昔書いた黒歴史小説に転生してしまった件について   作:トマトルテ

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1話:黒歴史

主人公設定

 

 名前:カイザー・フォン・ファブニール

 

 生い立ち:5歳の時に故郷を魔物の大群(後に秘密結社の仕業と分かる)に滅ぼされる。

 その際に逃げ込んだ(ほこら)(地下深く、ここ重要)に封印されていた邪竜の力を腕に宿す。

 以後は復讐の鬼となり、放浪の旅をしながら魔眼と魔剣グラムを使い魔物を殺し尽くしていた。

 その結果、人々からは畏怖の念を込めて『魔喰い(イビル・イーター)』と呼ばれるようになった。

 

 服装:全身黒尽くめの服装で、仮面をつけているが素顔はイケメン(ここ重要)。

 身長:185CMで一見細身だが、脱ぐと筋肉がムキムキである(CV:櫻井)

 

 

 

 この設定を見たとき、痛々しいと思った人は正常だ。

 もっと設定を練りこめよと思った人は、きっと将来小説家になれるだろう。

 万が一にでもカッコいいと思ってしまった君は、早く中二病から卒業することをお勧めする。

 

 そうでないなら、俺のように数奇な運命に翻弄されるかもしれないのだから。

 

 

 

 

 

「―――以上をもって、諸君達は正式にこの栄誉ある『聖グロリアス騎士学校』の生徒となる。本校の更なる栄誉のために、何より諸君達自身の栄光を掴むために今から3年間、存分に学と武を磨いていきたまえ」

 

 広い体育館の中、ひしめき合う学生の視線を一身に集めながら壇上に立つ初老の男性。

 これだけ見れば現代日本でどこでも見られる入学式と変わらないだろう。

 しかし、意識して観察してみれば違和感は幾らでも出てくる。

 

 まず、学生が身に着ける制服がおかしい。新しく煌びやかなのは目を瞑ろう。

 だが、明らかに軍服ぽいのはどうなのだ? さらに言えば色が白で目に痛い。

 ああ、だがそれも個性的な制服ですねで乗り切れる。

 日本でも出来ないことはない。だが。

 

 周りに座る同級生諸君の髪の色が異常にカラフルなのは日本いや、前世(・・)ではあり得ない。

 

「夢……ではないのだろうな」

 

 思わず言葉が漏れて、慌てて口をつぐむがかすれ声だったために誰かに気付かれた様子はない。

 そのことに安心しつつ、俺は混乱する頭の中でもう一度情報の整理を行う。

 恐らくは確定しているだろう事項は3つ。

 

 1つは俺が流行りの異世界転生とやらを果たしたということだ。

 2つ目はそれに伴い、前世の記憶が蘇ったのがこの入学式の瞬間だったということ。

 

 ああ、別にそれは良い。異世界転生しての『オレTUEEEE‼』に憧れがなかった言えば嘘になる。記憶が今になって蘇ったのは言いたいことがあるが、それだけならば、まあ目を瞑れる。そう、()()()()()()()()

 

 もっとも重要なのは3つ目だ。異世界転生した喜びも薄れる衝撃の事実だ。

 俺は乾いた笑いを浮かべながら『聖グロリアス騎士学校』という名前。

 そして、目の前の校長と自分自身の身体を見てを頭の中で繰り返す。

 

(これ、俺が中二の時に作った小説の設定じゃん……)

 

 3つ目。どうやら俺の転生先は中二病真っ最中のときに作った小説だったらしい。

 そして、俺は当然と言うべきかその小説の主人公だ。

 思わず頭を抱えたくなってしまうが、文字通り全校生徒の目があるのでそれはできない。

 

「―――では、諸君達の健闘を祈っている。以上」

 

 そんなことを考えているうちに校長の話が終わり、教師に指示された生徒達がぞろぞろと退出していく。俺はその流れにボンヤリとした頭で乗りつつ、改めて校長に目をやる。先程までは、ただの初老の男性と言い表していたが訂正する。

 

 聖グロリアス騎士学校校長、エドワード・グランツェル。

 鷹のような眼光に、熊の如き体躯。髪と顔は獅子と見間違うほど。

 そんな、どう見ても学校の校長には見えないこいつは。

 俺の故郷を滅ぼす原因を作った秘密結社のボスという設定だ。

 

(そして俺はそれを知り、復讐するためにこの学校に入学したという設定だったはずだ)

 

 自分が作ったキャラが目の前にいるという事実に、ちょっとした感慨を感じるがその前に過去の自分に言いたいことがある。

 

(普通に暗殺しろよ。なんでわざわざ学校に入学してるんだ?)

 

 復讐するのに入学する必要なくね? という点である。

 え? そうしないと物語が始まらないからダメ?

 そんな下らない理由で俺を巻き込むなと言いたいが、過去の俺の過ちなので誰も責められないジレンマ。

 

「そこ! ボサッとしてると置いて行かれるわよ」

「む、すまない。すぐに動こう」

「分かってるなら早く……いや、わ、分かったならいいわよ」

 

 そんなことを考えていると、ちょっとツンデレっぽい金髪の女の子にせかされる。

 普通に自分が悪いので、素直に謝ると顔を逸らされてしまう。

 一見するとイケメンスマイルで、フラグを建てたように見えるかもしれないがそれは大きな間違いだ。

 

 俺が中二オリキャラに転生したことに頭を抱えたくなった理由。

 何より一発で、これが中二キャラと理解した理由。

 

(なんで俺は学生のくせに仮面を被ってるんだよ!?)

