癒し手の殴り拳   作:熾天使チュリン

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とても今更ですが、《嘆きの亡霊》メンバーが登場する時、劇的なシーンで出てくるところをやりたいのでロキスさんは今章終盤まで出てきません。

章は全然長くないので許してね!!


模索③

 

 

 

 その日は、朝から最悪の気分だった。へらへらした悪党に良いように揶揄われ、あしらわれただけに留まらず、結局は《千変万化》に都合の良い動きをしてしまったのだ。

 

 一介のハンターだと高を括っていた己も己だが、それでもなお、《千変万化》という男が本当に人を煽るのが上手いからか、それともそのパーティメンバーの存在を己が未だに整理できていないからか、感情が抑えられなかった。

 

 何十年も商人をやってきた上で築き上げてきた経験を嘲笑われながら滅多刺しに破壊されたようだった。

 

「会長……」

「良い。良いのだ。私のプライド一つでお嬢様が無事に戻るというのなら、それは対価としては十分すぎる。商売としてはこれほど美味い話も無い」

 

 《千変万化》クライ・アンドリヒ。トレジャーハンター黄金世代の頂点に君臨する男。事象を掌握し未来を手繰り寄せ、森羅万象を網羅するとされる怪物。

 

 彼の噂は様々だ。未来を見通すだとか、神懸かりな神算鬼謀だとか、あるいは依頼達成率100パーセントだとか、片唾ものの噂には傷を負ったことがないという情報もある。

 

 正しく全ての展望が約束された男であろう。そんな男に依頼を出せたのは幸運以外の何物でもない。

 

 例え、行方不明の原因があの男のパーティメンバーにあったとしても。

 

 

 宝石店の2階にある応対室のソファに深々と座る。自然とため息が漏れた。まだ午前であるというのに、身体や心が疲れていると私に訴えかけていた。

 

 そんな私を見て、部下たちが茶を汲みに行く。商会長(わたし)を見るのに慣れていない者達だろう。商人らしからぬほどに緊張が見て取れた。

 

「はぁ…どこから手をつけて良いものか……」

 

 現在、私は我が商会に属する宝石店に身を寄せていた。なんといっても拠点が破壊されてしまったのだ。忙しくあまり拠点には身を寄せることは無かったとは言え、一応、帰る場所でもあったのだから無くなれば帰る場所はない。

 

 一息つく場は商会系列の提携店のみである。まさか商会長である私が自社の支店の応対室で一息するなど考えても見なかった。

 

 だがそんなことも言ってられない。私には商会を守り、導くという使命があるのだ。さらに加えて前商会長の忘れ形見たる娘は行方不明で、やることは山積みだった。

 

 そんな折、部屋の外に待機していた部下が怯んだ顔で扉から顔を覗かせる。

 

「会長。自身を探索者協会ゼブルディア支部長と名乗る入れ墨を入れた男が訪ねてきております。どういたしますか?」

「……馬鹿者。それは本物の支部長だ。通せ」

 

 何から何まで私の手を煩わせる。ハンターめが……ハンター系列の品に規制を掛けてやろうか。

 

 商人たる私が怒りを抑えられないというのは中々無いことである。商人たる者冷徹であれ。寛容であれ。そして利己的であれ。そのシェーンの教えだけが私の生き様を描いてきて……揺らいだ事のない芯の部分であるというのにな。

 

 扉が開かれる。先ほどの不安な顔の部下はすでに顔に冷静を取り繕っていた。そして部下に先導されるがままに後ろから巨漢の大男が入ってくる。

 

 支部長ガーク。見た目は脳筋なのに頭が回る探協の幹部。そして先ほどまで《千変万化》の尋問を見届けていたはずの人物である。

 

 ガークは私に目を向けると、頭の後ろに手を持っていって言った。

 

「押しかけてすまねえな。どうも確認したいことがあるんだが…」

「…性急すぎるな。まあ座ると良い。先ほど部下が茶を汲みに行ったばかりだ」

 

