癒し手の殴り拳   作:熾天使チュリン

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 別作がスランプ気味だから書いた殴り書きにあったけぇ感想もらったので彼のためにもう少し書こうと思った今日この頃。


《死屍累々》

 

 

 

 ゼブルディア帝国は大国である。かつて現存した神の一柱の神殿跡に首都を置くそこは、大陸でも屈指の列強として名を馳せた大帝国だ。その国を知らぬ者はいないとさえ言われ、今あるトレジャーハンター黄金時代の礎と人を言う。

 

 帝都ゼブルディアはトレジャーハンターの聖地である。かつて神殿型宝物殿が存在したほどにマナ・マテリアルが濃いため、帝都周辺には強力な宝物殿も多い。濃いマナ・マテリアルを大量に吸えるということはそれだけ宝物殿を攻略するハンターの能力も増大する。

 

 それゆえの聖地。だがそれは全てが良い方向へと進むわけではない。当然、悪しき方向へと進むこともある。それは治安の問題であったり、個々の犯罪が強力で凶悪になったりと、ハンターの力が強まればそれだけ多くのリスクを孕む。

 なまじ強い影響力を持つ帝国を狙う裏勢力は少なくない。秘密結社、犯罪組織、レッドハンターなどには、多くの宝具と強い人材を内包する帝国は狙うだけの価値があるのだ。

 

 

 時代の象徴、正義の光。光が強くなれば、影もまた濃くなる。ハンターが力をつけると同時に犯罪者もまた力を増しているのである。

 ただし、それは正義と悪が拮抗することを意味しない。

 

 

「このッ! 化け物がァ!!」

 

 ゼブルディア帝国が治める巨大な領土に収まるとある都市に、一つの巨大なビルがあった。そこは表向きは巨大な商会の総拠点となっていたが、その実、犯罪組織が絡む巨大な闇勢力の市場、つまりアンダーグラウンドであった。

 

 名だたるA級首の組織がそこを介して違法薬物に人身売買、闇事業の展開や斡旋を行っていた。ゼブルディア帝国という巨大で強力な国で活動するのならばここの助けは大きな力になる。それゆえの重要度のため、ここの情報は弾き者の間でも滅多に話題は上がらない。

 

「出来る限り情報は燃やしてから逃げろッ! 品はいいッ! そこまで重要じゃないッ!」

 

 口を割る者がいなければ誰でも場所を特定することは困難だ。この国に歴史あれど、情報というのは未だに宝具頼りなのが常である。だが情報を聞き出す宝具はごく一部の高度魔道文明産の宝具か、高度物理文明産の宝具で希少だ。

 

 ゆえに、未だに任意の情報を聞き出す宝具は無い。

 

 だから()は口を割る奴が出るまで組織を潰した。

 

「ここって……なんかの商会だったっけ? …うーん、まあ良いか」

 

 彼の何気なしに薙いだ腕は音速を超えた。真空波(ショックウェーブ)が立ちはだかる人、構造物、魔物を全て木っ端微塵にする。

 轟音と振動が辺りを包む。ゼブルディアでも有数とされる大商会の拠点ビルはそれだけで機能のほとんどが破壊された。

 

()だッ! 奴が来たッ!!」

 

 赤黒い。その存在を表すのにそれ以外は要らなかった。圧倒的で暴力的なその存在感はその場の存在を圧倒する。

 その体躯は普通の男性より小さいが、その身に宿るマナ・マテリアルの量は尋常ではない。

 

「はぁ…俺のことを知ってるの?」

「…その存在感、特徴的な血潮の髪、なによりその()()()。お前は……お前が《死屍累々》だなッ!!」

「………モグリがぁッ! その二つ名は嫌だって散々言ったのに、言ったやつから殺すって言ってるのに、まだまだまだまだこの帝国で俺をそう呼ぶ奴がいるッ!!」

 

 荒ぶる者。彼は酷く怒り、嘆く。地団駄を踏む足が鋼鉄の床を砕く。その力は高レベルハンター特有の現象だ。線の細い者であれどその身に秘めた力は超人を軽々と超える。

 

