From outside Kivotos   作:ケトゥ毛

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閑話① 研究報告

「……なるほど。その領域にも『物語』が生まれていましたか……」

 

「そうです。そして、これがその“彼”の左腕です。“彼”は、貴方の言うところの“主人公”なのでしょうか」

 

「これは、私の知らない特異な“性質”を帯びていました。個人的に研究対象として扱っていたものですよ」

 

「……それで、我々にこれをどうしろと言うのだ」

 

「そうですね、“マエストロ”……私はこの性質が、一種の『崇高』へと至る可能性を秘めていると感じていました。しかし、私自身の理解が及ばず、未だ『神秘』の探求にすら結び付けられていないのが現状です。そこで、あなた方にも研究情報を共有し、意見を伺いに来た、というわけですよ」

 

「事情は理解しました……では、その“性質”について、もう少し詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか」

 

「はい。この性質は、独自のエネルギーとして彼の肉体に蓄積されるものです。『神秘』や『恐怖』を含む、あらゆる要素を吸収し、それを糧として無尽蔵に増殖する特性を持っているようです。そして、蓄積されたエネルギーは、彼の肉体に様々な作用を及ぼす……そこまでは確認できています」

 

「さらに、ここからは私の推測になりますが……彼が自身の性質への理解を深めれば、その作用を意のままに操れるようになる可能性が高いと考えています。現に彼は、“失った左腕を一から再生させる”ことに成功しています。通常の人間が持つ再生能力としては、到底考えられない事例でしょう」

 

「なるほど……おそらく、その性質の作用は、彼の事象に対する認識の“歪み”から生じているのではないでしょうか?」

 

「彼は、身の回りに存在する“記号”を、独自の感性に基づいて“解釈”している。そして、その解釈によって導き出された“テクスト”そのものが変容している……そう考えられませんか?」

 

「なるほど……つまり、自身に起こる事象そのものを、認識した通りに書き換えている、ということですか。ククク……実に興味深い見解ですね……」

 

「……その“彼”とやらは、結局どういう存在なのだ」

 

「私が調べられた範囲では、『最初の人間』を“模倣”しようとした結果、生まれた存在である……そう結論付けています。私が接触した時点で、彼の周囲には誰一人として存在していませんでした。そのため、残されたデータから導き出した推論ではありますが……」

 

「“模倣”……つまり複製(ミメシス)ということか。しかし、仮にそうだとして……それを認識する存在がいない状況で、なぜその“彼”は生きているように存在している? その“彼”は、本当に生きた人間なのか?」

 

「正確なところまでは断定できません。ただ、私の目には、彼は普通の人間と何ら変わらない存在に映りました。会話による意思疎通が可能で、自らの思考と判断によって生命活動を営んでいる……少なくとも、人として一般的な特徴は備えていました」

 

「……だとするならば。明確な“自分”という意識が存在し、自身を“人間である”と認識しているからこそ、その自己像を基に人間を模倣して存在しているのか? それとも……肉体とは別に、独立した意識が存在しているというのか?」

 

「……もしかすると、彼は自己完結した複製である、とも考えられませんか? 厳密には“彼の意識”と“彼の肉体を担う複製”に分かれており、彼のイメージを複製体がなぞる……そのように解釈できるのではないでしょうか」

 

「なるほど。しかし、模倣して複製体を作るならまだしも……それを操る、か」

 

「操る……それは、まだ“彼”自身にも出来ていないことでしょうね。一見すると全能にも見える性質ですが、彼は全知ではありません。知能そのものは、あくまで一般的な人間の範疇に収まっています。ゆえに、完全な制御は不可能でしょう。少なくとも、今は……」

 

「彼には“自身が人間である”という設定が存在し、それが原因で全能、もとい“崇高”から遠ざかっている……そう仰りたいのですか?」

 

「いえ、必ずしもそうとは限りませんね……」

 

「もし彼が、今のような“人間としての存在”ではなく、理解の及ばない“何か”としての意識を持っていたならば……“性質”の解明は、困難を極めていたでしょう」

 

「これまでの話を総括すると、彼は法則や事象を“彼自身の感性”によって歪めた理解を行い、その結果として性質を作用させている、ということになります。この“彼の感性”こそが、何より重要なのです」

 

「“彼の感性”を理解することが、我々にとってこの性質を扱う上での鍵となる。もし彼が人でない何かへと変質していたなら、我々の理解は完全に及ばなくなっていた可能性すらあった、と言えるでしょう」

 

「他者の思考パターンを完全に把握すること自体が困難です。それが人ならざる存在であれば、なおさらでしょう。現に我々は『色彩』がどのような存在で、どのような思考を持つのかを、明確には理解できていないではありませんか」

 

「……つまり、彼が“人間である”からこそ、人の思考が及ぶ範囲で『崇高』へ至る方法を解明できる、というわけですか」

 

「そういうこった!」

 

「クックック……まさに、その通りですよ。“ゴルコンダ”、そして“デカルコマニー”も……」

 

「しかし、そういう事ならこの”性質“を扱うには彼の思考パターン完全に我々が模倣しなければならない事になる。それに人間だからと言って理解し切れるとも限らない。」

 

「その”彼“の辿り着いたものが『崇高』であったとしても誰からも理解されない上に、人間が理解したものであればそれは他人からすれば『卑俗』にしかなり得ない。理解できない考えを持っているのが神秘的な存在であれば他人からすればこれは『崇高』になり得るだろう。しかし人間であればどうなる、それは嘲られ、蔑まれるだろう。まさに『卑俗』と言える。崇高とは真反対に位置する。」

 

「理解不能な思考を持つ存在が神秘的であれば、それは『崇高』と呼ばれる。ですが、それが人間であった場合はどうなる……嘲笑され、蔑まれるだけです。結果として残るのは、『崇高』とは正反対に位置する『卑俗』でしょう」

 

「……となると。彼が“人間である”という意識そのものを捨てなければならない、ということなのでしょうか? 疑問は尽きませんね……」

 

「とりあえず……あなた方には、左腕の一部を提供しましょう。探求の一助になれば幸いです……」

 

 

 

 

 

 





「卑俗」
『崇高』の対義語
神のように理解できず神秘的な存在だからこそ『崇高』であるとされる。人の身に『崇高』を実現できた時、果たしてそれは『崇高』なのだろうか?そしてそれを神と同じ『崇高』と呼べばそれは傲慢で『卑俗』なものになるのではないだろうか?彼が人間である限りそれは浅ましいものにしかならない。

-左腕
ゲマトリアの研究において様々な影響をもたらしたのかもしれない。

ベアトリーチェは不在です。まだ彼女がゲマトリアに加入する前を想定。ベアトリーチェファンのみんなごめんね。

頑張って足りない頭を使って捻り出した設定ですがあくまで形式的なものなので理解を前提に物語が進むわけでは無いので安心してください。

ブルアカの世界観難しいし、ゲマトリアの高度な会話再現できていないと思うので違和感があったら申し訳ない.....
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