[完結] From outside Kivotos   作:ケトゥ毛

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暗闇の中で光を見つければ誰だってそれを求めずにはいられないはずだ


9話『Sunken Millennium』

 

「“……よし”」

 

 私は道路の側壁に、小さな印を残しておいた。痕跡が残りづらい場所なら、自分たちの手で痕跡を刻み込んでいけばいい。もし私たちが誰かに捜索されているのだとしたら、これで少しは見つけやすくなるはずだ。

 

「……できましたか? それじゃあ先生、出発しましょう!」

 

 腕時計の文字盤を確認してみると、この光の届かない暗闇に閉じ込められてから、すでに丸2日と半日が経過していた。幸いにも身を隠せる物陰が多いエリアだったため、今のところ致命的な危険には遭わずに済んでいる。

 

「……ねえ、先生。私、この辺りの景色に見覚えがある気がする。」

 

「“確かに……言われてみれば……”」

 

 暗がりで視界が効かないため全貌までは掴めないが、少しずつ知っている場所へと戻って来られているようだ。

 

「このまま進めば、元の場所に戻れるかも!」

 

「本当……? よかった……」

 

「でも油断はできないよ……モモイ……」

 

「分かってるってば!」

 

 確かに気は抜けない。一瞬の油断が原因で、生徒たちの身に何かあってからでは遅いのだから。

 

 道中で偶然見つけた地図と、足元に広がるおぼろげな景色を慎重に照らし合わせながら、なんとか来た道を思い出して前へ進む。もちろん、敵に見つからないよう建造物の影から影へと身を隠しながらの慎重な行軍だ。

 

「……せんせ」

 

「“……? どうしたの?”」

 

 歩みを止め、アベルが私の服の裾をキュッと小さく掴んできた。

 

「……ある……」

 

「”ある……?“」

 

『在る』……?

 

「“みんな、ちょっと待って。”」

 

 嫌な予感が胸を掠め、私は一旦その場の全員に待機を命じて静かに身を潜めさせた。

 

{ 暗い 光 どこ 何 求む >

 

「“……!”」

「っ!!」

 

{ 無い 空っぽ ]

 

{ 俺 は 誰 俺 は どれ

 

 道路の中央を、ぬめり出るように通過していく”それ“が現れる。息をのむみんなの表情からして、怪物の接近に気づいたようだ。

 

パキッ

 

 不意に、乾いた小枝が折れるような掠れた音が小さく響いた。

 

(……! すみません……!)< /small>」

 

 誰かが足元にあった何かを踏みつけてしまったらしい。しかし、音が周囲に大きく響き渡るほどのものではなかったはずだが……

 

バキッ

 

「”ッ!!“」

 

 通り過ぎようとしていた“それ”の首が、バキリと嫌な音を立てて突如180度旋回し、真っ直ぐこちらへと向けられた。

 一つ一つの動作が余りに突拍子もなく、そして人外じみている。心臓が跳ね上がりそうなほどの恐怖が押し寄せる。

 

「(ひっ……)」

 

 息を止め、全員で影に固まる。静寂の中、自分の胸の動悸だけが激しく打つのが痛いほど伝わってきた。

 

「………………」

 

{ 《small》いた ]

 

 心臓が縮みあがるような呟きを残し――”それ“はぎこちなく首を戻すと、ゆっくりと離れていった。

 

「“良かった……見つかってないみたい”」

 

 安堵の吐息とともに私が囁くと、ミドリが小さく肩を震わせた。

 

「先生……みんなも……ごめんなさい……」

 

 何かを踏んでしまったのはミドリだったようだ。

 

「気にしちゃダメだよミドリ、今のは仕方ないよ。」

 

 モモイが優しく寄り添い、彼女の肩を叩いて励ます。

 

「“結果として見つかってないんだから、大丈夫だよ。”」

 

「わたしも怒ってたりしてないから……謝らないで……」

 

 ユズも静かに頷く。このメンバーなら、これで険悪な雰囲気にはならないだろう。私は少しだけ心を安らげた。

 

