[完結] From outside Kivotos   作:ケトゥ毛

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本当に真っ暗闇の中にいるのはどっちなんだろう?



7話『停電、遮光」

 

{ お前 は 俺 か >

 

「……!!」

 

 暗がりにうっすらと浮かび上がったその異形。それは、いつか見せられた写真に写っていたものと似た姿をしていた。微妙に異なる。現在進行形で微妙に形が変わり続けているようだ。

 正体不明の脅威を前にして、俺は咄嗟にアベルを己の背中へと隠し、その視界から遮るように庇い立つ。

 

「やっぱりつけてやがったな。」

 

「“ネル、あれは……”」

 

「知ってる。例の”化け物“だろ?」

 

「ひぃっ……」「何……?あれ……?」

 

「アリス……少し怖いです……」

 

 背後から漏れる怯えた声。得体の知れない存在が放つ不気味な圧迫感が、じわじわと周囲の空気を侵食していく。

 

[ お前 オマエ おマえ 俺 か オレ か おれか >

 

< 空腹 飢餓 充電 }

 

{ 喰わせろ >

 

ザザッザザッ

 

「”く……来る……!“」

 

「幽霊だか怪物だか知らねぇけどよ……」

 

 ネルは二丁のサブマシンガンの銃口を容赦なく敵へと向け、歯を剥き出しにして言い放つ。

 

「ぶっ殺してやるよ!!」

 

ダダダッダダダッ

 

 引き金が引かれると同時に銃弾の奔流が放たれる、が……

 

ザリッザリッ

 

「”なっ!?“」

 

「銃弾が……突き抜けた……?」

 

 必殺の弾丸はすべて“それ”の体を虚しく突き抜け、奥の暗闇へと飛んでいく。手応えはなく、ただ砂粒のような不可解な物質が舞うだけだった。

 

シュウゥゥ……

 

「先生!あれを!」

 

 突き抜けたはずの穴へと即座に塵が集まり、何事もなかったかのように塞がっていく。再生というよりは、もとより実体がないかのような異常な復元能力。

 

「あぁん?銃弾は効かねえってか?」

 

 チッと舌を打つネルに対し、私は思考を巡らせる。

 

「“範囲が小さいのか?……なら……!“」

 

 一撃で吹き飛ばすほどの広範囲攻撃ならば、再生すら許さずに消滅させられるかもしれない。

 

「“アリス!”」

 

「任せてください!」

 

 頼もしい返答とともに、アリスが前へと躍り出る。彼女が持つ光の剣、その広範囲に渡る圧倒的な破壊力なら……!

 

ガシャン

 

「光よ!」

 

ギュオオオンッ!!

 

バサァァンッ〉〈ドドドドドッ

 

 眩い閃光と共に“それ”が焼き払われたように消し炭になった。地面に焼き後が残り、奥の壁に穴が空いて崩れる。

 

「相変わらず威力はすげぇな……」

 

 息をのむような光景にネルが呆れたように呟く。その横で、どこか嫌な予感を察知したミドリが不審そうに眉をひそめた。

 

「……ミドリ……“あれ”を言っていいかな?」

 

「お姉ちゃん……?まさか……」

 

 嫌がるミドリの制止も聞かず、調子に乗りやすいモモイは口を開いてしまう。

 

「や……」

「や、やったか……?」

 

「“モモイ……それを言っちゃ……”」

 

 お約束すぎるフラグを立ててしまったモモイに、頭を抱えかけたその時だった。

 

ザザザザザッ

 

「ほら!」「げぇっ!?」

 

{熱い 寒い 痛い どれ>

 

「ひいっ」

 

「“復活した……?”」

 

 空中に散っていた無数の塵が、磁石に吸い寄せられるかのように再び集まり、瞬く間に“それ”の形へと戻っていく。

 修復を終えたそれの首が、バキリと嫌な音を立ててこちらへと旋回した。カクカクとした機械的でぎこちないその動作は、生理的な嫌悪感を煽るほどに気味が悪かった。

 

「無敵かよ……!」

 

 幾重もの攻撃を軽々と無効化する異形の存在を前に、ネルが忌々しそうに噛み殺した声を漏らす。

 

「どうすれば……」

 

 打つ手がない現状に、周囲を重苦しい絶望が支配し始めていた。そんな中、ネルがふっと視線をこちらに向けた。

 

「先生!」

 

「“ネル? 何?”」

 

「チビを連れて先に逃げろ! あたしが何とかする!」

 

「“そんな……!”」

 