 

 顔を隠すために、何故か某赤い彗星みたいな仮面を被っているからだ。しかも黒一色。

 

(ああ、復讐するために顔がバレないために変装するのはわかる。でも、なんで仮面なんだ! どう考えても怪しいだろう! 仮に正体がバレなくても怪しまれたら意味ないだろうがぁッ!? というか、教師も仮面取るように注意しろよ! 何普通に入学式に参加させてんだよ!? これがガチもんの不信者なら学校責任だぞ!?)

 

 穴があったら入りたい。というか、そのまま埋めて墓にしてしまいたい。

 そりゃあ、金髪の女の子も顔逸らすわ。どう見ても不審者だもの。

 俺だったら即通報してるよ。

 

(しかも左腕には、これ見よがしに包帯を巻いてるし…! 邪竜の封印? せめて手袋とか嵌めて隠す努力ぐらいしろよ!)

 

 おまけに二重の意味で痛々しい包帯装備だ。

 おかげで不審者感が倍プッシュされて、同級生達との距離が物理的に離れていく。

 よもや、自己紹介すら終わってないうちに、避けられるようになるとは思っていなかったよ。

 

(マズい……このままだとボッチ飯どころか、追放コースだ。何とか…何とか、この格好にちゃんとした理由を持たせないとダメだ)

 

 カッコいいからという理由で、無茶苦茶なファッションにしてしまった過去の俺を呪いつつ、俺は教室へと歩みを進めて行く。校舎のガラスが最高にイカす仮面(笑)を映すたびに死にたくなってくるが、今更取るわけにはいかない。

 

 何故なら、今ここで外してしまうと本当にただイタイだけの人間になってしまうからだ。

 もしくは高校デビューを狙おうとしてだだ滑りをしてしまった奴。

 あくまでも正当な理由、なおかつツッコミを入れられ辛い理由だ。

 

 ゆっくりと仮面を外しながら『この顔に見覚えはないか?』とかやりたかった過去の自分を呪いつつ、俺は高速で頭を回転させていく。

 

 大丈夫。時間はまだあるはずだ。まずは席について落ち着くんだ。

 自己紹介の際に軽く説明すれば、誤解は解ける。

 それに俺の苗字は渡辺。どう足掻いても自己紹介で最初になることは――

 

「では、全員揃いましたね? それじゃあ、早速で悪いですが自己紹介と行きましょう。出席番号順で行きますので、最初はアイゼン・ミュラーさんからです」

 

 アイゼン・ミュラーからか。

 はて……どこかで聞いたことのある名前のような。

 

「あのー……アイゼンさん? 聞こえてますか?」

 

 どういう訳か、俺の方を見ながら声を出す女教師(巨乳)。

 どういうことだろうか、俺の名前は……あ!

 

「……今、行く」

 

 そうだった。主人公(おれ)の偽名がアイゼン・ミュラーだった!

 くそ! 本名はカイザー・フォン・ファブニールという、若干後ろにずれ込む名前だったのに!

 名前の由来? ドイツ語ってカッコいいよねって理由だけだよ!

 

「それでは、自己紹介をお願いします、アイゼンさん」

 

 考えろ、考えろ! 俺!

 IQ300なんて無駄な設定を作ってるんだから、それぐらい頭が回るだろ。

 回れ! 自称、黄金の脳回路!

 

「アイゼン・ミュラーだ……よろしく頼む」

 

 ダメだった。

 側はともかく、中身が俺じゃあ、クールな感じで名前言うだけで精一杯だったよ……。

 

「あ、えっと……他には…?」

「…………」

 

 先生が何とか、間を取り持とうとするが俺にはもう何もできない。

 陰キャらしく、無言で自分の席に戻ろうとする、が。

 

「はいはーい! 質問でーす! その仮面はどうしてつけてるんですか?」

 

 質問コーナーなど開いた覚えもないのに、追撃が来る。

 元気な声で最悪の行動を取ってくれやがったのは、誰だと仮面の中から睨むと、ショートカットに緑の髪の女の子が元気に挙手していた。

 

 手に持つメモ帳や、首からぶら下げるカメラから見て新聞部で間違いないだろう。

 ……おかしいな。入学式になんで、既に部活に入ってるんだ?

 いや、もしかするとこの学校は服装に関してはかなり自由なのでは?

 と、すると、この仮面もそういったお洒落で押し通せる可能性が!?

 

「ファッションだ」

「そ、そうなんだ……」

 

 畜生、ドン引きされたよ。

 中二の頃の俺に加えて、殴りたい過去の俺ランキングの上位に来たわ。

 もう、後はどうにでもなれ。

 

 そう現実逃避を行いながら、自分の席に戻る。

 これからヒロインの自己紹介があったと思うが、もはやまともに聞く余裕はない。

 ただただ、時間が過ぎ去っていくのを待つだけである。

 

 そうすれば、今日は終わる……いや、待てよ?