 血走る眼。手には得物は無いが、先ほどの振るわれた腕の末路を知っている者からすれば、その腕を一挙手一投足見逃すことは死を意味するだろう。目の前の少年にも思える彼は悍ましい怨嗟の声を上げる。

 

「俺は、栄光を掴みし《嘆きの亡霊(ストレンジ・グリーフ)》の治癒術師(ライター)、《不死》のロキス・ロングウィットン!! 《死屍累々》なんてのが正式な二つ名になってはいるが、こんなペナルティネーム…正義を知らない机上の者達が勝手につけたんだッ!! 俺を定義して良いのは、クライだけなのにィッ!!!」

 

「な、なんだこいつ…!」

 

 ビルに展開された護衛がその圧力に怯む。彼らは強かな者、悪しき者、その他清濁の全てを見てきたが、正真正銘頭がおかしい気狂いを見るのは初めてだった。

 

 だが彼らとて裏を構成するアンダーグラウンドの一員。修羅場は幾度となく乗り越えてきた。マナ・マテリアルも常人以上に吸っているし、これまで培われてきた経験がある。護衛はなんとか持ち堪えた。

 

「俺はッ! クライから滅んで欲しい組織を教えてもらっただけなんだッ!! その全てが悪、悪、悪!! やっぱりクライだけが俺を肯定してくれる…! クライだけが俺を必要としてくれる!!」

「狂ってる!」

「黙れッ! 俺を貶す言葉を平然と本人の前で言いやがって…頭おかしいんじゃないのかッ!?」

「なッ…!」

 

 お前がそれを言うなッ!その場にいた者全ての人がそう思った。だがロキスはお構いなしだ。感情のままに腕を振るう。放たれた真空波はそこらの刃物よりよほど鋭利に直線上を切り刻んだ。

 護衛も身体をバラバラにされる。人の命は呆気なく散らされた。

 

 ロキスは用紙を取り出す。それは彼のパーティメンバーである錬金術師(アルケミスト)が作った犯罪者リストである。8束はある。彼はそれに目を通して言った。

 

「アカシャァ!! ヒノアラスゥ!! ヘルゲートォ!! とりあえずテメェら全員皆殺しだからなァ!?」

 

 

 ハンターの聖地、帝都ゼブルディアを拠点とするトレジャーハンターパーティ《嘆きの亡霊》。彼らは構成メンバー全員が《二つ名》を持つという特質的なパーティである。苛烈にして凶悪。勇名よりも悪名が目立つという異質でもあるパーティに一際ズレた者がいた。

 

 彼はトレジャーハンターとしての冒険の功績ではなく、犯罪組織、秘密結社を潰して回った逸話からその名が付けられた。宝ではなく犯罪者の死体を持ち帰り、彼が通った後には死体しか残らない。

 

 《死屍累々》ロキス・ロングウィットン。珍しい()()にして、その種族に見合わない治癒の異能を持つ治癒術師(ライター)。一夜にして帝都を血塗れにし治安を大いに乱したことで付いたその二つ名は《嘆きの亡霊》を象徴するものとなった。

 

 ××××

 

「うん、今日もいい天気だ」

 

 お昼下がり、照らされた日差しの中、クランマスター室の椅子に座り、揺蕩う。今日は何も用事がない。こんな日はだらだらするに限るな。

 

 リィズやルーク達《嘆きの亡霊》メンバーはみんな【万魔の城(ナイト・パレス)】に行っちゃったし、エリザはこないだ限りで見ていない。ロキスは…まあ何も連絡がないから大丈夫だろう。

 

 軽く伸びをする。そろそろ【スカウト】の時期か…。嫌だなぁ。クランマスターってだけで行かないといけないものだろうか。しかしクラマスの仕事のほとんどをエヴァに任せている手前、今更ながらに放棄も言い出せない。

 

 そんなことを考えているとき、クランマスター室の扉がノックされる。エヴァだ。エヴァは足早に部屋に入ると顔を青く染めながら僕に言った。

 