 あまりに無茶な提案に、私は思わず声を漏らす。だが、ネルは決して自暴自棄などではなく、冷静に戦況を見極めた様子だった。

 

「なんだ? 信じられねえってか?」

 

「”でも一人にするわけには……“」

 

「あたしがやられると思うか?」

 

 笑みを浮かべて言い放つネルの力強い言葉に、私は思わず口を閉ざす。

 

「“……”」

 

 確かにネルはミレニアム最強の凄腕であり、並大抵の相手に後りを取るような存在ではない。だが、だからといって生徒を一人敵の前に残して逃げるなど、大人として躊躇してしまう。

 

 ……けど、もし“あれ”がこれ以上アリスやアベルと接触してしまえばどうなるか分からないのも事実だ。

 ネルは感情的になっているわけじゃない。今の絶望的な状況を冷徹なまでに判断した上で、最善の選択肢としてそう言ってくれているのだ。

 

 ここで足を引っ張るわけにはいかない。

 信じて背中を任せるのも、彼女たちの先生としての役割だ。きっと。

 

 腹を括り、俺はネルに向かって強く叫んだ。

 

「“……分かった。ネル、任せたよ!”」

 

 ネルの頼もしい背中に胸を突き動かされながら、俺はすぐさま皆へ振り向く。

 

「”じゃあみんな、行こう!”」

 

「「「「はい!」」」」

 

 全員の威勢の良い返事が暗闇に響き渡る。

 ネルにこの場を託し、俺たちは一斉に足を踏み出した。一刻も早く、安全なミレニアムのキャンパスへと戻らなければならない。背後から聞こえ始める激しい戦闘音を振り切るように全力で走り出す。

 

 

 

 

 

 

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 おかしい……。

 

「何でこんなに暗いのー!?」

 

「“それに誰もいない……どうなってるんだ?”」

 

 ミレニアムのキャンパスからかなり離れた場所とはいえ、ここは間違いなく都市部だ。なのに人っ子一人おらず、異様に暗い。まるで一瞬にしてゴーストタウンへ迷い込んでしまったかのようだ。

 

 胸騒ぎを覚え、私は腕を上げて腕時計を確認する。

 

「“おかしいな……まだ日が落ち始める時間帯なのに……”」

 

 改めて空を見上げてみるが、まるで分厚い何かに日光が完全に遮断されているかのように真っ暗が広がるのみ。周囲の建物も完全に停電してしまっているのか、街灯ひとつついていない。

 もしやあの異形と戦っている間に……いや、みんなを探している間に、既にこの異変は始まっていたのだろうか? 焦っていたせいで、周囲の異状に気づけていなかったのだろうか。

 

「先生……おかしいです……さっきよりも暗くなってきていませんか……?」

 

「アリスもそう思います……」

 

「困った事になった……」

 

 じわじわと深まっていく闇に、全員の顔に不安の色が広がっていく。

 弱ったことに、私自身この辺りには足を運んだことがなく、ここからミレニアムへ戻る方向が直感では分からないのだ。

 

「“みんなはこの辺に詳しい?”」

 

「すみません……元々この辺に古いアーケードゲーム機が置いてあるゲームセンターがあるって聞いて、探していただけなので詳しくはないんです……」

 

「“初めて来たって事か……ありがとう、ミドリ”」

 

 となると、当てにできるのはスマホの地図や方位磁針のアプリを使うことくらいか……。

 私は胸ポケットから端末を取り出し、画面を起動しようとする。

 

「“なっ……!?”」

 

「どうしました……? 先生?」

 

「“バッテリーの残量が……無い……”」

 

 数分前までは十分に残量があったはずなのに、画面には虚しく電池切れのマークが表示されるだけだった。

 

「“みんなのはどう?”」

 

「私のは……って……あれ……? ちゃんと充電してきたのに……」

 

「わたしのも……駄目みたいです……」

 

「“そっか……”」

 

 ここにいる全員分のスマホを確認してもらったが、どれもバッテリーが底を突いており、起動すらしない。何らかの異常現象が電子機器にまで影響を及ぼしているのは確実だった。

 

「どうしよう……! これじゃ帰れないよ!」

 

「せっかくネル先輩に助けてもらったのに……」

 

 辺りは一寸先も見えないほど深い闇に包まれつつある。標識や建物の特徴を見て現在地を把握するような、アナログな手段すらこの暗闇の中では通用しない。

 

 八方塞がりの状況に冷や汗が流れた、その時だった。

 

「先生、あれ!」

 

 モモイが指さした方向を、私は咄嗟に仰ぎ見る。

 

「“……!”」

 

 微かではあるが、雲の切れ間のような場所から、空へと一筋の光が差し込んでいるのが見えた。よく見れば、他の方向にもちらほらと小さな光の柱が見え隠れしている。

 

「“あれを辿れば……!”」

 

 あの光を道標にすれば、少なくとも自分たちが今どちらの方向へ移動しているかくらいは把握できるはずだ……!

