癒し手の殴り拳   作:熾天使チュリン

4 / 16
まさか評価数5を超えるとは思わなかった…。なんなら10を超えた…

なってしまう…承認欲求モンスターにィ! 高評価!高評価!



尋問

 

 

 

 その日はその後、何も起こらなかった。がしかし、次の日にそれは起きた。

 

 昨日のことが気がかりで珍しく早起きをした僕の部屋にコンコンとノックが入る。

 

「同行願おう。《千変万化》」

「あ、はい」

 

 そしてコンコンというノックで迂闊にも扉を開けてしまった僕を出迎えたのは帝国の調査官だった。ねぇ君たち暇なの?

 

 

 

-----

 

 

 

「エヴァーー! エヴァーー! 早く来てえええええええ!」

「おい、クライ……そういう態度はよせと何度も言ってるだろう。エヴァには通達してある。まず来ない」

「ティノーー! ティノーー!」

「お前……ティノを連れてきたのか!? 今度は何をするつもりだ!?」

 

 ガークさんがよく分からないことを言う。ガークさんに分からないことを僕が分かるはずがないだろう。僕は人生にだって迷う男だぞ。誰か助けて下さい。

 

 僕は今、都市ハーリユの役所に来ていた。僕と、探協支部長のガークさん。そしてよく見かける帝国調査員の方々。幸いにもまだ牢屋にぶち込まれてはいないが、それも時間の問題だろう。なんたってパーティメンバーがこの都市で最も発言力を持つ商会を木っ端微塵にしたんだからね! さらにそれを指示したのは僕ってことになってるからね!?

 

 あー、ゲロ吐きそう。いつもゲロ吐きそうを多用してる僕だが、今回は本当に吐いても良いのではないだろうか?

 ってかロキスどこやねん。昨夜探しまくったのに全然居なかったんだけど。

 

「お集まりいただけたようですね」

「あ…………ヴェ……ヴェルさん?」

「貴様、口を慎みたまえよ」

 

 …どうやら、ヴェルさんに嫌われたらしい。名前を呼んだだけで冷たく対応されたが、無性に彼に謝りたい気持ちがある。というかずっと謝ってたい。

 昨日から僕の頭はパンパンだ。明らかなキャパオーバー。正直今すぐ抜け出したいが、いつもと違って今回はパーティの行く末を左右するから逃げられない…。

 

 土下座したら全て許してくれないかな。

 

「どうやら、反省の色がまだ見えないようだな。《千変万化》」

「ヴェルさん。これは悲しいすれ違いなんだ。僕は君たち商会をどうこうしたいと思ってるわけじゃないし、そもそも僕は何もしてないんだ!」

「馴れ馴れしい呼び名を止めろッ! 私の名はヴェルヌ・ラザクテだッ!」

「僕はクライ・アンドリヒです」

「…ッ……自己紹介はしなくていいッ!!」

 

 なんでだよ。商人の界隈では名乗ったら名乗り返すのが礼儀なんじゃないのか!?

 

「時と場合を考えろッ! わざとか!?」

「まあまあ、落ち着いてくれラザクテさん。アイツは人を煽る癖があるんです。…おいクライッ! いい加減にしやがれッ!!」

 

 何故か怒られてしまった…。だめだ…今日は厄日になるぞ……僕の勘がそう言ってる。

 

 とりあえず体裁だけでも整えようと笑みを浮かべると、それを見て顔を歪めるヴェルヌさんが口を開く。

 

「……その余裕がッ、いつまで続くか……見物だなぁ…!!」

「…僕はいつでも余裕が無いよ」

「ッ! 戯言を…チッ…もういい。あぁ、早速だが調査員の方、アレの用意をお願いします」

「……しかし…いえ、分かりました」

 

 ヴェルヌさんの一声で調査員が部屋から出ていく。なんだ? まだ何かあるのか? もう僕帰っていいかな。

 

 ヴェルヌさんは僕を見て自信満々のドヤ顔をしていた。だがガークさんを始め、他の調査員の人たちは何故かしんみりとしていた。いや、ほんとになんなんだろ。

 

「慄け《千変万化》。流石の貴様でも、敵わないものがあると知るがいい。昨夜届けさせたアレは生粋の切れ者殺しなのだからな!!」

 

 どうもヴェルヌさんの様子からして僕を陥れようという気概を感じるので、おそらく僕に不利益をもたらす代物なのは間違いないのだろうが、でもそれにしたっていつも僕を目の敵にしてくる調査員が悲壮な顔をする理由にはならないのだろう。

 

