From outside Kivotos   作:ケトゥ毛

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燻るそれは虚しさを満たす。


17話『発作』

 

 

 

「よくやってくれた、これが今回の報酬だ。」

 

「..........」

 

「どうした?足りてなかったか?」

 

「....いや、額に問題はない。」

 

 

 

 

「........」

 

 

 

 

 

「分かったぞ、金に困ってるんだな?」

 

「安心しろ、仕事はまだある。」

 

 

「本当か?」

 

 

「参加するならすぐにでも内容を伝えるがどうする?」

 

 

 

 

 

「........」

 

 

 

 

 

 

 

「分かった、引き受けよう。」

 

 

 

———————————————

 

 

今日は休みになった。

なので一度家に帰ろうと思って今に至る。

 

彼とは当分一緒に住む事になるだろうしこの場所に慣れておくのにも良い機会になると思う。

 

「“どう?これ美味しいでしょ?”」

 

歩きながら自宅に向かっている。

途中で寄り道して食べ物を買ったりしてみた。

いざ休日を過ごすと言っても、まともに休むのはしばらくぶりでどうすれば良いのかよく分からない。

 

でも、ただぶらぶら歩くだけでもそこそこリラックスできるだろう。

 

少なくとも私は.......

 

 

「......味がない.....」

 

「“え?本当?”」

 

「全く味がしない」

 

「本当にこれがうまいのか」

 

全く同じものを頼んだし香りだってあるからそんなはずは.....

 

いや、違う原因だろう。

ある可能性が浮上する。

 

 

ストレス性の味覚障害の恐れだ。

 

 

「“いやぁ.......そんな事もあるんだね....あはは....”」

 

困ったな.....美味しいものを食べてもそれがわからないようじゃ幸福を感じる手段が大きく減ってしまう。

 

美味しいものを食べてる時が手取り早く幸せな気分になれるんだけどなぁ....

 

「“そういえば.....向こうではどんな食べ物が美味しかったの?”」

 

「.........肉は匂いがきつかったからな.....」

 

「でもキノコとかうまかった....」

 

「“へえ〜どんなキノコ?”」

 

「死体に生えるイボのついた紅色のやつ.....最初食った時は3日ぐらい動けなくなったんだがその後は普通に食べれるようになったな。信じられないぐらいうまかった。」

 

「“へ、へぇ〜....”」

 

ベニテングダケじゃないの?それ.....

確かに含まれる毒が非常に美味とは聞いたことがあるけど....

 

この辺りは入手できそうにないし....できたとしても違法ドラッグっぽい商品しか無さそうだな....

 

「“ほ、他にはないの....?”」

 

「他....」

 

「マゴット」

 

「“マゴット...?”」

 

「....蛆虫って言った方が伝わるか。貴重なタンパク源だった。」

 

「“え”」

 

えっ、なにっ、なんだぁっ

悪臭を放ち糞にたかりこの世で最も汚く蔑まれるあの....?

 

どう考えてもまともな食生活を送っていない.....

酷い食事内容だったせいで味覚が変になった可能性もあるな....

 

 

「“それぐらいしか食べるもの無かったんだね....”」

 

「後はサボテンとかその果実とかだな、これも毒まみれだったけど....」

 

そっちの方がまともに感じる.....

 

「“そういうのを持ち歩いたりはできなかったの?”」

 

「生の食い物持ち歩くと匂いで“ミイラ”を誘き寄せる事になるからできなかった。」

 

ミイラ.....?

 

これは記憶で見たことがあるかもしれない。恐ろしい蜘蛛の脚のようなものが生えた恐ろしい怪物の姿が脳裏に浮かぶ。

 

あれに四六時中付け回されるはめになるのか....

 

「その場でありったけ食っていくしか無かったんだ。」

 

「その点ではキヴォトスの方がマシかもな。そこらじゅうに食べれるものがある。」

 

「あいつもいたら喜んだだろうな」

 

 

飢える事が無いだけましか.....