 

「“みんな、いいかな?”」

 

「何ですか?」

 

「“あの光があれば、少なくとも自分たちがちゃんと直線的に移動できているか分かるよね?”」

 

「確かに……そうですが……」

 

「“今の時間帯からして、ここまで暗くなるのはどう考えてもおかしい。というか、夜だとしてもここまで光が失われることはないと思うんだ。”」

 

「それはそうですね……」

 

「“だからこれは、何か不気味なスモッグのような『光を遮断する何か』が、この辺一帯に充満しているんじゃないかな?”」

 

「……!」

 

 私の推測を聞いて、アリスの瞳がぽんと輝いた。

 

「アリス、分かりました! つまり、一直線に進んでこの暗闇のダンジョンから脱出すればいいというわけですね!」

 

「“そういうことだよ”」

 

「なるほど、目印さえあれば同じ場所をぐるぐる回らずにその方向に移動できますね……」

 

 ミドリも納得がいったように頷く。

 

「じゃあ先生! さっさとこんなところ抜け出そうよ!」

 

「“そのつもりだよ。”」

 

 私はぎゅっとアベルの小さな手を引き、暗闇に飲み込まれないよう、みんなと一緒に慎重に足を進め始めた。

 

 

 

 

 

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「ねえ、なんだか光が薄くなってきていない?」

 

「本当です……さっきより細くなってきています……」

 

「“まずいな……日が沈んできているのか……”」

 

 となると時間との勝負だ。最悪の場合、この暗闇の中で日を跨ぐことになるかもしれない……。

 

 ……一応、最悪の状況に備えておいた方がいいかもしれないな。

 

「“みんな、ちょっといいかな?”」

 

「どうしたの?」

 

「“あまり言いたくないことだけど……この暗闇はかなり広いかもしれない。ミレニアムに戻る以前に、ここから出ることさえ今日中にはできないかもしれないんだ。幸いそこにコンビニがあるから、何か必要なものを買っていこう。”」

 

「そう……ですね……」

 

「分かりました!」

 

 アリスと他のみんなの間で、反応に大きな差がある。

 アリスはあまり現状を重く受け止めていないようにも見えるけれど、他のみんなの表情は暗い。未知の暗闇は、少しずつ着実に精神を蝕んでいく。私だって例外ではない。

 でも、だからこそ”大人”である私が冷静に判断し、みんなを支えなければならないのだ。

 

 静まり返った無人のコンビニに入る。私たちは最低限の食料と、棚にあった懐中電灯を取り出した。もちろん代金はしっかりと計算し、レジの上に置いていく。

 

「先生……なんだか眠くなってきました……」

 

「すみません……わたしも……」

 

 しまった、失念していた。彼女たちは私と合流する前、不良たちと激しい戦闘を繰り広げていたのだ。肉体的にも精神的にも、疲労はとっくに限界を迎えているはずだった。

 

「”そうだね……どこかの建物の部屋を借りて、そこで休息を取ろうか。日が完全に沈んでしまえば光も消えてしまうかもしれない。完全に何も見えなくなってから歩き回るよりは、ずっと良いと思わない?”」

 

「分かりました……お言葉に甘えさせていただきます……先生……」

 

 その日は、誰も居なくなったビルの一部屋を借りて身体を休めることにした。ビルの中には誰の気配もない。もしかすると、事前に避難勧告が出ていたのかもしれないな。モモイたちが追い詰められていた場所が廃墟周辺だったために、通知に気づけなかったという可能性も十分に考えられる。

 

 まさかこんな異様な事態になるなんて、全く想定していなかった。

 ネルは無事だろうか……あの”化け物”はどうやったら無力化できるのかが分からない。消滅させられないにしても、上手く撒けていてくれればいいけれど……。

 

 嫌な予感を胸の奥に押し込めながら、私は泥のように眠りについた。

 

 

 

 

 

 

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「……どこだぁ……」

 

「”……んん……?“」

 

 微かな掠れ声に、私は目を覚ます。カーテンの隙間からそっと外の様子を覗き込んだ。

 

「(ネル……?)」

 

「どこだぁ」

 

「(ネルが私たちを探している……?)」

 

 あの異形を上手く撒いて、ここまで追いついてくれたのだろうか……?