 そう私が言うとガークは対面のソファに腰掛けた。ガークの体重を支えられるか心配だったが、ソファがミシミシと悲鳴を上げるだけでどうにか持ち堪えた。

 

 考える。先ほどまで同じ部屋にいたはずの私のところにわざわざ押しかける必要性を。その目的を。どうやら尋問室で話すことができる内容ではないことは確かのようだ。

 

 ソファに座って一息ついたガークは、早速とばかりに話を打ち出した。

 

「ここは……この都市には異様にならず者が多いな」

「……む? 一体何の話だ」

「俺はこれでも元ハンターだ。ある程度分かってくるものがあるし、見えるものがある。なるほどクライが赴くわけだ。さっきもこの店に来る道中、俺のことを探るような目で見てやがった奴が最低でも6人はいた」

「………馬鹿な。この都市に犯罪組織なるものがあると? よもや……あの《千変万化》の物言いを信じたというのか!?」

 

 何を言っている。先ほどのガークの言葉はつまり、シェーン商会と犯罪組織に何かしらの関与があるのではと言っているようなものだ。

 

 それはあり得ない。商会の中枢たるこの都市の拠点には私がいるのだ。その目を誤魔化してずっと犯罪組織と癒着するなんて馬鹿げた発想にしかなり得ないのだ。

 

 声を張り上げる私に対して、ガークはあやすように言う。

 

「いやいや、それは俺も早計だと思っちゃいるが……何せ《死屍累々》の標的にされたんだ。俺はアレの生態をよく知ってる。正義の味方を騙る、悪の敵だ」

「馬鹿げてる!ガーク支部長はあの気狂いの類いを信じると言うのか!」

「信じるとかの話じゃねえ。アレはそういう生き物ってだけだ」

 

 ガークはどこか疲れた目をしていた。どうやら彼は"刻み込まれた"側の人間らしい。それは自身の経験、常識を覆すような、鮮烈な経験を叩き込まれた人間の顔だった。

 

 溢れんばかりの怒りをなんとか抑え込む。どうやら、感情任せでは進展しない話のようだ。私にも余裕はない。私達だけで解決を図れるとも思っていない。探索者協会、ひいては《千変万化》を信じるしかないのだ。

 

 冷静になるのだ。考えることは損じゃない。真実は変わらない。シェーン商会に犯罪組織の影があるのならそれは早急に取り除くべきことである。むしろ利益にもなろう。

 

「仮に、シェーン商会と犯罪組織が繋がっていたとして……どうする? 本社は塵と化し、書類も証拠も無い。辿ることは不可能だ。《死屍累々》がいる場所にはグレーさえも近づかない」

「だが、奴がいる。不可能を塗り替える男がな」

「……は。《千変万化》か……私は未だに信じられんのだよ、奴がレベル8ハンターという事実にな」

 

 そう皮肉ぶって笑う私を見て、初めてガークは笑う。

 

「最初はみんなそうだった」

 

 ……どうやら、信用では私の負けらしい。いくら経済を握る商会とて無限の特権があるわけではない。疑われれば立場が揺らぐ。商人というのは築き上げた信用がモノを言う世界だ。であればこれは拙い状況に違いない。

 

 巨漢は威風堂々と、あるいは飄々としていた。そこを若干憎く思いながらも、私は探索者協会という世界規模の団体から信を得るための交渉を開始した。

 

 

 

-----

 

 

 

「どうも、僕はクライ・アンドリヒ。こっちはティノ」

「よ、よろしくお願いします」

 

 バザルと名乗った男は僕をジロジロと舐め回すように観察し、そしてニコニコとした顔をして手を差し出す。

 

 どうやら、握手を求められているらしい。僕はそれに従い握手を交わした。物腰の優しい男である。荒事を生業とする者にしては圧倒的に暴力の気配がしない。

 

 ティノはああ言ったが、この人は僕達に敵対しないだろう。決して冴えることのない勘がそう告げていた。僕の勘は当てにならないが、当たらないわけではない。キャストルさんの今までの付き合いからも害するということが無いのが分かる。

 

