〈
着信が入る
『先生、ご無事でしょうか?』
「“リンちゃん!丁度良かった!アベルが居なくなったんだ!何か知って——“」
『騒動の直後で申し訳ございませんが、緊急事態です。サンクトゥムタワーの制御が不能になってしまいました....』
「“なんだって?このタイミングで......”」
『連邦生徒会に移管されたはずの制御権が失効してしまっているようなのです....このままではキヴォトス全体で混乱が生じ始めてしまいます....先生、至急サンクトゥムタワーまで戻って来て頂けないでしょうか?』
アベルの失踪、サンクトゥムタワーの権限の喪失....
関係性はあると見ていいだろう
「“分かった。今すぐ向かうよ。”」
「先生?どうしたの?」
「“今、連邦生徒会から連絡があって....どうやら緊急事態みたいなんだ。私は今からサンクトゥムタワーへ向かう、もしかしたらあの子が居なくなったのと関係があるかもしれないからね。だからみんなはアビドスに戻ってくれても大丈夫だよ。“」
「.........」
「それじゃあおじさん達が送っていくよ〜」
「”そこまでしなくても大丈夫だよ。みんな疲れてるだろうし....“」
「それは先生も同じでしょ?大体、また倒れたらどうするの?」
「”それは....“」
「これぐらいはさせてよ、先生。」
「”.......“」
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サンクトゥムタワーの下まで来る。キヴォトスでの最初の日を思い出す。
しかしサンクトゥムタワーを中心に広がっていた巨大なヘイローはなぜか無くなっている。
ホシノたちには途中まで送ってもらった。
『....先生。』
「“A.R.O.N.A?“」
『サンクトゥムタワーの権限は何者かに略奪された可能性があります。気をつけて下さい。』
「”略奪?“」
奪われた?権限を奪う事ができる存在がいるのか?
黒服の言った通り何かを企む第三勢力がいるかもしれない。
「“このシッテムの箱の力で復旧させる事はできないかな?”」
『現在の私には不可能です。申し訳ございません。』
「”.....とりあえず分かった、気をつけるよ。“」
「“リンちゃん”」
「先生、来ましたか。」
「“今はどういう状態?”」
「タワーが連邦生徒会の操作を一切受け付けなくなってしまったので、原因の究明に取り組んでいるのですが.....未だ進歩が無く....」
おそらく困窮を極めているのだろう。
「先生の『シッテムの箱』で制御権を回復させる事は可能でしょうか?」
「”ごめん....それはできないみたいなんだ.....“」
「そうですか.....」
「”.....リンちゃん、少しいいかな?“」
「何でしょう?」
「なるほど....そんな事が....」
「”アベルが居なくなった事とタワーには何か関係があると思うんだ。“」
「....確かにタイミングが一致しますね。あの子の捜索も視野に入れるべきでしょうか....?」
「”それについては私が引き続きやるつもりだよ。リンちゃんたちをこれ以上多忙にするわけにいかないしね.....“」
「”ただ.....何かあったら教えてほしい、手がかりになるかもしれない。“」
「分かりましたが.....」
「”......?どうしたの?“」
「先生、かなり顔色が悪いように見えるのですが......お疲れになっているのではないでしょうか...?」
「”え.....?“」
そんなに体調が悪そうに見えるのだろうか?私は先生だ。生徒に無駄な心配させてはいけない。気をつけないと
「”そんな事はないと思うけど....仮に私が疲れているとしても休んでいる暇はないしね。それにリンちゃんたちの方が疲れてるでしょ?私も踏ん張らなきゃ。“」
「.......」
「....そうですか.....」
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あれから数時間探し続けた。ヴァルキューレにも協力してもらっているが何の痕跡も見つからない。
やはり第三者が関わっているのだろうか。
事態の全容が全く見えない。
不安が募る。
そう、不安だ。
また何かを失うかもしれない。
取り返しがつかなくなるかもしれない。
この不安は知っている。とてもよく覚えている。
私の記憶からではないものだ。
「”はぁ.....“」
ため息。思ったより何かを溜め込んでいるらしい。
ここ最近、先生として考えなくてもいい事ばかりに気を取られている気がする。
当然、生徒の事を考えて事態の対処に努めている。
しかし雑念とも呼ぶべきものが頭を悩ませている。
”彼“は、記憶の主はこのまま報われないのだろうか。
必死に生き足掻いた結果があれで良かったのだろうか。
虚しく空っぽになったまま終わる。
そんな事あっていいはずがない。
誰かが環境に一方的に追い詰められその重圧を背負う。
まるで責任を無理やり押し付けられた子供のように。
私はアベルを“彼”に戻したとして何がしたいんだ?
もしかしたら救ってあげたいのかもしれない。
子供が責任を負うなんてあってはならない。
“あの日の僕“を誰も救ってはくれなかった。
空っぽになった自分を埋める手段を自分で探すしかなかった。
だから私は”先生“になった。
あの時、自分が本当に望んでいたのは何だったんだろう。
僕は誰かに助けて欲しかったんだろうか。
僕の世界から先生が消えて、孤独になった自分を。
僕は何が欲しかったんだろう。
『導いてくれる先生』? 『導くべき生徒』? 『気にかけてくれる家族』? 『愛し合える恋人』?