 

「んん……先生……? 起きてたの……?」

 

 目をこすりながら、モモイが起き上がってくる。

 

「何見てるの……? ってネル先輩じゃん! おーい……」

 

「”モモイ、待ってっ。静かに“」

 

「むぐ……!?」

 

 私は咄嗟に手を伸ばし、モモイの口を強く塞ぐ。

 

「モゴモゴ(急に何するのさ!)」

 

「“ネルの様子がおかしい気がする……”」

 

 窓越しに、下を歩くネルを見下ろす。その動きはあまりにも不自然で、声の響きも異様だった。

 

どこだぁ

 

どこだ

 

どこ

 

そ こか

 

「”……!“」

「モゴ(うわっ)」

 

 ネル……いや、ネルの姿をした”何か”が、バキリと音を立てて突如こちらを向き直った。私たちは見つからないよう、咄嗟に窓の下へ身を隠す。

 

違う

 

どこ

 

 ……良かった、気づかれてはいないようだ。ネルらしき影は興味を失ったように別の方向へ向き直し、ぎこちないギシギシとした動きで去っていく。

 

「んんー!」

 

「“あっ、モモイ! ごめん……”」

 

 緊張のあまり強く口を塞ぎすぎていた手を慌てて離す。

 

「ぷはーっ……急に何するの? 何でネル先輩を見過ごすの?」

 

「”ええと、それはね……”」

 

「先生……? お姉ちゃんと……何……してるんですか……?」

 

「“ミドリ……!? 起きてたの? これは……ってみんな起きてる……”」

 

 ミドリだけでなく、いつの間にかユズ、アリス、アベルも目を覚ましてこちらを不安そうに見つめていた。

 

「“ん゛ん゛っ……とりあえず、順を追って説明するね……”」

 

 かくかくしかじか……。

 

「つまり……ネル先輩は今、あの怪物に乗っ取られている……ということですか……? そんなこと……」

 

「“ごめんね……信じられないかもしれないけど……私も一度乗っ取られたことがあるし、私の知っている他の強い生徒でも、簡単に乗っ取られてしまったことがあるんだ……だから今の彼女には絶対に近づかない方がいいと思う。”」

 

「先生の言うことなら信じますが……だとしても、“ネル先輩は”大丈夫なんですか……? そんな、半日以上乗っ取られているのならお腹も空くだろうし……」

 

「“そうだね……”」

 

 もちろん、それは私も一番懸念していた点だ。ネルの強靭な精神力ならなんとか持ち堪えてくれるかもしれない……そう思いたかった部分もある。だが、もしネルの身体が限界を迎えてしまったら……。

 

「(私に上手く乗り移らせることはできるだろうか……)」

 

 私が代わりに犠牲になれば、ネルやみんなを守れるかもしれない。

 

「先生……」

 

 暗い思考に飲み込まれそうになったその時、声をかけられた。

 

「なら早くここから出て助けを呼びましょう? それが今できる最善です。」

 

「“っ! そうだね……じゃあ出発しようか。みんな、準備してね。”」

 

 危ない、無意識に悲観的になりすぎていた。まだ万策が尽きたわけじゃないんだ。子どもたちを守るべき大人の私が、先にネガティブになってどうする。

 

 

 

 

 

----------------------------

 

 

 

 

 

 

「……待って……今から私たちは“あれ”を上手く避けながら脱出しなければならないって事なの?」

 

「“そうだね……だからただ一直線に進めばいい……というわけには行かなくなるだろうね。”」

 

「それってサバイバルホラーみたいじゃん! なんで私たちがこんな目に……」

 

「しかも……相手はネル先輩の体を使ってるから……下手に攻撃もできないよ……」

 

 やはり現状は逃げるしか選択肢がないことに変わりはないか……。

 

「ねえ、ってことは今のC&Cはネル先輩だけいないってことでしょ? もう日も跨いでるし、助けに来ていてもおかしくないんじゃない?」

 

「“……”」

 

「“もちろん、救助が手配されていてもおかしくはないと思う。流石にこの異様な状況には、セミナーや連邦生徒会だって気づいているはずだからね。ただ……”」

 

「ただ……?」

 

