「“.......よし”」
道路に印を残しておいた。痕跡が残りづらいなら自分で残していけば良い。もし私たちが捜索されているとしたらこれで見つけやすくなるだろう。
「....できましたか?それじゃあ先生、出発しましょう!」
腕時計で時間は確認できる。暗闇で2日と半日経つ。幸いにも身を隠せる場所が多いため危険な目にはまだ遭っていない。
「....ねえ、先生。この辺知ってる気がする。」
「”確かに....言われてみれば....“」
暗いため全貌は分からないが少しずつ知っている場所に戻って来れているようだ。
「このまま進めば戻れるかも!」
「本当.....?よかった......」
「でも油断はできないよ....モモイ....」
「分かってるって!」
確かに気は抜けない。油断が原因で生徒たちの身に何かあってはならない。
偶然にも発見した地図と足元に広がる景色を照らし合わせながらなんとか来た道を思い出して進む。もちろん見つからないように建築物などに身を隠しながら。
「.....せんせ」
「”....?どうしたの?“」
アベルに服の裾を掴まれる。
「.....ある...」
「”ある...?“」
在る...?
「“みんな、ちょっと待って。”」
「どうしました?」
一旦その場の全員に待機令を出して身を潜める。
{ 暗い 光 どこ 何 求む >
「“......!”」
「っ!!」
{ 無い 空っぽ ]
{ 俺 は 誰 俺 は どれ 」
道路の中央を通過する”それ“が現れる。みんなもそれに気づいたようだ。
〈パキッ〉
小枝が折れるような音が小さく鳴った。
「(....!すみません.......!)」
誰かが何かを踏んづけてしまったようだ。しかし音が響くほど大きかったわけでもない....
〈バキッ〉
「”ッ!!“」
通り過ぎようとしていた”それ“の首が180度回り、こちらの方向に向く。一つ一つの動作が突拍子もない上に人外じみているため心臓に悪い。
「(ひっ....)」
息を止める。心臓の動悸が徐々に激しくなる。
「...........」
{ いた ]
”それ“が首を戻し、離れていく。
「”良かった......見つかってないみたい”」
「先生...みんなも....ごめんなさい......」
何か踏んでしまったのはミドリだったようだ。
「気にしちゃダメだよミドリ、今のは仕方ないよ。」
モモイが彼女を励ます。
「“結果として見つかってないから大丈夫だよ。”」
「わたしも怒ってたりしてないから....謝らないで...」
このメンバーなら険悪な雰囲気にはならないだろう。少し安堵する。
「“..........”」
あれは歪んだあの怪物の姿だった。つまり、ネルはまた別の場所にいる、という事になる。
( 無事だろうか..... )
セリカのように気を失って倒れているかもしれない。心配だ。あらゆる方面への不安が募っていく。
「それじゃあ行こう、先生。ミドリも足元に気をつけてね。」
「分かった....」
暗いから何かに躓いて転ぶ可能性もある。怪我をしないよう細心の注意を払う。私もそうしたミスを犯す可能性がある。
....少し違和感を感じる。もし“あれ”に音が聞こえたなら、普通その場所を確認しに行ったりはしないんだろうか。
知能が低いのかもしれない。となると上手く誘導させることも.....?
そんな事を考えながら進む。
「あっ、ここ知ってる!確か少し行ったところの曲がり角を左に曲がればいいはずだよ!」
「“本当?助かるよ”」
言われた方向の通りに暗闇を進む。少しずつ慣れてきたかもしれない。
モモイが壁に触れながら進む。私も後方を警戒しながら彼女について行く。
「ここを曲がって.....」
「ももい!とまる、まって!」
「アベル!?急にどうしたのさ!?」
突然アベルがモモイの元をへ走って彼女を後ろから引っ張る。それによってモモイが体勢を崩す。
「.....っ!先生、あれ!」
〈ガシッ〉
< お前 俺 誰 ]
曲がり角の壁の端を掴んだ“それ”が現れてモモイを見下ろす。
{ は は は ]
「“待ち伏せっ!?しまった!!”」
既に位置がバレていた!?“それ”が長い腕をモモイに伸ばす。
まずい、モモイが!