「“………………”」

 

 しかし、私の頭から不安が消えることはなかった。

 先ほど通り過ぎたのは、黒く歪んだあの怪物の本来の姿だった。つまりネルはもう乗っ取られておらず、また別の場所にいる、ということになる。

 

「(“無事だろうか…… ”)」

 

 セリカのように気を失って倒れているかもしれない。心配だ。あらゆる方面への不安が募っていく。

 

「それじゃあ行こう、先生。ミドリも足元に気をつけてね。」

 

「分かった……」

 

 暗がりの中で一歩一歩踏み出す。足元が見えづらいため、何かに躓いて転ぶ可能性も高い。怪我をしないよう細心の注意を払って進む。もちろん、私自身もそうした凡ミスを犯す可能性があるのだから、気を引き締め直さなければならない。

 

 ……しかし、歩を進めながらも私は少し違和感を覚えていた。

 もし“あれ”に聴覚があり、はっきりと音が聞こえていたのだとしたら……普通、その音がした場所を即座に探りに来たりはしないだろうか。

 音のした方向を一瞬振り向いただけで去っていったあの動作。

 もしかすると、知能があまり高くないのかもしれない。となると、音や光で上手く誘導させることもできるのだろうか……?

 

 そんな思考を巡らせながら静まり返った暗闇の中を進んでいく。

 

「あっ、ここ知ってる! 確か少し行ったところの曲がり角を左に曲がればいいはずだよ!」

 

「“本当? 助かるよ”」

 

 モモイの案内通りに暗闇を進む。目まぐるしく変わらない景色だが、少しずつこの異様な環境にも慣れてきたのかもしれない。

 モモイが壁に手を添えながら先頭を歩く。私は後方を警戒しながら、彼女たちの背中に続いていく。

 

「ここを曲がって……」

 

「ももい! とまる、まって!」

 

「アベル!? 急にどうしたのさ!?」

 

 突然、アベルがモモイの元へ駆け寄り、彼女の服を後ろから力任せに引っ張った。不意をつかれたモモイが大きく体勢を崩す。

 

「……っ! 先生、あれ!」

 

ガシッ

 

< お前 俺 誰 ]

 

 曲がり角の壁の端を、長くて黒い手がガシリと掴んだ。そのままぬっと“それ”が現れ、倒れ込んだモモイを上空から見下ろす。

 

は は は ]

 

「“待ち伏せっ!? しまった!!”」

 

 音に気づかなかったのは知能が低いからではない、すでに私たちの位置を察知して先回りしていたのだ!

 “それ”は凶悪な長さを誇る腕を、容赦なくモモイへと伸ばしてきた。

 

 まずい、モモイが掴まれる……!

 

「ももい! はやく!」

 

バチンッ

 

「うわあっ!?」

 

 バチッと空間が弾けるような音。アベルの特殊な能力だろうか、モモイの身体がふわりと浮き上がり、弾かれたように”それ“の手元から間一髪で遠ざけられた。

 

 しかし、その代償として前へ出たアベルを、“それ”がじっと凝視する。

 

{ あ ぁ あ }

 

 “それ”の放つ異質な空気が、一瞬で変貌した。

 今まで固く閉ざされていた、あの剥き出しの狂気的な歯が、初めてズリリと開かれる。

 

{あぁあぁあああ>

 

{ これ だ これ だ これ だ }

 

{ いた 見つけた やっと見つけた }

 

 空間全体が震えるほど、より一層おどろおどろしい咆哮へと変わる。猛烈な嫌な予感が全身の毛穴を開かせる……!

 

「“アベルッ!! こっちに! みんなも逃げるよ!!”」

 

 叫んだが、もう遅かった……!

 

{よこせよこせよこせ」

 

「ひいっ」

 

 これまでの囁くような合成音声ではなく、耳を刺すような悍ましい叫び声へと変化する。もはやモモイたち他の生徒には一瞥もくれない。やはり“あれ”の狙いは、最初からアベルだったのだ。

 

 物理法則を無視したとんでもない速度で、黒い影が迫ってくる。

 

「“アベル!!”」

 

 “それ”の鋭い爪が、アベルの身体に触れそうになったその瞬間――。

 

ドガアアァァァンッ‼︎‼︎

 

「”!?“」

 

な、なに!?