 僕達が握手を交わしたのを見て、キャストルさんはホッと一息をついた。どうやら懸念が解消されて安心しているらしい。

 そんなキャストルさんが口を開く。

 

「すまないな、まさか奥のバザルに気づいているとは露知らず…」

「いや、良いよ。お互い悪気は無かったんだ。ちょっとしたすれ違いでこの機会を潰すのは勿体無いしね」

 

 まあ、僕はバザルの存在に気づいてなかったんですけどね。だがティノの手前、言い出すことはできなかった。後輩には格好をつけたいのだ。

 

 そう格好つけている僕を前に、バザルはニコニコとしながら言う。

 

「いやー、貴方がかの伝説、レベル8ハンター《千変万化》! 俺はもう憧れちゃいねぇが、高レベルハンターを直で見られる日が来ようとは思っちゃいなかった。感動で胸が溢れそうだ」

「そ、そうなんだ」

「えぇ、ええ! 俺にはその力量がまるっきり見えてこねぇがそこがまた超人たる所以というやつでしょう。…おっと、てぇことはお隣のツレが《嘆きの亡霊(ストレンジ・グリーフ)》のメンバーか何かなのか?」

 

 どうやら僕のファンみたいだ…。誇張されすぎている評価に重荷を背負うが、それと同時にすごく気分がいい。レベルを上げるといろんなところで皆んながヨイショしてくれるから面白いのだ。まあ、その分厄介ごとが舞い込んで来るが。

 

 思わず笑みが浮かんでくる。

 

「いや、ティノはストグリのメンバーではないよ。見習いってとこかな。けど正式なメンバーになるまでにもうそこまでかからないと思うけどね」

「ますたぁ…!」

「おー、そいつは失礼。変に詮索してしまって申し訳ねえ」

 

 なかなか愉快な人のようだ。そういえば最近は真面目な人たちとしか接していなかったように感じる。これだよ。僕が求めてるのはこれなんだ。この気兼ねない感じ。このスイーツ屋は理想だった…?

 

「そうだ。《千変万化》…いや、クライさん。貴方にこれを」

「これは…」

 

 そう言ってキャストルさんが渡してきたのは彼が首にかけていたロケットペンダントだった。

 彼曰く、このロケットペンダントを見せればシェーン商会が管轄している施設に入ることが可能なのだという。それも普通なら入れないような場所もだ。

 

 困惑する僕を見て、キャストルさんは話し出した。

 

「コホン。アリエスの捜索ともなれば商会も動いているはずだ。ところどころ封鎖されている場所があってもおかしくない。そうなっていればあなた方の捜索にも影響があるだろう。だがこれは通行手形のような役割を持っていてな。捜索の手助けになるだろう」

「なるほど。ありがたくもらっておくよ」

 

 どうやらとても貴重なものらしい。厳重に保管しておくことにしよう。アリエスが分からないがおそらく例のお嬢様の名前だろう。そういえば名前を聞いていなかったことを思い出した。

 ヴェルヌさんは本当に見つけて欲しいと思っているのだろうか。

 

 そして僕がそのペンダントを受け取った時、誰かが息を呑んだ。見るとバザルがキャストルさんの方をジッと見つめていた。その目は真剣そのもので、気迫があった。

 

 それを見て声をかけるのは億劫だったが、かけないわけにもいかないと思い、少し声をかけることにした。

 

「これって貰っても良かったやつ?」

「ああ……貴方が持つべきものだ。遠慮なく貰っていけ」

 

 キャストルさんはフッと笑うように声を出す。なんか申し訳ないな。だがまあ、貰えと言われたのだからもらうことにしよう。

 

 気づけばここに来てから1時間が経とうとしていた。流石にここで時間を食い過ぎるのも考えものだ。早くお嬢様探しを再開しないと。

 ロキスもどうせどこかで元気にやってるだろうし、護衛が増えるに越したことはないから早めに合流しなければならない。

 

 僕達は店を離れることにした。本当はこのままずっとスイーツを食べながら談笑がしたいところではあったが、断腸の思いでその欲望を振り切る。

 