「ももい!はやく!」
〈バチンッ〉
「うわあっ!?」
アベルの能力なのか、モモイの体が浮いて”それ“から遠ざけられる。
しかし、同時に“それ”が前に出たアベルを凝視する。
{ あ ぁ あ }
“それ”の雰囲気が変わったように見えた。今まで閉じていた剥き出しの歯が始めて開く。
{あぁあぁあああ>
{ これ だ これ だ これ だ }
{ いた 見つけた やっと見つけた }
より一層おどろおどろしくなる。嫌な予感がする...!
「“アベルッ!!こっちに!みんなも逃げるよ!!”」
しかしもう遅かった....!
{よこせよこせよこせ」
「ひいっ」
囁くようだった合成音声はより悍ましい声色に変わる。もはや他の生徒には目もくれない。やはりアベルが狙いのようだ。
とんでもない速度で迫ってくる。
「“アベル!!”」
“それ”がアベルに触れそうになる。その時———
〈ドガアアァァァンッ‼︎‼︎〉
「”!?“」
「な、なに!?」
突然、怪物の頭が”爆ぜた“。
「ご主人様....いえ、先生!ご無事でしょうか!」
「”ア、アカネ!?“」
「やっほー!先生、元気〜?」
「先生、無事か?」
「アスナ先輩にカリン先輩も!」
「助けに来てくれたんですね!」
「オラオラオラァーッ!!!」
〈ダダダダダダッ〉
聞き覚えのある声と共に大量の銃弾が”それ“の足に浴びせられ、灰が舞う。頭と足が崩れて、体勢を崩し倒れる。
「やっぱりな!ダメージは与えられなくたって怯ませる事ぐらいはできるはずだ!」
「”ネル!無事だったんだね!“」
「あたしがあの程度でへばるとでも思ったのかよ!」
「先生は皆さんを連れてここから脱出して下さい!すぐに救援が来ます!」
「”救援?“」
〈ブロロロロロ....〉
「この音は....」
車...?
〈キイッ〉
目の前まで眩い光が迫り、ブレーキ音が鳴る。
そして思いもよらない人物が現れる。
「ん、先生。早く乗って。」
「“シ、シロコ!?なんでここに!?“」
大きめの軍用車が到着する。
「おじさん達もいるよ〜」
「”アビドス生徒会のみんな!?“」
本当になんで!?もちろん救援は助かるけども....!
「先生、早く乗って。あれから逃げるのが先。」
「”わ、分かった。みんなも早くっ“」
「誰だか知らないけど、ありがとう!」
「アリスちゃん....こっち!」
全員、軍用車に乗り込んだ。
「出発します!気をつけて下さいね!」
アヤネに言われて体勢を整える。そして車が走り出した。
「“待って、C&Cの皆がまだ.....”」
「あの怪物はC&Cの皆さんが止めてくれています!私たちが先に先生たちを乗せてミレニアムまで戻るという“作戦”なので大丈夫です!」
作戦....?アビドス組と途中で合流でもしたんだろうか?
「“とりあえず大丈夫なんだね....”」
〈ドガアアァァアンッ〉〈ダダダダダダッ〉
苛烈な音が遠ざかっていく。
「先生?お腹空いてたりしない?」
「食べ物なら色々持ってきていますよ⭐︎皆さんもどうですか?」
「何から何まですみません.....」
「“私は今あまりお腹は空いてないから大丈夫だよ——“」
「駄目、ちゃんと食べて。」
「“んぐっ”」
シロコに食べ物を口に突っ込まれる。
「“.....でも、皆は何でここに?どうして私たちが遭難してるって分かったの?まだアビドスに伝わるほどの時間も経ってないと思うんだけど....”」
「......それ...本気で言ってるの?」
「”え...?“」
セリカが呆れたような口調で言う。
「どういうこと....?」
モモイも不思議そうにしている。
「“詳しく聞いてもいいかな?”」
「そうですね......」
「“何だって!?私たちがいなくなってから1週間以上経過している!?”」
「え....?逆に先生はどれぐらい経ったと思ってたの?」
「“おかしい....私の腕時計ではまだ3日も経っていないはず....”」
腕時計を見せる。
「この腕時計故障してない....?私の持ってきたものと時間がすごくずれてるんだけど.....」
「“いや、私にとってこの腕時計は大事だから管理は怠っていないし故障はしていないはずだよ。”」
「.....じゃあこれは一体.....?」
「うーん....」
「アリスちゃん....?どうしたの....?」
アリスは頭を捻っているようだ。
「パンパカパーン!アリス、閃きました!」
「この暗闇のダンジョンの中と外で時間の流れが異なっているのではないでしょうか?この前遊んだゲームでそんな展開を見た事があります!」
「時間がずれる.....?そんなこと.....」
「”.........どうだろう.....あり得るのかな.....“」
このスモッグ....いや、もはやスモッグと呼んでもいいか分からないが、時間にまで影響するというのか?