「クライさんッ! またロキスさんがやらかしましたッ!!」

「……うんうん、そうだね」

「!? ッうんうんじゃないですよッ!」

 

 そうだね、ゲロ吐きそう。さっきの今でこれだよ。問題を起こすんじゃないよ…怒られるの僕なんだよ…。なぜこうして僕の元にやらかしの連絡が届くのかというと、ロキスというのは僕のパーティのメンバーだからだ。

 

 《死屍累々》ロキス・ロングウィットン。レベル7ハンターの治癒術師。何故かダメダメな僕に特大の崇拝のようなものを向けてくるちょっと変わった子だ。

 

 根が素直で幼馴染達よりも血の気が少ないので、彼が問題を起こすとは思えないが、一番問題を持ってくるのはロキスなのだった。

 

 何故かはわからないが、他のクランメンバーはウンウンと何度も納得のいく顔で頷いていたからどうやら僕の知らないところで色々やっているのだろう。

 

「それで? 今度は何をやっちゃったの?」

「なんでも、帝都を少し西に行ったところにある都市で大商会の拠点ビルを…木っ端微塵にしたそうです」

「それは……やばいね」

 

 やばい。あれ、やばくね? 木っ端微塵って、やばくね?

 どうやらロキスはとんでもないことをやってしまったらしい。僕の正面でエヴァは顔を青ざめさせながら戯言を呟いている。やばい、エヴァが壊れる。

 

「で、でも、もしかしたら何か勘違いってことはないかな…?」

「あるわけないでしょう! 告発文にはロキスさんが大商会のビルに乗り込み、クライさんの指示だなどと叫びながらビルを破壊したと書かれてありますッ!」

「まじか……逃げないと」

「!?」

 

 僕はやるぞ。こうなったときの運の無さは経験則だ。それにロキスは普通に法に触れている。まずいぞ…今は《嘆きの亡霊》はいないし、ここぞというときのアークは国の味方をするだろう。

 

 パーティがレッドの危機だが、それでも僕はメンバーの手を取る。だがどうしたものか、肝心のロキスは今どこにいるのか分からないらしい。他のメンバーもいないし、エリザは相変わらず迷子だ。

 

 とらあえず、件の都市に行こう。ロキスを回収しないと…。

 

「クライさんッ!? もしかして本当にクライさんがそのような指示をしたんですか!?」

「そんな、僕じゃないよ!? 僕にはその商会を爆破する理由がないよ!」

「じゃあなんで逃げなきゃって言ったんですか!」

 

 ごもっともである。しかしちょっとばかし僕は帝国関係者から良い感情を向けられていないのだ。だからここに調査員がやって来る前に逃げなければならないのだ。

 

 距離で言えば【万魔の城(ナイト・パレス)】の方が遠い。だから《嘆きの亡霊》を拾うのは後回しになるが、レベル8宝物殿に入ってこれる調査員はいないだろう。

 

 まずはロキスと合流しないと……。

 

 そんな折、ドスドスと重たい振動が部屋に伝わって来る。そしてコンコンコンとクランマスター室にノックが響く。

 

「どうやら……時間切れみたいだな」

「おい、クライ! お前に話があるッ!」

 

 どうやらガークさんのようだ。いつもはアポを取るのに…。彼はそのままズカズカと入ってきて僕の目の前で止まる。その顔には複雑な表情を貼り付けていた。鍛え上げられた筋肉がピクピクと脈動していた。

 どうやら怒りよりも困惑の方が大きいようだ。殴り殺される心配はないだろう。

 

「やあ、ガークさん」

「やあ、じゃないッ!! またお前んとこの頭のおかしい治癒術師が、頭のおかしい事件を起こしたんだぞッ!!」

「ま、まあまあ落ち着いて……」

「ッ!? なんでお前はそんなに落ち着いてやがる!? またお前の作戦か何かか!?」

「…!? なんのこと?」

 

