From outside Kivotos   作:ケトゥ毛

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小さな積み重ねが小さな奇跡を呼ぶ。決して大きくは無いが、確かな進歩になる。


n+3話『キヴォトス』

「おい、起きてるか」

 

「ん“ン”……もう明るくなるのか」

 

[モう日の出の時刻だ。すぐに発とう]

 

 トンデモ体験のせいか、ほとんど眠れた気がしなかった。浅い睡眠のせいで頭がふわふわとした感覚に見舞われる。

 

 太陽そのものは見えなくても、時間の流れだけは確かに存在しているらしい。夜が終わり、朝が来る。その事実だけが、かろうじて世界の秩序を感じさせていた。

 

 そんなことを考えながら荷物をまとめる。肩に重さを感じた瞬間、また長い放浪が始まるのだと実感した。二人の獣人の先導に従い、黙々と歩く。

 

 ……少しずつ気温が上がってきている。夜の冷え込みが嘘のように、砂がじわじわと熱を帯び始めていた。

 

 しかし「街」と言われても、どうにも想像がつかない。これまで目にしてきた建築物は、すべて原型を失った瓦礫ばかりだ。家屋らしい家屋など、一度も見ていない。

 

 見かけるのはサボテンばかり。まさかサボテンで家を作るわけでもあるまいし……いや、この世界ならあり得るのか?

 

 一体、その街はどこにあるのだろうか。

 

[ヒと晩この辺りの地形を調べ、過去の地理データと照合した。おそらくグレートソルト湖に近い、ソルトレイクシティの位置に存在すると予測している]

 

「アキネイターか? お前は」

 

 変わり映えのしない景色の先に、見覚えのある石の塀のようなものが群れを成して見えてきた。

 

 おそらく、また都市の風化した成れの果てだ。ということは、あれがソルトレイクシティの外縁……街に近づいている証拠なのかもしれない。

 

 十数分ほど歩き続けたところで、サボテンとは明らかに違う植物の群生地が目に入った。

 

 その向こうには、いくつもの人影がある。何か作業をしているようだった。

 

「もウすぐだ。プラントが見えてきた」

 

 近くで見ると、赤い実をつけた植物や、肉厚でギザギザした葉を持つ草が整然と植えられている。見た目からして、トマトやアロエに近いものだろう。

 

 さらに驚いたのは、金属製のパイプで組まれた装置が設置されていたことだ。おそらく灌漑設備だろう。水資源を管理し、意図的に農作物を育てている……そんな光景は、この荒廃した世界では異様に感じられた。

 

 獣人たちが農業を行っている事実に感心していると、今度は道に沿って並ぶ家屋が見えてくる。

 

 ほったて小屋同然の建物が連なり、その様子はどこか西部開拓時代の街を思わせた。行き交う獣人の数も増え、あちこちで声が飛び交っている。道具や金属片を手に、何かを交換している姿も見えた。

 

 彼らに社会を形成する能力があるとは、正直思っていなかった。だが、目の前の光景はその考えを完全に否定している。

 

「こコが……マチ、なのか?」

 

「そウだ。俺たちは金属を売りに行かなきゃならねぇ。腹も減ったしな」

 

「あトはおマエらでも何とかなるだろ? って事で、ここでお別れだ。じゃあな」

 

 そう言い残し、二人はさっさと人混みの中へ消えていった。どうやらこの街では、外で集めた金属スクラップなどの資源を対価に、食料や寝床を得られるらしい。

 

 ……だったら、もう少し地下施設の産物を持ってくるべきだった。久々にトマトを食えたかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、ふと道行く獣人の手にしている道具が目に入った。金属製の筒状の本体。その先端には照準器のようなものが取り付けられ、下にはしっかりとした持ち手がある。

 

 もしかして……。

 

「なあ、もしかしてこの街には銃が普及してるんじゃないか?」

 

[オそらく、そうだろう。粗末ではあるが、彼らの持つ銃はどれも同じ構造に見える。製造方法が共有され、体系化されていると考えられる。一定以上の技術水準はあるはずだ]

 

[アの二人の獣人は、“鉄の人”が街を取り仕切っていると言っていた。私のデータベースには多様な技術情報が保存されている。その“鉄の人”がアンドロイドであるなら、技術を獣人たちに普及させていた可能性は十分に考えられる]

 

 確かに筋は通っている。その鉄の人がアンドロイドなら、知識を持っていても不思議ではない。

 

 つまり……。

 

「もしかしたら、そのアンドロイドは地上の人類がどうなったのか、詳しく知ってるんじゃないか?」

 

[ソれを確かめるために、今から向かうつもりだ]

 

「まテよ、腹が減った。先に飯にしようぜ。おマエもそうだろ?」

 

 確かに空腹は限界に近い。

 

 だが問題は……手持ちが、何もないことだった。

 

[おや、初めて見る方々ですね。この街を訪れるのは、初めてでしょうか?]