 

 暗闇を切り裂く轟音と共に、突然怪物の頭部がドカンと”爆ぜた“。

 

「ご主人様……いえ、先生! ご無事でしょうか!」

 

「”ア、アカネ!?“」

 

「やっほー! 先生、元気〜?」

 

「先生、無事か?」

 

「アスナ先輩にカリン先輩も!」

 

「助けに来てくれたんですね!」

 

オラオラオラァーッ!!!

 

ダダダダダダッ

 

 響き渡る苛烈で聞き覚えのある叫び声。無数の銃弾の奔流が”それ“の足元へ容赦なく浴びせられ、激しく灰が舞い散る。頭と脚を削られた怪物はおおいに体勢を崩し、その場に激しく倒れ込んだ。

 

「やっぱりな! 完全なダメージは与えられなくたって、物理的に怯ませる事ぐらいはできるはずだ!」

 

「”ネル! 無事だったんだね!“」

 

「あたしがあの程度でへばるとでも思ったのかよ!」

 

「先生は皆さんを連れてここから脱出して下さい! すぐに救援が来ます!」

 

「“救援?”」

 

ブロロロロロ……

 

 重厚なエンジン音が暗闇を震わせて近づいてくる。

 

「この音は……」

 

 車……?

 

キイッ

 

 眩いヘッドライトの光が視界を染め上げ、目の前で鋭いブレーキ音が鳴り響いた。

 

 そして、ドアが開いて現れたのはあまりにも思いもよらない人物だった。

 

「ん、先生。早く乗って。」

 

「“シ、シロコ!? なんでここに!?“」

 

 視界に飛び込んできたのは、無骨な軍用車だった。

 

「おじさん達もいるよ〜」

 

「“アビドス対策委員会のみんな!?”」

 

 頭が混乱する。本当になんでここに!? もちろん救援は助かるけれど、一体どうやって……!

 

「先生、早く乗って。あれから逃げるのが先。」

 

「“わ、分かった。みんなも早くっ”」

 

「誰だか知らないけど、ありがとう!」

 

「アリスちゃん……こっち!」

 

 混乱を抱えつつも、全員で雪崩れ込むように軍用車へ乗り込んだ。

 

「出発します! 気をつけて下さいね!」

 

 助手席のアヤネの声と同時に、車が猛烈な加速で発進する。私たちは必死に体勢を整えた。

 

「“待って、C&Cの皆がまだ……!”」

 

「あの怪物はC&Cの皆さんが引き受けて止めてくれています! 私たちが先に先生たちを乗せてミレニアムまで戻るという“作戦”なので大丈夫です!」

 

 作戦……? アビドス組とC&Cは、途中で合流して打ち合わせていたということだろうか?

 

「“とりあえず、みんな無事なんだね……”」

 

ドガアアァァアンッ〉〈ダダダダダダッ

 

 背後で激化する戦闘音が、車速を上げるにつれて徐々に遠ざかっていく。

 

「先生? お腹空いてたりしない?」

 

「食べ物なら色々持ってきていますよ☆ 皆さんもどうですか?」

 

 ノノミが笑顔で保存食を差し出してくれる。

 

「何から何まですみません……」

 

「“私は今あまりお腹は空いてないから大丈夫だよ……“」

 

「駄目、ちゃんと食べて。」

 

「“んぐっ”」

 

 言葉を遮られ、シロコに強引にエナジーバーを口へ突っ込まれた。

 

「“……でも、みんなは何でここに? どうして私たちが遭難してるって分かったの? まだアビドスに連絡が伝わるほどの時間も経ってないと思うんだけど……”」

 

「……それ……本気で言ってるの?」

 

「”え……?“」

 

 ジト目で見てくるセリカの、呆れたような口調に首を傾げる。

 