供給の安定した時代である事をありがたく思うべきなんだろう。

 

ただ.....

 

味も楽しめたらもっと良かっただろうに.....

 

 

 

でも、食べ物だけが幸福に繋がる訳ではない。

他の方法はあるはず。

 

 

「“それじゃあ......漫画とかアニメとか好き?この店とか....」

 

「“.....って、あまり興味なさげだね...”」

 

全く表情、視線に変化がない。あらゆるものに対して消極的に見える。

どうでもいいと言っているような表情。心底“虚しさ”を感じていそうな俯き。

 

「.....興味がない訳じゃない.....と思う.....」

 

どうも気力が湧いていないような顔をしている。

燃え尽きたように意思は薄弱。

 

彼に今必要なのは時間かもしれない。

 

「“行こうか。”」

 

物事は時に時間が解決してくれる事もある。

むしろ時間を置かないと駄目な場合だってある。

 

何もしないで一日過ごすのも悪くは無いはずだ。

 

無言のままの彼を連れて自宅へ戻ろうとした。

 

その時——-

 

 

 

 

 

 

ダダダダダダッ

 

「“....銃声!?”」

 

「クソッ!!しくじった!!」

 

「“あれは......ヘルメット団....!?”」

 

ヘルメット団とスケバンが街中で争っている....!

 

事態を収めなければならない所だが今私の指揮するべき生徒が近くにいない....!

 

ここで取れる手段は一つ。

 

ヴァルキューレに通報、そして私たちはこの場から離れる事だ。

 

 

通報は終わらせた。

 

ダダダダダダッ

 

「調子に乗ってんじゃねえぞコラ!」

 

「この程度でやられるかよ!」

 

ダダダッダダダッ

 

 

「”まずい....っ!“」

 

争いの中心がこちら側に近づいて来ている。

 

「”走るよ!“」

 

だが判断が遅かった。

 

コロン

 

近めの位置に何かが転がって来る。

 

「”.......!“」

 

『手榴弾です!回避して下さい!』

 

手榴弾だ....!

咄嗟に離れて伏せる。

 

ドガアアァァァンッ

 

大きい爆発の音が聞こえる。鼓膜が吹き飛びそうだ。

 

振り返って見れば車が爆発に巻き込まれた事によって更に大きな爆発を起こしてしまったらしい 。

 

ガラスがあたり一体に飛散している。

A.R.O.N.Aのおかげで私は無事だった。

 

「ありがとう....」

 

『気をつけて下さい。』

 

 

私は無事だったが.....

 

「”名無し!無事かい!?“」

 

彼の無事を確認しようとして立ちがろうとする。

 

 

 

 

ビチャッ

 

水溜まりを踏んづけたような音がする。

 

「”え....?“」

 

地面を見下ろす。

 

 

 

 

鉄臭い流体がある方向から排水溝に向けて流れて来ている。

 

 

 

 

黒い小川の上流を視線で辿る。

 

 

 

 

 

「”.....っ!“」

 

声も出なかった。

 

紅い液体はあるものから流れ出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きなガラスの破片が身体中を、そして頭を貫通し血だるまになった彼からだった。

 

 

 

「”うっ.....!.....おえっ....”」

 

身体中から何かが柔らかいものがこぼれ、飛び散った状態で地面にのされていた。

 

衝撃的な光景に胃袋がひっくり返る。

 

キヴォトスで感覚が麻痺していた。

爆発など直接でなくとも喰らってしまえば普通はこうなる。

 

私だって『シッテムの箱』が無ければ簡単に肉片になるんだ。

 

なんて恐ろしいんだろう。

 

「な、なんだよ!?あれ!?血か!?」

 

「人が.....!人が死ぬなんて聞いてねえぞ...!」

 

近くにいた不良達が破片が刺さりサボテンのようになった彼に気づき、絶句する。

 

キヴォトスで死体を見る事は滅多に無い。完全にと言っても良い。

 

当然、実物は流石の不良も見慣れているわけがないのだろう。

 

 

『先生!』

 

「“っ!”」

 

はっとする。なんとかしないと。

 

駆け寄るがどう見ても無事のはずがない。

 

「“喉が........“」

 

破片が気管や眼を貫いている。呼吸は無い。

 

死んだ?こんな簡単に?