 

 背後から、落ち着いた柔らかい声がかかった。

 

 振り返ると、そこに立っていたのは見慣れないアンドロイドだった。

 ジャンクパーツの寄せ集めであるマルムとは違い、全体的に洗練された近未来的な外観をしている。横に長い楕円形の頭部、その正面は黒いモニターのようになっており、そこに青い二つの光点が“目”として浮かんでいた。

 

[どうやら、食事をお求めのようですね。もしよろしければ、私が用意しましょう。我が家に来ていただけませんか?]

 

 あまりに突然な申し出に、一瞬言葉を失う。

 

[ナぜ、そこまで世話を焼く?見返りがあるようには思えないが]

 

 マルムが警戒を隠さず問いかける。

 

[この街に集まる人々から、情報を集めているのです。彼らは実に多様な話を持っていますからね。私にとっては、いわばライフワークの一つなのですよ]

 

 その口調は淡々としているが、人間味すら感じさせる滑らかさがあった。

 

「まあ、俺らを騙すなら、もっと別のやり方があるだろ。ここまで回りくどいことはしないと思うね。せっかくだし、ご馳走になってもいいんじゃないか?」

 

[……ワかった。要求通りにしよう。元より一文無しだ。このままでは、食えずに野垂れ死ぬ可能性も否定できない]

 

 現実的な判断だった。

 

「よッしゃあっ、待ちくたびれたぜっ」

 

[それは何よりです。では、こちらへどうぞ。ご馳走と呼べるほどではありませんが……満足はさせられると思いますよ]

 

 含みのある言い回しに、自然と期待が膨らむ。こうして俺たちはその近未来的なアンドロイドの背を追い、街の奥へと足を踏み入れることになった。

 

 

 

 

 

----------------------------

 

 

 

 

 

「ここが私の住居です。どうぞ、上がって下さい。」

 

 周囲の家屋よりも一回り、いや二回りは大きい建物の前で、彼はそう告げた。

 街の他の建物が寄せ集めの板や金属で組まれているのに対し、この家だけは構造が整っており、意図的に設計された“拠点”という印象を受ける。

 

 促されるまま、中へと足を踏み入れる。

 

[ソれで、アンタがこの街を取り仕切ってるって認識で、間違いは無いか。]

 

 マルムの問いかけは率直だった。

 

[まあ、間違ってはいませんが……私は、知る限りの技術を彼らに伝え、集落の決まりを作っただけですよ]

 

 それはもう十分“取り仕切っている”と言っていい気がするが、本人にその自覚は薄いらしい。

 

[ワたしよりも新しい技術で製造されたアンドロイドに見える。製品名、型番はなんだ]

 

[製品名?まるで物のような言い方ですね。それに……アンドロイド、とは私のことでしょうか?]

 

「そっちじゃ、アンドロイドって呼ばないのか?」

 

[少なくとも、私のような存在は故郷では“オートマタ”と呼ばれていました]

 

[ナるほど。少なくともワたしより後の技術、それも、かなり発展した系統のようだ]

 

[面白いことを言われますね。では今度は、私からも伺いましょう。まず、貴方達はどこからここへ来られたのですか?]

 

「ネバダ州リノの避難シェルター……と言えば通じるだろうか。ここから五百キロほど西に位置する場所だ」

 

[具体的な地名を挙げられたのは、貴方達が初めてです。しかし……やはり聞いたことが無い。やはり、我々の知る世界とは断絶しているようですね]

 

「なア、話もいいけどさ。飯、くれるんじゃなかったのか?」

 

[おっと、これは失礼。食べながらにしましょう。……もっとも、貴方は食事を必要としないようですがね]

 

 マルムに対して冗談めかした口調で言った。

 だがその自然さが、かえって違和感を強める。

 

「まるで人間みたいに話すな……もしかして、あんたも感情や意思を持つタイプのアンドロイド……いや、オートマタなのか?」

 