「どういうこと……?」

 

 モモイたちも不思議そうに顔を見合わせている。

 

「“詳しく聞いてもいいかな?”」

 

「そうですね……」

 

 アヤネが静かにメガネの押し上げながら、事態の全貌を語り始めた。

 

「“何だって!? 私たちがいなくなってから1週間以上経過している!?”」

 

 軍用車の中に、私の驚愕の叫びが響き渡った。

 

「え……? 逆に先生はどれぐらい経ったと思ってたの?」

 

 セリカが驚いたように目を丸くして尋ねてくる。

 

「“おかしい……私の腕時計の表示では、まだ3日も経っていないはずなのに……”」

 

 そう言って腕を差し出し、セリカたちに文字盤を見せる。

 

「この腕時計、故障してない……? 私の持ってきたものと時間がすごくズレてるんだけど……」

 

「“いや、私にとってこの腕時計は大事なものだから管理は怠っていないし、故障はしていないはずだよ。”」

 

「……じゃあ、これは一体……?」

 

「うーん……」

 

 突然の事態に場が静まり返る中、アリスがう~んと首をひねっていた。

 

「アリスちゃん……? どうしたの……?」

 

「パンパカパーン! アリス、閃きました!」

 

 表情をパッと輝かせたアリスが、ポンと手を叩く。

 

「この暗闇のダンジョンの中と外で、時間の流れが異なっているのではないでしょうか!? この前みんなで遊んだゲームでも、そんな展開を見たことがあります!」

 

「時間がズレる……? そんな漫画みたいなこと……」

 

「”…………どうだろう……でも、十分にあり得るのかもしれない……“」

 

 この異常なスモッグ……いや、もはやただのスモッグと呼んでいいのかすら分からない怪現象だ。空間や通信だけでなく、時間認識の精度にまで影響を及ぼしているとしたら……。

 だが、これ以上は考えても今は埒が明きそうにない。

 

「“……それで、みんなはどうしてここに来てくれたんだっけ?”」

 

 事態を整理するため問いかけると、アヤネが説明を引き継いでくれた。

 

「それはですね……連邦生徒会を通じて、ミレニアムで未曾有の異常事態が発生していることが発表されたんです。もしかしたら以前、アビドスに現れたあの“何か”が関わっているかもしれないと思いまして……」

 

「先生がモモトークで、ミレニアムに行くことを教えてくれたこと、覚えてる?」

 

 シロコが静かな瞳でこちらを見つめてくる。

 

「“ああ、そうだったね。”」

 

 ミレニアムに出発する前、シロコと少しだけモモトークでやり取りをしていたのだった。

 

「それでシロコちゃんが心配になってメッセージを送ったそうなんですが……」

 

「いつもは1日の終わりまでに必ず返信してくれるのに、何日も反応が無かった。だから絶対に大きな問題に巻き込まれたと思った。」

 

 私がミレニアムに向かったこと、そしてミレニアムで通信が遮断されるほどの異常事態が発生したこと。そのふたつから、私が巻き込まれていると即座に推測して動いてくれたのだ。

 

「共におじさん達もシロコちゃんから話を聞いて、急いでミレニアムに向かうことにしたんだよね。本当に……無事で良かったよ〜……」

 

「本当に……すごく心配したんだからね……?」

 

 ほっと胸を撫で下ろしたホシノとセリカに、ぎゅっと両手を包み込むように握られる。手のひらから伝わる温もりに、心から心配をかけてしまったのだと痛感した。申し訳なさと感謝で胸がいっぱいになる。

 

「先生は、今のこの事態のどこまでを知っているの?」

 

「“ごめん……私達は最初からこの暗闇の最中に閉じ込められていたから、事態がどれくらい大きくなっているのか全く分からないんだ。”」

 

 少なくとも今の会話から、連邦生徒会が介入せざるを得ないほど被害が肥大化していることだけは窺えたが……。

 