 

「”そんな.........“」

 

 

「お、お前のせいだ!」

 

「あ、あたしは知らないからな....!」

 

呆然として責任の転嫁の言い争いのみが脳内に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビチャッビチャッ

 

「”......!“」

 

『そんな.....この状態で立ち上がるのは不可能なはず....』

 

血を吹き出しながら彼が起き上がった。

 

「”だ、大丈夫なの!?“」

 

「......ぅゥ.....ァァ.....」

 

反応は無い。いや、様子がおかしい.....!

 

 

 

 

 

「ア ア ア ァ ァ ァ ア ア ア」

 

 

『先生!明らかに異常です!その場を離脱して下さい!!』

 

 

ごぼごぼと鳴る喉から放たれた不完全な雄叫びが耳をつんざく。

それは雄叫びというより悲鳴に近かった。威嚇ではなく、何かに怯えてたまらないような悲痛な叫びにも聞こえた。

 

 

 

「なっなんだよあれ!なんなんだよ!」

 

内臓が露出したまま駆け出し、目が見えていないはずだがある方向に無我夢中に向かい始めた。

 

「ひぃっ化け物!」

 

「こっちに来るなあ!」

 

ダダダダダダッ

 

恐慌しているため照準が定まらないまま小銃が乱射される。

 

バシュッ〉〈グチャッ

 

放たれた銃弾が肉を突き破り柔らかい身体に埋まる。

 

血が吹き出し続けるが”それ“は怯まず、ヘルメット団の一人の飛びかかる。

 

「うわあああっ!!」

 

「が ア あ ぁ あ あ」

 

バキッ

 

そして”それ“は勢いのまま自身の頭を大きく振りかぶり、相手の顔面にぶつける。

骨が砕けるような鈍い音が響き渡る。

 

 

ひぐっ

 

頭突きされたヘルメット団員が体勢を崩す。

ヘルメットとマスクで防がれているためぶつける側の方がダメージが大きい。だが”それ“は痛みを感じる素振りなど一瞬たりとも見せない。

 

 

「誰か助け」〈バキッ

 

“それ”が即座に倒れた団員の首を押さえつけ、ヘイローに手を伸ばそうとし始めた。

 

嫌な予感がする....!

 

 

「“まずい!止めないと....!”」

 

このままでは彼女が危険だ。

しかしヴァルキューレは未だ到着せず、私の声も届かず、止める手段がない。

 

どうすればいいんだ.......!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダダダッ

 

ドガッ

 

「“....!?”」

 

何者かが突然現れ、“それ”の体を蹴り飛ばした....!?

 

「離れてもらおうか、一応私の同僚なんだ」

 

「“君は.....!”」

 

長い脚、引き締まったウェスト、取ってつけられたようなヘルメット.....

 

「“サオリ!!“」

 

「なっ....!?先生!?どうしてここに!?」

 

ヘルメット越しでもわかる。錠前サオリだ。

 

 

「ヴ ウ ア ア」

 

言っている側から蹴り飛ばされた”それ“が起き上がって来ている。

激しい憎悪を激らせる“それ”は、もはや無理やり動き続ける事しかできない”死体”のように見える。

 

「先生、なんだ?あれは....」

 

「”説明は後だ!”あれ“を止めてくれ!“」

 

「動きを止めれば良いんだな?」

 

 

生徒がいるなら私は指揮できる!

これで何とかなるはずだ。

 

 

--------------

 

 

熾烈な戦いが始まった。

 

 

目の前ではアリウススクワッドの元リーダー、錠前サオリと、脳が欠けてしまったせいなのか分からないが理性を失い獣のようになった彼が戦っている。

 

 

彼がおおよそ人間にはできない動作で攻め立てている。

ガラスの破片は突き刺さったまま、内臓はこぼれ、関節は折れ曲がり、骨が突き出していながらも素早い動作が絶えることはない。

一体何がここまで突き動かしているんだ?

