From outside Kivotos   作:ケトゥ毛

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三人は出身も境遇もなにもかも別々、あの時のように






※微キャラ崩壊注意


18話『三人の探求者、再び』

 

「“立てる?”」

 

「........」

 

返事をせずに立つ。

気配が、恐怖が付き纏う。自分達の世界を壊した者とそっくりの感覚がそこらじゅうにあるせいで完全に落ち着く事はできないが少し冷静さを取り戻せた。視界が無くなって恐慌に陥るのはもう懲り懲りだ。

暗闇の中の孤独と恐怖、碌な思い出がない。

 

立ち上がると目の前には先生と気配の元。

 

「“あっそうだ、紹介するね。彼女は錠前サオリ、2年生だよ。”」

 

自分より同じか少し高い背丈の生徒だ。目が合い鋭い眼光が突き刺さる。

彼女が小さく会釈をしたが、輪っかと裏側が見えて咄嗟に目を逸らしてしまった。未だに慣れない。

 

  “殺せ”

 

「先生の言った通りだ。サオリで構わない。」

 

 

 “殺せ”

 

“怖い”

 

  “殺せ”

 

「......ああ」

 

喉から自分の声を振り絞った。喉じゃない場所からの声は絶えない。

 

「先生、一度仕事のことで連絡を取る。少し待っていてくれ。」

 

「“分かった。”」

 

サオリという人物が少し離れたところに移動し携帯で何やら話している。

 

 

「”まだ慣れないかもしれないけど....生徒は基本みんな悪い子じゃないんだ。ただちょっと撃たれても大きな怪我はしないから程度を知らない事もあるけど....君を本気で殺すような子はいないはずだよ。“」

 

撃たれても体に穴が開くわけでも死ぬわけでもない....か。なんとも都合が良く聞こえる。

 

俺の友達は肺が鉛玉まみれになって死んだってのに。

 

先生は続けて話す。

 

「“彼女も悪い子じゃないから安心してね。”」

 

「“ある意味では彼女も君と少し似てるかもしれないな....”」

 

「似てる?」

 

「“サオリはね.....”」

 

それから先生は錠前サオリのこれまでについて話し始めた。

 

 

彼女は長い間、”悪い大人“に支配され、様々な責任と重圧に負われながら生きてきたらしい。トリニティに対する憎悪を植え付けられ、全ては虚しいものだと刷り込まれてきた。

 

クソみたいな環境だったが自由に生き、楽しむ事もあった自分とは真逆だ。ここにも真に都合の良い世界など無かったのかもしれない。

 

あるきっかけで支配と義務から逃れる事ができたが、そうなれば逆に自分のやりたい事が分からなくなって今に至るそうだ。

 

要は....自分探し中...らしい。

 

自分とはまた違う苦しみ方をしていたが、今は大まかな目的が似通っているという事だろう。そんな過去がありながらも模索し生きる様は尊敬に値する。

 

 

「”....とまあこんな感じかな。やりたい事、なりたいものを探してる最中なんだよ。どう?少し似てるんじゃないかな?”」

 

似た境遇、つまり励みとなる仲間として見れば良いのだろうか?

....それは今可能か分からない。

 

 

先生についてもまだ分からない。

何故この男は自分を気にかけるんだ?何か返してあげれる訳でもないし、メリットがあるように思えない。不可解だ。

 

 

足音が響く。サオリが連絡を終えたようだ。

 

「“どうなったの?”」

 

「作戦は乱入があって失敗、依頼主は頓挫したそうだ....」

 

「”つまり.....“」

 

「報酬が....無い.....」

 

彼女ががっくりと肩を落とした。

苦しい生活が続いているらしく、自分の前に仕事を探す日々なのだと聞いた。

 

彼女らのような存在じゃそこらにあるものを何でも食えるという訳でも無いだろう。俺や“あいつら”とは事情が違う。

食料はしっかり稼いだ金で購入しなければならない。でなければ腹を下す。

 

( そういう苦難もあるのか.... )

 

苦しんでばかりなのは自分だけでは無い。抗う心を思い出し始めた。

理不尽に抵抗する意地がほんの少し湧き上がる。

 

 

「そういえば先生、仕事は大丈夫なのか?」

 

「”ああ、それなんだけどね....今日は休む事にしたんだ。“」

 

「そんな....先生が.....」

 

珍しい、ありえないとでも言いそうな反応だ。この世界では休暇を取るのがそんなにおかしいのだろうか?