 何か、イベントがまだあったような。

 

「先生! 校庭にドラゴンがいます!」

「ドラゴンが何でこんな所に!?」

 

 すいません。俺のせいです。

 俺が主人公(笑)の活躍シーンのためにぶっこんだからです。

 そのせいで、校庭に犬が居るみたいなノリでドラゴンが来てしまいました。

 

「……俺が出よう」

「アイゼンさん!? 何を言って、あなた達生徒は避難をして――」

 

 教師が何か言っているが、俺は無視をして窓から校庭に飛び降りる。

 正直、針の筵状態の教室から一秒でも早く抜け出たかったのだ。

 というか、飛び降りたら死んで前世に戻れたりしないだろうか?

 

「懐かしいな……」

 

 俺の意思とは反対に、完璧に着地を決めた体を起こして、ドラゴンを見上げる。

 

「お前には悪いが……死んでもらうぞ」

 

 ドラゴンとはビールである。

 何を言っているのかと思うが、創作初心者が敵に困った時に出すのは8割でドラゴンである。

 取りあえず生みたいな感じで、取りあえずドラゴンだ。

 

 なんで、こんな所にいるとかの整合性は考えずにドラゴン。

 強くてカッコイイドラゴンを倒す主人公は、さらに強くてカッコイイというアピールに使われる。

 漫画で巨漢の男が小柄な主人公に負けるのと同じ理由である。

 

「グラム。魔を屠る龍殺しの剣よ、我が血を啜りその真の力を解放せよ」

 

 そして、俺の考えたカッコいい台詞を言いながら剣を取り出す。

 ついでに、軽く自分の腕を切って血を魔剣グラムに吸わせる。

 なんで、こんなダサい言葉を言わないと取り出せないようにしたんだ、俺は。

 

 というか、取り出す度に一々腕切らないといけないとか痛いだけなんだけど?

 誰だよ、こんな使いづらい設定にした奴。俺だよ。

 

「グルルル…!」

「ほぉ、畜生風情でもこれが何か分かるか?」

 

 そして、竜殺しにビビるドラゴンに向かってこのセリフである。

 実はこの主人公(笑)には、戦闘になると二重人格が目覚めて好戦的になる設定があるのだ。

 死にたい。

 

「逃げても構わんぞ? もっとも、逃げられるとは思わないことだな。この魔喰い(イビル・イーター)から」

 

 言っちゃったよ。

 わざわざ仮面まで被ってるのに、自分で正体言っちゃったよ、こいつ。

 マジで二重人格みたいに、勝手に口が動くな。

 

「ギャオオオッ!」

「来るか。いいだろう、その蛮勇に敬意を示し、この―――カイザー・フォン・ファブニールの全力を見せてやろう」

 

 はい、名前も言いました。

 偽名を使って僅か数分後に本名言いました。

 こいつ、復讐する気ホントはないだろ?

 

 カッコよく宙を舞い、ドラゴンへ大剣を振り下ろす俺の姿はなるほど、カッコいいかもしれない。これを無言でやってくれていれば、俺もまだ希望を持てたかもしれない。だが。

 

 

「Der böse Drache verliert seine Flügel und fällt auf die Erde」

 

 

 唐突なドイツ語でのキメ台詞である。

 因みに日本語訳は『邪悪なる龍は翼をもがれ、地に落ちる』だ。

 いや、ルビぐらい触れよ。え? やり方を知らなかった?

 ……そういや、そうだった。

 

「あのドラゴンを一撃で倒すなんて……一体何者?」

「フン」

 

 そして、ヒロインぽい子からの主人公上げ。

 いや、さっき異名も名前も全部言ってたじゃん。

 難聴系主人公じゃなくて、難聴系ヒロインなの?

 

「ちょっと、そこのあなた! あのドラゴンは私が倒すつもりだったのよ!」

 

 そんなことを考えていると、現れる金髪ドリルの如何にも高飛車な女の子。

 このワガママお嬢様っぽい雰囲気から行くと、次のイベントは。

 

「……誰が倒そうが同じだ」

「いいえ、私が倒してこの学園で誰が最強かを証明するつもりだったのに……こうなったら決闘よ!」

「いいだろう」

 

 そう、決闘である。

 太古の時代より、プロローグが終わったら取りあえず決闘を行うのが異世界転生の習わしだ。

 流れるように、決闘の約束が取り付けられ、金髪ドリルはプリプリ怒ったまま立ち去っていく。

 

「さて、これからどうするか……」

 

 そのことに、諦観の念を抱きながら、俺は今後どうするべきか考える。

 これが2次創作なら原作の知識だよりに動くのだが、これは俺の黒歴史(オリジナル)だ。

 当然、俺以外に未来を知る者はいない。

 

 いや、正確にはそれも不正解か。

 この世界の未来を知る者は誰も居ない。

 何故なら、この小説は―――

 

 

 

「この先の展開……考えてないんだよな」

 

 

 

 ―――1話だけ投稿して、エタったからだ。

 




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