 

 

それにサオリは近接格闘術を織り交ぜた銃撃で対応している。

苛烈な攻撃を躱し、時に牽制しながらある程度の距離を保ち続けている。流石の実力だ。

 

 

互いに一歩も引かない様子だ。

 

 

だが少し違和感を感じる。

 

 

記憶では彼は地球で何人も『殺気を纏った異常なキヴォトス人』を屠って来たはずだ。一部の光景では鈍器で殴り続けて肉塊に変貌させられる程の圧勝ぶりだった。

 

 

かなり戦闘技能あると推測される。

 

だが今の彼の動きは殺しにかかっているようなものではなく、どこか“当たり散らしている”ような無謀な動きだ。

 

ナイフをただ振り回すのと近接格闘術を心得た状態で扱うのは大きく違う。

 

理性がないからまともに実力を発揮できていないんじゃないか?

 

 

見ればサオリの攻撃をあまり躱そうとしていない。

 

ただ相手を傷つける事に執着している.....

 

 

「“サオリ!いくら撃っても彼は倒れない!四肢を重点的に攻撃するんだ!”」

 

「......!」

 

指示が伝わったようだ。

動きが変わる。

 

 

ダダダッダダダッ

 

バキッ〉〈バキッ

 

 

両足が撃ち抜かれ、体勢を崩した。

 

その隙を付き、サオリが腹部に蹴りを入れる。

 

「ゲホッ オエッ」

 

ビチャッ

 

吐血し、倒れる。

 

それでもなお這いずって暴力に執着している。

 

「次は腕だな。」

 

ダダダッ

 

二の腕がぐちゃぐちゃに潰れる。

 

これで動きを封じた。

 

 

 

「ヴヴヴゔゔゔヴゔ」

 

何もできなくなり、ただサオリに唸っている。

 

眼球は破片に貫かれているせいで何も見えないはず....

 

一体何が見えているんだろう?

 

「ゔゔ......う......」

 

唸り声が消えて動かなくなった。意識を失ったのだろうか。

 

「あまり気分の良いものでは無いな.......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらヴァルキューレ、直ちに投降せよ!」

 

遠くの方で先程のヘルメット団の元にヴァルキューレが到着している。

 

 

「“サオリ、場所を変えよう。”」

 

彼女がここに居てはまずい。

 

彼に近づく。

 

「せ、先生、危険だ」

 

何とか腹部から溢れそうな臓器を包帯で巻いて押さえ込み、ガラスの破片を抜いてからおぶって運ぶ。

 

服が血まみれだ。

 

良くないものに慣れ始めてしまった気がする。

 

 

「“行こう、サオリ。”」

 

「.........分かった。」

 

 

-----------------------

 

 

先生に連れられて人目のつかない路地裏に身を隠した。

 

「それで先生....これは一体何なんだ....?」

 

人型には見えるがあまりにも形が崩れているため、これが何なのか検討もつかない。

 

赤い人型の怪物......

 

(マダム.....?)

 

 

「”どうしたものか.....”」

 

「先生?」

 

「“ああっ....急でごめん....とりあえず....まずは助けてくれてありがとう。”」

 

「これは....一体何なのか教えてもらえないか?」

 

「“そうだね....どこから説明したらいいのか難しいけど.....”彼“は.....」

 

”彼“......?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『キヴォトスの外から』来た...か....」

 

そして復讐に生き、虚しさだけが残ってしまった者.....

 

キヴォトスの内であろうと外であろうとやはり碌なものではない。

人と呼んでいいのか分からないが、人はこのようにもなってしまうのか。

 

やはりどこであれ全ては虚しいものなのか?