 

 

〈ぐうぅぅ〉

 

腹が唸る音。しかし自分からでもない。先生でも無いようだ。

つまり.....

 

「.........すまない、私だ。」

 

サオリは申し訳なさそうに白状する。別に恥じることでも無いと思うが....

 

「”あはは....やっぱり運動の後だとお腹空いちゃうよね...“」

 

 

「”.....そうだ!“」

 

先生が突然手をぽんと叩いた。何かを思いついたらしい。

 

「”ちょっと時間ある?”」

 

「え?」

 

 

 

 

 

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「い、いいのか?先生....」

 

「”もちろん!“」

 

と、いう訳で食事をとる事にした。もちろんめちゃくちゃ私の奢り。

たまには贅沢させてあげるべきだ。彼女にはそれが許される。

 

名無しにも何か頼ませたところ、とんでもなく激辛の料理をオーダーした上に備え付けられた調味料を片っ端から足している。味覚を何とか復活させようとしているようだがなかなか酷い絵面だ。

 

味を思い出したいのか....それとも、味覚を徹底的に痛めつけて消して、もう二度と味を感じたくないのか......どちらか知る術はない

 

「”サオリ、最近はどう?やりたい事は見つかったかな?”」

 

「まだ分からない....答えを探している途中なんだ。」

 

自分が生きていても良いのか、の答えだろう。

その答えは自分で見つけようと言ったのを覚えている。

 

 

こう聞く僕も皮肉な事に自分の本当の望みが分からなくなってしまっている身だ。

名も無き彼も同じように全てを失った後の生き方を模索している。

 

少し奇妙だが私達は似通っているのだろう。

 

出身地も境遇も能力も特徴も、何もかもバラバラ。

だが今だけが共通している。

 

三人....そして探求.....

 

何かはっきりしないが一瞬脳裏に浮かぶものがあった。

すぐに朧げになって消えてしまったが、聞き覚えのあるものだ。

 

 

 

 

 

全員が食事を終えた。

結構空腹だったらしく、早く食べ終えた。

 

店を出て通りを歩く。

 

サオリが何かを見ている事に気づいた。

化粧品店の窓に釘付けになっている。

 

「“何か興味を引くものがあったの?“」

 

「先生。その....変、だろうか....その、こういうのを好きになるのは....」

 

「”.....!“」

 

サオリに欲しいものがあるようだ。

 

 

「”試してみる?“」

 

「た、試していいのか?....先生がそういうのなら....」

 

サオリが特に興味深そうに見ていた化粧品の一つを贈ってみる。

分かりやすく目を輝かせると同時に少し不安げな表情を浮かべる。あまり慣れていないのだろうか。

 

 

「その...どうだろうか...?」

 

「”うん....!似合ってると思うよ。“」

 

はにかんだような笑顔。

そう、少しずつでいい。少しずつ望みを見つけていけば良いんだ。

 

 

 

「色々とすまない。ありがとう、先生。できれば....その...礼がしたいんだ。何か手伝えることはないだろうか?」

 

「”いやいや....お礼なんて.....“」

 

「”.....あっ“」

 

いや、一つアイデアが思い浮かぶ。

 

「”今は大丈夫だよ。だけど....できたら明日予定を空けておいてくれないかな?”」

 

「了解した。」

 

「“その時なったら連絡するよ。今日は一旦これで解散しよう。”」

 

「そうか...それじゃあ先生、また明日よろしく頼む。」

 

「“またね。”」

 

