シルキー・ブランケットの魔術師録 作:シルキー・ブランケット
「カール、妙な物を連れ込んだな」
薄暗がりの部屋で、ローブに身を包んだ男が言う。神経質で、苛立ちを感じる声色だ。
「妙な物?あぁ、シルキー君かい?可愛らしいだろう。その内剥製にでもしたいものだ」
相対するカール・シャルンホルストは対照的に飄々としている。スーツ姿も手伝って、別世界の住人のようだ。
ふたりを、いくつも立てられた蝋燭の火が淡く照らす。
「とぼけたことを言うな、カール。君はまた、素質有りげな美人を抱き込んで新しい手駒にしようとしているのだろう。だがその試みがうまく行ったことがあったか?皆、気が狂ってしまったろう。憐れな娘達は人になる事も出来ずに夢に溶けていった」
「同情しているのかい?あんな者たちに」
「まさか。僕は無駄が嫌いなんだ。知ってるだろう」
煽るような物言いのカールに、男は冷たく言う。
「余計なものを入れないでくれ。あれが不穏分子になったらどうする。君は当然気付いているだろう?あれは君の魔術に抗っているぞ。屋敷から出て行かずに彷徨いている!強い自我に目覚めて我々と争うつもりになったら始末しなくてはならない。だが浮浪者を片付けるのとは訳が違うぞ」
「それはそうだろう。彼女は英国貴族だしね。正当性なく殺しでもすれば面倒になる」
「当たり前だ。英国魔術師会と戦争にでもなったら、まぁ君やアンは大丈夫だろうが、僕達は耐えられないぞ。そういう意味で、妙なものを入れてくれるなと言ったんだ」
「ジョン、少し落ち着き給えよ。私だって考え無しじゃない。勿論自分の気分を最優先にしているが、君や術師会の事だって大事にしているさ」
そう言うと、カールはグラスを並べてワインを注ぐ。
「私はね、彼女に救いを見たんだ。それが何を意味するのかはわからない。けれど、彼女に接続した時わかったのさ。彼女は確かに術師会にとって厄介な存在になるだろうが、救いでもあるんだ」
そう言うと、カールはワインを一息に飲み干した。その目はいつになくギラギラと力を宿している。ジョンは、その様子にため息をついた。
「それは君にとっての、だろう?僕らじゃない。こんな事は言いたくないが、まさか、計画の頓挫を狙っているのかい?君が立てた計画なのに」
「…どうだろうね。私は、きちんとこの世界を沈めたいと思っている。その為に抜かりなく計画は進めるとも。しかし、そんな自作自演を望んでいるのかと言われるとわからなくなる。そういう愉悦がある事は否定出来ないからね」
「やれやれだな。まぁ、計画もそれ自体博打なんだ。賭け事が一つ増えたところで…いや、やっぱり苛立つな。まぁそれは僕の問題だ。術師会は上手く動かすさ」
そう言うと、ジョンはグラスを持ち丁寧に一口飲んだ。その様子にカールは満足そうに頷く。
「あぁ、助かるよ。君を会長に据えられたのは幸運だった」
「そりゃどうも。君が世界を滅ぼす事を忘れなければ、与えられた役割くらい全うするとも。だから君も為すべきを成してくれよ」
「私の為すべきか。そうだな。取り敢えずはシルキー君を破滅させてみるとしよう。なんせ、彼女以外は滞りないのだからね」