[奇妙なことを仰いますね。オートマタは皆、感情も意思も持っています。それが普通です。どうやら、そちらとは常識が根本から異なるようだ]

 

 そう言いながら、彼はテーブルに皿を並べていく。

 

 内容は生野菜が中心だったが、量は十分で、色味も悪くない。

 久々に“食べ物らしい食べ物”を目にした気がした。

 

 用意された椅子に腰を下ろし、頭部の装備を外す。

 ゴーグル越しではない、遮るもののない視界が広がった。

 

 砂と埃に覆われた世界に慣れてしまっていたせいか、このクリアな感覚が、妙に新鮮で……同時に、少しだけ落ち着かない気分になった。

 

[おやっ? 貴方はてっきりオートマタなのかと思っていましたが、人型の女性……いや、声からして男性のようだ。何より、ヘイローが無い……]

 

 俺の素顔を見た途端、彼は露骨に動揺し始めた。モニターに表示された青い目がわずかに揺らぐ。

 

[やはり、ここは『キヴォトス』ではないのですね……]

 

 聞き覚えのない単語が立て続けに飛び出す。

 彼は参ったように頭を抱えた。

 

[『キヴォトス』?]

 

「何なんだそれは。場所の名前か? それに『ヘイロー』って一体なんだ?」

 

 しばらくして平静を取り戻した彼は、順を追って説明してくれた。

 

 『キヴォトス』とは、元々彼が存在していた世界の名称らしい。そこでは、俺のような“人間”は皆、頭上に『ヘイロー』と呼ばれる輪を持って生まれてくるという。さらに決定的なのは、その世界には人間の男性が存在しないという事実だった。

 だからこそ、ヘイローを持たない俺を一目見ただけで、ここが『キヴォトスの外』であると理解したらしい。

 

 数十年前、彼は気が付くとこの湖のほとりにいたという。

 どうやって来たのか、何が原因だったのか――それらは今も分からないままだ。元の世界との連絡手段もなく、まったく未知の土地で立ち尽くすしかなかった。

 

 その後、偶然遭遇した獣人たちには当然のように警戒され、何度も襲われかけたらしい。それでも彼は対話を重ね、説き伏せ、少しずつ信頼を勝ち取っていった。その積み重ねの果てに、この集落が形作られたのだという。

 

 ……割とマジで尊敬するね。

 普通に偉業なんじゃないか?

 

[『キヴォトス』、聞いたことの無い地名だ。それはこの地球上の何処に位置している?]

 

[えっ?ま、待って下さいっ!今、『地球』と言いましたか?]

 

 次の瞬間、彼は驚愕したように飛び跳ねた。

 金属の外殻に覆われ、見た目はどう考えてもロボットなのに、その反応だけは妙に生々しい。動きが大きすぎて、こちらが一瞬たじろぐほどだ。

 

 正直なところ、内心で少しだけ心配になる。情緒、大丈夫かこいつ……。

 

[『地球』って、人類が生まれ、そしてとっくの昔に棄てた惑星の名前ではありませんか!?なぜ私がそんなところに!?]

 

「待てっ。今、人類が棄てた惑星って言わなかったか!?」

 

[ッ!?っは、はい……そうですが……]

 

「それってつまりだ。地球を棄てて、人類はどこか別の場所に移り住んだってことで合ってるか!?」

 

[え、えぇ……私の知る限りでは……]

 

「なあ!聞いたか!?やっぱり人類は『楽園』に移住していたらしい!『楽園』はあるぞ!」

 

 噂話でしかなかった情報が、今この場で現実の輪郭を帯びた。

 これまで集めてきた断片的な知識や仮説が、一気につながった気がして、胸の奥がじんわりと熱くなる。

 

 冷静沈着なマルムですら、珍しく感情を露わにしている。

 一方でカプラエはというと、最初から『楽園』の存在を疑っていなかったせいか、「な二を今さら?」と言いたげな顔で、飯を口に運び続けていた。

 

[『楽園』?いえ……楽園という程の場所ではありませんが……それに、私がいたキヴォトスは、人類が移住した場所とはまた別の領域なんです。誤解を招いたなら、申し訳ありません]

 

 あれっなんか難しくなった。

 

 まあいい。細かい理屈は後回しだ。

 少なくとも、でも目指す場所があるならそれでいい。

 