 そうウンウンと悩んでいると、部屋の扉が開く。その瞬間、僕は調査員と共に入ってきた代物を見て全てを理解した。

 

「それって……『真実の涙(トゥルー・ティアーズ)』じゃん」

「………」

「なんだ、てっきり逮捕状でも持ってくるのかとヒヤヒヤしたよ。あー、『真実の涙(トゥルー・ティアーズ)』かぁ……」

「…う、嬉しそうにするなッ!!」

「え? いやいや、別に嬉しそうだなんて……心外だな」

 

 なんだ『真実の涙(トゥルー・ティアーズ)』か。問題解決じゃん。

 

「な、なぜ貴様はそんなに余裕なのだ!? これは()()真実の涙(トゥルー・ティアーズ)』なのだぞ! 帝国の至宝! 使われることに意味がある…使われるだけで貴様は終わりなのだ!」

「うんうん、そうだね?」

「……ッ!!…………ァア!!!」

 

 ヴェルヌさんが頭を抱えて叫ぶ。どうやらまた選択を間違えたらしい。もうヴェルヌさんが何をしたいのか分からない。

 

 『真実の涙(トゥルー・ティアーズ)』とは真実の具現化。その力ゆえに使用時には多大なリスクが生じる。その存在自体が交渉において切り札になり得るが、自身をも蝕む諸刃の剣。帝国において最も権威ある宝具である。

 

 だが僕にとってはどんな疑いを一撃で晴らしてくれる最高の宝具なのであった。とても欲しい。依頼達成したらくれないかな。

 

「なるほどね、それで真偽を測ると。というかそれってそんな簡単に持ち出して良いの?」

「…時の皇帝より庇護を受けたトレジャーハンターという存在が、帝国の力になる大商会を襲う。それだけで皇帝の権威に関わるのだ」

「…なるほどね」

 

 調査員の1人が答える。どうやら事が事らしい。時の皇帝…というか初代ゼブルディア皇帝の威光は現代にすら届いている。それは政治理念だったり伝統だったりと、未だに幅広い範囲でその名残が残っているのだ。

 

 まあ、確かに現皇帝が打ち出したトレジャーハンターの積極的な受け入れ要請の弊害代表のような、そのお手本みたいな大事件である。

 まあ、そもそも規模が酷い。仮にトレジャーハンターの事件で無くとも『真実の涙(トゥルー・ティアーズ)』は使われていただろう。

 

「じゃあ、ほら。早く使いなよ」

「………クソッ! 毎度毎度余裕の笑みを…ッ!!」

 

 余裕? 違うな。これは安堵の笑みだ。どうやら今日中に帰れそうだなどと考えているのが僕だ。僕は身体の力を完全に抜いてリラックスした体勢になる。

 

 今日は良い天気だな…。

 

 

 

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「クソッ! ありえん…あり得るはずがないッ!!」

「いやいや、そんな事ないよ。僕が悪事を働くわけがないじゃん」

「だが…しかし……」

 

 張り詰めた空気が漂う。尋問に使われた『真実の涙(トゥルー・ティアーズ)』は結局何も反応を示さなかった。疑いは完全に晴れたと言えるだろう。なんとも拍子抜けである。

 

 だがこの結果に納得がいっていない人がいた。それがヴェルヌさんだ。彼は机に項垂れ、目は大きく充血していた。

 どうやら彼は、僕が宝具に細工を施したと思っているらしい。宝具マイスターたる僕からの意見で言えば、宝具に細工なんて土台無理な話であるので、早々に諦めてもらいたい。

 

 なぜなら、余裕が無い人が一番予想外の行動をとりやすいからだ。いつも闇組織を煽り散らかす幼馴染を僕は見ていたわけだが、それでも僕が冷静だったのは、仮に犯罪者が変な行動をしても僕が安全だという確信があったからなのだ。

 

 しかし今回は違う。僕の味方はいない。安心要素ゼロである。

 

「ラザクテさん。冷静になりましょう。貴方がどう思おうが、帝国の至宝はクライをシロだと判断した。ならクライはシロだ。今はシロクロで文句言ってる場合じゃないでしょう」

「まったくだね」

「ッ………あぁ……ガーク支部長の言う通りだ」

 

 ガークさんがヴェルヌさんを宥めた。いつも思うが、なぜいつもガークさんには普通の態度なのに僕には軽蔑の視線が届くのだろうか。僕は人畜無害なのに……。

 

 こうしている間にもこの部屋にいる人達みんなは、僕のことを射殺さんとする目つきになっていた。とりあえず笑みを浮かべておくか。

 

「ッ!!」

 