「現在、ミレニアムは全土がこの黒いスモッグで完全に覆われています。私たちが向かう途中でも、避難してくる多くの住民や生徒さんたちを見かけました……。トリニティでも別の混乱が発生しているため支援を要請することもできず、ミレニアムのセミナーの方々も一人で問題の対処に相当苦労されていたようなんです……」

 

「“ミレニアム……全土が……”」

 

 絶句する。それはつまり、このままミレニアムの学園都市の内部に戻ったところで、景色は暗闇のままだということだ。

 

「“待って……みんなミレニアムの外に避難した……? ということは、ミレニアムには今もう誰も居ないの……?”」

 

 ならば、私たちは何のためにミレニアムへ戻ろうとしているのだろうか。

 

「いえ、セミナーのユウカさんや一部の部活の方々が現地に残っています。私たちはその方々から詳しい事情を聞いて、先生を探しにこの暗闇の中へ足を踏み入れたのです。その捜索の途中で、幸運にもC&Cの皆さんと出会いました。」

 

「私たちは、先生とゲーム開発部のみんなを連れて無事にミレニアムへ戻ってくることを頼まれた。だからユウカたちは、今も私たちを信じて待つために残ってくれている。」

 

 シロコの手が力強く握り返される。

 私たちの帰りを信じて、あの極限状態のミレニアムで待ってくれていたのだ。感謝すると同時に、これ以上負担をかけさせたくないという強い思いが湧き上がる。

 

 問題はまだまだ山積みだが、まずは一刻も早く、ユウカたちの元へ無事に合流しよう。

 

 

 

 

 

 

-----------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

「……あれは……!」

 

「見えてきましたよ、先生!」

 

 フロントガラスの向こう、暗がりにうっすらと見慣れた建造物のシルエットが浮かび上がる。

 

「やっと戻って来られたんだね……わたしたち……」

 

「とても長い冒険でした!」

 

 車窓の外、ライトの光の先に私たちを出迎える“ある人物”の姿が見えた。

 

「あっ、ユウカ先輩……」

 

「……どうしたのお姉ちゃん、そんな顔して……」

 

「先生はもともと私たちを探しに来たんだったよね……って事は、私たちのせいで先生も遭難しちゃったんだから怒られるんじゃ……」

 

「それは……」

 

 車のドアが開く。

 

「先生……! 無事で良かった……!」

 

 駆け寄ってきたユウカが、安堵の声を漏らす。

 

「“モモイ……? どうしたの?”」

 

 降車したものの、モモイが何やら身を縮こまらせて不安そうな表情を浮かべている。

 

「ユウカ……私……」

 

 モモイが消え入りそうな声で何かを言いかけたその時。

 

「モモイ! あなた達も無事で良かった……! 本当に心配したんだから……!」

 

 ユウカは迷わずモモイに近付き、その身体を力強く抱きしめた。

 

「……怒ってないの……?」

 

「怒る? そんなわけないじゃない……!」

 

 ポカンとするモモイを優しく温かく包み込む、微笑ましい光景が広がっていた。

 

「そういえばユウカさん、C&Cが見当たりませんが……」

 

 アヤネが静かに問いかける。

 

「C&Cの皆さんには、先生たちを救出するための時間稼ぎを引き受けていただいたので……」

 

「まだ“怪物”と戦っているってこと……!? それじゃあ……」

 

 モモイたちは、またあの時のネルのように行方不明になってしまうのではないかと顔を曇らせる。

 

「“いや、その心配は無いと思う。”」

 

「先生……? どうしてでしょうか?」

 

 首をかしげるユウカに、私はこれまでの経緯から導き出した自説を話した。怪物の真の狙いはアベルである可能性が高いということ。そして、狙いであるアベルがここを離れた以上、もう他の生徒を執拗に狙う理由は無くなっているはずだ、と。

 

「なるほど……怪物の狙いはその子で、それを見失ったならもう他の生徒に危険が及ぶことは無さそうだと……」

 

 なぜアベルが狙われているのか、その根本的な理由はまだ分からない。だが、これまでの挙動を振り返ればそうとしか思えなかった。

 