 

 

彼とやらを見ていると徐々に身体が再生している事に気づいた。

 

「先生.....それは.....」

 

「”すごいね.....身体が元通りになって来てる....“」

 

破け、爛れ、真っ赤だった肉体が形を作っていく。

 

紅く汚れてはいるが次第に白い肌が見え始め、最後にははっきりと顔が見えた。

 

眠っている人間の顔だ。とても若く見える。

 

 

「”これが彼の性質か.....また“あの子”とは違うのかな...?“」

 

彼もまた特殊な能力を持っているのだろう。でなければ今見ている光景は幻覚としか説明がつかない。

 

 

 

「先生は....彼...?をどうするつもりだったんだ?」

 

何故共に居たのか、あのような状態になってしまったのかを疑問に思う。

 

 

「”そうだね.....私は彼を救ってあげたいんだ。彼もまた思い悩んでいる子供だと私は思っている。助けを求めていたわけじゃないけど.....生徒と同じように助ける必要があると思うんだ。“」

 

先生らしい。

 

あの時を思い出した。

 

先生を撃った私でさえ助けてくれる、そんな優しい人物らしい発言だと感じた。

 

 

しかし.....救いを求める事を知らない....か.....

 

育った環境が環境だったのだろう。

 

助けを求める事を放棄する、または忘れてしまう者はアリウスにだって居た。

 

 

「.......げほっ....げほっ....」

 

「“.......起きた!?大丈夫かい!?”」

 

彼が咳き込み、血を吐きながら目覚める。

 

血を見て、ほんの少し胸の奥がどよめく。

 

先程まで戦っていた怪物が人間だと思うと気分が悪くなる。

 

怪物だと思っていたから攻撃にも抵抗は無かったが.....あそこまで痛めつける真似をして良かったのだろうか....?

 

いや、仕方がなかった。これ以上は深く考えない事にする。

 

 

 

 

ゆっくりと瞼が上がる。

 

虚ろで荒んだ瞳が顕になる。

表情は抜け殻のよう。

 

まるで凄惨な戦場跡のようだと碌でもない例えが脳裏に浮かぶ。

 

 

.....確かに“虚しい”.....だがそれだけではない.........何かを内に秘めているように見える.....

 

畏ろしい....だがよく知る“何か”......

 

 

 

「....................」

 

「“大丈夫かい?気分は.....”」

 

「今は.....疲れた気分だ.....」

 

「“何があってああなったの....?”」

 

それが気になっていた。

 

 

「目が....見えなくなった.....久しぶりに痛みを感じた......」

 

「錯乱して.......“声”に身を委ねた........」

 

「それからは分からない....」

 

徐に頭を抱え始める。まるで“何か”から意識を逸らそうとしているように.....

 

 

「“キヴォトス人に対する”憎悪“に身を任せた.....違う?”」

 

少し先生の声色が厳しくなる。

 

「............」

 

「一瞬取り乱して“気配”に耐えられなくなった......」

 

「本当は全部の“気配”の元を断ちたいんだ.....あれのせいでずっと頭が騒つく......!あいつらが“殺せ”って.....!」

 

少し感情的な部分を見せた。

 

彼の過去を知っているわけではない。

だが.....今も彼は“敵”を求めているんだろう.....

 

「俺の友達を殺したのが“生徒”がじゃない事ぐらい分かりきっている.....でも....どうしても近くに存在するのが慣れねえんだ.....」

 

過去の復讐に囚われ続けている。

 

 

彼の”虚しさ“の内に潜むもの.....それは”憎悪“だ。

 

私はその感情を知ったつもりでいた。

向けられた事もあった。

 

私にもかつては憎むものがあった。

しかしそれは人から徹底的に刷り込まれたもの、いわば”複製“だ。

そうして植え付けられた負の感情を利用されてきた。

 

だが傷を残しつつも先生達のお陰で私は何とか脱却する事ができた。

 

 

 

彼の憎悪は”原本“。自身の内から生まれたもの。他人から植え付けられたものではなく、曲解された本質でもない、自分の一部。

 

自分自身を焼き続け、深い傷を今も残し続けている。

 

 

