癒し手の殴り拳   作:熾天使チュリン

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さらに3人から感想もらった。これは……モテ期ですか?



訪問

 

 

 

「クライさん。私は基本、クラン業務を仕事にしています」

「…? うん?」

「何度もクライさんの作戦を支えようと奮起していますが、私に予知能力なんてありませんし、以心伝心といくわけではありません」

「…?」

「私に手伝えることはありませんか?」

「……手伝うも何も、僕は何もしてないよ。ロキスと連絡取ったのも結構前だし、犯罪組織潰してなんて言ってもないし…」

「…はぁ」

 

 僕は報告を受けたその日から件の都市に行くために、エヴァと馬車に揺らされていた。パカパカという規則的な足跡に眠たくなる。

 普段は事件が起きてもついてきたりしないエヴァだが、今日はついてくるらしい。なんでも商会が絡むというのはそれだけでリスクを伴うものなのだとか。

 

 エヴァ・レンフィードは商人気質である。僕なんかは商人と聞くと膨よかな中年が揉み手をしている姿が思い浮かぶが、彼女にはそのような相手を懐柔しようという雰囲気は全く感じられない。

 

 だが僕の知らない内に多くのところからコネを作っては情報網を敷くその姿には切れ者きっての狡猾さが滲み出ていた。彼女がいなければクラン創設からここに至るまでの道のりはもっと長くなっていたことだろう。そして僕はもっとガークさんのお叱りを受けていただろう。

 

 まさに副クランマスターに相応しい人材である。

 

「いやー、エヴァにはいつも助けられてばっかだよ。今日もエヴァがついて来てくれなかったら、行くの延期してたかも」

「それは………本当にやめてください。クランの危機ですよ」

 

 エヴァは真面目だ。故に安心感がある。たまに僕のお世話もしてくれる。頭が良くて真面目だなんて……今日のことはエヴァがなんとかしてくれるだろう。よし、なんか元気湧いてきたぞ。顔を合わせたらあとは全部任せよう。

 

 そんな決意を固める僕を横から見ていた少女が口を開く。

 

「あ、あの…ますたぁ。私はどうして連れてこられたんでしょう…か」

 

 ティノ・シェイド。レベル4のハンターで幼馴染(リィズ)の弟子。つまり怪物一歩手前の子だ。なぜ彼女がいるのかというと、まあ端的に言えば護衛である。

 

 僕の経験則からして、僕が都市に行くということはつまり、盗賊が出るということである。そして盗賊が出るということは護衛が必要。今回はエヴァがいるので護衛は絶対に必要だ(いなくても絶対必要)。だから色んな人に声かけたんだけど…ついて来てくれたのはティノだけだったのである。

 

「おでかけって、ロキスお兄様系列の……犯罪組織………千の試練…」

「…クライさん。ティノさんが青い顔してますけど、大丈夫なんですか?」

「ああ、まあ大丈夫でしょ」

 

 暗い顔をするティノを心配するエヴァであったが、僕としてはリィズといる時のティノの方が顔が青く染まっていたため、大丈夫だという確信があった。

 

 ティノはいつもリィズやシトリーに振り回されて大変な思いをしている。だから僕としてはこのまま西の都市でエヴァに仕事を押し付けた後、甘味探しに町に繰り出そうと思っているのだが、そこにティノも連れて行こうと思うのだ。幼馴染がキツく当たってごめんね。

 

 だから大丈夫だよティノ。酷いことは起こらないから。

 

「ティノ、ついて仕事が終わったら甘味探しでもしようか」

「甘味…探しですか」

「うんうん。だってティノ甘いもの好きでしょ? 僕はティノに楽しんでほしいからね」

「犯罪組織…探し…?」

 

 ティノはそう言って俯いてしまった。エヴァがとても懐疑的な目でこちらを見てくる。なんでだよ。甘味探しで何を想像したんだよ。甘いものだよ。

 

 ティノの悪い癖だ。リィズに毎日扱かれているせいか、時折こんなふうにネガティブになってしまうのだ。普段からネガティブというわけでもないためあまり気にしていなかったが、後輩のメンタルケアというのも大切な先輩の仕事である。

 

 青くなったティノの頭をよしよしと撫でていると、懐疑的にこちらを見ていたエヴァがこう言った。

 

「クライさん……何か企んでいることがあるのだと思います。ですが今回の件は非常にリスクが高いです。最低でもロキスさんもレベル降格は避けられないでしょう。ですからくれぐれも…くれぐれもッ! 大商会を敵に回すようなことはやめて下さいね。クランの提携先にも影響がありますから」

「…心に留めておくよ」

 

 それはロキスに言ってよ…。

 

 

 

---

 

 

 

「君が、かの高名な《千変万化》かね。お噂はかねがね聞いているよ。なんでもその眼は未来を見通し、帝国全土に情報網を敷く稀代の策略家にして…神算鬼謀。そして頭がおかしい…とね」

「あ、どうも」

 

 馬車に揺られること3時間。僕たちは日も暮れた頃に目的の都市、ハーリユにたどり着いた。盗賊は結局出なかった。珍しいことでもあるものである。

 そして都市に着いたと同時に、待ち構えていたであろう商会の使者に連行…いや呼ばれて、気付けば都市の一角に構える武器屋にいた。

 

 その男は、自身をシェーン商会の会長であると言った。名は…ヴェルヌ…クテ…? ヴェルさんだ。名前は長すぎてもう忘れてきた。

 

「それで…? わざわざこちらが名乗ったのだぞ?」

「…? ありがとう?」

「違うわ戯けめッ! 名乗り返せ! 礼儀だろうッ!!」

 