「先生……でも、そうだとするなら……むしろ都合が良いかもしれません……!」

 

「“都合が良い……?”」

 

 一体どういうことだろう? 私が問い詰めると、ユウカはキリッとした表情で告げた。

 

「先生。これから行う“作戦”について話します。」

 

「「「作戦……?」」」

 

「“怪物を……『要塞都市エリドゥ』へ誘導する……?”」

 

「正確には、誘導してエリドゥの内部に幽閉することが目的です。」

 

 ユウカは力強い眼差しで説明を続ける。

 

「私たちはあの”怪物“が存在する限り、この暗闇が広がり続けると判断しました。おそらくあのまま放っておけばミレニアム外にも被害が及ぶでしょうし、今まで通りに生活することすらできなくなってしまう……。そうなる前に、”あれ“を完全に閉じ込めるという手段を打つことにしたんです。」

 

 元を断つ……ということだろう。

 しかし、エリドゥは確か……あの“天才病弱美少女ハッカー”が閉鎖したはずでは……。

 

「”エリドゥの管理権は大丈夫なの? そもそも”あれを作った人物“は今、消息不明になっているんじゃ……”」

 

「その点は問題ありません。ノアとヒマリ先輩、そしてヴェリタスの方々にエリドゥの管理権の掌握を担当してもらっています。幸いにもまだエリドゥ内部では停電は起きていませんし、システムも問題なく動かせるようです。」

 

「元々、私たちで怪物を誘導しながらエリドゥに向かう予定でしたが……いずれこの子を狙って追ってくるというのであれば、より円滑に作戦を進められるようになります……!」

 

「“なるほど……とりあえず今からエリドゥに向かえばいいんだね……”」

 

 納得した私に、ユウカはゲーム開発部とアビドス組へと向き直った。

 

「……というわけだから、ゲーム開発部とアビドス高校のあなた達は、早くミレニアムの外へ避難すると良いわ。きっと疲れているでしょうし、こんな空も見えない暗い環境に身を置き続けるのは精神的にも良くないでしょう……」

 

「いや、私たちも残るよ! アベルを囮にするって事でしょ!? だったら誰が守ってあげるのさ!」

 

「モモイ……」

 

「ん、私たちも引き続き協力する。」

 

「おじさんたちも、先生に何かあって欲しくないからね〜」

 

「”みんな……“」

 

 言葉を詰まらせるユウカ。

 

「あなた達……確かに人手が欲しいのも事実だけど……」

 

そこまで言いかけて、ユウカはフッと柔らかく苦笑した。

 

「……いや……こんな土壇場で拒むなんて無粋ね……」

 

 ユウカは姿勢を正し、全員の目をまっすぐに見つめ直す。

 

「じゃあ私からも、改めて言わせてもらえるかしら。」

 

「私たちの作戦に、協力してくれない?」

 

「もちろん!」

 

「パンパカパーン! 新しいメインクエストを受注しました!」

 

「「「「だから私たちがいるんだろっ」」」」

 

 頼もしい声が暗闇を吹き飛ばすように響き渡る。

 いよいよ誘導作戦が始まる……! ミレニアムを、そしてみんなの日常を救うんだ!

 

 

 

 




[補足]

-『ゲヘナにも“怪物”は現れたけど混乱状態にはなっていないんですか?』
 ゲヘナは逆に活動する人が少なくなって平和になりました。ゲヘナみたいなモンずっと混乱状態みたいなモンやんけ。

-アベル
 『シッテムの箱』の力を“模倣”、そして応用したのかもしれない。子供は無限の可能性を秘めるものである。実際にそうでなくとも、万能感に溢れているものだ。その感覚は大人になるにつれて忘れていくに過ぎない。

-腕時計
 大事な人からもらったものらしい

な、なんだあっ C&Cが猿空間送りになりそうになってる

オリキャラ周りがかなりダークな雰囲気になる可能性があるのですが、参考にしたいのでできれば......

  • 暗い。陰鬱な雰囲気は好き
  • 別にいいと思う
  • あまり好きでは無い
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