指定された座標と巨大なヘイローの出現場所は一致している。
「“あそこだね。“」
「はい、間違いないと思われます。」
ヘイローの直下では”光“の旋風が巻き起こっており、空間がひび割れ始めている。
「何が起きてるんだ!?」
「助けてくれ!」
辺りの建物が倒壊し、住民たちが逃げ惑っている。
光の奥からは知っている気配がする。
「“.....そこにいるんだね。”」
器の気配を感じ取ったのか球が磁力に引かれた砂鉄のように反応し始める。
「先生、一度本部に戻りましょう!このままでは危険です!」
「“.........”」
「“いや、私一人であの中心に向かうよ。”」
「先生!?何故ですか!?」
「待って下さい.....!先生っ!!」
これが外から来たものに由来するのなら生徒達は逆に危険だ。
それに私には“やるべき事”がある。
「やっぱり先生の様子がおかしいんです!誰か止めて下さい!」
そう言われて薄々と自覚し始める。
私は冷静ではないんだ。
今に始まった事ではなく、もっと前からそうだったんだろう。
引き留められる訳にも行かない、私は光の方向へ駆け出した。
大衆が逃げてくる方向の逆へ進む。
そうしている内に人が見えなくなった。
空間のひびが多くなってきた。
ひび割れた場所は見えなくなってしまっている。
明るいのにその部分だけ真っ黒に塗りつぶされたようになっており異様だ。
「待って!!」
後ろから叫ばれ、腕を掴まれる。
これはさっきのヴァルキューレの生徒のものではない。
振り返るとそこにはある生徒がいた。
「“ホシノ!?アビドスに戻ったんじゃ!?”」
ホシノたちとはサンクトゥムタワーに着く前に別れたはずだったが.....
「先生、待ってよ.....!何をそんなに急いでるの.....!?」
「“ホシノ、やらなきゃいけないことがあるんだ!戻っていてくれ!”」
「それって先生一人じゃなきゃダメな事なの!?どうしてそんなに焦ってるの.....!?」
「“ごめん、ホシノ....!でも腕を放してくれ!」
何故ホシノが居るのかは分からない。だが私は行かなくてはならない。
「やっぱり先生、様子がおかしいよ....」
「先生も......私を置いて居なくなっちゃうの.....?」
「先生まで居なくなったら私.....私は......」
「“それは.....?“」
今のはどういう意味だ?
突如、違う方向から声が聞こえる。
「厄介な事態になったものだ。」
「“お前は.....!”」
いつか見た双頭の人形、マエストロがそこにはいた。
「“何故ここに....?”」
「経緯は省かせてもらう。先生、迅速に中心まで向かうと良い。“あれ”はキヴォトスそのものに干渉している。このままではあの“ひび”が広がり『学園都市のテクスチャ』が剥がされてしまうだろう。」
「”テクスチャが剥がされる?“」
「それはそこに居る生徒も同じだ。あれの影響を受けた場合、テクスチャを失い”生徒ではなくなる“。」
「......要するに死亡に等しい事象が起きる。」
「”........!“」
「だが先生、そなたはテクスチャを持たぬ者。故にあの中心に行く事が可能だ。だから急ぐと良い、そなたの愛する世界を失う前に。」
「“......そのつもりだ。”」
「“ホシノ.....この先は私一人でしか行けないんだ。”」
「でも.....もし先生が....」
「“大丈夫、居なくなったりしない。信じてくれ。”」
ホシノの腕を掴む力が強くなる。
私を失う事に不安を感じているのだろうか。
.....私はかなり慕われているのかもしれないな
でなければこんなに心配される事はないだろう
先生としての“私”は
「先生......」
「先生、この者は私が送ろう。気にせず行くと良い。」
「“......傷つけるなよ。”」
「そんな行為は無意味だ。」
マエストロがホシノに触れる。
「待ってよ....!先生っ、先生っ......!」
ホシノが何かを言い終わる前にゲマトリアの技術によってホシノとマエストロが消えた。
これで引き留める者はいない。先へ進める。
走りながら考える。
何故アベルを彼に戻したいのか。
キヴォトスで先生として赴任してから過去の自分を無視して暮らしていた。
“あの人”に対する疑問でさえ考えないようにした。
最初の方は常に“このままでいいのか?”という疑念があった。
それと同じなんだろう。
本来の自分を失ったまま、事実に目を背けたまま生きて良いのか?
それは”彼“も同じだ。
赤子同然の状態にされたまま生きて良いのか?