「それじゃあ、僕達は行くよ。スイーツおいしかったよ」

「そうか。まあ…頑張れよ」

 

 キャストルさんはそう言って店の奥へと消えていく。ダンディな男だ。見習わないと。

 バザルもそれと同じように店の奥へと消えていった。終始ティノは警戒していたが、やはり杞憂だったな…。

 

 

 

 店を出た僕達は早速捜索を開始した。と言っても普通に探すだけでは見つからないのはなんとなく分かっていたから辿り着いたのはシェーン商会本社跡だった。

 捜索の基本は起点から探ることだ。僕の予想だとお嬢様は爆発に巻き込まれて亡くなっている可能性が高いが、何か手掛かりがあるかも知れない。

 

「へー、ここがロキスがぶっ壊したビルかあ…」

「どうしたらこんな大きな建物を壊せるのか……こわいです」

 

 建物跡は圧巻だった。跡から分かる面積から、ビルの大きさはとんでもなく大きなものだということが分かるし、廃材が至る所に散乱していた。目の前には規制の看板がデカデカと主張している。

 

 物見遊山している市民もかなりの数いた。それだけ市民にも浸透した事件なのだろう。改めて事の大きさを実感する。僕達はこれからもゼブルディアで生活できるだろうか…。

 

「すいませんっ!」

 

 少し吐き気を催していたところに後ろから声がかかる…と同時に服を掴まれる。驚いて後ろを振り向くとそこには女の子がいた。

 栗色の髪に緑眼のまだ成人していないであろう子だ。一瞬捜索対象のアリエス嬢かと思ったが、アリエス嬢の髪は金だし、瞳の色も違う。

 

 どうやらその女の子は急いでいるようだった。僕を見上げて言う。

 

「助けてください! 追われてるんですっ!」

 

 ……僕にとって、これは初めての経験だった。ストグリのメンバーといるときならいざ知らず、ティノと二人きりのときに明らかに無力でハンターの気配がしない僕に助けを求める人は今まで見たことが無かった。

 

 すぐさま彼女が駆けてきた方角を見てみると、確かに二人組の男がこちらに迫ってきていた。

 

「ティノ。武器は使わないで」

「はい、ますたぁ。あの無礼者達を叩きのめします」

 

 そこまではしなくていいよ。うん。ティノはそう言って瞬時に加速した。雑多の人混みを無いもののように駆ける。そして先頭の男の顔面を膝蹴りで吹き飛ばした。

 

 蹴られたことを認識した二人はようやく事態を把握した。だが遅い。ティノは次の瞬間には一人をノックダウンさせ、次の攻撃に移っていた。

 

「う、ぉおおおお!」

「失せろ」

 

 高速に繰り出される強烈な蹴り。もう一人の男の抵抗はすり抜け、すぐさま意識を刈り取られる。

 さすがティノだ。普通の盗賊(シーフ)ではやらない戦闘をやってくれる。師匠譲りだ。これは3代目《絶影》も夢じゃないぞ!

 

「す、すごい…」

「ありがとね、ティノ」

「そんな…ますたぁに感謝されるほどのことでは…」

 

 すぐに帰ってきたティノはそう言って顔が綻ぶ。さて、どうやら厄介事が舞い込んだらしい。僕は目線を少女に向けた。どうか変なことじゃありませんように。

 

 少女は一連の出来事に呆然としていたが、やがて僕の方を向いて言った。

 

「あ、あの! お願いします! 私を…匿ってください!!」

「……なるほどね。とりあえず、人目につかない場所に行こうか」

 

 どうもきな臭い事態が舞い込んだらしい。だが何かこの都市で起きている事と関係があるのかも知れない。ロキスが目をつけた都市には必ず悪が存在するのだ。

 

 先ほどの戦闘で周りが騒がしくなってきた。市民がザワザワしている。そういえばここは首都ゼブルディアではないため、こういった乱闘は珍しいらしかった。

 

 そうして僕達はとりあえず人目を避けるために本社跡から離れるのであった。

 

 

 

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