サオリと別れて帰路につく。

 

 

 

 

「何か思いついたのか?」

 

彼が話しかけてくる。

 

「“そうなんだ!でも、それはまた明日話すよ。”」

 

「.....?」

 

困惑したような顔をされた。

画期的なアイデアという訳でもないが今の状況にはぴったりかもしれない。

 

 

 

 

 

-------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから時間が経ち、次の朝が来る。

柄にもなく高揚したような感情を抱えながら目を覚ます。

 

先生からはシャーレに来るようにと連絡があった。

 

先生にシャーレのオフィスに呼び出されたため向かってみたもの先生は居ない。ただ居たのは.....

 

「.....あんたか。」

 

「君は.....名無し....で良いのだろうか?」

 

「そうだな、そう呼んでくれて良い。」

 

名無しと呼ばれた者ただ一人がシャーレのオフィスに。

 

「先生の姿が見当たらないが.....」

 

「俺も分からない。待ってくれって言われたきり戻ってこないんだ。」

 

「そうか。」

 

「..........」

 

「..........」

 

淡白な会話が続く。

 

 

「その....調子は....大丈夫だろうか?」

 

何か会話を振ろうとしてみる。

 

「昨日と変わらずだ。」

 

良いという訳でも無いのだろうか。

一度も目を合わせようとしない。

 

「やはり.....」

 

「まだ私を、私たちを恐れているのか?」

 

まだ生徒に対する恐怖を抱き続けているのだろうか。

一応昨日は共に行動していたはずだが....

 

一歩近づいた。彼が退くような動作をした。大きく動いたわけではなかったが、それはどこか反射的な行動のように思えた。常に目の前の存在を警戒している。

 

「........」

 

「.....情けない事に.....察しの通りだ。」

 

自由だった者は今トラウマに支配されている。

もちろん同情する。逆らえないものに恐怖感を抱く気持ちもわかる。

 

 

......だがこのままでは良くない。

自分の生き方を見つける前に前進すらできない状況は打破しなくてはならない。

 

 

 

 

「........」

 

「克服しようとは思わないのか?」

 

「..........思ってるさ」

 

「悔しくはないのか?」

 

「.....ああ、悔しいさ........どうしようもなく情けない.......」

 

少し感情的な部分が露出する。彼は何もかも諦めた訳では無い、ちゃんと意志がある。

 

なら問題はないだろう。

 

 

 

「私が力になろう。」

 

「......え?」

 

 

「だが....どうやって?」

 

「簡単な話だ。」

 

 

「私の目を見ろ。見続けるんだ、いいな?」

 

「えっ」

 

「心配するな。もし何かあっても私なら大丈夫だ。」

 

仮に何かの弾みで暴れたとしてもそう簡単にやられないと思える程の自信はある。荒療治だが、こうした訓練には厳しさも必要だ。

 

 

「ほら、何をボサッとしている。早くこちらを向くんだ。」

 

「もう始めるのか.....」

 

 

対恐怖訓練が始まる。

 

 

「何だこの状況......」

 

「どうだ?どう見える?」

 

ただ椅子に座って対面し、顔を見合う。

奇妙に見えるがもちろんこれは真面目な訓練だ。

 

彼の表情に若干の狼狽が現れ頬に小さな汗が伝う。

 

「どう見えるって......あんたとその“裏”だけだが.....」

 

「裏?裏とはなんだ?」

 

裏側....?どういう意味だ?