[ダが、アンタはそこに居たはずなのに、何故か今、ここにいる]

 

[ツまり、『地球』と『キヴォトス』を繋ぐ手段があるはずだ。例え、事故的なものであったとしてもな]

 

 そう考えても不自然ではない。

 何せ、その生き証人が、今まさに目の前にいる。

 

[私も原因が分かれば良いのですが……直前の記憶が無いんですよ。そのせいで、何が起きていたのか全く分からなくて……]

 

 まあ何とも可哀想な話である。最悪な異世界転生、いや異世界転移した訳なんだから。

 

 良いニュースを聞いた俺たちと悪いニュース聞いた彼の間の温度差に気まずい空気が流れる。

 

 

 

 

 

--------------------------------------

 

 

 

 

 

 ご馳走になった頃には、すでに日が沈むであろう時間帯に入っていた。空は汚染されているが、一応夜は来る。

 

 紹介された宿を借りることになり、俺たちは腰を上げた。

 戸を開けて、二人が先に外へ出ていく。「お邪魔しました」と言って丁寧に退室する文化はここには存在しない。俺も特に気にせず、その後に続いた。

 

[今日は色々教えて下さり、ありがとうございました。それでは……]

 

 初めて会った時より、どこか疲れているように見えた。

 気のせいか、それとも話の内容が重すぎたのか。……まあ、無理もない。

 

「なあっ」

 

 出る間際、戸を閉めようとする彼を呼び止める。

 

「もし『キヴォトス』に戻れる手段を見つけたら、真っ先にあんたに伝えに行く。食事の礼も兼ねてな」

 

[しかし、そんな事……可能なのでしょうか……]

 

「俺達ならできるよな?」

 

[モとより、それが目的だ]

 

「おレも忘れるなよっ」

 

 そのやり取りを交わした瞬間、不思議な感覚が胸の奥に残った。

 短い時間だったが、確かに奇妙な信頼を感じた気がした。

 

[なるほど……分かりました……]

 

[それじゃあ……朗報を期待させてもらいましょうかね!]

 

 そう言った彼の顔に、ほんの少しだけ生気が戻ったように見えた。

 ……気のせいじゃないと、思いたいところだ。

 

 

 

 

 

————————————————-

 

 

 

 

 

「クックック……こんばんは。私なりに、あなたの持つ“性質”を一部ですが解明できました。もちろん、お聞きになりますよね?」

 

 日が完全に暮れ、宿に一時的に二人を置いてから、“研究者”との接触を図った。

 この時間帯に呼び出される時点で、ろくでもない話だという予感はしていたが……それ以上に、期待の方が勝っていたのも事実だ。

 

「もちのロンだっ。早速教えてくれっ」

 

 正直、今はテンションが上がっている。

 特別な力の話なんて、男児たるもの抗えないだろ。思い返せば、自分でも気持ち悪いと思うほど浮かれた口調になっていた。それが何よりの証拠だ。

 

「結論から言いましょう……」

 

「あなたの左腕、戻せるかもしれません」

 

「なにっ」

 

 完全に予想外の解答だった。

 一瞬、理解が追いつかず、言葉だけが宙に浮く。

 

「あなたの持つ“性質”……ある意味では、私が認識していた『崇高』とは異なる形で“それ”に至れると、私は仮定しています。随分と荒い方法ですがね」

 

 ……あーー、何言ってるか分かんねーよ。

 『崇高』? 偉大になれるって意味か?

「おや? 申し訳ない……あなたにはまだ理解できない単語でしたね。では、私が解明した事の一部を、より具体的に説明しましょう」

 

 俺みたいな阿呆にとっては、ありがたい配慮だ。

 

「あなたの持つ“性質”……いえ、今は“エネルギー”と呼称しましょう。あなたは現在、特殊なエネルギーを帯びています。そしてそれは、以前よりも明確に増大している……」

 

 “研究者”は淡々と続ける。

 

「その事実を基に、様々な実験を行いましてね……すると、非常に興味深い結果が得られたのですよ……クックック……」

 

「そのエネルギーは、他のあらゆる要素を吸収して増殖する性質を持っていました。それも、与えた分だけ無制限に」

 

「運動、熱、光、電力……それだけではありません。『恐怖』に由来するものまで、です」

 

 ……あーー、何言ってるか分かんねーよ。

 やたら抽象的なワードはなんなんだ。

 