これは考えても埒があきそうにない。
「”....それで、どうしてここに来たんだっけ?“」
「それはですね.....連邦生徒会を通じてミレニアムで異常事態が発生している事が発表されたんです。もしかしたら前にアビドスに現れたあの“何か”が関わっているかもしれないと思いまして.....」
「先生がモモトークでミレニアムに行く事を教えてくれたこと、覚えてる?」
「“ああ、そうだったね。”」
ミレニアムに出発する前、シロコと少しモモトークで会話していた。
「それでシロコちゃんが心配になってメッセージを送ったそうなんですが.....」
「いつもは1日の終わりまでに必ず返してくれるけど、何日も反応が無かったから問題に巻き込まれたかもしれないと思った。」
私がミレニアムに行った事とミレニアムに異常事態が発生した事から私が問題に巻き込まれているという事を推測したのか....
「それでおじさんたちはシロコちゃんから話を聞いてミレニアムに向かう事にしたんだよね。本当に無事で良かったよ〜....」
「本当に.....心配したんだよ....?」
ホシノに手をぎゅっと握られる。本当に心配をかけてしまったようだ。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「先生はこの事態のどこまで知ってるの?」
「“ごめん....最初からこの暗闇にいたから事態がどのぐらい大きくなっているか分からないんだ。”」
少なくとも今の会話から連邦生徒会が介入する必要性が生じるまで肥大化しているのは分かるが....
「現在ミレニアムは全土がこのスモッグで覆われています。私たちがくる途中で住民や生徒もミレニアム外に避難しているのを見ました.....トリニティでも混乱が発生しているため、支援も要請する事ができずミレニアムの生徒会の方々も問題の対処に苦労していたようなんです.....」
「“ミレニアム....全土....”」
それはつまりミレニアムのキャンパスに戻ったとしても暗いままだと言う事だろう。
「“待って....みんなミレニアム外に避難した....?つまりミレニアムには今誰も居ないって事?”」
ならば私たちは何のためにミレニアムに戻るんだ?
「いえ、セミナーのユウカさんや一部の部活の方々が残っているはずです。私たちはその方々から事情を聞いて先生を探しに来たのです。その途中でC&Cの方々と出会ったのです。」
「私たちは先生とゲーム開発部の人々を連れてミレニアムに戻ってくる事を頼まれた。だからまだ私たちを待つために残っているはず。」
私たちのために待ってくれているんだろうか。とても助かる。が、負担をかけて申し訳ない気持ちもある。
問題はまだまだ山積みだが、とりあえずユウカたちと合流しよう。
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「........あれは...!」
「見えてきましたよ、先生!」
暗がりにうっすらと見慣れた建物が見える。
「やっと戻って来れたんだね....わたしたち.....」
「とても長い冒険でした!」
私たちを出迎える“ある人物”が見える。
「あっユウカ先輩.....」
「.....どうしたのお姉ちゃん、そんな顔して....」
「先生はもともと私たちを探しに来たんだったよね......って事は私たちのせいで先生も遭難しちゃったんだから怒られるんじゃ......」
「それは......」
車のドアが開く。
「先生....!無事で良かった....!」
ユウカが走り寄ってくる。
「“モモイ....?どうしたの?”」
モモイが何やら不安そうな表情をしている。
「ユウカ.....私......」
モモイが何かを言いかけたその時.....