 ジトジトと嫌な目でこちらを見ていたヴェルさんがその目をカッ開いて憤る。えぇ……ここって公的な場なの? 礼儀とか知らないんだけど。

 

 思わずエヴァを見る。エヴァはこちらを見ながら口をぱくぱくさせていた。なるほど…こちらも名乗り返すのがセオリーのようだ。

 

「えー、僕を知っているようですが念の為…自己紹介をしましょう。僕は不肖ながら《嘆きの亡霊(ストレンジ・グリーフ)》のリーダーをさせてもらっているクライ・アンドリヒといいます。…あ、こっちはエヴァ。エヴァ・レンフィード。僕がマスターを務めるクランの副マスターをやってもらってるよ」

「!? クライさん! 馴れ馴れしくなってます!」

「いや、思ったんだけど……商人って別にハンターより偉いってわけじゃなくない?」

「クライさん!?」

 

 エヴァがそう言うがもう遅い。ヴェルさんは顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいた。

 何故こうも商人や貴族というのは礼儀を重視するのだろうか。僕なんか帝国の調査員に散々痛くない腹を探られてきたというのに何も怒りなんて湧かなかったぞ…。

 

 だが、まずいな…。そう言えばこの人の商会を破壊したのがうちのロキスだった。これは確かに不躾にも程がある。甘味探しで頭がいっぱいで上の空だった。怒ってる……これは、アレの出番か…?

 

「まさか…我が商会の本社を破壊するだけに飽き足らず、謝意も、誠意も……当事者意識も無いとはな…ッ!!」

 

 これは……出番だな。

 

「…すぅ………僕のパーティメンバーがすみませんッでしたァ!!」

「!? な、なにを…している…ッ!?」

 

 僕は誠心誠意、真心込めて土下座をした。僕の身体は流れるようなフォームを描いて頭を床に擦り付ける。

 

 フッ、決まった。どうだ、この見事なまでに情けない姿は。最高なまでに最低だ(主に頭が)。おそらくここまで美しい土下座を繰り出すレベル8ハンターは僕しかいないだろう。

 

 レベル8ハンターという英雄が土下座をしたのを見て、僕の前にいるヴェルさんも顔をポカーンとしている。当然だ。普通のハンターならレベル関係なく土下座なんてそうそうしない。舐められるからだ。

 

 だが僕はそんなモノ気にしない。名誉とかいらないし、名誉一つでこの場が収まるのならば僕は土下座を選ぶだろう。

 

 言わばこれはーーー僕の専売特許だ。僕は土下座のプロだ。土下座スキルだけはレベル8であることを自負できる。

 ハンター特有の強力なオーラもない僕はさぞ………滑稽に映るだろう。

 

「土下座です」

「なぜ…土下座している…?」

「許して欲しいからです」

「……」

 

 ヴェルさんは絶句していた。まあそうだろう。最近はガークさんにしか土下座していなかったから忘れそうになるが、僕の土下座はそれなりに有用だ。かつて神の使いにすら通用した土下座である。

 

 ふと、横を見ると、エヴァも絶句していた。そう言えばいつも探協で土下座しているからエヴァは見たことが無かったかもしれない。

 いや、たとえ見たことがあったとしても、エヴァからすると一大事なのかもしれない。これからはクランでもしよう。

 

 ヴェルさんは僕を忌々しげに見ながら言う。

 

「…なかなか、頭が回る。レベル8ハンターに土下座をさせたとなれば……こちらも譲歩せざるを得ない」

 

 やはり土下座は万能なのではないだろうか。僕の土下座にここまでの価値があったとは…レベルを上げておいて良かった。基本的に役立たずの僕とそのレベルが役に立つ日が来るとは思わなかった。

 

 なんだよ、商人といってもこんなに優しいではないか。海千山千の猛者にも人の心というのがあるんだね。

 

 そう内心ホッとしているとヴェルさんが少し不安そうな、複雑そうな顔をして言った。

 

「だが一つ、貴様に依頼をしたい」

「えっ……………なんでしょう?」

「なんだ今の間は。……まあ良い。これは極秘の依頼だ……実は先の騒動でお嬢様………我が商会の前会長の娘が行方不明となってしまってね。我々も必死に探しているんだが手詰まりなんだ。そこで貴様には前会長の娘の探して欲しいのだ。もちろん譲歩はそのための対価だ。もし見つけられなければ、貴様は当然……晒し首だ」

「え、嫌だ」

「当たり前だ。もとは《死屍累々》が我が商会を襲ったことが発端なのだからな。あの爆破に巻き込まれていなければいいのだが………ん?」

「え、クライさん?」

 

 え、無理。いくら僕がレベル8といってもできることとできないことがある。僕は人探しはもっぱら苦手なのだ。僕はエリザを自力で見つけ出したことはないし、前会長の娘とやらに会ったこともない。人探しの宝具は持ってないし、そもそも僕の能力は一般人以下なのである。

 

 あと普通にめんどうだ。そもそも人探しはトレジャーハンターなら誰でも避けるような依頼である。拘束時間の割に報酬が見合っていないし、でも労力は無駄に消費するのが人探しなのだ。

 

 あー、だらだらしたい。

 

 とそこまで考えて、ふと本能的な何かが僕に警鐘を鳴らした。前を見てみればそこにはゴミを見るような目でこちらを見下すヴェルさんの姿が。そこで気づく。

 

 しまった…。つい条件反射で本音を言ってしまった……。

 

「ごめん! 今のなしッ!」

「よし、貴様は晒し首だ」

 

 そう言ってヴェルさんは武器屋から出て行ってしまった。やばい。処刑される。

 

 

 

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