「“あの怪物の特性なのか、ここでは全く電子機器が使えない。そしてもう朝が来たはずなのに、相変わらず暗いままなんだ。こんな状況下じゃGPSによる位置情報も上手く機能していない可能性が高いし、捜索は困難を極めるだろうね……”」

 

 単純に電波がジャミングされて電子機器同士の通信が遮断されている、というレベルの話ではないのかもしれない。もっと“根本的”なレベルでの妨害である可能性が高い。

 遠隔で操作するものや、周囲からデータを集めて何かを調べるものなど、あらゆる精密機器に影響が及ぶと見れば、様々な探知機すら役に立たないだろう。おまけに都市の中は山などと違って足跡などの痕跡が残りづらい。

 

 要するに、高度な科学技術を誇るミレニアムにとって、最も相性の悪い地獄のような状況だということだ。

 そして“あれ”は、技術力のミレニアムにとって最大の敵になりうる恐怖の存在なのである。

 

「だとするなら……救助が来るまで数日かかってもおかしくはないですね……」

 

「何それ! 八方塞がりじゃん!」

 

「でも……あのC&Cですし……きっとネル先輩をなんとかしてくれるはずです……」

 

「“少なくとも今はそう考えるしかない。私たちは生存するために最善を尽くそう。”」

 

 近代的な都市の中にいるはずなのに、まるで過酷な大自然の中に放り出されたかのような感覚だ。いや、食料が手に入るだけ幾分かはマシなのかもしれないけれど……。

 

 一寸先も見えない暗闇の中で、必死に生き残る……か……。

 こんな経験をした者はなかなかいないだろう

 

 もし自分が一人だけだったらどうなっていたんだろう。

 あまり想像したくない話だ。

 

 

 

 

 

 

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「先生……まだ……空は見えないの……」

 

「もう2日も経ちます……」

 

「うぅ……」

 

「モモイ! ミドリ! ユズもしっかりしてください!」

 

「アリス……ごめん……」

 

 まずい。生徒たちが精神的にも限界を迎え始めてきていた。

 暗闇の中、怪物に怯えながらただ歩き続ける……そんな変化のない重苦しい時の流れが、確実に彼女たちの正気を削りとっていく。

 

「ももい、みどり、ゆず」

 

「“アベル……?”」

 

 いつも静かだったアベルが、突然ポツリと喋り出した。

 

「げーむ、したい?」

 

「アベル……」

 

「うん……早く戻りたい……」

 

「でも、できない」

 

「……」

 

「うん……」

 

「くやしく、ないの」

 

「…………」

 

「そうだ……! こんなのすごくムカつく! 私たちがこんな目に遭うなんて意味がわからない! 悔しい!」

 

「げーむ、すき、だいじ、いきる、だいじ」

 

「もっと、よくばる、だいじ」

 

「もっと欲張る……」

 

「そうだ……! 私たちにはもっとやりたいことがあるんだ! やりたいゲームだってあるし、もっとみんなに評価されるようなゲームだって作りたい!」

 

「わたしも……そう思う……」

 

「そうだ……そうだよ……! お姉ちゃん!」

 

「そう、いきろ、たえて、のぞむ、ままに」

 

 たどたどしい言葉遣い。だが、その一言一言に、この子の”本質”が見えた気がした。

正体は未だ分からない。でも、きっと誰よりも”純粋”に、生きて先へ進むことを望んでいるんだ。

 

「みんな元気になりました! アリス、嬉しいです!」

 

「アリスちゃん……心配かけてごめんね」

 

 そうだ、まだ諦められるわけがない。そもそも、誰かの命が失われてしまったわけでもないんだから。

 

「(私もしっかりしなきゃな……)」

 

 子どもたちの力強い言葉に背中を押され、私の心の中の暗雲が少し晴れ、ぐっと気持ちが引き締まった。




[補足]

-暗闇
 誰しもがこの中で生まれ、後に恐れるもの。“怪物”によって生じるそれは日光を遮断し、あらゆる通信機器を使用不可能にする。人の精神を蝕むそれはきっと“誰か”が過去に嫌というほど見てきた光景なのだろう。
先生たちは幸運にも“孤独”ではなく、“飢餓”に苦しめられることもなかった。


これからシリアス展開が加速していきます。これよりも後の方ですが、曇らせチックな描写も徐々に含まれるようになるので気をつけて下さい。

オリキャラ周りがかなりダークな雰囲気になる可能性があるのですが、参考にしたいのでできれば......

  • 暗い。陰鬱な雰囲気は好き
  • 別にいいと思う
  • あまり好きでは無い
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