過去の清算は済ませるべきなんだ。
“僕”の肯定も否定もできていないのに“私”が偽物かどうかなんて決められたものか。
過去を忘れるのではなく、受け入れる。
それから“自分の探求”は始まるんだ。
「“見つけたぞ....”」
光の中心にはいつか見た幼い子供、しかし白い大きな4対の翼が生えている。異形になったそれはどこか神々しくも見える。
もはや“アベル”と呼んでいた存在ではなくなりつつあるようだ。
『絶対者』とも形容できる。
倒壊した建物を使って上がっていく。
宇宙のように空虚な光景が広がる。
神々しいそれに影響されているのか、今のキヴォトスがリセットされて行くように都市の景色を侵食している。
重力の概念も消え始めたようだ。
体がふわりと浮いた。これなら“あれ”に届く。
球を取り出す。変形し始めており、樹木のように伸びている。
後はこれを統合するだけだ。
不意にある顔ぶれが脳裏に浮かぶ。
アリス、モモイ、ミドリ、ユズの顔が
そして“リオ”の顔が
もうこれで“アベル”は居なくなる。
この存在を犠牲にキヴォトスの危機を回避することが出来る。
彼女らはどう思うだろうか。
悲しむだろうか。
トロッコ問題の話を思い出す。
あの時は前提が違っていた。
だが今回は......
決意を固める、そして器に球を当てる。
すると球が灰の流体となり、小さな体の体表を伝って覆った。
直後、衝撃波が発生する。巨大なヘイローが崩れ始めたようだ。
同時に重力が戻り始め、直下へ急降下した私は地面に叩きつけられ、気を失った。
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「先生がエネルギー体の座標まで一人で行っただと!?何故そのまま向かわせた!?」
「申し訳ありません......突然一人で走っていってしまったために止める間も無く.......」
「クソッ....先生も先生だ!一体何を考えている.....!?」
「局長、私たちはどうすれば....」
「....とりあえず住民の避難を優先しろ。先生はあの光の中心へ向かったんだったな?人員を派遣して先生を追跡する、いいな?」
「「はいっ」」
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「あれ....?空に浮かんでたヘイロー?が消えたみたい....」
「本当ですね.....」
局長の命令で車を走らせている。
先生が一人で行ってしまったため合流しなければならない。
「建物がこんなに倒壊してる.....ここから先は車じゃ通れそうにないね....」
「そうですか....」
車を停めて歩き出す。
「ミレニアムの方でも何かあったみたいだし.....こんな頻繁に異常事態が起きるのは不吉だな....」
「ですねぇ....」
「先輩!!あれ!!」
一人が叫ぶ
「どうしたの?」
「先生が.....!」
言われた方向を見る。
50m以上はありそうな4つの白い翼?のようなもの、その上に何やら2つの人影が倒れている。
「あ.....!」
一つは先生のものだ。何か怪我をしているようだ。体を強く打撲したのかもしれない。
「救援を手配して、すぐに!君は先生の状態の確認、必要なら応急処置を!」
「はいっ」「分かりましたっ」
しかし.....
もう一つのうつ伏せになっているものはなんだろう?
黒いボサボサの長髪の人が倒れている。
でも.....
「.....なんで全裸なんだろう....」
背中には黒ずんだ羽の付け根のようなものがある。
翼を千切られたようにも見える。
トリニティ出身の生徒なんだろうか。
「こっちの方はどうしますか....?」
「同じく事故か何かに巻き込まれたのかもしれない。この人の確認もお願い。」
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「“.......うぅん......”」
深い眠りから覚めた気がする。
「先生、目覚めましたか。」
「“......セナ?”」
「ご無事で何よりです。」
何をして居たんだっけ......?
「軽い打撲のようでしたので、大きな負傷はありません。安心して下さい。」
「“ありがとう......?”」
何かを忘れているような気がする.....
なんで私は意識を失っていたんだ....?
「“.........はっ!”」
「“セナ!アベル....いや、誰か私の近くに居なかった....!?“」
「先生が倒れていた時の....でしょうか?」
「”誰か白い髪の——-“」
「先生、ご無事でしたか。」
誰かが会話に入ってくる。
「”....カンナ?“」
「何の連絡も無しに一人で異常現象の中心まで向かっていったそうですが........」
「”........“」
完全に思い出した。
「”すみませんでした.....“」
「まあともかく無事で良かった.....しかし、あれが考え無しの行動だったとしたら先生らしくないですね....何かあったのですか?」
「”.......“」
「”それよりカンナ、私の近くにアベル....あの時の白い髪の子供とか居なかった?”」
「あの子ですか?あの子はまだ見つかっていませんが.....」
「報告によれば先生の近くには何一つとして衣服を纏っていない生徒?が倒れていたそうです。」
全裸の生徒......?
どう言う事だ?
「その死体.....いえ、その方でしたら、隣のベッドで寝かせております。」
隣を見る。
「“......?”」
黒い長髪の生徒が寝ている。
「先生のお知り合いでしょうか?」
セナに問われる。
「“誰だ....?”」
髪のせいで顔がよく見えない。
かろうじて女性的な輪郭が見える。
しかしどこの生徒かも分からない。
「“カンナ、この人の身元とかは分かってないの?”」
「その類の報告はまだ受けておりません。第一、私も今初めてこの人物を見ましたから....」
カンナがその人物の顔をまじまじと見つめている。
「........!」
何か驚いたような表情をする。
「先生....一つ宜しいでしょうか?」
「“...何かな?”」
「あの子の顔にはほくろがありましたよね?」
「“うん。確か左目に泣きぼくろが....そして唇の下にもあったと思う。”」
「.......この人物も同じ位置にほくろがあるようなのです。」
「“なんだって?”」
カンナがその人物の髪を払いのける。
私も立ち上がって顔を覗き込む。
とても美人だ。
だが....どこかアベルに似ている気がする......
