

「あれズルくないスか?」

 

 

自らが放った弾丸の嵐をまともに浴び、野蛮人たちが蜂の巣になって崩れ落ちていく。理不尽すぎる光景に、ネルすらも目を丸くした。

 

「このチビ……そんな力があったのか……」

 

「”……良くわからないけど、ありがとう!アベル!“」

 

「ふふん」

 

「やるじゃん!」

 

胸を張るアベルを前に、ゲーム開発部の面々も思わず歓声をあげる。完全に勝負は決したかに思えた。

 

「クソがッ」

 

「……さあ、どうする?このままあたしにぶっ壊されるか?」

 

 ネルが足元に転がる銃身を踏みつけ、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべて追い詰める。退路を断たれたチンピラたちが、青ざめた顔で己のボスにしがみついた。

 

「どうするんやっ“キャプテン”ッ」

 

 追い詰められたはずの“キャプテン”と呼ばれた女は、ゆっくりと顔を上げた。

 

「……怒らないでくださいね」

 

「……?」

 

「強いだけの女ってバカみたいじゃないですか?」

 

「喧嘩売ってんのか?」

 

 煽るような言葉にネルの眉間が深くピキリと寄る。だが、キャプテンは気にした風もなく、薄汚い歪んだ笑みをその顔に浮かべた。

 

「ククク……」

 

 不敵な笑みを浮かべる野蛮人達のキャプテン。咄嗟にゲーム開発部の仲間達も身構える。ハタリと風が止み、路地裏に重苦しい沈黙が立ち込めた。

 

「“何をする気だ……”」

 

「ククククク」

 

「(何かとんでもない策があるに違いない……!)」

 

 追いつめられた狂人が見せる謎の余裕に、誰もが息を呑み、次の動向を注視する。

 

 

 

 

 

 

 

 息を呑む全員の視線が集まる中、“キャプテン”は神妙な面持ちでぽつりと呟いた。

 

「……逃げる」

 

シュタタタ

 

言うや否や、風のような素早さで踵を返し、一目散に路地裏の闇へと脱兎のごとく走り出した。

 

「えっ待てよっ」

 

「ふざけんなっ まだ仲間が残っとるやないか オラーッ戻ってこいやチンカスーッ」

 

 まさかの前言撤回と見事すぎる敵前逃亡に、取り残された部下たちから阿鼻叫喚の怒号が飛ぶ。しかし、その背後には逃げ遅れた哀れなチンピラが一人、震えながら取り残されていた。

 

 カツン、と足音が響く。

 

「……ついてねえな、お前。」

 

 逃げ道を塞ぐように立ちはだかっていたのは、冷ややかな視線を向けるネルだった。

 

「う……うああああああ」

 

 半狂乱になったチンピラがヤケクソで銃を構えようとする……だが。

 

「おそい」

 

ダンッ

 

「がっ……」

 

ドサッ

 

 最後に残った襲撃者が地面に伏し、静寂が路地裏を包み込んだ。煙がゆっくりと風に流されていく。

 

「や、やったの……?」

 

「勝ったの?」

 

 恐る恐る顔を上げた少女たちが、辺りに転がる敵の姿を確認して顔をほころばせる。

 

「パンパカパーン!アリス達の勝利です!」

 

 勝利のポーズを決めるアリスの声を合図に、緊張の糸が切れたようにその場に歓声が上がった。

 

「か……勝った!良かった〜!」

 

「お姉ちゃん……!大丈夫……?」

 

「ネル先輩……あの……助けてくれてありがとうございます……」

 

 腰を抜かしかけていたユズやミドリも、お互いの無事を確かめ合いながら深く息を吐き出す。感謝を伝える後輩たちに向け、ネルはスカジャンのポケットに手を突っ込みながら、どこか誇らしげに口元を緩めた。

 

「気にすんな。それより、あの数を相手に良く耐えたな。」

 

 過酷な危機を乗り越え、安堵の笑みを浮かべる少女たち。その姿を見守りながら、先生も優しく声をかけた。

 

「”とりあえず……無事で良かった……”」

 

 

 

 

 

——————————————

 

 

 

 

 

「“よしっ……と”」

 

「ありがとうございます……先生」

 

応急手当のキットを片付けながら、負傷した生徒の手当てを終える。幸い、全員擦り傷や擦過傷程度で大きな怪我はなかったようだ。荒い息が落ち着いていくのを見届け、ホッと息を吐き出す。

 

「それで、なんで先生とネル先輩は私たちの場所が分かったのさ?」

 

 モモイが不思議そうに首をかしげながら尋ねてきた。

 

「“元々セミナーとの会談が終わったからアベルを探しに戻ったんだけど……みんなが外出してるって聞いたから探しに出たんだ。そうしていたらネルと偶然会ったんだよね。それで激しい銃声が聞こえたから駆けつけてみたら……って所かな”」

 