瞳の奥にそれは未だ燻り続けている。

きっかけを与えれば今の”虚しさ“しかない彼は容易に精神が憎しみで満ちるだろう。

 

 

 

 

 

私も、”聖園ミカ“も、あの場に居た他の人々も、あのまま事態が悪化してれば彼のようになっただろう。憎悪とはそう言うものだ。

 

 

憎悪に堕ち、復讐に全てを捧げる。そして虚しさだけが残る。

 

誰であろうと行く着く先の可能性の一つとして存在する。

 

.....なんて恐ろしいのだろうか。

 

 

 

「俺は.....俺は....どうしたらいい.....」

 

「どうしたら良いのか分からない.....耐えなきゃいけない事が多すぎる.....!」

 

「でも.....死にたくない......生きたいんだよ......!」

 

「でも俺は何を目標に生きたらいいんだ......」

 

 

驚いた。

 

文字通り全てを失い、全てが虚しくなってもなお生きる意志を持っている。

 

 

「少し、質問させてもらう。」

 

「”サオリ....?“」

 

「..............」

 

 

「お前は、人生など、世界など、所詮”全てが虚しい”ものだと思うか?」

 

「結局は何も残らない、故に無価値だと、そう思うか?」

 

「“サオリ...それは....”」

 

 

「.........」

 

 

「......だからなんだってんだ......?死ねばいいってのか.....?」

 

「......どうでもいい......俺は生きるのが楽しかったんだ.......理由なんて......」

 

 

 

 

「.......そうだ......」

 

「俺は生きるのが楽しかったんだ、面白かったんだ、気に入ってたんだ。」

 

「俺はそれを求めていた.....」

 

 

「理由なんて要らない.....ただ楽しめば良い.....か....」

 

 

全ては虚しいかもしれない、最後には何も残らないかもしれない。

それも一つの可能性だ。

 

何もかもが無価値で、真に存在しない。

そう考えられる事もある。

 

 

 

 

 

 

 

ただ、

 

 

 

 

 

 

 

それなら、楽しんでおいた方が損はないんじゃないか?

 

どうせ無価値なら好きに生きても良いんじゃないか?

 

私は、彼は、確かに在るのだから。

 

 

 

 

 

 

 

全ては虚しくなる。それは一つの事実だ。

彼がそうであったから。私がそうなっていたかもしれないから。

 

でもそれが生を、喜びを諦める理由にはならない。

 

 

虚無主義(ニヒリズム)の肯定であり、否定。

 

 

 

 

 

“気付き”を改めて得た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





[補足]

-発作
精神的な錯乱により、正常な判断が不可能になった状態。
強い衝撃によって抑圧された欲求が呼び起こされた。
気配とは裏側の恐怖であり、神秘によって隠されているはずのものから放たれる。故に彼にとって生徒をただの人間と同じように認識することは難しい。常に人ならざる何かが纏わりついている。

-燻り
錠前サオリが虚ろの内に垣間見たもの。燻りはきっかけを与えればいつだって大火事の火種ととなる。彼女がかつて宿していたものは他人から刷り込まれたであった。そしてそれ以上に悪化する事は無かった。彼が宿すものは自身のものでも仲間のものでもある。それは捨て難く、より深い遺恨を遺した。状況が少しでも違えば、選択を少しでも誤れば、彼女であろうと他の誰であろうと彼のようになり得る。
錠前サオリは畏怖した。己のあり得た末路を彼に見たからだ。

憎悪は人の本質に侵入する、いとも容易く。
そして堕落へと導く。
捨て難さはある種の依存であり、中毒の証である。



補足は重要でないものも含まれていて小ネタ系も多いのでだらだら読むのがおすすめですよ。



ここから先もえげつない表現を含むことがあるので改めて気をつけてください。

好みの展開、表現を教えてください

  • 絶望、病的
  • 背徳、非道徳、インモラル的
  • 暴力、残酷、汚物、下劣など酷いもの
  • 曇らせ(晴らしアリ)
  • 全部好き
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