 また何か勘違いをしている。彼らは僕がレベル8であるからと何かと深読みしたがるのだ。実力も無しに上がったレベルの弊害である。

 

 半端な笑みを浮かべていると、ガークさんが何かを堪えるように言った。

 

 

「クライ………ちょっと支部長室に来いッ!」

 

 

 

 

 

 

 

「え、今忙しい」

「ッ!?」

 

 ちょっと今はロキスを一刻も早く迎えに行かないと…。というかそもそも僕はーーー何も関与していない。

 

 何もしていないのに責められる謂れが無いので堂々としておく。責められ続けた僕が辿り着いた境地である。悪く無いときに謝ると、誤解を生むのだ。

 そんな僕を見てガークさんの顔がみるみる赤くなっていく。あれ……もしかしてまずい?

 

「クライ…ッ!! 遊びで商会は潰しちゃならねぇんだぞッ!!」

「…? 遊んでないけど…」

「遊んでなくても、だ!!」

 

 ガークさんは明らかに怒り心頭だ。何か誤解があるな…。実力も無しにレベルが上がった弊害である(二度目)。

 

 土下座が必要か?必要なのか?ガークさんがこのような時は結構まずいことが起きているのだと知っている。それにここまで僕が責められ続けると、なんだか僕も悪いことをしたように感じてしまう。

 

 トレジャーハンターとは総じて我が強い。僕みたいなほぼ一般人は例外としても、ガークさんは元レベル7の一流ハンターだったのだ。その相手にここまで確信を持って動かれるともう手の打ちようが無いのである。

 

 と、ここまでの会話を聞いたエヴァが口を開く。

 

「ガーク支部長。この件に関しては我々も先ほど情報が入ってきた次第で、まだ状況の把握ができていないのです。それに……ロキスさんはアレでもパーティの評判には気を遣っています。考え無しに商会を破壊したなどと考えられません」

「いや、アイツならやりかねん。なんたってアイツは帝都屈指のクライ狂いだ。情報が曖昧なレベル8ハンターの悪口を聞いて抑えがつかなくなったと言われても俺は信じるぞ」

 

 そうガークさんに言われてエヴァが黙り込む。

 

 エヴァも予想がついたらしい。一体ロキスは僕のいないところで何をやってしまったのでしょう……。

 

 エヴァが黙ってしまったが、僕はパーティリーダーとしてロキスを擁護しなければならない。かつてシトリーが冤罪によってペナルティを受けてしまった時から、僕はこれ以上メンバーのみんなが冤罪でペナルティを受けないようにという配慮をしようと心に決めているのだ。

 

 それにーーーロキス関連で擁護するのは初めてじゃない。

 

「で、でも…ロキスは僕の指示で建物を破壊したんでしょ? 僕はそんな指示出してないけど、もしかしたら情報伝達がうまくいかなかったのかも知れないな」

「おい……じゃあロキスの罪って部分は認めるのか?」

 

 ガークさんはそう言って僕の方を睨む。元高レベルハンターの睨みは僕の背筋に冷たいものが走るくらいに怖いが、そんなことで愚痴を言ってられる場合ではなかった。

 

 それに僕はロキスを信じている。あの根が素直で、他のメンバーより血の気が少ないロキスが、まさか商会を襲うなんてありえない。きっと商会がロキスを襲ったんだ。まさか商会が犯罪組織ってことは無いだ……いや、あり得る。ロキスは基本、犯罪組織しか狙わない。僕のことを攻撃してきた犯罪組織をよく攻撃するので多分そうだ。

 

 今日の僕はーー冴えてる。おそらくロキスは悪いことはやっていない。でもこの状況は、僕にとって都合が良いかもしれない…。

 

 僕はそう思い直し、ニヒルな笑みを浮かべて言った。

 

 

「まさか。ロキスがそんなことするはずがないよ。もしロキスが商会を襲ったのが事実なら………僕はトレジャーハンターを引退するよ。賭けてもいい」

 

 きっと引退はできないだろうけど、言っても下がらない僕の評判を地に落とすのだ。

 

 

 

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