「そして、増殖し蓄積されたエネルギーが、どのように使われると思います?」

 

「まさか……それが再生能力とか、免疫力に関係してるとか?」

 

「その通りです! クックック……おそらくあなたは無意識だったのでしょうが、状況に応じてこのエネルギーは形を変え、作用を変えるのです」

 

「ここから、私は一つの仮説を立てました」

 

「あなたが望めば、それは何にでも作用を変えられる……つまり、無限の可能性を秘めているということです!」

 

 無限。

 正直胡散臭い言葉だ。

 

「ただし……それを扱うには、あなた自身が用法を理解する必要があります。理解を深め、深め切った先で、初めて自在に扱える……そういう代物です」

 

 俺自身のスペックや技量も関わってくる、ってことか。

 正直、そこは少し不安になる。

 

「そこで、まずは……あなたの失った左腕。それを一から再生させることを目指してみては……?」

 

「そんなことまで、そっちの理論では可能なのか……」

 

「今すぐは無理でしょう。しかし、あなたの努力次第では、明日にでも可能になっているかもしれませんよ……ククク……」

 

 冗談なのか本気なのか、相変わらず判別がつかない。

 

「私の役目は、ひとまずここまでです。私自身にも“確かめなければならない事”がありますので……本日はこれで失礼しましょう」

 

「それでは、また次の機会に……名無しのあなた……クックック……」

 

 そう言い残し、“研究者”は煙が散るように姿を消した。

 ……あれ、俺もそのうち、ああいう消え方できるようになったりしないかな。

 

「あっ」

 

 しまった。

 『キヴォトス』のこと、聞きそびれた……。

 

 

 

 

 

————————————————

 

 

 

 

 

「クックック……興味深い……これは私の求める『神秘』に至る、重要な手掛かりになりそうだ……」

 

「しかし、今の私では、この性質を意思通りに直接操作することは不可能だ。あくまで、作用を観測することしかできない……『神秘』の解明以前に、この“性質”そのものへの理解が決定的に足りていない……」

 

「少し……“彼”の素性を探る必要がありますね……」

 

 “研究者”はネバダ州へと足を運んでいた。

 “彼”の出身地であるリノの避難シェルター……否、かつて研究施設と呼ばれていた場所だ。

 直接訪れるのは、これが初めてである。

 

 内部には、散乱した書物や機材が無秩序に転がっていた。

 時間に置き去りにされた残骸の中から、彼は黙々と情報を拾い集めていく。

 断片的な記録が、思考の中で次々と結び付いていった。

 

「なるほど……そういうことでしたか……」

 

「この地の研究者達は『神』に縋った。そして『神』を顕現させようとした……」

 

「人間は『神』の似姿である……そう定義したからこそ、彼らは……」

 

「一つの前段階として、“最初の人間”を模倣しようとしたのですね……」

 

「そして、荒い手段と試行錯誤の果てに、偶然にも……“解釈の自由を持った”存在が、人の人格を伴って顕現した……と……」

 

 独り言のような声音に、確信が混じり始める。

 

「なるほど……彼らはおそらく、『キヴォトス』における『生徒』のような存在を生み出そうとしたのでしょう……」

 

「皮肉なことに、成果を確認する前に滅びてしまったようですが……」

 

「となると……“彼”は一種のオーパーツと呼んでも差し支えない存在かもしれませんね……」

 

「困ったことに、どのような技術が用いられたのか、その核心に関する情報は失われてしまっていますが……」

 

 それでも、“研究者”の興味が失われることはなかった。

 

「“彼”の存在を紐解いていけば……『生徒』が、いかにして誕生したのか……その答えに辿り着けるかもしれませんね……」

 

「少し……『ゲマトリア』の皆に話を持ちかけてみましょうか……」

 

 そう呟き、“研究者”はこの領域を後にした。

 残されたのは、途切れた思考の残響と静寂だけ。




[補足]
-塩湖の街のオートマタ
『キヴォトス』という場所から事故?で来てしまった人物。
持ち前の物腰の柔らかさで獣人たちとうまくやっている。
元々、社会における上澄みという訳でも無いが故郷には未練がある。
時々ホームシックに陥る事がある。

-人類が移住した場所
『先生』などの出身地である。『キヴォトス』とはまた別の領域。

誤字や変な表現、原作キャラの違和感があったら感想でご指摘して頂けるとありがたい限りです....
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