それとも....
『共に立ち上がれる友達』?
「“....今更分からないな....”」
「それはどうでしょうね、先生。」
見知った人物が現れる。
「“黒服....?”」
「私は貴方の事を不可解な存在だと感じておりました。」
「この世界を意のままにできる可能性を秘めた権力を所有していながら、その力を私利私欲のために扱わない人物......何があろうと常に生徒の最善を考える者.....」
「そんな貴方がこの世界をどう“解釈”しているか私には不可解でなりませんでした。」
「しかし、何処か親近感を感じていたのです。」
「“.....何が言いたいんだ?“」
「私は今の貴方を見て気付きを得たのです。”」
「“気付き?”」
「貴方は力に溺れる事は無かった。私には貴方が何に執着しているのか理解できなかった。」
「今なら理解できます。」
「貴方は“役割”に溺れていたのですね。」
「“何だと?”」
「私はあの後、部分的に貴方の過去を拝見させて頂きましたが。」
「貴方の“先生”が亡くなり、家族も知り合いも居らず孤独になった貴方には人間関係の構築の仕方が分からなかった。だから唯一知っている“先生”という概念に執着していたのではありませんか?」
「そうすれば自分も“先生”のようになれると思ったのでは?」
「そして彼女が自分をどう思っていたか知れると考えたのではございませんか?」
「“...........”」
「つまり.....貴方は“先生”という役割に依存しているのです。今も昔もずっと。ただ“先生”が他人から自分に変わっただけなのでしょう。」
依存?私が?
何でそんな事言われなきゃならない?
まるで今までの全てが否定されたように感じる。
私の先生としての人生がまるで独りよがりなものだと言われているようで、腹が立つ。
「”........に...“」
「”....お前に....私の...“」
こいつに私の人生の何が分かるんだ?
昔の苦しみの何を知ってるって言うんだ?
記憶を思い出してしまった事で蓄積され、ぶつけようの無かったモヤモヤが一つの感情に向けて収束する。
「お前に僕の何が分かるって言うんだ」
「僕には家族も友達も居なかった 彼女以外に話せる人も碌に居なかった 僕には先生しかなかったんだ」
吐瀉物を吐き出すように溜め込んでいたものが出てくる。今まで閉じ込めて来れたはずのものが勝手に出ていく。
「僕は.....僕は.........」
「”私は......“」
「”何が........欲しかったんだ......?”」
自分の本当の望みは何だったんだろう。無意識に僕は”先生“になる事が自分の望みだと思うようになっていた。
そうして“僕”は“私”になった。
でも、本当にそれは”僕“の望みだったんだろうか?
先生で在る事は“私”の本望だと思っていた。
“私”の望みのはずだ。
“私”の.......
“僕”のではない......
「初めて”
黒服がニタリと笑う。これは嘲笑だろうか、それとも....
「貴方はこの学園都市を通じて“気づき”を得ようとしていたのでしょう。しかし、貴方は“先生”という役割に没頭してしまい、違う形で満足してしまった。それが今の貴方です。」
「何故、親近感を感じていたのかこれで理解できました。」
「私と貴方、きっと立場が違うだけなのでしょうね。」
この世界を解釈して自分の望みに近づこうしている。
学園都市を、生徒を利用して何かを知ろうとしている。
ゲマトリア、そして、私....
「“そうか....”」
気付いてしまった。
「“私は....利用していたのか.....”」
生徒を私が先生で在り続けるために利用していた。
私は生徒のためだと思って今まで動いて来た。
でも本当は自分のためだったんだ。
最初は何処か後ろめたい気持ちがあったんだ。
でも無意識に考えないようにして来た。
そうしている内に“私”で在るために“僕”を忘れていたんだ。
「”なんだ.....私も変わらないじゃないか....“」
生徒を利用するゲマトリアには嫌悪感を感じていた。
私利私欲の為に生徒を実験台にするなど言語道断だ。
私と彼らで行って来た事は大きく違う。でも.....
”本質“は同じだったのかもしれない。
何をして来たかじゃない
精神的な問題だ
結局、私も彼らも自分の為に生徒を使ってるじゃないか。
ただの同族嫌悪だったのか?
「やはり、私達と貴方は似ている。」
「出会い方やそれぞれの立場が違えば貴方もゲマトリアの一員であったかもしれませんね。」
「逆に私も先生として...........」
「..........いえ、これはお気にされないで下さい。」
「”.....それはどういう意味だ....?”」
「少なくとも....やはり貴方は私の理解者になり得るかもしれない。」
「“........”」
「....ですが、その前に自分自身を理解してあげて下さい。」
「“....自分を?“」
「貴方は今の自分自身をどうお考えになられていますか?」
「“今の....私....”」
「先生で在るために創り出した虚像....そうお考えになられていませんか?」
「”..........“」
僕の代わりに私を自分とした。
「”私は偽物なのか?本当の自分では無いのか?”」
私はこのままでいいのか?これからどうすれば良いのか?