 

「裏は裏だろ。あんたが怖いっていうよりは生徒に重なって見える裏側が嫌なんだよ俺は」

 

先生の言っていた単語を一つ思い出す。

 

“性質”が何かは分からないが特殊が感覚があるのかもしれない。

 

「ならばそれに慣れろ。でなければ状況は変わらないぞ!」

 

「な、なんかキャラ変わってねえか!?」

 

彼が気圧されて顔を逸らそうとした。

 

「待てっ」

 

「うぐっ」

 

すかさず顔の横掴んで元の位置に戻す。

 

「ちょ、ちょっと待て!触らない方が良い!危険だ!」

 

触れた瞬間から指先から体温が奪われる、まるでエネルギーが吸い取られていくかのように。一瞬視界に揺らぎが生じる.....が、

 

「ならそれを抑えて見せろ!自分の能力なら自分の意志で扱えるようにしろ!」

 

「嘘だろ!?ぐあああああああっ」

 

 

 

それから悶着が続き、互いに動きが激しくなったり腕が痙攣したり床を転げ回ったり意識が二つになったり視界が八つになったり.....と、訳が分からない破茶滅茶な事が色々起きたがその末にに何とか訓練を終える事ができた。

 

 

 

 

「はあ....はあ....なんか恐れるとか阿保らしく思えてきた....」

 

「ハア....そうか...ハア....それは...良かった....」

 

そして現在互い息を切らして椅子にもたれかかっている。

 

 

「なんかもう慣れちまったな....これも.....」

 

普通に顔を合わせる事ができるようになった。

安全に触れる事もできるようになったらしい。

 

「どうだ?私にかかればこんなものだ....ハア....ハア....」

 

「げほっ....悔しいが....本当に効果覿面だ.....」

 

元々適応能力は高いのだろう。警戒するような拒絶しているような表情が消え、少し明るくなっている。

 

「その.....助かった......ありがとうな.....」

 

「気にするな。あのまままともに顔も合わせられないようじゃ寝覚めも悪いだろうからな。」

 

礼を言われた、何だか新鮮な気分だ。

 

 

 

「“すっかり打ち解けたみたいだね”」

 

「「先生!?」」

 

気づけば先生も居た。

 

「い、いつからそこに居たんだ...!?」

 

「“あはは....ちょっと前からね....入ったらプロレスみたいな事してるから本当にびっくりしたよ.....”」

 

「居るなら言えよ.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「先生の助手....?」」

 

「“そうだよ。”」

 

先生から言い渡されたのは私と彼でシャーレの先生の補助をする役割に就かないかという提案であった。

 

「......当番とはまた違うのだろうか?」

 

「“そうだね。れっきとした仕事だよ。給料も出るしね。“」

 

「そうなのか!?」

 

「”上と相談して何とか承認してもらったんだ。“」

 

「”(彼の処遇にも困ってた所だったしね)“」

 

「しかし.....私は追われる身なんだ。その辺りは大丈夫なのか?」

 

「”助手の管理は私に一任されてるから心配はいらないよ!“」

 

「”幅広い依頼を受けるから色んな事をする事になるんだけど、その過程できっとやりたい事も見つかってくると思うんだ....!だから....どうかな?“」

 

過去の言われた言葉を思い出す。

 

”サオリは良い先生になれるかもしれないね“

 

「.......」

 

( 良い先生に....か..... )

 

「分かった。引き受けよう。」

 

「”良かった....!これから改めてよろしくね!“」

 

全く予想しなかった展開。だが願ってもない好機かもしれない。

先生になると決めた訳じゃない、まだなりたいと思っている訳でも無い。

 

元より私の拒否権は無い.....と言いたいところだが、そんな自罰的な動機を先生は望まないだろう。

 

そして、この選択によって視野が広がるのは事実だ。

 

「.....って事は俺もか.....意図せず同僚になっちまったな....」

 

「なんだ?不満なのか?」

 

「いや....でもあるんだな、こんな事って....」

 

彼は彼で少しついて来れていないようだが、そこそこ受け入れているように見えた。

 

 

先生、私、彼の三人。

 

予期せず少し違う自分探しが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





サオリ姐さんのキャラ難しい....

17話の最後で先生の服血まみれになってたんじゃないかって?
ククク.....

好みの展開、表現を教えてください

  • 絶望、病的
  • 背徳、非道徳、インモラル的
  • 暴力、残酷、汚物、下劣など酷いもの
  • 曇らせ(晴らしアリ)
  • 全部好き
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