「そうなんですか……それじゃあネル先輩は何をしていたんですか?」

 

「あたしはまだ任務が入って無かったから暇を潰してただけだ。」

 

 ぶっきらぼうに答えるネルの横顔を見ながら、苦笑いを浮かべて言葉を繋ぐ。

 

「”本当にネルが偶然暇で良かったよ。居なかったらどうなってたことか……”」

 

 激戦の跡が残る路地裏で、一通りの会話が途切れた時だった。ふと思い出したように、ミドリたちが手元の端末を覗き込み始める。

 

「……ねえミドリ、まだ繋がらないの?」

 

「……駄目みたい。ユズちゃんは?」

 

「わたしのも繋がらないみたい……」

 

「先生は?」

 

 促されるままにポケットから端末を取り出し、起動してメッセージを送ろうとしてみるが……。

 

「“私のも駄目みたい……”」

 

「チッ……何がどうなってやがる……」

 

 ネルが苛立ちを隠さずに舌打ちを鳴らした。先ほどから端末が全くインターネットに繋がらないのだ。アリス達を探すのに骨を折ったのも、まさにこれが原因だった。今日ネルと会った時、彼女もまた同じ現象に頭を悩ませて困っていたのだった。

 

「こんなに回線が悪い事ってある?」

 

「この辺は別に電波が通りづらい地域って訳でもないし……」

 

「”…………”」

 

 通信障害の原因が掴めない以上、立ち止まっていても拉致が開かない。気を取り直して提案する。

 

「”とりあえず部室に戻ろうか”」

 

「まあ、どっちにしろ そうするしかないよね〜……」

 

 全員の意見がまとまり、撤収しようとしたまさにその時。

 胸元で強い違和感が走り、静寂を破るように通信音が鼓膜に刺さる。

 

先生……

 

先生……

 

「A.R.O.N.A?どうしたの……?」

 

 突然シッテムの箱から語りかけられる。しかし、いつもとは明らかに様子がおかしかった。まるで激しい混信が起きているかのように、ノイズが酷くかかった途切れ途切れの音声だった。

 

……何者から……妨害を受けています……警……かい……を……

 

『(ザーーーーーッ)』

 

 嫌な雑音とともに、応答が絶えてしまう。

 

「A.R.O.N.A……?A.R.O.N.A!?」

 

 呼びかけても返事はなく、シッテムの箱の画面は不気味なノイズを滑らせるばかりだった。急に焦り出したこちらの様子に気づき、生徒たちが心配そうに顔を覗き込んんでくる。

 

「先生……?どうしました?」

 

「”いや……えっとね……”」

 

 どう説明したものか……。

 

 

「おい、先生」

 

 背後から低く沈んだ声が掛けられた。

 

「”ネル?”」

 

 ただ事ではない気配を感じ取り、振り返る。ネルの表情はいつになく険しく、全神経を背後の気配へと集中させている。

 

「何かがあたしらの後をつけてる。」

 

「“なんだって?”」

 

カチャッ

 

 乾いた金属音が響く。ネルは間髪入れずに後方へ向かって、“ツイン・ドラゴン”の銃口を向けた。

 

「な、なに……?」

 

「どうしたんですか?」

 

 不穏な空気を察したゲーム開発部の面々がざわつき始める。ネルは目線を前方に固定したまま、低く鋭い声で命じた。

 

「チビ共、あたしの後ろに回れ。」

 

 指示に従い、少女たちが素早くネルと先生の背後へと身を寄せる。それと引き換えにするかのように、路地の奥から音が近づいてきた。

 

ザザッザザッ

 

「……!」

 

 周囲の様子がおかしいことに気づく。いつの間にか、自分たちの進んできた方向だけが、まるで光を吸い取られたかのように深い闇に包まれていた。

 

 その暗闇の奥底から、確かに“何かを擦ったような音”。

 

 

ザザッ

 

 

 

 

 

{ み つ け た]

 

{ お前 は 俺 か >

 




二次創作に猿語録を放てッ

[補足]
-野蛮人
“タフ”な奴ら。野蛮を超えた野蛮。『金(マネー)好きの暴徒(モブ)』を略した『金暴(マネモブ)』を名乗る半グレ集団。“金暴”は良く“キンボー”や“キーボー”と読み間違えられる。どこの生徒か、どのぐらい留年したのかは不明。朝の8時まではチンピラ、それ以降は犯罪組織に変貌するらしい。いつ寝てんだショートスリーパーかよ。強盗、略奪、誘拐、殺人など、より悪事を働いた者が英雄となれると信じているため、同情の余地なし。一発死刑決定ェ


-アベル
 娘とは言われているが性別は不明。髪の長い子供いたら女の子かと思うよね。



オリキャラ周りがかなりダークな雰囲気になる可能性があるのですが、参考にしたいのでできれば......

  • 暗い。陰鬱な雰囲気は好き
  • 別にいいと思う
  • あまり好きでは無い
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