「それを決めるのは私ではありません。」
「ですから先生、これからそれを知れば良いではありませんか。」
「自分を肯定するも否定するも全て貴方次第です。」
「生徒を通してでも、“彼”を通してでも構いません。貴方が偽物かどうか、そして本当の望みが何であったかを探究すれば良いのです。」
探究....か.....
「“......結局、お前は私に何を望んでいるんだ?”」
「変わりませんよ。貴方が理解して行くものに私も含めて欲しいのです。」
「“..........”」
黒服の理解者に、か......
彼がホシノにした事は許せない。私は彼を敵対者として見続けて来た。
今まで理解しようとは思えなかった。
だが.....
理解できないものこそ、理解しようとする姿勢が大事......なのかもしれない....
かもしれない事ばかりだ。どれも正確じゃない。
それを今から見つけて行けばいいんだろう
「“..........”」
「“考えておく。”」
「クックック......」
「ところで先生、あれをご覧下さい。」
「“.....ん?”」
黒服は空を指し示す。
「“.....な!?なんだ!?“」
夜空に”巨大なヘイロー“が浮かんでいる。輝くそれが放つ存在感は莫大だ。
〈
端末が鳴る。
『先生!超高濃度のエネルギー体が観測されました!座標を送りますので至急、指定した座標まで移動して下さい!』
「決断の時が近付いて参りましたね、先生。」
「貴方はこれを嫌うでしょうが.....」
「たまには役割から外れてみるのも自分を俯瞰する上で重要だと私は思いますよ。」
役割から外れる?
「先生!!どちらにいらっしゃいますか!?」
遠くから呼ぶ声が聞こえる。
「先生!ここに居ましたか....」
その方向から駆け寄って来たのはヴァルキューレの生徒だ。
「”黒服。“」
「”黒服.....?“」
黒服の方向に向き直るともうそこには何も居なくなっていた。
「先生?誰かとご一緒されていたのでしょうか?」
「”...........“」
「”......いや、少し通話をしていただけなんだ。“」
「”早く行こう、時間があまり無いかもしれない。“」
「えっあっはい、分かりましたっ。」
座標の元へ向かう。
決断の時.......
少しずつその意味を理解し始めた。
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最初に先生に会った時の印象ははっきり言って怪しかった。
シロコちゃんが連れてきた大人。
大人は信用できないという偏見もあったが、頼りない雰囲気を纏ったその人物の眼は何かを偽っているような、演じているような感じだった。
そして、どこか見覚えがあった気がした。
先生と共にアビドスに関する問題を解決していった。
時が経つにつれ、彼の眼の曇りが消えていったように感じた。
私はそれを先生を信用できるようになった事で見方が変わっただけだと思っていた。
それから彼の眼は透き通ったままだった。
“怪物”の記憶を覗くまでは
黒服の要求に何故か先生は応じた。
正直理解できなかった。
もちろん事態の解決のために必要な事だという情報はあった。
頭では理解していたが心では理解できない感覚。
どこかいつもの先生らしくない感じがした。
記憶を見て倒れた後の先生の眼は最初の時のように曇って濁ったものになっていた。
それから先生は平気なふりをし続けているように見えた。
彼の事だからまた無理をしているのかもしれない。
あんな恐ろしい記憶を直接見たのなら誰だってあのようになってしまう。
そう思っていた。
先生はあれから必死だった。自暴自棄にも見えた。まるで“誰か”みたいだった。
顔色は悪いままで目のクマも酷かった。
先生は自分を低く見がちで自己犠牲的な行動も厭わないだろう。
だからあまり目を離したくなかった。
先生を見送った後、危険な目に遭ってからでは遅いので後輩たちとも別れてまた先生と合流しようと思っていた。
そこで見てしまった。
先生と黒服が話していた。
何を話しているかはよく聞こえなかった。
先生は途中で感情的になったりしていた。
あんな姿は初めて見た。
私のまだ知らない先生の側面を見た。
先生が段々と遠くなって行く、そんな気がした。
先生は居なくならないでね、“先輩”のようになったら私はもう耐えられないから
選択の時は近い
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[補足]
-ひび割れた球
現在は先生が所持している。小さくてしまいやすい。
記憶や人格が詰まったもの。灰の匂いがする。
これを例えるなら更新データに近いのかも。
上手く描けてるかは分かりませんが、11話を境に先生の性格はどこか不安定で空元気な感じにしているつもりです。
この作品の先生は原作の先生とはまた違うので混同に気をつけて下さい。
オリキャラ周りがかなりダークな雰囲気になる可能性があるのですが、参考にしたいのでできれば......
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暗い。陰鬱な雰囲気は好き
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別にいいと思う
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あまり好きでは無い