「モモイ!あなた達も無事で良かった....!本当に心配したんだから....!」
ユウカがモモイを抱きしめる。
「....怒ってないの...?」
「怒る?そんなわけないじゃない....!」
微笑ましい光景が広がる。
「そういえば先生、C&Cが見当たりませんが.....」
「C&Cの皆さんには先生を救出するための時間稼ぎをしてもらったので.....」
アヤネが話す。
「まだ“怪物”と戦っているってこと.......!?それじゃあ.....」
またあの時のネルのように行方不明になってしまうと思っているのだろうか。
「“いや、その心配は無いと思う。”」
「先生....?どうしてでしょうか?」
ユウカに私の憶測を話す。怪物の狙いはアベルである可能性が高いということ、アベルを見つけたからもう他の生徒を狙う事はないかもしれないこと。
「なるほど....怪物の狙いはその子で、それを見つけたからもう他の生徒に危害を加えるような事は無いと.....」
何故狙っているのかは分からない。だが、やはりそうとしか思えない。
「先生.....でも、そうだとするなら....むしろ都合が良いかもしれません.....!」
「“都合が良い....?”」
どういうことだろう?
「先生。これから行う“作戦”を話します。」
「「「作戦...?」」」
「“怪物を....『要塞都市エリドゥ』へ誘導する.....?“」
「正確には、誘導してエリドゥに幽閉する事が目的です。」
「私たちはあの”怪物“が存在する限りこの暗闇は広がり続けると判断しました。おそらくあのままだとミレニアム外にも被害が及ぶでしょうし、今まで通りに生活する事ができなくなってしまう.....そうなる前に”あれ“を閉じ込めるという手段を打つことにしました。」
元を断つ....ということだろう.....
しかし、エリドゥは確か......”天才病弱美少女ハッカー“が閉鎖したはず....
「”エリドゥの管理権は大丈夫なの?そもそも”あれを作った人物“は今失踪しているんじゃ.....”」
「その点は問題ありません。ノアとヒマリ先輩、そしてヴェリタスの方々にエリドゥの管理権の掌握を担当してもらっています。幸いにもまだエリドゥでは停電は起きていませんし、システムも問題なく動かせるようです。」
「元々、私たちで怪物を誘導しながらエリドゥに向かう予定でしたが.....いずれこの子を狙ってくるになら円滑に作戦を進められるようになります...!」
「“なるほど....とりあえず今からエリドゥに向かえばいいんだね....“」
「....というわけだからゲーム開発部とアビドス高校のあなた達は早くミレニアム外へ避難すると良いわ。きっと疲れてるでしょうし、こんな空も見えない暗い環境に身を置き続けるのは精神的にも良くないでしょう........」
「いや、私たちも残るよ!アベルを囮にするって事でしょ!?だったら誰が守ってあげるのさ!」
「モモイ.....」
「ん、私たちも引き続き協力する。」
「おじさん、先生にも何かあって欲しくないからね〜」
「”みんな....“」
「あなた達.....確かに人手が欲しいのも事実だけど......」
「......いや....こんな事言うのは無粋ね....」
「じゃあ私からも改めて言わせてもらえるかしら。」
「私たちの作戦に協力してくれない?」
「もちろん!」
「パンパカパーン!新しいクエストを受注しました!」
「「「「だから私たちがいるんだろっ」」」」
誘導作戦が始まる.....!ミレニアムを救うんだ....みんな!
[補足]
-『ゲヘナにも”怪物“は現れたけど混乱状態にはなっていないんですか?』
ゲヘナは逆に活動する人が少なくなって平和になりました。ゲヘナみたいなモンずっと混乱状態みたいなモンやんけ。
-アベル
『シッテムの箱』の力を”模倣“、そして応用したのかもしれない。子供は無限の可能性を秘めるものである。実際にそうでなくとも、万能感に溢れているものだ。その感覚は大人になるにつれて忘れていくに過ぎない。
-腕時計
先生の大事なもの。”誰か“の形見が如く、肌身離さず持っているもの。緑と青で大陸と海を表すような少々奇抜なデザインが見られる。何故大事なのかは誰も、生徒でさえも知らない。秘密なんて誰にでもあるだろうし、話す必要があるわけでもない。
-“だから私たちがいるんだろっ”
“だからオレたちがいるんだろっ”で検索
な、なんだあっ C&Cが猿空間送りになりそうになってる
オリキャラ周りがかなりダークな雰囲気になる可能性があるのですが、参考にしたいのでできれば......
-
暗い。陰鬱な雰囲気は好き
-
別にいいと思う
-
あまり好きでは無い