「“......まさか.....”」
よく考えればあの子供はもう居ないはずなんだ。
もし上手くいったのなら記憶と人格が戻った記憶の主.....黒服の言う“彼”に戻るはずなんだ。
と言う事は....?
「“これが....アベル....?”」
正確には元アベルだが.....
「先生?それはどういう....?“」
「“あれ....?”」
でもおかしい。”彼“と言う事は男性ではないのか?
頭がこんがらがってきた。
確認のため布団をめくる。
「先生!?何をしているんですか!?」
「待って下さい、先生....その方はまだ何も着ていないのですが....」
「”えっ?あっ違うんだ。これには訳が...“」
まずい、変な誤解をされる。
「.....っ?待って下さい....これは......」
「.........!!!」
「な、何ですか!?これ!?」
見るととてもよく見慣れた立派なものがある。
「”あ......“」
急いで隠す。
「“みんなごめん....”」
男性で間違いなかったらしい。だがアベルの時には何もなかったはずだ。
一体どういう......?
「おかしいですね。」
「”セナ?“」
「私が見たときにそのようなものは無かったのですが.....」
私が意識を失っている間にあの性別のない子供の姿からここまで変化したのだろうか?
「先生、何か知っているのでは?」
「”.....そうだね....“」
一通りを彼女らに説明した。
「そんな....!?この人物が....あの子供なのですか.....?」
「”私のやった事が上手くいっていればなんだけど....“」
「そ、そうですか....」
驚きを隠せていない様子だ。
「”....大丈夫?“」
「私としては複雑な心境ですね.....」
彼女にとって無条件で懐いていてくれた子供が行方不明になった挙句こんな形で再開したのなら当然だろう。
ある忠告を思い出す。
『そして戻ったとしても”彼“がどういう状態になるかは予測不能です。記憶から考えて、彼はヘイローを持つ者、つまり生徒に対して強い憎しみを抱いている恐れがあります。そんな状態の彼がキヴォトスで目覚めればどうなるでしょうか?』
「”........“」
「”カンナ、セナ、一ついいかな?‘」
「何でしょう?」
「“彼をもう少し隔離された部屋に移せないかな?”」
「それはどうしてでしょうか?」
「“説明は省くけどもしかしたら精神的に危うい状態で目覚めるかもしれないんだ。だからもし暴れたとしても被害を最小限に抑えられて迅速に対応できる場所に移しておきたいんだ。“」
「そうなのですか。もちろん可能です。今からでも移動させる事ができますが、どうしましょう?」
「”ああ、頼むよ。“」
私は選択をした。
過去を受け入れる選択を。
これからどうなるかは分からない。
ある疑問が浮かぶ。
黒服はどちらを選んでも良い結果にはならないと言っていた。
あれは誰にとってなんだろう?
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「崇高に至った絶対者が卑しい者に引き戻された。神性は封じ込められた。」
「この世界の再構築は失敗した。」
「だが問題はあるまい。本来の目的は”あれ“を用いてこの時空の運命を書き換える事。」
「色彩は既に”狂気の崇高“を吸収した。」
「この時空はいずれ蠱毒となる。」
「そして
「最後に忘れられた神々は滅びるのだ。」
「そして名もなき神々と同じ運命を辿るだろう。」
[補足]
-無名の司祭
『崇高』のためにキヴォトスから消えても影響の少ない生徒15人を拉致。地球で色彩と接触させた。終焉をもたらすための兵隊にでもするつもりだったのだろうが、卑しい者に1つを覗いて全て喰われた。が、後に色彩は卑しい者に接触し反転、分解させた。結果として、狂気の恐怖、殺人者、無垢なる子羊を得た。殺人者に利用価値が無くなった時、無垢なる子羊を用いて箱舟の運命を“死の神が顕現し、終焉を迎える運命”に書き換えた。
アベル
何よりも透き通った純粋な心を持つ。崇高に至る事のできる存在である。しかしこれは原初のものであり、本来ならば無名の司祭にとっては邪法に近い。正体は“彼”の失った本質であり、童心そのもの。皆、誰しも時が経つにつれ己の童心を忘れていく。だが決してなくなるわけではない。たまに原点に立ち返ってみるのも人生においては重要だろう。
オリキャラ周りがかなりダークな雰囲気になる可能性があるのですが、参考にしたいのでできれば......
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暗い。陰鬱な雰囲気は好き
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別にいいと思う
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あまり好きでは無い