 さらに確執が深まった気がするが、僕を睨んでいるヴェルヌさんが言う。

 

「貴様がたとえ、無罪だとしても……《死屍累々》は大犯罪者であることには変わりない。貴様は諦めようッ! だが貴様のパーティメンバーは絶対にッ! 処刑台に送ってやるぞッ!!」

 

 今の会話でどうしてこんなに敵視されてるんだろうか。ガークさんから忠告されたにも関わらず、まだヴェルヌさんは冷静になれていないらしいな。

 

 僕はヴェルヌさんの圧を受け流し、情けない笑みを浮かべながら言う。

 

「ヴェルヌさん、落ち着いてよ。ロキスも別に悪い事しようとしたんじゃないよ…多分」

「ああッ!?」

 

 鋭い声が飛んできた。怖いよ…。だが僕は物怖じせずに言う。

 

「いやほら、ロキスはいつも確認取らずに突撃しちゃうからな……あ、そうだ! シェーン商会が秘密組織だったなら辻褄が合うんじゃないかな? ほら、ロキスっていつも犯罪組織や秘密結社に喧嘩売ってるからさ……」

「馬鹿っ! クライッ! 煽るな!!」

「き、貴様ッ…! 我がシェーン商会を、事もあろうに秘密組織扱いだとッ!! どこまで馬鹿にすればァ!!」

 

 まずい…失言だった。焦りからか頭で思ったことがポロっと口から出てしまう。これは…もう今日は喋らない方が良いな。僕は静かに黄昏た。

 

 その間に憤怒に顔を染めていたヴェルヌさんだが、ガークさんや近くの調査員から宥められていた。

 

 そんな感じで数分経って落ち着いたヴェルヌさんはどうも心の整理でもついたのか、無表情で僕を見つめて言った。

 

「今日中にお嬢様を見つけられなければ、貴様のパーティメンバーを処刑台に送る。お嬢様の写真はこれだ。分かったな」

「は、はい」

「私は……もう帰る。コイツの言葉を聞くと耳が腐るからな」

 

 その言葉を残して、ヴェルヌさんは去っていった。部屋には痛いほどの沈黙が残された。

 

「クライィ……ッ!!」

 

 訂正。僕は今日死ぬのかもしれない。

 

 僕は中途半端な笑みを浮かべて取り繕う。だがそれが逆にガークさんの気に食わなかったらしい。

 

 ガークさんが怒鳴るように言う。

 

「お前にとっちゃ音の鳴るおもちゃかも知れねぇが、お前が相手にしてるのは列強国の経済界でも頭角を表すシェーン商会だぞッ!! 影響力は帝国だけに止まらねぇ! 協会本部にも強く影響があるほどだ! それをお前…! いくらなんでもやりすぎだッ!!」

「お、落ち着いてよガークさん……僕の無罪は『真実の涙(トゥルー・ティアーズ)』で保証されてる」

「そういうことを言ってるんじゃないッ!!」

 

 ガークさんがさらに厳つい顔になって僕を責める。僕は無罪なのに…。こんな時にシトリーでも居てくれたら心強かったのにな。

 

 そう思ってもなんでも任せられるシトリーがやってくるわけではないので、僕は口を開いた。

 

「分かってるよ。昨日言ったじゃん、ロキスが本当に商会を襲ったなら僕は責任問題でハンター辞めるって……まあ、僕に任せてよ。」

「……ここから巻き返す策はあるらしいな。はぁ…分かった。お前の好きにやれ、クライ。くれぐれも、やり過ぎるなよ」

 

 ガークさんはがっくりと身体の力を抜いてソファに身を委ねる。どうやらお許しが貰えたようだ。

 

 まあ、依頼を達成できるとは言ってないんだけどね…。まあこの際良いだろう。

 そして心残りはヴェルヌさんだけなんだけど、どうしようかな。

 

 今日接触するのは難しそうだし、後回しにするしかない。とりあえず今日はロキスを探そう。それでお嬢様を探して……今日中に見つからなければ逃げるか。

 

 そう決めた僕は意気揚々と部屋の扉を開けて、そこで急に不安が募ったため、不安を払拭するために言った。

 

「あ、『真実の涙(トゥルー・ティアーズ)』はまだ持って帰らないでね? ほら、また疑われたらキリがないからさ」

 

 僕はそそくさと部屋を出た。

 とりあえずティノだな。盗賊(シーフ)は探し物が得意だろうから、全力で捜索されてなお見つからないお嬢様はともかく、高レベルハンターのロキスならすぐに見つかるだろう。

 

 

 

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